読書バカ異世界へ行く

猫元わあむ

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第2話 トーマ、ゴブリンと戦う

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 ゲートをくぐるとそこは異世界だった。目に入るのは平地に森。人工物は見えないが、密林ってほどじゃない。
 本のために、まずは人家を探さないと。

 闇雲に歩かず、小高い丘に登る。見下ろすと、数百メートル東に人工の道を発見できた。しかも、道端に馬車が停車している。

 ラッキーだ。初手遭難は免れたな。どこか街に行くなら、交渉して便乗させてもらおう。


 近づくにつれ、異変に気付く。あの馬車のまわり、なんか騒がしい。叫び声まで聞こえてきた。
 まさか、休憩してるんじゃなくて、何かに襲われてるとか?
 
 馬車は数匹の奇妙な生き物に囲まれていた。緑色の、毛のない猿みたいな生き物。ボロボロの服と武器で武装している。
 ゴブリンってヤツか? パッと見ただけでも7、8匹はいる。
 対して馬車側は2人。正面で対峙たいじしてるのは黒い革鎧の女の子。銀髪にツインテール。顔立ちはやっぱり西洋的だ。
 御者っぽい小太りのオッサンは、馬をなだめるのにかかり切りで、とても戦えそうにない。

 少女とゴブリンは、ほぼ同時に俺を発見したようだ。
「腕に覚えがあるなら助けて! あとで報酬もらえるように交渉したげるから! ないなら回れ右!」
 戦いながら、よくそんな要件だけを的確に伝えられるな。突き出された槍を、両手のナイフで器用にさばいている。が、御者を護っているせいで防戦一方だ。

「ギャウッ!」
 獣のようなうなり声をあげて、手近な数匹が襲い掛かってきた。

 生前?の俺だったら回れ右して逃げ出してるところだが。

 どれ、ルーン魔法とやらの試運転といこうか。


 フギンからもらったルーンの指輪を、両手の人差し指に填める。指輪には奇妙な文字が刻まれている。これはルーン文字とか言うやつで、フギンの主であるオーディンが発明した「力ある言葉」というものらしい。

 右手に名詞を刻んだ指輪。左手に動詞を刻んだ指輪。名詞動詞の数はそれぞれ13。
 これらを組み合わせて「文章」とすることで力を発揮するのがルーン魔法だそうだ。

 よし、まずは……

「カノン・ラド!」

 右手に巨大な火球が生み出される。
 名詞「カノン(火)」と、動詞「ラド(移動する)」組み合わせだ。「火を放つ」。要はファイヤーボール。

 直径2mの火球を、至近距離でゴブリンどもにぶつけてやった。
「ィギャー!」
 3匹が黒焦げになって転がった。焦げ臭い匂いが鼻を衝く。

 うわ、予想より遥かに火力が強い。試運転して正解。手加減なしで人間にぶっ放したら殺人だ。

「あら、魔法使えるワケ?」
 少女がつぶやいた。どうやらこの異世界、魔法が認知されてるらしい。

 馬車狙いだった他のゴブリンが全員、こちらに向き直った。が、ちょっと腰が引けてる雰囲気だ。
 血気にはやった2匹が、錆びついた手斧を担いで殺到する。今度は逆の組み合わせいってみるか。

マナイース凍結する

 視界一面、氷の野原になった。2匹を氷漬けにしてやる。「水分を凍結させる」の組み合わせで冷却魔法。
 直後、氷は砕け散って、ゴブリンの身体も四散した。ちょっと足止めに、ぐらいの感覚だったのに。

 また火球をぶっ放せば話は早いんだろうが、一度使った言葉はしばらく使えない。

「アァウッ!」
 リーダーっぽいヤツが雄叫びを上げると、ゴブリンどもは一目散に逃げ出した。ゲームのモンスターみたいに、全滅するまで戦うほどバカじゃないか。

「ありがと。助かったわ」
 女の子が話しかけてきた。こうして見ると、背も低いし、身体つきも幼い。俺より2,3歳若そうだ。

「アタシの名前はアリス。アンタは?」

「俺はトーマ」

 トーマはフランス系にも多い名前だから、きっと違和感少ないだろ。


 馬車に同乗させてもらう。聞けば、御者のオッサンは交易品を扱う商人。残念ながら本は扱ってなかった。で、アリスは道中の護衛として雇われてたらしい。

「まさか昼日中に、街道でゴブリンに襲われるとは思ってもみなかったわい」
 手綱を操りながら苦笑いするオッサン。聞けば、ゴブリンは薄暗い坑道とか洞穴に住み着いて日中は出てこない習性だそうだ。

 たしか、ゴブリンの語源はギリシャ語の「恥知らずなならず者」だから、名前にふさわしいかもな。

「アタシも油断してたわ。デブリスはぐれものゴブリンね」
「でぶりす?」
坑道を追われたはぐれもののゴブリンどものコト。定住せずにグループを作って略奪を繰り返すの」

 要はゴブリンのホームレスか。俺の現状と大差ないような……深く考えるのはやめよう、うん。


「なあ、よそ者でも歓迎してくれそうな街はないか?」
 本題を切り出した。アリスが目を細める。
「……ひょっとしてトーマって、ワケあり?」
 う、鋭いな。
「なんでそう思った?」
「イキナリ街道に旅装もしてない男が現れたら、誰でも不思議に思うわよ」
 なるほど。服は高校の制服のままだ。しかも手ぶら。はるばる旅をしてきたとは思わないよな。
逃散逃亡奴隷とか?」
 スカンピンって点じゃあんま変わんない気がする。
「まあ、故郷に帰れない身の上だよ」
 いくらなんでも、異世界から来たとか言えないよなあ。

 アリスは追求しなかった。
「ん。細かい話は聞かない。アタシも清廉潔白ってワケじゃないから」
 受け答えからなんとなく察してたが、アリスは信用の出来る性格に思える。最初に会えたのが彼女で良かった。
 
「そういう事情なら、うってつけのトコがあるわ」
 おっ、それは朗報。
「どこに? 距離は?」
 歩いていけるならありがたいんだけどな。
「徒歩で5分」
「え、マジ?」
「この馬車の目的地もソコ」
 なんてタイミングのいい。

「ところで、そこに大きめの本屋ないか?」



 緩やかな丘を登ることしばし。
 眼前に大きな街が広がっていた。
「……変わった街並みだな?」
 大きな街が北と南に2つ。それに挟まれるように、小さめの街が1つ。いずれも高い塀で囲まれている。
 俯瞰ふかんで見た全体図は、「目」みたいな形。ただし、真ん中の「口」だけかなり小さめ。

 なんでわざわざ3つに分けて囲ってるんだ?

「用があるのは真ん中の街よ」

 アリスが馬車から降りて言った。

「“ルビッシュヒープ掃き溜め”にようこそ。トラブルが絶えなくて、汚くて、住んでる連中の心はもっと汚いけど、退屈だけはしない街よ」

 褒めどころがあんまないんですが。なんでそんな嬉しそうなんだ。
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