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30 海賊の街

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「サハリさま、ありがとうございます!」

「鍛錬を怠るんじゃないよ」

 朝早く、サハリどのと別れを告げた。

「虎吉、耳をお貸し」

 サハリどのが某に耳打ちした。

「この先ルナだけの魔力だけではどうにもならない時がある。その時はあんたの力を貸してやるんだよ。・・・さあお行き!」

 某とルナどのはホリー国の西の果てにある港町オーシャンバートを目指した。
 
「虎吉さま、船を使って行きましょう!」

 首都ウェンディからオーシャンバートまでは歩いて20日かかるらしい。首都ウェンディからサリー河を渡ってオーシャンバートへと向かう船が1人5万エルーであるらしい。
 依頼で手に入れた報酬とサハリどのからいただいた餞別で今我らは300万エルー持っているので、その船でサリー河を渡り、途中の村で停泊して7日後に到着した。

「海の上に都がある・・・」

 船は桟橋へと止まった。
 その桟橋の向こう海の上に建物がいくつも浮かび、無数の橋が架かっていた。

「水上都市オーシャンバートです。行きましょう!」

 我らは水上都市なる都に足を踏み入れた。
 下にある海が透けて見えてる不思議な橋の下に透き通るような緑の水の中に魚たちが泳いでいた。

 都中を魚の妖怪どもらが歩いてた。

「魚人族です。彼らの船の扱いは世界一です。彼らの船に乗れば、帝国の首都があるアシム大陸へと渡ることができます」

「なるほど・・・宿を探す前に我らを乗せてくれる船を探そう」

 我らは港へと向かった。

「なんという大きさだ・・・」

 港へ行くとそこにはとてつもなく大きな、蒙古が日本に攻め入った時の船が小舟に思えるほどの巨大な船達が海にそびえ立つように眼前にあった。

「ちと訪ねる。アロへ行く船はどれだ?」

 某は港で一人の魚人の船長(ふなおさ)に訪ねた。背中の部分に大きなサメの歯が描かれた着物を着ていた。

「お前らアロへ行くのか?」

 このオーシャンバートからまっすぐ西へ向かえば帝国直轄の港町、アロへと行くことができる。
 キバの大地はアロから北にある大地だった。

 サハリどのが申すにはキバの大地に重要な人物がいる。
 4代目と同じ強さを手に入れたければ、キバの大地へ行ってその者に会えと。

「まぁ、それならちょうどあっしが行くところだ。乗せていってやるよ。前金で1万エルーをよこせ」

「なに、前金?」

 船長が前金を要求してきた。
 
「ルナどの、渡してよいか?」

 一応ルナどのに聞いてみた。

「大丈夫です。こちらの船長は信用できます」

 ルナどのがそう言ったので、某は前金1万エルーを渡した。

「じゃあ、10日後の朝出港するから10日後また来い」

「あいわかった」

 我らは船長と約束して宿を探した。

「ルナどの、なぜあの船長は信用できるのだ?」

「あの船長が着ていた服です。背中に大きなサメの歯の絵が描かれていました。あの服を着ることができるのは、この町を治める大海賊ヘンリー・バートが認めた数十名の船長のみです」

「この町を治める?そのヘンリー・バートとは何者だ?」

「ヘンリー・バートは30年前、3代目帝王の時代に『海の反乱』と呼ばれる海賊達が大暴れした時にその反乱を鎮めたんです!」

「海の反乱?」

「はい。30年前、ロード商人達がハサルトを狩ろうと裏でオークや冒険者たちに多額の報酬で依頼を出しました。冒険者たちが、こぞってハサルトをとりに海に出ました」

 そういえば、この都に入るとき、様々な種族どもらのの髑髏が置いてあった。

 「どうなるか分かるか?」という言葉と共に。

「しかしハサルトは魚人族の聖獣でもあり、よそ者に海を荒らされた魚人族が怒ってロード商人の船を襲いました」

「それでどうなった?」

「3代目は魚人の海賊達を取り締まったのですが、かえってますます魚人たちを怒らせ、魚人族が結集して大船団を作り、帝国も艦隊を送り込んだのです」

「戦になったのか?」

「それを救ったのが当時30歳だったヘンリー・バートだったのです。バートは最前線で艦隊と戦い自ら和平交渉に赴き、話し合いによってハサルトは帝国の保護下に置かれました。ホリー国はバートの業績を称え、この港町を与えたのです」

「大物だな」

「泥棒だ!」

 ルナどのの話を聞きながら、横の路地から大声が聞こえた。体格の良い数名の魚人が飛び出してきた。
 その後から腹を押さえた年取った小柄の魚人の老人がやって来た。

「わ、わしらの宝が・・・」

「ルナどの、その老人を助けろ!」

「はい!」

 老人はルナどのに任せて走って行った奴らを追った。泥棒は町中を走ってついに行き止まりでまで追い詰めた。

「おい、お前ら!老人から何かを奪っただろう?素直に返せば命は助けてやる」

「ああん、殺されてぇのか!?」

 1人の首の長い魚人が刀で斬りかかった。
 某は躱して相手を組み伏せて倒した。

 ガバッ!

