あの夏の影

秋野小窓

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ひまわり畑

3:育海side

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 借りていたキャップを正くんに返す。

「なんで?被ってなよ」
「もういい。ボーッとして、熱中症?」
「違うちがう。大丈夫だから」

 迷路にいたときからおかしかった。よく考えれば、黒髪の正くんの方が頭に熱を受けやすいだろう。
 遠慮する手に帽子を押し付けて、ぺたんこになった髪を手櫛で整える。

「向こうのテント、座れるみたいだけど。行く?」

 日陰に椅子が並べられ、仮設休憩所になっているようだった。
 正くんを座らせて、飲み物を買いに行く。

 これまたテントに設けられた売店コーナーで、タライにつけてあるペットボトルを2本買う。会議室にあるような長机の上には、手作りらしい土産物が陳列されていた。布でできた向日葵のモチーフに、根付風の紐が付いている。
 目に留まったのは、ポップに並ぶ恋愛成就の文字。

 “ひまわりの花言葉『私はあなただけを見つめる』”

 ドキッとした。なぜこんなものを見てしまったのだろう。
 目を逸らし、足早に立ち去る。

 正くんのこと、向日葵みたいだと思った。でも違った。向日葵は俺の方だ。

 座ったまま、こちらに気づいていない正くん。いつも見ているのは俺の方。

「ぉわっ!」

 首に押し当てたペットボトルに驚いて飛び上がる。

「びっくりしたー!やめてよ!」
「なんだ、元気じゃん」
「だから大丈夫だって言ったろ?でもサンキューな」

 パッと周りを明るくする笑顔。
 向日葵じゃない。正くんは、太陽だったんだ。

「あっちに赤い向日葵あるって。最後に見てから帰ろうか」
「うん」

 向日葵はこんなにたくさん咲いているのに、太陽はたった一つだけ。
 何が恋愛成就だ。向日葵の片想いじゃないか。

 焦がれて。焦がれて。焦がれて。
 どんなに焼かれても、報われなくても、目を離せない。

 そんなあなたは、俺の太陽。


~~ ひまわり畑 おしまい ~~
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