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第11話 トーマ、召喚される
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「魔法を2種類も使用した? 何の冗談かね?」
「まあまあ父さん。商人上がりのミーティアなんかに、まともな報告なんかできるわけないよ」
「誤認でしょうな。使えたとしても、大した魔法ではありますまい」
えー、ただいま、知らないじーさんとかおっさんが、目の前で絶賛ぐだぐだ言っております。
部屋の隅では、キッカケを作ったミーティアが肩身の狭い思いをしていた。
事の起こりは、さかのぼること2時間前。
俺はうっかり弟分(妹分?)にしてしまったリザードマンのスカーと、散歩をしつつ親睦を深めていた。
「前は沼地に住んでいたゾ!」
リザードマンは湿地帯が棲息地なのか。そういや、鱗を触らせてもらったら、意外としっとりしてたな。
なんでわざわざ、乾燥してて人の心はもっと乾燥してるルビッシュヒープなんかに住んでるんだろう。
スカーの会話を要約すると。リザードマンは天性の戦士とも呼べる種族のようだ。強い腕力と強靭な鱗に恵まれてる。
代わりに、魔法なんかはめっぽう苦手。
また、欠点と言うとアレだが、全体的に「裏を疑わない性格」のようだ。
俺を襲撃したときも、
「悪い奴を懲らしめたいから力を貸してくれ」
と依頼されて、裏を取ることもなく引き受けたらしい。
……まあ、あの段階で俺の善悪なんて区別できなかっただろうけども。
アリスはスカーを「評判の乱暴者」と評してたが、直情径行で加減が利かない性格が原因で、別に悪人と言うわけではないようだ。
とは言え、だ。このままいけばいかに暴力に寛大なルビッシュヒープとはいえ、遠からず逮捕なり追放なりされてたんじゃなかろうか。
その前に俺の弟分に収まったのは、抑え役ができたという意味で幸運なことかもしれない。
「他になんかすごい特徴ある?」
「リザードマンは皆、左利きダ!」
それは、すごい特徴、なんだろうか?
結論。リザードマンという種族は、騙されやすそうだし、目立つし、人間社会では生きにくいかもだが、実直な性格で俺は好きだ。
で、肝心な質問。
「リザードマンって、どんな本を持ってるんだ?」
良い本があるならぜひ兄貴分特権で借りたい。
「リザードマンに、本を読む習慣、なイ!」
え……?
「沼地で紙は使えなイ。教えは口伝で充分ダ」
なんてつまんない種族だ。沼地に帰れ。
スカーが路地に入った。
「焼き串をごちそうするゾ!」
ああ、ウェイストランド・ティモシーを売ってる屋台か。スカーはあの焼き串が大好物らしくて、前は
「値上げしてやがル!」
って吠えてたな。
また怒って暴れなきゃいいが、との心配は杞憂だった。
「やっタ! 安いゾ!」
スカーが大喜びでまとめ買いしている。銅貨1枚分、前よりも値下げしてあった。
「お前さんのお蔭さね」
屋台のおばちゃんに、唐突に言われて面食らう。
「お前さんがフッドラムを追い払ってくれたお蔭で、無茶な場代を払わなくて良くなったのさ」
「ああ……」
なるほど。場末の屋台からも上前を撥ねてたのか、アイツ。
で、浮いた分律儀に値下げしてくれた、と。
――これって、ものすごく重要な商道徳なんじゃなかろうか。
「さすがオレの兄貴ダ!」
スカーにバンバンと背中を叩かれる。痛い痛い! こっちはお前と違って自前の鱗を着てないんだよ!
たくさん焼き串を買えてご満悦だ。
でもなあ、こんな小さな屋台のおばちゃんに俺の顔とやったことが知れ渡っているのか。
なんだかちょっと怖いな。
宿屋に戻ると、女の子が待ち構えていた。テーブルに座って紅茶を飲んでいる。
「ま、マジックギルドから派遣されてきました」
マジックギルドか。前にアリスが話題に出したことがあるな。
しかしこの女の子、前髪が長くて鼻辺りまでかかってる。見えにくくないんかな。
「み、ミーティアといいます。と、トーマさんですよね? 召喚状が出ています。フィールフリードのマジックギルドに御足労いただければと……」
なんか妙にオドオドした子だ。たぶん同年代なのに敬語使ってるし。
「マジックギルドって、要は魔法使いの組合ってところだよな?」
「は、はい。まま、魔法使いが所属する組織です」
俺はそれに所属してないから、モグリみたいなものなんだよな、たしか。 で、街中で魔法を行使することは、マジックギルドが禁止してるとかなんとか。
「ひょっとして、フッドラムの件?」
「あ、はい、そうです」
これは……非常によろしくない事態なんじゃないか?
