蒙古を倒したのに恩賞がない!?故に1人の女と出会い、帝王が支配する異世界へと赴く。

オオカミ

文字の大きさ
27 / 65

27 帝王との初対面

しおりを挟む
「帝王は?」

「あちらです。いよいよ最後のときです」

 宰相ベルガが戦場にやって来た。
 ベルガの視線の先に大きな扉があり、その扉の前に黄金の覇気(オーラ)をまとったイズルが太刀を握って立っていた。

 ベルガは邪魔にならないよう離れたところに立って見ていた。

「はぁあああ!」

 イズルの一撃で巨大な扉は切り裂かれた。
 扉の向こうにいたのは、ウロス国の国王だった。部屋の隅でおびえる国王にイズルは刃を向けた。

「わ、わたしは反乱など起こしていない!」

「おまえは反逆者だ!」

 帝王としての威厳を知らしめんとするその瞳で、ひざまづくウロス国王を見下ろした。

「お前は我が帝国の威厳を無視し、エキルドナ国と争いをした。それにより、世界に混乱を引き起こした。その罪は重い!お前は我が帝国が定めた、『皇条』で捌く。引っ立てろ!」

 イズルの一言で国王は帝国兵士に拘束され連行された。
 それを確認したベルガはイズルへと近づいた。

「帝王、これにより反乱を鎮圧できました。・・・あの男はこの場で帝王が始末しても良かったのですが・・・」

「それはならん!」

 ベルガの言葉にイズルは強く否定した。

「我が帝国こそ世界を治める主。そのためにも俺も初代帝王が作った『皇条』を守らねばならん。私的感情で殺さない!」

 イズルはベルガを叱った。
 ベルガは「失礼しました」と深々と頭を下げた。

「ところで帝王、ミハエルを覚えておいでですか?」

 続いてベルガは魔術師ミハエルの件をイズルに報告した。

「ミハエル・・・以前我が帝国衛士の選抜を受けていた上級召喚士か?」

「優秀な者でした。能力的には帝王の直属召喚士になれたかもしれなかった。だが性格が良くなかった。傲慢にして他人を侮辱していた。」

「その男がどうした?」

「ホリー国の首都ウェンディでスカルマーダーが人を襲っている例の事件のことです。我ら独自の調査によればそれを操っているのが彼ではないかとでは無いかという報告がもたらされましてね」

「それでどうした?」

「それを突き止めようとしましたが、彼はすでに消えていました。おそらくは倒されたのかと」

「誰がやつを倒した?」

 イズルの質問にベルガは冷静に答えた。

「例の『黄金の日輪』の時に現れた武士かと」

 ベルガの口から例の武士がでたときイズルは表情を変えた。

              *       *       *

 ルナどのの稽古が始まってから10日が経った。
 大魔術師サハリどのがルナどのに与えた稽古は、朝は心身を鍛えるため、森の中を走る。
 それが終わると朝飯を食べる。
 朝飯を食べ終わると基礎呪文を何度も繰り返す。
 それを何度も繰り返した。

「魔術師はどのようにして己を鍛える?強力な魔術はどのように習得するのですか?」

 某はサハリどのに魔術のことを尋ねた。
 某がこの世界で魔物共らと戦うとき、ルナどのが側にいて共に戦っている。
 それならば魔術について某もある程度知らねばならぬ。

「呪文の言葉の中にはその魔力の源である力が隠されているのさ。その隠された力を解いて、鍛えた身体よりいずる集中力で強い魔術を出す。【覚醒(アウェイクニング)】を作ったのは、このあたしさ」

 老婆になっているサハリどのが、穏やかな声でミハエルがかけたあの恐ろしい魔術は「自分が編み出した」と言った。

「【覚醒(アウェイクニング)】は何故、あそこまで強く、何故あの男は自滅したのですか?」

 あのときの戦いで、あのミハエルとかいう召喚師が自滅しなければ某は死んでいた。
 そのミハエルが己にかけていた魔術が気になる。

「あんたがルナにかけてもらう魔術は【疾風迅雷(ラピッドサンダーストーム)】だね」

「は!」

「人間ってのは普段は自分の身体能力は7割程度しか使っていないんだよ。【疾風迅雷(ラピッドサンダーストーム)】はその残りの3割を引き出す魔術さ。まぁ魔術師の腕によりけりだけどね」

「それで【覚醒(アウェイクニング)】は?」

「それ以上」

「それ以上?」

「己の限界を突破して更なる力を得ることができるのさ。だがその力をかけてもらおうと思ったら、己の心身をしっかり鍛え上げないと身が持たないのさ。あの魔術師は2流だね。自分を過信しすぎたんだ」

