読書バカ異世界へ行く

猫元わあむ

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第7話 トーマ、襲撃される

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「そろそろ出ようか」
と声をかけようとしたが、その相手はいつの間にやら、受付でなにやら話し込んでいた。
「ゴメン、先行ってて」
戻ってくる。
「なにか依頼受けるのか?」
「近々こなせそうなのがあったからね。手続き済ませるから」
 なら先に帰ってるか。

 そして、アリスの危惧はさっそく実現することになる。

 
 1人でブラブラ帰る。宿屋を目前にしてそいつは現れた。

 身の丈2mを超える大男。のそのそ歩いているだけで 暴力で食ってる者特有の、剣呑なけんのんな雰囲気を醸し出している。

 左手に引きずってるのはダグ老人……だと思う。顔が変形してて断言できないけど。
 右手には先の尖った鉤付き棒。ピッケルによく似てる。口にくわえてムシャムシャかじってる黒いのは……うわあ、カラスだ。
「“ピケックスピッケルのフッドラム”じゃないか」
「おいおい、なんで陽の高い時間にコイツがのたくり出してるんだよ?」
 通行人たちの波が割れて、道の端にどいてゆく。その中央を悠々と歩いてくる大男。イヤなモーゼだ。

 コイツがダグ老人の言ってたフッドラムか。参ったな。見るからに会話が成立しそうにない。
「コイツかあ? オレ様のエサ場を荒らしたってーガキはよー?」
 生のカラスを頭からバリバリ齧りながら叫ぶ。
「そ、そうですよダンナ。コイツがダンナの本を盗んだんでさあ」
 追従するダグ老人。調子のいい奴だな!

「待て待て、俺は別に邪魔したいわけじゃ……」
「はー? オメー殺せば解決だろが」
 うん。予想はしてた。会話が成立するような手合いなら、マンハントの依頼なんて出されないだろうしな。
 カラスの残骸と、ついでにダグ老人もゴミのように放り捨てる。

 やるしかないのか。周りに人がいるにはいるが、遠巻きにしてるだけで助太刀してくれる気配は0だ。
 前のぼったくり屋台の時もそうだったが、ルビッシュヒープの住人、もめ事大好きな野次馬なのな。

「穴だらけにして、壁から吊るしてやるぜー」
 がったピッケルを乱暴に振り回している。あっぶな! あんなもの命中したら、根本までめり込むぞ。

 でも慌てる必要はない。異世界に来てからのここ数日で、ルーン魔法のバリエーションは試してあるんだ。応用性が命の魔法だからな。

「アルジス・エイワズ」

 ピッケルは俺に命中する直前、透明な壁に激突し、弾かれた。よほどの力で振るったのだろう、ピッケルの柄が折れてしまう。素で刺さったら胴体に穴が空いてたな。

「う、うお?」

 フッドラムが、俺と折れたピッケルの柄を交互に見つける。

 アルジスは「自分たち」と表す名詞。エイワズは「保護する」を意味する動詞。組み合わせればバリアーの完成だ。
 硬度に反比例して、長時間は保たないんだが。

 次は攻勢に出るぞ。

「ギューフ・イング」

 ギューフは「能力」を表す名詞。イングは「増幅する」という動詞。つまりは能力ブースト。

 そこらにあった荷車を持ち上げる。目方は500kgぐらいか。羽みたいに軽いや。
 周囲がざわつく。
「え、おい、まさか」
 フッドラムが狼狽するがもう遅い。
「人の身体に大穴を空ようとしたお返しに、釘みたいに地面に打ち込んでやるよ」
 荷車を、思いっきり振り下ろした。脳天を叩かられたフッドラムは、腰まで石畳にめり込んだ。ピクリとも動かなくなる。

