ひとりで生きたいわけじゃない

秋野小窓

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【10】初めての部屋

10-3:潤side

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「潤、おいで」

 貴矢さんが優しく抱きしめてくれる。あったかくて、少し落ち着く。

「この部屋に越してからは誰も呼んでないかな」
「……え………?」
「付き合っても外で会うだけで、家にあんまり呼ばないからね」

 そう……なの?
 驚いて顔を上げると、貴矢さんの優しい目とかち合った。

「潤のことは本気だけど、正直もっとライトな感じで付き合ったり別れたりしてたからさ。家知られても面倒臭いだろ」

 ちょっと待って。僕の知ってる貴矢さんじゃないみたい。

「そんな、取っ替え引っ替えみたいな、してたんですか……?」
「うん。最低だろ?」

 これだけカッコよくてモテてたら、そういうものなんだろうか。世界が違いすぎて、よく分からない。

「今まで、その、何人……?」
「経験人数?さあ、覚えてないよ」

 覚えていないほど………絶句するしかない。

「でも、これからは潤ひとりだよ」
「ほんと……に?」
「ああ。潤も俺ひとりでしょ?同じ」

 同じ、なのかな。うーん、何だか上手く丸め込まれているような気もするけど。

「ごめんな、余計なこと話しちゃったな」
「……とりあえず、僕が嫉妬してもしょうがないくらい大勢の『元』さんがいることが分かりました」
「そんなに多くないって」
「嘘」

 両頬に手を添えて、真正面から目を合わせられる。

「本当。今の俺には潤だけだし、この部屋に呼んだのも潤だけだし、この先もずっと潤だけ」
「う………」
「信じられないかもしれないけど、信じてくれるまで行動で示すよ」

 真っ直ぐに言われて、僕は頷くことしかできなかった。

「嫌いになった?」
「……いえ。びっくりしました、けど」

 嫌いにはなっていない。嫌いになんかなれない。

「貴矢さん、嫌いになったかってよく訊きますよね」
「うん。不安だからね」

 不安……?貴矢さんも、不安になるの?

「嫌われても、離してやれそうにないから。もう一回好きになってもらうためにはどうしたらいいかなって頭フル回転だよ」
「僕……も。貴矢さんのこと、嫌いになれって言われても、多分無理なんで……」
「ふふ。俺達、相思相愛だね」

 さっきまで胸の中がぐちゃぐちゃだったのが嘘みたいに、貴矢さんの言葉が甘く響く。

「話せて、よかったです」
「俺も。潤、さっきみたいなこと、飲み込まないでこれからもちゃんと話してほしい」
「……はい」
「なるべくそういう気持ちにさせないようにしたいけど。俺、鈍感だから」

 ちゅ、と軽く触れるだけのキスをされる。

「よし、飲みに行こう。焼き鳥がうまい居酒屋があるんだよ」
「はい!」
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