蒙古を倒したのに恩賞がない!?故に1人の女と出会い、帝王が支配する異世界へと赴く。

オオカミ

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31 ルナどのがさらわれた

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「あの船は俺たちが自由に使って良いんだな?」

「もちろんだ。君に贈呈したんだ。手柄を立てればもっと素晴らしい船をあげよう」

「そして俺にこの海を支配する力も」

 虎吉達が酒場にいたとき、とある小島でフードを深々とかぶった集団が首の長い魚人と話をしていた。
 ヘンリー・バートに弓引く若手の海賊、ブラック・キッドである。

「君たちと我々が協力すれば、この海はバートが治める以上により良い海となり世界は大いに栄えるだろう」

「ふふ、俺様の時代が来るわけだ。だが、最近どこからか武士が現れて、俺の弟を殺しやがった!知らねえか?」

「武士?」

 キッドの言葉にフードの奥にある一つ目が鋭くなった。

「何だったら君の好きにしたまえ」

              *       *       *

「よぉうそろおぅ~。盛り上がってるか?」

 ヘンリー・バートは店の壁際で座っていた我らに卓にある椅子に座った。

「ルナどのは酒を飲めん」

「何、酒が飲めない?・・・マリーナ、ションジャを出せ」

「あいよ!」

 マリーナどのはションジャなる飲み物を持ってきた。琥珀色した液体から小さな泡が出ていた。

「それならば飲めるだろう・・・」

「はい!」

 ルナはシンジャを飲んだ。

 ガッ!

「はい?」

 突然、バートどのが某の手を握ってきた。
 眼を輝かせて某を見詰めている。

「お前、良い男だ・・・」

「はい・・・」

 少し寒気がしてきた。

「卑怯者を許さず、卑怯者の卑怯な攻撃に決して怯まない。気に入った!」

「いや、それほどでも・・・」

「で、お前らはアロじゃなくてキバの大地へ行きたいだと?何しに行く?」

「そこにいる伝説の人狼とやらに会いに行く。その前にハサルトと戦いたい」

「お前ら、ハサルトを倒す気か?」

 ハサルトの言葉にバートどのの顔が険しくなった。
 店も静まりかえった。

「某はこの世界で強くならねばならぬ。故にハサルトが強者であり、戦わねばならぬのなら、某は何一つためらわん。そしてその先にいるアルブティガーとも、龍とも戦う」

「四聖獣に勝負を挑むのか?」

 バートどのが丸太のように太い腕を卓の上に叩きつけた。
 某は眉1つ動かさなかった。

「お前ら冒険者だな?」

「いかにも」

 某の目を少しもそらさず睨んでいる。
 某もバートどのの目を見た。
 お互い譲れないものがある。

「・・・男の瞳だ。傭兵としてお前を雇おう」

「某を傭兵として雇ってどうする気だ?」

「俺と一緒にブラック・キッドを倒すんだ。お前は、やつの弟を殺した。奴がお前を許さんだろう。その依頼の報酬で、ハサルトの素石をやろう。そしてキバの大地へ連れて行ってやろう」