「あら、本以外とデートなんで珍しいわね」
アリスが降りてきた。
「ナンパ?」
隣に座ってくる。ホントにナンパだと思ってるなら隣に座ったりしないぞ、普通。
「尋問に一変するかもだけどな」
尋問ならともかく、拷問に発展したらお手上げだな。
「ひょっ?」
「マジックギルドから派遣されてきたんだってさ」
一言で、俺の行状がマジックギルドの耳に入ったことを察したようだ。アリスは頭の回転が速い。
「警衛兵たちが、俺のことを報告したのかな?」
アビュース副長とかが。
「副長を信頼しなさい。彼女たちが一番嫌いな言葉は“精勤”なワケ」
それは、果たして信頼していいものだろうか?
「排他的なマジックギルドが、よくこんな場末のハナシ知ったわね?」
「じ、実は、悪漢を撃退している一部始終を、ぐ偶然、私が目撃しまして」
現行犯?か。なんてタイミングの悪い。
アリスが哀しそうな顔になる。
「トーマ、お気の毒様。愛してたわよ。投獄されたら、9ヶ月に1回は面会に行ってあげるから」
「君は人を不安にして楽しいかね?」
愛していた割に面会の間隔が薄情だな、おい。
「そそ、そんなことしませんよ!」
ミーティアが、両手を振って話に割り込んでくる。
「せ、正当防衛でしたから、むしろ褒められるべきことです。た、ただ、ギルドに報告したら登録がなかったので、上層部が簡単な聞き取りを、と」
断ってもあとあと面倒事が増えるだけか。
あーあ、貴重な読書の時間が削られる。
「まあまあ父さん。商人上がりのミーティアなんかに、まともな報告なんかできるわけないよ」
「誤認でしょうな。使えたとしても、大した魔法ではありますまい」
えー、ただいま、知らないじーさんとかおっさんが、目の前で絶賛ぐだぐだ言っております。
部屋の隅では、キッカケを作ったミーティアが肩身の狭い思いをしていた。
事の起こりは、さかのぼること2時間前。
俺はうっかり弟分(妹分?)にしてしまったリザードマンのスカーと、散歩をしつつ親睦を深めていた。
「前は沼地に住んでいたゾ!」
リザードマンは湿地帯が棲息地なのか。そういや、鱗を触らせてもらったら、意外としっとりしてたな。
なんでわざわざ、乾燥してて人の心はもっと乾燥してるルビッシュヒープなんかに住んでるんだろう。
スカーの会話を要約すると。リザードマンは天性の戦士とも呼べる種族のようだ。強い腕力と強靭な鱗に恵まれてる。
代わりに、魔法なんかはめっぽう苦手。
また、欠点と言うとアレだが、全体的に「裏を疑わない性格」のようだ。
俺を襲撃したときも、
「悪い奴を懲らしめたいから力を貸してくれ」
と依頼されて、裏を取ることもなく引き受けたらしい。
……まあ、あの段階で俺の善悪なんて区別できなかっただろうけども。
アリスはスカーを「評判の乱暴者」と評してたが、直情径行で加減が利かない性格が原因で、別に悪人と言うわけではないようだ。
とは言え、だ。このままいけばいかに暴力に寛大なルビッシュヒープとはいえ、遠からず逮捕なり追放なりされてたんじゃなかろうか。
その前に俺の弟分に収まったのは、抑え役ができたという意味で幸運なことかもしれない。
「他になんかすごい特徴ある?」
「リザードマンは皆、左利きダ!」
それは、すごい特徴、なんだろうか?
