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42 楽園への入り口

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「帝王、申し上げます」

 宰相ベルガが重大な一報を玉座の間にいるイズルに報告しに来た。

 虎吉がアルブの森に居た頃、イズルはホリー国と会談を行っていた。 ホリー国に自分の威厳を見せ、帝国への忠誠を再確認する。
 選挙という方法でホリー国の民に選ばれたホリー国の現君主は、皇条に手を置き今後も帝国への忠誠を誓っていた。

「ジン国とマンダー国が兵を集め帝国の支配圏からの独立を求めております。その2カ国に、ホリー国が支持しているようです」

「ふざけるな、皇条を前に誓ったばかりだぞ!?」

 イズルは玉座を叩いた。

 初代帝王の最後の戦争である『ホリー河の大戦』。

 その戦いの末、初代帝王のもと100カ国以上の王達が署名して出来たこの世界の秩序である『皇条』。

 自分がまだ3才の頃、父が分厚い本に書かれた皇条を見せて曾祖父の偉大さを語っていた。

 曾祖父が作り上げた『皇条』こそ帝国が世界を治める英知の結晶。

(だからこそ、守らねばならん!)

 その皇条に基づき、これからも国を治めていくと、あの王は言っていた。

「両国が申すにはウロス国とエキルドナ国の問題に一方的にエキルドナ国の味方をしてウロス国を攻め滅ぼすのは理不尽。帝国がそのような態度を取るのであれば、我らも自国を守るために連合を組んで、立ち向かうのは必然。・・・とのことです」

「俺は正当な行いをしたのだ!何もしないで文句だけ言いやがって!」

「今回のウロス国に対する我が帝国の行いにホリー国はこれをチャンスに帝国に反発する国をまとめ上げるでしょう」

「・・・・・・っ!一体何が違うというのだ・・・」

 イズルは奥歯をかみしめながら、初代帝王の甲冑と代々受け継がれた最強の太刀『暁』を見た。

「これはあなたは分裂した世界を再び統べ、新しい時代を作るお方だ
ということです・・・更なる力を手に入れましょう」

 ベルガは冷静さを失っているイズルに静かな口調でしゃべった。

「更なる力?」

「お忘れですか?セレーネ国がひたすら隠している力を・・・」

「そ、それは初代帝王が絶対に使ってはならぬと堅く戒めたもの!」

「それは初代帝王の時代の話です。あの時代、初代帝王も【覚醒(アウェイクニング)】『暁』の力で世界を平和にし、そして力が世に飛び出し世界が混乱せぬよう封じ込めた。だが今、力が求められるのです。新しい平和のために」

              *       *       *

「あっ虎吉様とルナ様ですか?」

 アルブの森に森を切り裂くように流れる大河『竜ノ道(ドラゴンロード)』があった。
 この河は龍とアルブティガーの戦いによって掘られた溝に水が流れ込んだという言い伝えがあるらしい。

