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第13話 トーマ、ケンカを売る
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「ご、ごめんなさい!」
部屋から追い出されて早々、ミーティアに深々と頭を下げられる。
「こ、こんなことになるとは思わなくって」
「別にミーティアのせいじゃないだろ」
この子に悪意があったとは思えない。って言うかさっきの尋問も、俺にかこつけてミーティアを詰ってばかりだった。
どうも彼女、マジックギルドでの立場が悪いらしい。
このまま手ぶらで帰るのはシャクなんで、マジックギルドを一通り見学して帰ることにする。 責任を感じてるのか、ミーティアが律儀に施設について説明してくれた。
「な、中庭では魔法の実技をします」
マジックギルドは、魔法の研究や、素養のあるものを鍛えてるのだという。
「あのでっかい石像は?」
中庭に、8mぐらいの翼をもった悪魔みたいな石の像がある。建物の外からでも見えてて、けっこう不気味だったんだよな。
「が、ガーゴイルです。あれもゴーレムの一種で、魔法使いの命令で動かすことができるんです。う、動かせるのは一部の実力者だけですけど」
俺も、屋台で絡まれたときに骨でゴーレム作ったことあるな。
「ま、マジックギルドのシンボル、みたいな存在です」
「そんなもんかね」
なんか、デッカイ自慢や優越感が突っ立ってるようにしか見えないんだが。日当たり悪くなるだろ。
ちなみに、大いに期待してた図書室は、「部外者に利用させられるか」と門前払いだった。
くそ。このままだと本格的に無駄骨だ。
主だったところを見て回ったあと、気になったことを訊ねてみる。
「なあ、商人上がりって呼ばれてたのはなんでだ?」
商人が援助してるはずのマジックギルドで。ミーティアは目を伏せた。
「え、えっと、魔法使いの社会は、血統主義で。だ、代々魔法使いの家系がなにより尊重されるんです」
父が偉けりゃ子も偉いってか。と皮肉に思ったが、
「ま、魔法使いの家系は、優れた素養を受け継ぐことが多いらしくって」
どうやら、全く根拠のないものでもないらしい。
「で、由緒正しい血統書付きが幅を利かせてるってわけか。例えばさっきの審問にいた、親子っぽい2人とか」
ミーティアを叩いてたのは主にこの親子だった。
「は、はい。アッセルハイマー先輩とラズロー導師です。名門の家系で、先輩は将来を嘱望されるエリートです」
導師は教える側、つまり教師とか教授のような役回りらしい。
「う、うちは商人の一族で。わ、私にたまたま魔法の素養があっただけで」
「風当たりがきついのか」
でもなあ。俺の読書経験上、「優れた小説家の子孫しか優れた小説を書けない」なんてことはなかったけどな。
「まだいたかニセモノども!」
品のない声が投げつけられた。話題にしていたアッセルハイマーだ。並んで立つとミーティアより頭一つ背が低い。
ちなみにコイツは、最初に俺の顔を一目見るなり、
「なんだ、男だったのか。紛らわしい名前をするな!」
って一方的にキレられたんだよな。
悪かったな。
たしかにフランス圏で「トーマ」は女性に多い名前だけどよ。お前が勝手に勘違いしたんだろ。
「非難された腹いせに高そうな備品でも盗むつもりだったか?」
ウザいのに絡まれてしまった。
どうやら、さっきの陰湿な「閉じ込め作戦」が上手くいかなかったことが、たいそう気に食わないらしい。
「下賤がやりそうなことだ!」
ゲラゲラ大笑いする。名門とやらの癖に、言動にいちいち品がない。
少しはその下品、オブラートに包めよ。
ま、何で包もうと、包まれてる中身は変わらないんだが。
「それとミーティア! この商人上がりが! よくも指導役の顔を潰してくれたな!」
いや、アンタが一番率先して攻撃してただろ。
「す、すみません。で、で、でも……」
下げられた後頭部を、男は手にしていた本で叩いた。あまり痛くないだろうが、屈辱的だ。
「でも嘘は言ってません。トーマさんがニセモノなんてことはありませんっ」
頭を上げ、アッセルハイマーをねめつけた。おっ、よく言った。
予想もしない反撃に一瞬ひるんだが。
「わ、ワイロを積んで不正入学しやがった分際で名門の僕に意見するか」
あ、逆上したっぽい。
「攻性魔法の的にしてやってもいいんだぞ! まずはその減らず口を……」
分厚い本を振り上げた。あれで殴られたら痛いじゃ済まない。
「名門ってことはさ。ニセモノ呼ばわりした俺なんかに負けたら、立つ瀬がないよな?」
アッセルハイマーが動きを止めた。
実は俺も、これまでの扱いに不満はあったんだ。
一方的に呼びつけられるわ、本も読ませてくれないわ。
ニセモノ呼ばわりされたり、本も読ませてくれないし。
閉じ込めて恥をかかせようとするし。何より本も読ませてくれないしな!