 魚人は長い首をひねって某の首を咬もうとした。
 某は退きながら太刀を抜いて逆にその首を斬った。
 首の長い魚人は素石に変わった。

 奪ったであろうの首飾りを奪い返した。
 光りが封じ込まれた緑の宝石がついた綺麗な首飾りだった。

「やりやがったな・・・」

 残った魚人どもらは怒った。

 ザッ!

 さらに大きな魚人が某の上を飛び越えた。
 そして1人の魚人の顔面を掴むと壁に投げつけた。壁が大きく崩れた。

「貴様ら、俺の町で何やってやがる!」

 大柄で腰に鉈のような大きな刀を帯びた眼帯をした魚人が数十名の仲間を連れて現れた。

「バートか!」

「お~、ブラックキッドの一味ども。俺の町で俺の仲間を傷つけるとは、覚悟は出来てるのか!」

 バートが鉈のような大きな黒い刀を抜いた。刀から水滴が現れ、刀は白い覇気に覆われた。

 ブン!

 バートが刃を振った。
 刃から歯のような無数の覇気が飛び、魚人の盗賊達を切り裂き、その凄まじい威力に相手の魚人共らは完全に怖じ気づいていた。

「捕まえろ!」

 バートの言葉に後ろにいた魚人達が泥棒達を捕まえた。

「お前ら!」

 泥棒の魚人が1人、穴が開いた壁の向こうにある海面から顔を出していた。

「絶対許さないぞ!特にそこの人間!船長の弟を殺したことは報告する!」

 魚人はそう言い捨てて海の中に消えた。

「小魚どもらが!」

 バートが部下に「穴を塞げ」と命令した。
 そして我らを見た。

「先ほどの技は何だ?」

 泥棒が去ると某は先ほどバートどのが見せた技が気になっていたので尋ねた。

「【鮫ノ刃(シャークブレイド)】覚えておくんだ。で、誰だおめぇ?」

 クマよりでかいのではないかという巨体が某を見下ろした。

「虎吉さま!」

 ルナどのがやって来た。
 老人も一緒にいた。

「ロレンツじいさん、怪我は?」

「この娘さんに治してもらった。・・・それは!」

 魚人の老人が某が持っていた首飾りを見ると安堵の顔をした。
 某は老人に首飾りを返すと老人は深く感謝した。

 ガッ!

 突然、バートどのが某の肩を掴んだ。
 目が恐ろしいほどに輝いている。

 一体何をする気だ。

「お前は、いい奴だ!」

「はい?」

 今度は眼が、うるうるし出した。

「仲間を助けてもらったやつをこのままにするのはバート様の名折れ。礼をしなければならねぇから、この後のお前らの行動を言ってくれ」

「お主の仲間に前金1万エルーを払って、10日後にギバの大地に連れて行ってもらおうと思っておる。その間の宿を探しておる」

「それならば、『海姫』という酒場に行け。そこは宿もやっている。う~み~は~おとこの~・・・」

 バートどの歌いながら、どこぞへ行った。

 我らは海姫とやらの酒場に行った。

「へい、いらっしゃい!あ、もしかしてパパが言っていた冒険者か?」

 ルナどのと同じくらいの女主がいた。
 小麦色の肌をして頭に布を巻いている。

 この都の住人は頭に布を巻いている者が多い。

「父上?」

「あたいはヘンリー・バートの娘マリーナ・バートさ!おら、そこに座って!」

 バートどのの娘に言われて席に座った。周りには魚人、人間、その他の魔物どもらが酔い潰れていた。

「はい!あたいからのおごり、レム酒だぜ!」

 マリーナどのが酒が入った瓶を2つおいた。

「レム酒?どれどれ・・・」

 瓶の蓋を開けて飲んでみた。

「うん、少しきついかな・・・」

 匂いが日本酒よりきつく、大量に飲めそうになかった。
 目の前ではルナどのが蓋を開けずにラム酒を眺めていた。

「よ~そろ、お前ら今日も栄光の酒の海に溺れようじゃねぇか!」

「「「お~サー・バートのお出ましだ!」」」

 サー・バートが現れたとき、店の中は歓声が上がった。
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