ひとりで生きたいわけじゃない

秋野小窓

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クリスマス番外

4:貴矢side

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 ゆっくりゆっくり食べ進め、ようやくデザートにたどり着いた。

「潤。プレゼントを渡してもいいかな」

 ネイビーのシックな包装紙に包まれた小箱を渡す。

「ありがとうございます。何ですか?」
「見てみて」

 促すと、慎重にテープを剥がして包みを開けていく。重厚な趣のある黒い紙箱の中には、小さな革製品。

「これ……」
「うん、名刺入れ。もう持ってるかと思ったけど、これから活躍するシーンも増えるだろうし」

 ちなみに、俺が愛用しているものの色違いだ。俺のはダークブラウンだが、これから就活の潤には無難な黒をプレゼントした。

「ありがとうございます。……大事に使いますね」

 力なく笑う潤。喜んでくれただろうか。今日の彼は普段と様子が違うから、感情が読み取りにくい。
 じっと見つめていると、潤の視線が斜め下に2度振れた。視線の先には、来るときに潤が手に持っていた紙袋。

「もしかして、潤も俺にプレゼント用意してくれてた?」
「え……ぁ……」

 言い淀む潤。何か出しづらい理由でもあるのだろうか。

「名刺入れ、被った?」
「いえ、違います」

 ふふ。違うものだが、プレゼントがやはりあるんだな。

「何かな、もらってもいい?」
「あの、はい」

 紙袋から何かを取り出してトートバッグに移し、袋ごと目の前にずいっと差し出してくれた。

「ありがとう。開けてみても?」
「……期待しないでください」

 期待するなと言われても無理だ。潤からのプレゼント。嬉しすぎる。
 平たい包みを開けると、石をスライスしたような楕円形の板。厚みはないが、20センチほどの径があってずっしりとしている。

「これ、何?」
「アクセサリートレイです。玄関に置いて鍵置きにしてもらってもいいかなと思って」
「お洒落だね、ありがとう」

 潤らしいシンプルなデザインだ。グレーの色味も我が家に合いそうで、俺のことを思い浮かべながら選んでくれたことが分かる。

「こんな素敵なプレゼント、なんで出すか迷ってたの?」
「……貴矢さんのプレゼントに比べたら、安物だから……すみません」

 潤が視線を落としたまま言う。そんなこと気にしなくていいのに。

「俺のために潤が一生懸命考えて選んでくれたんだろう?それにこれ、すごく気に入ったよ」
「そ……ですか?」
「ああ。嬉しい。ありがとう」

 おずおずと視線を上げた潤が、ほっとしたように頬を緩めた。可愛いな。

「潤、明日の予定は?」
「あ……えと」
「このあと家に来ない?これ使ってるところ、一番に潤に見てもらいたいな」

 なんて、ただの口実で。愛しい恋人をお持ち帰りしたいだけだ。
 しばらく会えていなかったから、完全に飢えてる。それに、クリスマスだ。当然このあとも一緒にいられるものと思ってディナーに誘ったわけだが。

「……今日は、やめときます」
「え?」
「少し、疲れてるのかも。やっぱりあんまり体調よくないかもしれません」

 期待と異なる返答に、がっかりより先に心配になる。先程まで平気なふりを貫いていた潤が体調不良を口にするなんて、相当辛いのだろうか。顔色もさっきより悪いように見える。

「大丈夫?ひとりで帰すの心配だから、やっぱりうちにおいで。変なことしないから」

 何かあったときに、傍にいて対応できた方がいいだろう。

「………」
「潤?」
「すみません。今日は帰ります」
「そっか、分かった。じゃあせめて家まで送らせて」

 仕方ない。自宅の方が寛げるだろうし、潤は俺相手でも無意識に気を使ってしまうところがあるからな。
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