名門のエリートとやらは嗤った。
「言ったな? では僕と魔法戦闘でもやってみるか?」
口の端を吊り上げた、イヤな嗤い方だ。
「そんな度胸はないだろ、ニセモノ!」
挑発してくる。
「ダ、ダメです! あ、あれは先輩のいつものやり口で、ああやって気に入らない相手を訓練に引っ張り出していたぶるんです」
やっぱりアイツの作戦だったか。
まあ、いまさら後に引く気はないけどな。
「あの高慢チキなパパから、土下座の仕方ぐらいは教えらてもらってるよな?」
さて、これでもう後には引けないぞ。
俺とアッセルハイマーが中庭に出たあたりで、ただならぬ気配を察したのか人が集まってきた。
「またアッセルハイマー先輩か?」
「前に魔法の的にされた奴、まだ入院したままだってのに」
「あーあ、かわいそうに。何人目だよ、いったい」
「親が導師だから、誰も意見できないんだよな」
常習犯か。それにしても悪質だ。
「や、やめましょう。大けがじゃ済まないかも」
ミーティアが青い顔で言い募る。
「私が責任を取ると言えばこの場は収まるかも……」
「それがイヤだから挑発に乗ったんだ」
俺が似合わないことをしてるのは、彼女のため、というのもある。
「俺の魔法を評価してくれたのはミーティアだろ? まあ見てなって」
部屋から追い出されて早々、ミーティアに深々と頭を下げられる。
「こ、こんなことになるとは思わなくって」
「別にミーティアのせいじゃないだろ」
この子に悪意があったとは思えない。って言うかさっきの尋問も、俺にかこつけてミーティアを詰ってばかりだった。
どうも彼女、マジックギルドでの立場が悪いらしい。
このまま手ぶらで帰るのはシャクなんで、マジックギルドを一通り見学して帰ることにする。 責任を感じてるのか、ミーティアが律儀に施設について説明してくれた。
「な、中庭では魔法の実技をします」
マジックギルドは、魔法の研究や、素養のあるものを鍛えてるのだという。
「あのでっかい石像は?」
中庭に、8mぐらいの翼をもった悪魔みたいな石の像がある。建物の外からでも見えてて、けっこう不気味だったんだよな。
「が、ガーゴイルです。あれもゴーレムの一種で、魔法使いの命令で動かすことができるんです。う、動かせるのは一部の実力者だけですけど」
俺も、屋台で絡まれたときに骨でゴーレム作ったことあるな。
「ま、マジックギルドのシンボル、みたいな存在です」
「そんなもんかね」
なんか、デッカイ自慢や優越感が突っ立ってるようにしか見えないんだが。日当たり悪くなるだろ。
ちなみに、大いに期待してた図書室は、「部外者に利用させられるか」と門前払いだった。
くそ。このままだと本格的に無駄骨だ。
主だったところを見て回ったあと、気になったことを訊ねてみる。
「なあ、商人上がりって呼ばれてたのはなんでだ?」
商人が援助してるはずのマジックギルドで。ミーティアは目を伏せた。
「え、えっと、魔法使いの社会は、血統主義で。だ、代々魔法使いの家系がなにより尊重されるんです」
父が偉けりゃ子も偉いってか。と皮肉に思ったが、
「ま、魔法使いの家系は、優れた素養を受け継ぐことが多いらしくって」
どうやら、全く根拠のないものでもないらしい。
「で、由緒正しい血統書付きが幅を利かせてるってわけか。例えばさっきの審問にいた、親子っぽい2人とか」
ミーティアを叩いてたのは主にこの親子だった。
「は、はい。アッセルハイマー先輩とラズロー導師です。名門の家系で、先輩は将来を嘱望されるエリートです」
