あの夏の影

秋野小窓

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クリームソーダと夕立

1:育海side

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 鮮やかな緑。背の高いグラスに、こんもりと丸く載ったアイスクリーム。白い山のてっぺんには、真っ赤なチェリー。

「育、それ好きだね」
「うん。ビジュアルから既にヤバい」

 カシャ。スマホで切り取った画面。グラスの向こうに正くんの手が写り込む。

 スッと角度を変える。グラスを正面から撮るフリをして、ピントは正くんの顔。

「どこまで入ってる?」

 カシャ。

「見せて」
「やだ」
「撮ったろ」
「早く食べないとアイス融けるから」

 スマホを取られないようにソファの座面に置く。濃い赤のソファ。レトロな店内は昔から変わらない。

 大人に連れてきてもらうしかなかった喫茶店。薄暗い店内は、外からはよく見えなくて、前を通るたびにドキドキした。もう一人でも入れるはずだが、俺にとっては憧れの場所。
 ストローを吸う。甘いメロンソーダが口内でシュワシュワと弾ける。
 目線を上げると、向かいの席には憧れの人。

 まるで、あの頃夢見ていたデートみたいだ。

「育」
「ん?」

 カシャ。名前を呼ばれて顔を上げた瞬間を撮られた。

「お返し」
「絶対変な顔してる。撮るならちゃんと撮ってよ」
「じゃあもう1回撮る?」

 スマホを構える正くん。アイスをスプーンですくって、カメラに向かって差し出した。小首を傾げてスマイル。

「何これ」
「デート風」

 いいから撮れよ、ともう一度スマイル。シャッター音。
 スプーンの先からアイスが垂れそうになる。あ、と思ったら、正くんの口の中。

「食ったな?」
「食べていいんじゃないの?」
「いいけどさ」

 それは別にいいんだけど。本当にデートしているみたいで、胸の中がざわつく。
 無言でクリームソーダを飲み干した。

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