読書バカ異世界へ行く

猫元わあむ

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第15話 トーマ、ギルド長に会う

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 万能に思えるルーンの指輪にも泣き所はある。 1度使用した名詞や動詞は、24時間使用できなくなる、というものだ。

 フギンが言うには、消費した魔素エーテルを、大気中から吸収して蓄えるのに時間がかかる、らしい。よく分からんが。

 要は、今日ここで使った、

ソーン
ウルズ魔法
フェオ所有物
ソウェイル生命力
イーラ創造する
ペイオース逆転する
ハガル破壊する
ベルカーナ再生する

 の、計8種は軒並み使用不能ということだ。

 特に戦闘向きのルーンを使っちゃったんで、残りの単語じゃあ強力な組み合わせはいくつもできないだろう。
 が、もう後にはひけない。

 俺は、無責任に野次馬してるギルド員どもに向き直った。

「俺はコイツらの理不尽な遊びに付き合ってやっただけだ。それでも文句があるなら誰でも来い!」

 大声で叫んだ。訪れたのは沈黙と緊張。
 さすがにアッセルハイマー親子の暴挙に引け目があったか。

 無責任な観客気取ってたら、いきなりリングに上げられて面食らってる、ってところもあるだろうが。

 だが、俺をこのまま見逃すのは沽券こけんにかかわるだろう。
 現に、険しい目つきで睨んでくる者が何人かいる。


「あ、あのっ……」
 だが意外なことに、真っ先に動いたのはミーティアだった。
「トーマさんは何1つ悪くありません!」
 その声は、今までになく毅然きぜんとしたものだった。

「ここでプライドのためにトーマさんを害するなんて、マジックギルドの恥です!」

 やるじゃないか。

 一同押し黙る。
 少なからず侮ってたミーティアに、こんな強い一面があったことに驚いてるんだろう。





「ほっほっほ、よくぞ言ったの」

 緊迫した場に似合わない、飄々ひょうひょうとした笑い声が響いた。

 ベランダからひょっこり顔をのぞかせたのは、70歳に届こうかという爺さんだった。

「ぎ、ギルド長!」
「マクスウェルギルド長だ!」
 周りが騒然としている。

 あの爺さんが、マジックギルドのトップか。

 総髪で皺だらけの顔だが、威厳をバリバリ感じる。
 あれと比べたら、ラズローなんか尻に殻をくっつけて歩き回ってるヒヨコだ。

「話はこの愚か者から聞いたがの」

 老人がぐいっと手を持ち上げる。そこには怯えに歪んだ顔が掴まれていた。
 アッセルハイマー親子とともに、俺たちを審問でバカにしてたジーサンだ。
 名前は確か、ウザレス導師だったか。

「招いた客人を侮蔑したそうな」
 手を離すと、導師は床にべちゃっと落ちた。

「挙句の果てに、無理難題を課しておいて完敗とはな。未熟はまだしも、人の力量を見る目さえないとはの」

 ため息を吐く。
「客人、愚か者どもが失礼をした。危害をくわえる気はないでな」

「で、ですがギルド長。部外者にこうまで好き勝手に荒らされては、マジックギルドの威厳が……」
 反抗的な目つきをしていた中年男が異を唱える。
 
「かかってこい、と言われ、何もできなかった時点で、お主らの格負けじゃ。それとも、彼と同じことができるのかの?」
 中年男は言葉を飲み込んだ。 


「ほっほっほ。皆、異論はないそうじゃ」

 なんだか、俺に戦う力がほとんど残ってないのを見透かしたうえで、助けてくれた気がする。

「じゃあ、帰ってもいいかい?」
「無論じゃ。マジックギルドギルド長マクスウェルの名において、この乱痴気騒ぎは終焉じゃ」

 この一言が決定打。ギルド員たちがいっせいに胸を撫で下ろした。


 どうやらカンオケでなく、自分の足でここから出られそうだ。



「しかし、魔法、のう。お主のは、どれもが異次元の性能よな」
 訳知り顔の老人。

「ワシも無駄に長生きしとるが、そんな魔法は見たこともない。お主、若く見えるがとんでもない怪物じゃて」
「……神様からプレゼントされてね」

 この老人は敵に回したくない。なんか本能がそう告げてる。

「また来なさい。極上の紅茶を淹れて待っておるでな」
 どこまで本気やら。

「いやあ、当分は遠慮したいね」
 長居は無用だ。

「あ、あのっ」
 ミーティアが駆けてきた。
「お許しが出たから帰るよ」
 今回の件、彼女に悪い処分はなさそうだし、安心して帰れるや。

「あ、ありがとうございましたっ」
 振り向かなくとも、ミーティアが深々と頭を下げているのが想像できた。

 ああ、それにしてもひどい1日だった。

 この時間で、いったい何冊、愛すべき本たちが読めただろうか。




 翌日。

「ふーん、大立ち回りしたのね」
 アリスは俺のベッドであぐらをかいて聞いていた。
 ただでさえ肌の露出多めなんだから、きわどい姿勢はやめてくれ。

「でも良かったじゃない。ギルド長が大人で」
「大人って言うか、大人の対応をされたって言うか」
 そもそも大人を通り越して爺さんだし。

「とんでもない厄介ごとに巻き込まれたけど、これで解決、元通りってわけだ」
 食事のために階段を下りる。

「あのね。トーマのルーン魔法って、ギルドからすればノドから手がどころか、足が出るほど欲しいものなワケ」
「なんだその不思議な比喩は」
 足を出してどうする。

「カンタンに見逃すわけないじゃない」
 うーん、でも印象悪いだろうし、もう行く気もないしな。


 酒舗に降りると、いつもの席に見知った顔があった。

「おはようございますっ!」
 昨日と同じように紅茶を飲んでいる。

「時間が巻き戻ったみたいだ」
 いや、昨日と違う点があった。ミーティアの長かった前髪が、少し短く切り揃えられてる。
 やっぱり美人だ。客がチラチラミーティアを盗み見てる。
 心なしか、姿勢も良くなっていた。

 これは、周りの男どもが放っておかないだろう。

「何の用事だ」
「マジックギルドからトーマさんへ召喚状が……」
「昨日と全く同じ用件じゃねーか!」
 お礼参りか? お礼参りなのか?

「いえいえ。こ、今回は客員導師としてスカウトしたい、とギルド長直々の要請ですっ」

「いや、本を読む時間が惜しいから」
「で、でも客員導師になれば、今度こそギルド秘蔵の書籍が閲覧し放題ですよ?」
 あっ……

「ですからトーマさんさえよけれ」
「ミーティア先輩、今日からお世話になります!」
 食い気味に最敬礼した。

「随分よく回る手の平ね。……それにしてもトーマの操縦法を分かってるワケ」
「商人は、物を見る目以上に人を見る目が大事なんです」
 金言だな。 

「こりゃ、マジックギルドの青ビョウタンどもじゃ太刀打ちできないわ」

 アリスは両手を上に挙げ、首を振ってみせた。

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