 『竜の楽園』はその先にあるという。

「マカミ様からお聞きしております。こちらが虎吉様とルナ様がお乗りになる舟になります」

 その中流にある桟橋に1匹の河童がいて、我らを見ると深々とお辞儀をした。
 河童は寝床付き、冒険者用の食べ物もある程度備えられた舟を用意してくれていた。

「帆を張って舵輪とかいう奴で動かすのだな」

「はい、そうでございます!あとこれを持って行ってください。中には薪も用意しております」

 河童から釣り竿と釣り一式をいただいた。
 バートどのに教えてもらったとおり帆を張り、縄を外し、碇を上げた。
 帆で風を調整すると桟橋から離れ、河を進み始めた。

 河童が手を振って見送ってくれた。

「虎吉さま、あともう少し、あともう少しですね!・・・わたし・・・虎吉さまを選んで良かったです」

「そ、そうか・・・」

 こんなにも女と長く付き合ったことなどなかった。

 もし、某がルナどのの約束を果たしたらその後はどうなるのか。

「油断はできぬ。アルブティガーの次は龍だからな。とりあえず・・・そなたは先に寝てくれ」

「はい!」

 『龍の楽園』は3日かかるらしいのでルナどのには先に寝てもらった。

 舟は見えぬ先へと進んだ。
 河がどんどん大きくなっていく。

 日が落ちて来るとき、まるで海にいるかのように河が果てしなく広くなった。

「マカミどのはここならば寝ても大丈夫だと申していたが・・・」

 マカミどの曰く船は河が広くなれば後は河が勝手に船を『龍の楽園』へと進めてくれるので寝ても大丈夫だという。

 ただしそれでも「小まめに寝て小まめに起きろ」と申していた。

「虎吉さま、わたしが見ていますのでその間寝てください!」

 ルナどのが寝床からやって来た。
 ルナどのを信じて某は寝ることにした。

 飯は舟の中に備え付けられたかまどで冒険者用の乾燥食をふやかして食う。

「おっ釣れた!」

 いつも釣れる訳ではないが、針に付けた餌を河に投げ入れ、魚のように動かすと2人が食べるにはちょうど良い大きさの魚が釣れる。
 バートどのから教えてもらった。

 そんな感じで河を進んでいった。

 3日目の朝。

「おはよう・・・何じゃこれは!?」

 目を覚まし太陽が降り注ぐ外にでると、恐ろしく巨大な岩壁が続く両端から、まるで天から大水が降り注ぐかのように巨大な滝が水を叩き落としていた。

 操縦を変わり滝の中を進んだ。

「行き止まりではないか!」

 両端にあった滝が半円を描くように前方を塞いでいた。

「虎吉さま、あの岩に船を近づけてください」

 手前に真四角で平らな岩があった。

 ルナどのに言われたとおりその岩に船を近づけ、岩の端に突き出している大きな実がなっている木に縄を結びつけた。

 それは明らかに何者かが作った見事な正方形の平らな岩だった。

「この岩は幻の王国グローリの門と言われています」

「幻の王国?」

「5000ネン前、龍の力で世界を統べた王国があったそうです。ですがその王国は忽然と姿を消し。その歴史は消え、『空白の歴史』と言われています。『龍の楽園』はこの上にあります」

 ルナどのは水そのものが咆哮しているかのような大きな音を立てている滝つぼのど真ん中にあるこの四角い岩が門だと言う。

「と申しても。この滝をいかにして登るのだ?」

 上を見れば頂上が見えない高さから水が落ちてきている。
 グローリの民はどうやってこの滝を上ったのだ。

「いえ、もっと上です」

 ルナどのが天を指さした。
 某は天とルナどのを交互に見た。

「まさか・・・」

「調和魔術を唱えます。『龍の楽園』に行くには龍に認められた強さが必要なのです!」

 ルナどのが杖を構えた。

「かつて、龍に認められた魔術師は1000ネンの歴史の中で30人しかいないそうです」

 ルナは深く息を吸った。
 身体の奥から、強い魔力があふれ出してきた。サハリから鍛えてもらった自身に宿る魔力を持って呪文を唱え始めた。

「天に住む、偉大な存在よ。扉を開き我らを導きたまえ・・・【天への道(パス、トゥ、ヘブン)】!」

 杖の魔石が輝きだし、ルナどのが光に包まれた。
 しばらくしてその光は収まったが何も起きない。

 ルナどのが再び呪文を唱えた。

「え・・・っと」

 某は何をすれば良いのか。

(とりあえず、魚でも釣ろう)

 ルナどのが呪文を必死に唱えている間に魚を釣って調理した。

  薪で火をおこし、ルナどのが食べれるともうしていた、木に成っている大きな実と魚と葉っぱを火であぶっても燃えない魔術がかかった紙で包んで焼いてみた。

「はあはあ・・・少し休憩します」

 一刻ほどルナは呪文を唱えたが何も起きなかった。
 ルナは虎吉が調理した魚と冒険者用の飯を食って船の中で寝た。

 しばらくして起き上がると再び呪文を唱えた。

「ルナどの、今日はこれくらいにしよう・・・」

 もう辺りは暗くなっていた。

「ちゃんとサハリさまのもとで修行して、上達したと思ったのに」

 ルナどのが悔しそうに両肩を強く握っていた。

「何故、龍は応えてくれないの!?」

 焦っている。
 国が心配なのであろう。

 なのに天にいる龍は何も応えない。

「師匠から鍛えてもらっていたとき某もずっと怖かった」

「何が怖かったのですか?」

「強者になるために武芸を磨き、兵法を学んだ。だが、その先が見えない時があり、必死であるが故に見えないのが怖い」

「それでどうしたのです?」

「絶望的になりながらも、修行を止めなかった。それしかできることが無かった・・・ずっと不安の中でやっていた。今でも・・・」

「・・・明日も頑張ります!」

 ルナどのが笑ってくれた。

 次の日。
 ルナどのが某より早く起きて呪文を唱えていた。

「【天への道(パス、トゥ、ヘブン)】!」

 全く動かない。
 ルナどのは何回、同じ言葉を言い続けたのであろうか。

 「ルナは魔術を使ってあんたを守ってくれる。だから、あんたもルナに力を貸してやるんだよ」

 サハリどのの言葉を思い出した。

「ルナどの・・・これで呪文を唱えてみてくれ」

 ルナどのの後ろから両肩に手を置き、精神を研ぎ澄ました。
 サハリどの曰く調和魔術は自然とだけではなく人と人とも力を貸すことが出来るという。

「はい!」

 ルナどのが呪文を唱えた。

「天に住む、偉大な存在よ。扉を開き我らを導きたまえ・・・【天への道(パス、トゥ、ヘブン)】!」

 四角い岩が揺れ浮かび始めた。
 そして我らを乗せて天を登り始めた。

「虎吉さま、やりました!ありがとう!」

 ルナどのが喜びのあまり某に抱きついた。
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