「で、ルナどのにあの魔術を教えるのですか?」

「かけてほしいのかい?」

 少し戸惑いながらも頷いた。
 同等の力は欲しい。
 おそらく今後、更なる強者が出るであろう。
 その時、某の今の実力だけで抗することが出来るか不安だ。

 強さを求めておる。

「ルナちゃんには基礎をたたき込むよ。あの魔術はバカが幻想抱いて死なぬよう、あたしが禁じ手にしたんだがね・・・」

「稽古にいってまいる!」

 某は森の中へと入っていった。巨大なパイリウムの森の中で、某は適度な大きさの小枝を折った。

 そして五感を澄ました。

 後ろで気配がした。

「くそ、外れた!」

 今度は上で気配がしたので上をたたいた。
 だが当たらなかった。
 周りで飛び回りながら、某を笑っている。
 
 妖精たちだ。
 妖精たちが某の周りを飛び回るのを小枝で当てようとするが周りを数人が息を合わせて飛びまわるので翻弄される。

「虎吉さ~ん。そんなのじゃ当たんないよ~」

 ポイが某をからかう。
 それにつられてほかの妖精たちが笑う。

 こんな状態でずっと某は、この者たちに笑われながら稽古を続けている。

 まったく、何一つ上達せぬまま刻が流れ去っていくような気分だ。

「休憩!」

「降参?」

「昼飯だ。屋敷に戻る」

 昼飯の刻になったので、屋敷に戻って、飯食って出直そう。

「あぁ、もう!あっ虎吉さま・・・どっどうも!」

 屋敷に戻ると屋敷の前で、ルナどのがいらだっていた。その姿を見られたのが恥ずかしいのか赤くなって取り繕っている。

「サハリさまから、自分の魔力を上げる基礎呪文を教えていただき、魔力を高めようとしているのですが、全然わたしの魔力がわたしに応えてくれないのです!」

「魔力が応えてくれない?」

「はい、魔術は高めた精神を持って呪文を唱えるのです。身体の中から沸き上がる魔力次第でより強力な魔術が使えるようになるんです。その魔力を高めようと必死になっているのに!」

「そうか・・・応えてくれない・・・」

 武術が基礎できなければ、技など無意味。
 某が妖精どもらを武術で鍛えた技で何とか当ててやろうと思っている。
 それで相手の動きを読もうと必死になっている。。

「お昼ご飯ができたよ」

 サハリどのが呼んだ。
 丸い文机にイシシという獣の肉とアリウという野菜を細かく切ってタレに漬けたものとネッチの卵をのせたそうめんが置かれていた。
 屋敷の障子を全開にして3人で食べた。

「でも、この景色は本当にいいですね」

 ルナどのが眼前に広がる景色に見とれていた。
 確かにイーミーの森を見ながら飯を食べると疲れが吹き飛び、昼からの稽古に力が入る。

「あたしは初代帝王がこの世界に来たときに彼を助けた。彼が帝国を作った後も一緒にいてね。でも彼が亡くなった後はここでのんびりと暮らしているのさ」

「あ~見たかったです。サハリさまが初代帝王と共に戦った姿を!」

「その初代帝王は名はなんと申し、どのようにしてそこまで強くなれたのですか?」

 【覚醒(アウェイクニング)】に耐えられる心身を持ってこの世界を手に入れた武士はどれほどの鍛錬を積んだのだ。
 出来ることなら、その者に稽古をつけて欲しかった。だがいない以上、せめて少しばかりの手がかりが欲しい。

「名はギケイ。それしか彼はしゃべらなかったね」

 サハリどのから聞けたのはそれだけだった。

 某は、小枝を持って再び森の中へ入っていった。

「妖精ども、稽古の続きじゃ!」

 某が叫ぶと「待ってました」とばかりに妖精たちが飛んできた。

「このっ・・・くそ!」

 動きを読んで枝を振っているつもりが全然当たらない。ポイが笑っている。

「虎吉!」

「ん?」

「いてっ!」

 当たった。

 ポイの動きを読んで枝を振ろうとしたとき、横から女童の妖精が某を読んだ。
 思わず、返事をしたとき某の枝がポイに当たった。

 今まで散々、この者らと稽古をしてきた中で、「動きを読んで打ち込んでやろう」という思いを忘れたときの動きが当たった。

「まぐれだ。こんなの当たってない!」

 周りの妖精たちが笑う中、ポイは否定した。

「もう一度、来い!」

 某は枝を構えた。

「よーっし、みんな今度は手加減するな!」

 ポイが当てられたのが悔しいのか、真剣な顔で他の妖精達と共に再び某の周りを飛び始めた。

 突然皆が一瞬にして静かになり、森の中へ逃げ込んだ。

 頭上から強い気配を感じた。
 上空に翼の生えた生き物に乗った数名の日本の甲冑を着た者たちがいた。

 その1人が降りてきた。
 その者は笹竜胆と月が描かれた朱塗り鞘に入った太刀を持っていた。

 武士なのか。

 背は某より低くルナどのよりは高く、黒い長髪を後ろに結んでいた。
 そして身体からミハエルと同じ、黄金の妖気が見える。

「やあやあ、我こそは」

 某を見て喜びながら名乗ってくる。

「我こそは帝王なるぞ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...