転生魔族は人類滅亡の為に暗躍する(仮)

真昼

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1章 転生→カタリナ村脱出

7話 魔力暴走 後編

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 突然、轟音が鳴り響いた。


 耳元に音の発生源があるのかと、錯覚してしまう程の轟音だった。


 思わず落としてしまった食器を気にも留めず、ファイの脚は自然と前に踏み出していた。眼を動かし、彼女はようやく気付く。


 キャビーがリビングに居なかった。


 内臓が浮き上がった。


「う、嘘でしょ!?」


 ファイは音のした方向──寝室に向かい、我が子の名を呼びながら扉を開ける。


「キャビーちゃん!?」


 眼に飛び込んだのは、荒れ果てた寝室だった。壁には大人が通れる程度の大きな穴が空いており、外気が流れ込んでいる。


 冷え上がるような寒気を感じたのは、反対側の壁に眼を落とした時だった。


「──キャビー!?」


 悲鳴に似た声で我が子を呼ぶ。キャビーは、壁にぐったりと倒れていた。意識は無く、顔色も悪い。


 触れると、冷たかった。


「キャビー……キャビーちゃん!? キャビーちゃんっ!!」


 何度呼んでも意識は蘇らない。右手が在らぬ方向に曲がり、口元には血が滲んでいる。


「そ、そんな……っ。だ、誰か。誰かお願い──っ!!」


 キャビーを抱きかかえ、空いた穴から外へ出る。


 轟音に気付いた村民が、幾人も様子を伺い出ていた。その中には、トッドも居たが──


「誰か助けて……っ!」


 彼らは動けなかった。


 ファイの眼には涙が浮かぶ。自分の無力さをこれ程までに嘆いたことはない。


「ねぇ誰か……っ! 息子が、ウチの息子がぁ……」


 村民に懇願するも、やはり脚を踏み出す者は居ない。


 彼らは医者ではない。加えて、習得困難な光魔法による治癒が使えない。他に何をどうすればいいかなんて、ただの村民に分かる筈も無かった。


 そうしている間にも、キャビーの身体は白くなっていく。成す術が無く、ファイは地面にへたり込んでしまう。みっともなく駄々っ子のように泣き叫ぶ。


 すると──


「何の騒ぎかと思えば、お前かにゃ」


 自宅の屋根の上、満月に黒いシルエットが浮かんでいる。大きな耳の片側は円形に欠けてしまっている。奴隷では無くなったことにより、札を取り払った──<穴持ち>だった。


「みゃーさんっ!?」


「察するに、満を持して登場ってとこかにゃ?」


「た、助けて、下さい……っ」


 顔を地面に擦り付ける勢いで、ファイは懇願する。


「……はぁ仕方ないにゃ」



 キャビーが生まれる数ヶ月前──


 お腹を大きくした彼女は、兵舎で健診を受けていた。


「どうして人族の身体をみゃーが見るのにゃ。医者くらい雇うにゃ」


「いつも有難う御座います。でも、お医者様は月に一度いらっしゃってますよ?」


「あれは薬を持って来るだけにゃ。全く、どいつもこいつもみゃーの光魔法に頼り過ぎにゃ」


 <光魔法が司る「治癒」>は習得難易度の高さが起因して、使用者が極端に少ない。カタリナ村で治癒魔法の行使が可能な者は、兵士の中に僅か2人しか居らず、その誰よりも彼女は優秀だった。


「私も光魔法に適正があるのですが……からっきしで」


「雑魚雑魚にゃ」


「あ、そうだ。みゃーさんのお名前、私まだ聞いてないです」


 獣人は喉を鳴らして、ファイを見る。値踏みするような眼付きに、ファイはおずおずと言う。


「駄目……でしょうか」


「別に駄目じゃないにゃ。でも……」


「駄目じゃかいなら、教えて下さい!」


「うーん。みゃーの名前は……」


「名前は?」


「みゃーの名前は、ミャーファイナルにゃ」


「ミャーファイナルさんですね! あ、でも長いですね。やっぱり、みゃーさんって呼ぼうかな。あはは」


 ミャーファイナルは、眼をパチクリとさせ、唖然とする。


 そして、ファイに対して語気を荒げるのだった。


「お、お前っ!? 本当に人間かにゃ……!?」


「へぇっ!? わ、私ですか……!?」


 ファイはよく分からず、挙動不審となって焦燥に駆られる。


「わ、私は人間です。人間ですよぉ~……あ、あはは」


 しかし、ミャーファイナルは納得が出来ず、ジト目になってファイを見る。



「お前変にゃ」


「よ、良く言われますけど、今回はどうしてぇ……!?」


「みゃーの名前を笑わなかったにゃ。おかしいにゃ」


「わ、笑う? いや、確かに長いお名前ですけど。笑う程では……」


「やっぱり変にゃ。お前、変にゃ!!」


 ミャーファイナルは指を差してファイを否定する。


「ええ!? そ、そんなぁ」


 肩を落としたファイはガックリと上目遣いになる。


「うぅ。みゃーさんは自分の名前がお嫌いなのですね……」


「は? 何を言ってるにゃ、嫌いな訳ないのにゃ。自分の名前を嫌う奴なんて、そうそう居ないにゃ」


「そ、そうなのですか……? 私はあんまり……自分の名前には思い入れが無くて。あはは」


「その歳まで生きて愛着が沸いてないなんて、やっぱりお前変にゃ。人間じゃないにゃ」


「うぅ……」


「親から貰う初めてのプレゼントにゃ。大切な名前にゃ。誰が何て言おうとも、嫌いになんてなれないにゃ」


「は、初めてのプレゼント……ですか?」


「そうにゃ」


「……そ、そう。そういう、ものなんだ」


 ファイは大きくなったお腹を触る。後少しで生まれる我が子を、慈しむように見つめている。


「この子は……喜んでくれるかな。喜んでくれるといいな」


──貴方はどう思う? シキマ。



 ミャーファイナルは、キャビーの容態を確認すると、腰袋から宝石に似たある欠片を取り出していた。


「そ、それは……?」


「コアを加工したものにゃ。破壊した際に出る強大なエネルギーを利用して、一度切りの強力な魔法を発動するのにゃ。命を燃やすってやつにゃ」


 数センチ程度の不揃いな白いコアの欠片をひとつ選び、握り潰す。閃光が拳から放たれる。


 同時に霧散した白い靄は、魔力によって1ヶ所に集め直され、キャビーの胸に押し当てられた。


 次第にキャビーに淡い光が宿っていく。冷え切った身体に体温が戻り、顔色も僅かばかり良くなったように思える。


 短時間の作業だった。しかし、ミャーファイナルの額には汗が滲み出し、息を上げている。


「取り敢えず、命はあるにゃ」


 それを聞いたファイは、身体から力が抜けた。


「あ、有難う御座います……本当に有難う。みゃーさん」


「ふん……ファイだからやったのにゃ。人間のガキを助けるなんて、もうごめんにゃ」


「うぅ、みゃーさぁん……」


「後は大人しくしてるにゃ。さ、みゃーはオスと盛り直しにゃ」


 折れ曲がった手首を力付くで戻し、ミャーファイナルは夜の闇に消えて行くのであった。




『作者メモ』

 素人の書いた小説あるあるなんですが、「それって伏線?」みたいなやつありますよね?

 安心して下さい。伏線ですよ。

 それて、ミャーファイナルは勿論悪ふざけで作った名前です。獣人が全員こんな名前ではありません。


 良ければ、アドバイスや感想を気軽に書いて下さい。名人様コメントも歓迎します。
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