読書バカ異世界へ行く

猫元わあむ

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第6話 トーマ、仕事を探す

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「まさか、本当に返してくれるゆーて……」
 ダグ老人が、驚いた様子で本を受け取った。
「読んだら返すって言ったじゃないか」

 もう50回は読んだしな。返すつもりがあったから、名前とねぐらを聞いといたんだし。
 もっとも、1日ぶりに再会しても本人がどうか分かんなかったけどな。顔がアンパンみたいにあちこち腫れてて。

「傷が悪化したのか?」
 石を散弾銃みたいにぶつけたからな。手加減したけど若くないし、治りが悪かったか?
「い? いやいや、これは別件でさあ。それよりすまないねえ、助かったんや」
 変ななまりのある話し方だ。
 やってることは小悪党だが、雨風もしのげない広場に、ボロ布を敷いただけの路上生活を目の当たりにしてしまうと強いことは言いづらいんだよなあ。

「その本、売って生活の足しにした方がいいんじゃないか?」
「これはワシのじゃないんでさ。フッドラムの奴にムリヤリ押し付けられたもんでっせ」

 聞けば、フッドラムとかいう男が盗品やがらくたを押し付けて、「レンタル料」と称して上前を撥ねてるようだ。
 反社会勢力が、植木鉢や絵をムリヤリ貸し付けて、「リース代」を取る手口と似たようなもんか。体裁だけビジネスを取り繕ってんだ。
 
 やれやれ、組織に属さず自由気ままな路上生活ワイルドライフ、ってわけでもなさそうだ。


 宿屋に戻り、アリスの部屋をノックする。
「いるか?」
「トーマ? どーぞ」
 ドアを開けると、そこには裸のアリスが立っていた。
「……」
 無言で閉める。
「…………いま、“どうぞ”って許可したよな? な?」
 俺は悪くない。悪くない。
「したわよ」
「なんで服着てないんだよ!」
「アタシ閉所恐怖症クラウストロフォビアなの。プライベートな空間なら、自分を閉じ込める服なんか着てる場合じゃないワケよ」
 なんだその妙な言い分。
「むしろ、公共の場では服を着てることを褒めて欲しいぐらい」
「デフォルトが裸なのかよ?」
 とんだ裸族だ。

「馬車に乗ってた時はなんともなかったじゃないか」
「そこはそれ、仕事だから鋼の自制心で耐えてたワケ」

 ウソかホントか皆目分からん。まああの馬車、前も後ろも開けてたから閉所とは違うかもだが……ってそれ以前に服は「閉所」じゃねえ!

「早く着てくれ」
「えー、別にいいのに」
 こっちが困るんだよ。

 改めて招き入れられる。今度はちゃんと服を着ていた。
「で、用件は? アタシの私生活にケチ付けに来たワケじゃないんでしょ?」
 おっと、そうそう。
「仕事紹介してくれる所があるんだろ? 案内してくれないか」
 やっぱりダグ老人みたいな路上生活はしたくない、と改めて思ったからな。アリスに借りてる金も返さないとだし。

「案内も何も、どこからでも見えるワケ」
 窓から身を乗り出し、都市の中心にあるでっかい建物を指さした。
斡旋所ブロウカレジ。ルビッシュヒープが運営管理してる組織よ」


「えらく立派な建物だなあ」
 たくさんの人間が出入りしている。ガラが悪そうなのも多くいた。
北区フィールフリード南区オースオドックのお偉いさんもよく利用するからね。ほら、ココ」
 広間の壁を親指で示した。壁一面に無数の紙片がベタベタ貼り付けられてる。
 学校の掲示板にあった、部員募集のポスターの群れを思い出すな。
「どれどれ」
 試しに近くにあった紙を読んでみた。

【分類:プラントハント
 内容:デスメチアナ 籠3杯分
 報酬:籠1杯につき銀貨10枚
 期限:1週間以内
 依頼:薬草師ハーバリストギルド】

 これで内容を知るんだな。
「ここに貼ってあるの、全部が仕事の依頼か」 
「そっ、引き受けたい仕事があったら、貼ってある紙を剥がして受付に持っていくの。割のいい依頼は取り合いになったりね、ほら」
 指の先には、2つのグループが険悪な雰囲気で睨み合っていた。

「手ェ放せボンクラ! その依頼シノギはコッチが先に目ぇつけてたんだよ!」
「フカシこいてんじゃねえこのヒョーロク玉がよう!」
 
 バイオレンスなハローワークだ。


「失敗したら罰金を取られるから、自分の能力と相談ってワケ」
「ここにある紙切れ全部が依頼かあ。かなりの数だな」
「貼ってあるのは健全なのだけだけどね」
 なんだか持って回った言い方だ。
「不健全なのは?」
「知らない人が見つけられない場所にこっそり貼りだされる」
 何事にも抜け道はあるってことか。
「犯罪絡みの依頼もあるってことな」
「だって、後ろ暗い事やらせるのにうってつけじゃない、ココの連中」
 アリスの世間を見る目はシビアだ。
 



「話を聞くに、ここルビッシュヒープの人間って流れてきたよそ者ばっかりだろ? よく仕事回してくれるな」
 アウトローに片足突っ込んでるような連中なんだから、前金取って逃げるとか普通にやりそうなんだが。
「だからルビッシュヒープが仲介に立ってるワケ。成功すればお高い仲介料取るし、バックレたら腕利きを雇って捕まえに来るわよ」
 なるほど。
「しかも、身元も怪しい流れ者に仕事振ってくれるのなんてココぐらいだから、逃げても干上がるだけね」 
 面白いシステムだ。



「……ん?」
 適当に依頼書を流し見してると、聞いた名前を見つけた。

【分類:マンハント(生死問わず)
 内容:フッドラム(ベガーの元締め)
 報酬:金貨15枚+早さに応じて
 期限:早期希望
 依頼:ルビッシュヒープ警衛所ガードポスト

「フッドラム……ダグ老人が言ってた名前だ」
「何のハナシ?」
 少し離れたところで依頼書を眺めてたアリスが反応した。そこで、ダグ老人たちがフッドラムに搾取されてたことを伝える。
「あー。コイツのせいで、本来安全地帯の高級街まで被害が出てるって噂になってたわ。きっと、北区や南区からせっつかれたのね」

 ダグ老人たちがあんなとこで強盗みたいなことしてたのは、フッドラムのせいか。
「で、衛兵所が下請けに出した?」
「そ。ココルビッシュヒープ警衛兵ガードは働かないことで有名だから」
 それは職務怠慢ってやつじゃないか?
「フィールフリードやオースオドックのご機嫌伺いも警衛の立派な仕事なワケ」

 なるほど、ルビッシュヒープってのは、「ワガママな2人のお兄ちゃんの顔色を窺わなきゃならない末っ子」のポジションなんだな。

「気を付けた方がいいわよ。トーマ、手下の稼ぎのジャマしたんだから、フッドラムに恨まれてるわよ、きっと」
「えー? 逆恨みだぞ、それ」
「アタシに言われても。逆に、すっきりサワヤカな悪党なんていると思うワケ?」
 正論なような、へ理屈なような。
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