導師は教える側、つまり教師とか教授のような役回りらしい。
「う、うちは商人の一族で。わ、私にたまたま魔法の素養があっただけで」
「風当たりがきついのか」
でもなあ。俺の読書経験上、「優れた小説家の子孫しか優れた小説を書けない」なんてことはなかったけどな。
「まだいたかニセモノども!」
品のない声が投げつけられた。話題にしていたアッセルハイマーだ。並んで立つとミーティアより頭一つ背が低い。
ちなみにコイツは、最初に俺の顔を一目見るなり、
「なんだ、男だったのか。紛らわしい名前をするな!」
って一方的にキレられたんだよな。
悪かったな。
たしかにフランス圏で「トーマ」は女性に多い名前だけどよ。お前が勝手に勘違いしたんだろ。
「非難された腹いせに高そうな備品でも盗むつもりだったか?」
ウザいのに絡まれてしまった。
どうやら、さっきの陰湿な「閉じ込め作戦」が上手くいかなかったことが、たいそう気に食わないらしい。
「下賤がやりそうなことだ!」
ゲラゲラ大笑いする。名門とやらの癖に、言動にいちいち品がない。
少しはその下品、オブラートに包めよ。
ま、何で包もうと、包まれてる中身は変わらないんだが。
「それとミーティア! この商人上がりが! よくも指導役の顔を潰してくれたな!」
いや、アンタが一番率先して攻撃してただろ。
「す、すみません。で、で、でも……」
下げられた後頭部を、男は手にしていた本で叩いた。あまり痛くないだろうが、屈辱的だ。
「でも嘘は言ってません。トーマさんがニセモノなんてことはありませんっ」
頭を上げ、アッセルハイマーをねめつけた。おっ、よく言った。
予想もしない反撃に一瞬ひるんだが。
「わ、ワイロを積んで不正入学しやがった分際で名門の僕に意見するか」
あ、逆上したっぽい。
「攻性魔法の的にしてやってもいいんだぞ! まずはその減らず口を……」
分厚い本を振り上げた。あれで殴られたら痛いじゃ済まない。
「名門ってことはさ。ニセモノ呼ばわりした俺なんかに負けたら、立つ瀬がないよな?」
アッセルハイマーが動きを止めた。
実は俺も、これまでの扱いに不満はあったんだ。
一方的に呼びつけられるわ、本も読ませてくれないわ。
ニセモノ呼ばわりされたり、本も読ませてくれないし。
閉じ込めて恥をかかせようとするし。何より本も読ませてくれないしな!
名門のエリートとやらは嗤った。
「言ったな? では僕と魔法戦闘でもやってみるか?」
口の端を吊り上げた、イヤな嗤い方だ。
「そんな度胸はないだろ、ニセモノ!」
挑発してくる。
「ダ、ダメです! あ、あれは先輩のいつものやり口で、ああやって気に入らない相手を訓練に引っ張り出していたぶるんです」
やっぱりアイツの作戦だったか。
まあ、いまさら後に引く気はないけどな。
「あの高慢チキなパパから、土下座の仕方ぐらいは教えらてもらってるよな?」
さて、これでもう後には引けないぞ。
俺とアッセルハイマーが中庭に出たあたりで、ただならぬ気配を察したのか人が集まってきた。
「またアッセルハイマー先輩か?」
「前に魔法の的にされた奴、まだ入院したままだってのに」
「あーあ、かわいそうに。何人目だよ、いったい」
「親が導師だから、誰も意見できないんだよな」
常習犯か。それにしても悪質だ。
「や、やめましょう。大けがじゃ済まないかも」
ミーティアが青い顔で言い募る。
「私が責任を取ると言えばこの場は収まるかも……」
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