ひとりで生きたいわけじゃない

秋野小窓

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【7】温泉旅館

7-5:城崎side

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 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。目を開けると、潤君のドアップでびっくりした。寝ぼけていたら、夢かと思ってキスしていたかもしれない。あんなに煩悩を断ち切ろうとしていたのに、一瞬でまた煩悩まみれになってしまうとは情けない。

 潤君、いつもドライヤーできちんと髪を乾かすのに。きっと俺を起こさないように気を使ってくれたんだろう。

 浴衣姿、可愛かったな。温泉で温まったせいか、ほんのり頬が上気していた。しっとり吸い付くような肌に、思わず触れてしまいたくなる。

 ……この調子で平常心でいられるだろうか。

 もうすぐ夕食が運ばれてくることが救いだ。食事で気持ちを切り替えよう。そしてなるべく理性を失わないよう、酒は控えよう。そう思っていたのだが。

「潤君、もう大丈夫だよ」

 なぜ今日に限って、こんなに飲ませてくるんだ。グラスが少しでも空こうものなら、潤君がすかさず瓶ビールを注いでくる。あっという間に空になったビール瓶を見て、示し合わせたように日本酒を勧められる。潤君、この旅館の回し者か?

 だが、潤君が飲みたいというなら頼まないわけにいかないだろう。冷で二合注文した。

「どのお料理もおいしいですね!」
「ああ。旅館の醍醐味だね」
「温泉よりお料理ですか?」
「俺はね。潤君は温泉の方が好き?」
「僕はどっちも好きです!」

 楽しめているようで何よりだ。

「日本酒もいけるんだね」

 お猪口になみなみと注ぐと、潤君もお酌してくれる。

「このお酒、スッキリして飲みやすいですね。お料理とも合いますし」
「そうだね」

 気づけば徳利は空になり、一合追加、また一合と、つい酒量を重ねてしまった。

「おーい、潤君、大丈夫?」
「だいじょぶでーす」
「本当に?」

 食事が終わる頃には、潤君はすっかりできあがっていた。かく言う俺も、日本酒をこれだけ飲めば完全に酔っ払いである。
 あんなに酒を控えようと心に誓っていたのは一体何だったのか。
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