結論。リザードマンという種族は、騙されやすそうだし、目立つし、人間社会では生きにくいかもだが、実直な性格で俺は好きだ。
で、肝心な質問。
「リザードマンって、どんな本を持ってるんだ?」
良い本があるならぜひ兄貴分特権で借りたい。
「リザードマンに、本を読む習慣、なイ!」
え……?
「沼地で紙は使えなイ。教えは口伝で充分ダ」
なんてつまんない種族だ。沼地に帰れ。
スカーが路地に入った。
「焼き串をごちそうするゾ!」
ああ、ウェイストランド・ティモシーを売ってる屋台か。スカーはあの焼き串が大好物らしくて、前は
「値上げしてやがル!」
って吠えてたな。
また怒って暴れなきゃいいが、との心配は杞憂だった。
「やっタ! 安いゾ!」
スカーが大喜びでまとめ買いしている。銅貨1枚分、前よりも値下げしてあった。
「お前さんのお蔭さね」
屋台のおばちゃんに、唐突に言われて面食らう。
「お前さんがフッドラムを追い払ってくれたお蔭で、無茶な場代を払わなくて良くなったのさ」
「ああ……」
なるほど。場末の屋台からも上前を撥ねてたのか、アイツ。
で、浮いた分律儀に値下げしてくれた、と。
――これって、ものすごく重要な商道徳なんじゃなかろうか。
「さすがオレの兄貴ダ!」
スカーにバンバンと背中を叩かれる。痛い痛い! こっちはお前と違って自前の鱗を着てないんだよ!
たくさん焼き串を買えてご満悦だ。
でもなあ、こんな小さな屋台のおばちゃんに俺の顔とやったことが知れ渡っているのか。
なんだかちょっと怖いな。
宿屋に戻ると、女の子が待ち構えていた。テーブルに座って紅茶を飲んでいる。
「ま、マジックギルドから派遣されてきました」
マジックギルドか。前にアリスが話題に出したことがあるな。
しかしこの女の子、前髪が長くて鼻辺りまでかかってる。見えにくくないんかな。
「み、ミーティアといいます。と、トーマさんですよね? 召喚状が出ています。フィールフリードのマジックギルドに御足労いただければと……」
なんか妙にオドオドした子だ。たぶん同年代なのに敬語使ってるし。
「マジックギルドって、要は魔法使いの組合ってところだよな?」
「は、はい。まま、魔法使いが所属する組織です」
俺はそれに所属してないから、モグリみたいなものなんだよな、たしか。 で、街中で魔法を行使することは、マジックギルドが禁止してるとかなんとか。
「ひょっとして、フッドラムの件?」
「あ、はい、そうです」
これは……非常によろしくない事態なんじゃないか?
「あら、本以外とデートなんで珍しいわね」
アリスが降りてきた。
「ナンパ?」
隣に座ってくる。ホントにナンパだと思ってるなら隣に座ったりしないぞ、普通。
「尋問に一変するかもだけどな」
尋問ならともかく、拷問に発展したらお手上げだな。
「ひょっ?」
「マジックギルドから派遣されてきたんだってさ」
一言で、俺の行状がマジックギルドの耳に入ったことを察したようだ。アリスは頭の回転が速い。
「警衛兵たちが、俺のことを報告したのかな?」
アビュース副長とかが。
「副長を信頼しなさい。彼女たちが一番嫌いな言葉は“精勤”なワケ」
それは、果たして信頼していいものだろうか?
「排他的なマジックギルドが、よくこんな場末のハナシ知ったわね?」
「じ、実は、悪漢を撃退している一部始終を、ぐ偶然、私が目撃しまして」
現行犯?か。なんてタイミングの悪い。
アリスが哀しそうな顔になる。
「トーマ、お気の毒様。愛してたわよ。投獄されたら、9ヶ月に1回は面会に行ってあげるから」
「君は人を不安にして楽しいかね?」
愛していた割に面会の間隔が薄情だな、おい。
「そそ、そんなことしませんよ!」
ミーティアが、両手を振って話に割り込んでくる。
「せ、正当防衛でしたから、むしろ褒められるべきことです。た、ただ、ギルドに報告したら登録がなかったので、上層部が簡単な聞き取りを、と」
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