読書バカ異世界へ行く

猫元わあむ

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第14話 トーマ、暴れる

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「これまでの大言壮語、もはや撤回できないからな!」
 もう勝利を確信した顔だ。甘い甘い。
「反撃できないの忘れるなよ? ……んん!」
 手の平に、細長い光の槍が現れる。

 見物人のどよめきからして、かなりの破壊力なんだろう。

「せ、先輩が使う中で、一番強力な攻性魔法ですっ!」 
 ミーティアの声は悲鳴に近かった。

 ま、威力が高いほど、あっちが痛い目を見るだけだ。
「エーテル・ランスだっ! 串刺しにしてやる!」
 こっちに光の槍を投げつけた。

「ウルズ・ペイオース」

 俺は飛来した槍を、難なく受け止めた。

 あり得ない光景に、一同絶句する。

 ウルズは「魔法」という名詞。ペイオースは「逆転させる」という動詞。
 「魔法を逆転させる」。相手の放った魔法を、そっくり反射することができるって寸法だ。

「魔法を、つかんだ……? そ、そんなバカなこと」
 呆けた顔しているアッセルハイマーを見据える。

「せっかくのプレゼントだけど、返すよ」

 そのまま投げ返してやった。
 投げ返された槍は、アッセルハイマーの胸を貫いた。直後、バチバチッと放電のようなものが体中を貫いて、黒焦げになる。

 やっぱりかなりの威力だったか。お気の毒様。

「す、すごい……!」
 ミーティアが息を呑む。

 見物人一同言葉もない。こんな事態は想定外の外だろう。誰しも、俺が酷い目に遭う前提でその先を考えてたはずだ。

 さて、これからどうなるか。


「何をしておるか下郎ッ!」
 ラズロー導師が怒鳴った。1階まで駆け下りてくる。
「何って、訓練ですが? 約束は破ってませんよ」
「なんだと?」
 噛みつかんばかりの剣幕だ。

「“相手を傷つけるような魔法は使わない”って約束だったんだ。相手が自分の魔法で自滅したのは俺の責任じゃない」
 詭弁きべんには詭弁で返してやる。

「う? うー、うん、まあ確かに」
 見物人が微妙に納得してる。これ大事。
 部外者のヘリクツに傾くってことは、逆に考えれば、アッセルハイマーが嫌われてたことの裏返しでもある。

 この空気に負けて、相手が矛を引っ込めてくれれば、こっちも無茶を詫びて一件落着、なんだがな。

 ラズローが黒焦げの息子を凝視する。辛うじて息はあるが、それも時間の問題だ。

「うるさいうるさい! ニセモノと商人上がりが結託して息子を陥れおって!」
 あ、理性が情に負けた。鷹揚な態度はどこへやら。
 本性出すと息子に喋り方がそっくりだ。


 これはもう、行きつくところまで行くな。


 ラズローは両手に塗料を塗りたくり、中空に指を走らせた。奇妙な図形を描く。

「“魔法の光よあまねく世界を照らせ!”」

 うわあ、と方々から悲鳴が上がる。なにをしたかはすぐに知れた。

 中庭に突っ立ていたガーゴイル像が動き始めたんだからな。

 あの巨像、ミーティアがコマンドワード1つで動かせるって言ってたな。
 8mの石像が石の翼を広げ、こちらに迫ってくる。観客が逃げ始めた。

「ら、ラズロー導師、それは導師として相応しい行動ではありません!」
 ミーティアの説得は筋が通ってるが、逆上したオヤジには逆効果だよな。
「うるさいうるさい! 卑しい商人上がりが!」

 こういった極まった状況で本性って出るなあ。


 さあ、第二ラウンド開始だ。


「ところで、俺が攻撃しないのは“さっきの訓練の間”までの約束だったな?」
「なに?」

 悪魔像に手をかざした。

「フェオ・ハガル!」

 俺の一声で、ガーゴイルは木っ端みじんに砕け散った。
 とっておきの組み合わせだ。

「あ…‥‥はあ?」

 ラズローがその場にへたり込んだ。一蹴されたのがよっぽどショックだったか。
 あまりのあっけなさに、他のギルド員たちも思考が止まっている。

 悠々とラズローに歩み寄った。
「次はお前を粉々にしてやろうか? ほら」
 一発殴ってやる。これはただのパンチだが。
「ひいっ!」
 よほど怖かったのか、ぺちんと殴られてラズローは泡を噴いて気絶してしまった。

 ちょっと溜飲が下がったな。

 フェオは「所有物」を表す名詞。ハガルは「破壊する」を表す物騒な動詞。
 組み合わせれば「所有物の破壊」だ。ラズローの支配下にあるガーゴイルは砕けても、ラズロー本人にはまったく効果がない。

 脅しとしては充分利いたようだ。



 おっと、忘れるとこだった。息も絶え絶えのアッセルハイマーに近寄る。
 天国に引っ越す5分前ってとこだな。

「ソウェイル・ベルカーナ」

 炭化した身体が、徐々に復元されてゆく。

 ソウェイルは「生命力」を表す名詞。ベルカーナは「再生する」を表す動詞。
 「生命力を再生する」。組み合わせれば即席の回復魔法だ。

「おい、ひょっとしてあれ……」
「回復? しかも、すげえレベルの?」
「マジかよ。あいつ、魔法幾つ使ったよ? 魔法体系完全無視じゃねえか」
 遠巻きにしていたギルド員たちが騒然とし始める。



「うー……」
 アッセルハイマーが目を覚ました。
「おい」
 俺はしゃがみこんで顔近づけた。状況を飲みこむのに数秒。
「ひいっ!」
 両手を顔の前に突き出して悲鳴を上げた。逆境に弱い奴だったか。
「今回治してやったのは特別だ。ミーティアの先輩だからな。でも、次はないと思え」

 睨みつけると、首をガクガクと振った。臨死体験が良い薬になったみたいだ。


 実は最初から、アッセルハイマーを見殺しにするつもりはなかった。俺が原因で死なせたとなると、ミーティアの立場が悪くなるからな。



 さあて、残された大問題は1つ。ここまで好き勝手に暴れた俺が、生きてマジックギルドを出ることができるかどうか、だ。
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