 なんかちょっと鼻血が噴き出してて目が飛び出してて頭が凹んでるけど、どうにか生きてるっぽい。

 「おおー」と周囲から驚きの声が聞こえてきた。

「あのフッドラムの野郎が形無しだぜ。誰だよアイツ?」
「知らねえ、最近流れてきた奴だぜ、きっと」
 なんか囁かれてる。目立つのはマズったかな。


 気が付くと、ぼろ切れみたいに捨てられたはずのダグ老人の姿はどこにもなかった。


 そしてこの時の俺は知らなかった。後日、壮絶な筋肉痛に悩まされることになるとは。



 ようやく追い付いてきたアリスと合流する。往来で大立ち回りをした手前逃げるわけにもいかず、しかたなく警衛兵ガードナーを呼ぶことにする。

 しかし、フッドラムを撃退しても、俺になんらの実入りもないんだよな、虚しい。

「オラオラ、野次馬どもは散れ! くせーんだよ!」
 とんだ不良衛兵が来た。三白眼で目つきも言葉遣いも悪い。長身の女性だ。

「アビュース兵長じゃない」
 顔見知りらしい。
「アリスちゃん、この埋め合わせにデートしてくれよ、泊りで」
「仕事でしょ。働きなさい」
 俺そっちのけで、同席してるアリスにしきりにコナをかけてるんだが、そーいう趣味なんだろうか。こんなのが警衛隊の副長ってんだから世も末だ。

「はあ? マジックギルドに無所属ぅ?」
 聞き取りが進むにつれて、アビュースの機嫌が悪くなる。
「私闘かよ。しかも大っぴらに魔法で暴れんなよ」
 どうやら、魔法ってのは刃物より危険視されてるらしい。

「正統な事由がない私闘は禁止だ。こりゃあ別荘留置場で2,3日のんびりしてもらわないとな」
 こっちは正当防衛のつもりだったが、魔法に流れ者と、心証が甚だよろしくないらしい。


「正当な理由、あるわよ。はいコレ」
 兵長の鼻先に、アリスが紙を突き付けた。
「あ?」
「アンタたち、斡旋所ブロウカレジにフッドラムのマンハント依頼出してたでしょ。アタシたちが引き受けてたってワケ」
 ああ、あのときか。

「つまり、アリスちゃんは私闘じゃなくて依頼だったと?」
「そ。感謝こそすれ、恨まれる筋合いはないわよね?」

「遅かれ早かれ、アッチの方から仕掛けてくるって思ったから、さっさと受けちゃった」
 小声で耳打ちする。ひょっとして、こうなることまで見越して受けたんだろうか。


「アリスちゃんたちが受けてたのか。分かった分かった」
「依頼出したの、今朝でしょ? 早期解決したんだから、報酬弾んでね」
「しっかりしてら。オーケー、5枚上乗せな。どうせ払うのは私じゃない」

「じゃあこれで、手下の強盗云々うんぬんはなくなるかな」
 ダグ爺さんがやってた高級市街での強盗とか。
「ケッ、ションベンクセーこと言ってんじゃねーよ、ガキ」
 アビュースが、ペッと煙草を吐き捨てた。アリスと対応が全然違うな。
「新しいボスが現れて終わりね」
 アリスが、火が点いていたままのタバコを踏み消す。
「それがフッドラムあのクズよりマシならそれでいい、っつーだけだ。高級街の犯罪は北区や南区がウルセーからな」
 体面上の問題かよ。

 うーん、つまりは構造上の問題で、「悪いヤツやっつけました!」で片付くほど単純じゃないってことか。


 新参者ってことと、魔法使ったってことでちょっと怪しまれてしまった。無事帰されたのはアリスの擁護と機転のお蔭だ。
「マジックギルドに所属してないのに魔法使えるって、相当珍しいからねー」
 つまり、今後も魔法絡みのトラブルは起きるかもしれないのか。
「明日にでも、警衛隊の詰め所に報酬受け取りに行きなさいよ?」
「俺が? アリスが受けた依頼だろ?」
「アタシは何もしてないもの。倒したのはトーマでしょ」
 うーん、しかし全額俺のもの、ってのはおかしい気がする。「仕事に結びつけた」のは俺の力量じゃない。
「じゃあ半額もらってくれよ」
 お金になったのはアリスがいてこそだからな。
「……別にいいケド。ま、もらっときましょか。トーマの手にあったら全額本に替わるだけだし」
 見切られてるなー。



 今回目立ってしまったせいで、俺の知名度は上がった。

 それは実力を認められるということと同時に、望まぬトラブルを呼び込むことにもなった。
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