「かたじけない」

「よし、今日はしっかり寝ろ。マリーナ、2人を部屋に案内しろ」

「あいよ!あたいはルナに興味を持ったからちょうど良いぜ!」

 マリーナはルナにウインクした。

 ルナは困惑した。

「というわけだ。2階で寝ろ」

 バートどのの計らいで我らが、この店の2階で寝ることになった。

「よぉうそろおぅ、虎吉!」

 朝早くバートどのが大声を出して戸を叩いていた。
 扉を開けるとバートどのが眼を輝かせて立っていた。

「海を教えやる。さぁ共に海に出るのだ!」

「え・・・」

「さぁ!!」

「はい・・・」

 バートどのの眼が怖いくらい輝いている。

「ルナどの早く支度を・・・」

「ルナは駄目だ!これは男同士の付き合いなのだ・・・さぁ!」

 バートどのの眼がますます怖く輝いた。
 断れそうにも無かったので、ルナどのを部屋においてバートどのと一緒に海に出た。

              *       *       *

「すぅぅ・・・」

 一人っきりになったわたしは、魔術の修行をしようかと、精神を集中して魔力を高めようとした。

「るぅぅぅな・・・」

 マリーナさんが、部屋にやって来た。そして椅子に座っているわたしに近づき、わたしの肩に手を置いた。

「あたいと・・・2人っきりにならない?」

「え・・・」

 なんか、目が怖いくらい輝いている。

「さぁ!」

 マリーナさんはわたしの手を取り海に出た。

「ボラじいさん、ルナに魔法をかけてくれ!」

「ああ、良いよ」

 昨日、悪者に宝を盗まれていたおじいさんが砂浜にいた。

「【変身(トランスフォーメーション)】」

 変化魔術でわたしの耳にえらができ、指の間に水かきが現れた。

「ボラじいさんは元魔術師だったんだ。いくぜルナ!」

 マリーナさんは浜辺にあったヨットを手足のように操りわたしと共に海の中を進んだ。

「さぁ、潜るぜ!」

「は、はい!」

 水着はマリーナさんのお店で借りて一緒に海に潜った。

(蒼い宝石の中にいる・・・)

 そこは透き通った蒼い世界だった。

 海の中にある洞窟へと入っていった。
 真っ暗なはずなのに不思議な事に洞窟はコバルトに、ときにエメラルドグリーンと輝いていた。

「どうだ凄いだろう!」

「はい!」

 真っ白な砂の小島で2人で腰掛けて果てしないエメラルドグリーンの世界を眺めていた。

「あっ・・・」

 前方から帆を張った小舟が一艘近づいてきた。よく見ると虎吉さんが乗っていてバートさんが指示を出していた。

「親父はああやって、気に入った奴に船の操縦教えてんだよ。海バカってやつ・・・」

「お・・・」

「あ・・・」

 虎吉さまと目が合った。

「バートどの、マリーナどのとルナどのが来ているあの衣装は何だ?」

 虎吉が小さい声でルナの今の格好をバートに尋ねた。

「水着だ!」

「み、みずぎ?・・・ルナどの・・・それで何を・・・?」

 虎吉が耳をかきながら、へそ丸出しのルナに尋ねた。

「は、はい・・・マリーナさんと一緒に海の中を泳いでいます」

 ルナが赤らめた顔を背けながら鍛え上げた肉体を見せている虎吉に答えた。

「あんた達何照れてんだよ!ハッハッハ」

「ここは、果てしなく広い海だ!遠慮することは無い!」

 2人はマリーナとバートに思いっきり笑われた。

「るぅな、手紙!」

 バートさんが船を出すまでの間、何日もここに滞在していた。
 宿で精神を集中していたわたしに一通の手紙が来た。

 虎吉さんはまた朝早くバートさんに海へと連れて行かれた。
 わたしはマリーナさんとこの後、海辺のカフェに行こうと約束していた。

「あれ、虎吉さまからだ。えっと、このお店まで来て欲しい?」

 良く分からないけど、マリーナさんに事情を説明して杖は必要ないだろうと部屋に置いたまま宿を出た。

              *       *       *

「よーし、風上に向かって走れ!」

「ようそろ~」

 バートどのに気に入られた某は今日も輝く緑色の海で朝からレム酒を飲んでいるバートどのから船の扱いを伝授されている。

「立派な海の男になった。俺の船に乗って俺と共に大海原に出よう!明日だ!」

「かたじけない・・・」

 酔っ払ったバートどのから別に必要の無い、船の免許皆伝をいただいた。
 だがこれでバートどのは出航する気だ。
 ルナどのに早く伝えよう。

 「キバの大地へ行こう」と。

「あっ虎吉!」

 宿に戻るとマリーナどのが血相を変えて立っていた。

「ルナがさらわれた!」

「何だと!?」

「朝早く、虎吉が親父と一緒に宿を出た後、ルナ宛に一通の手紙が届いてルナがそれを読んで出かけたんだよ。そしてお昼過ぎに、ブラックキッドの一味がこれを持ってきやがった!」

 マリーナどのがルナどののローブを見せた。

「何ということだ・・・」

「許せん!!」

 某以上にバートどのが怒り狂った。

「俺の艦隊でお前の女を救うぞ!」

「おう!」
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