読書バカ異世界へ行く

猫元わあむ

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第22話 トーマ、本に入る

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【第22話 トーマ、本に入る】


【日本人のあなたにおススメ! 異世界の歩き方】
……だと?


 まさか異世界で日本語を見ることになるとは。 しかも、日本人ときたもんだ。

「あの、この本は?」

「異国の本ですね。ここでは誰も読めないものでして」
 異国どころか異世界だけどな。

「どうやって手に入れたんです?」
「さて、どなかから買取りした品だと思います。買い求められますか?」

 値段を見る。
 ――金貨50枚。
 ううーん、やっぱり高い。

 悩んでいると、ナイアールさんが小首をかしげた。

「そうですね……もし私の頼みごとを聞いていただけるなら、報酬として差し上げますが」
「なんでも言ってください」
 このときの返答は、きっと人類最高速を更新してたと思う。
「内容も聞かずに即答するワケ?」

 だって、こんなチャンスは逃すわけにはいかないんだよ。
 金貨50枚なんて、自力で貯めるのにどれほどかかるか。

「他の方には、協力していただけるなら正規の報酬をお支払いいたします」

 アリスはしばし逡巡しゅんじゅん
「んー、なら引き受けてもいいケド」
「オレもダ! 兄貴の手助けするゾ!」 
 ありがたいことに、2人とも了承してくれた。



「具体的になにすればいいんですか?」
 前は本輸送の護衛したってアリスが言ってたな。

「実は、貴重な本が病気になりまして」

 ……は?

「こちらです」
 ナイアールさんが、1冊の本を出して、広げてみせた。

 広げられたページでは、文字がぐにゃぐにゃと踊っている。

「うええっ?」
 どうなってんだ、コレ?
「見ての通り、重体になってしまいました」
 沈痛そうな表情をするが……なんだこりゃ?

 本の病気って、紙魚虫しみむしとかじゃないのか?

「人間かよ?」
「アタシに訊かないで。自信ないから」
 頼りにならない貧乳め。

「これを治せってのか? いったいどう……」
「このページをご覧ください」

 ナイアールさんがペラペラとページをめくる。広げたのは、挿絵らしきページだった。

「「「どれどれ?」」」
 3人で覗き込む。
 それは、絶海の孤島が描かれた絵だった。岩山ばかりの島だ。
 ステップみたいな草原?やら、大男っぽいものも描かれてるが、いかんせん小さすぎて判別できない。

 これが何だってんだ?

「これが何かの――」
 視線を上げて絶句。


――そこは、岩山ばかりの絶海の孤島だった。


「え、ええ?」

 目を白黒させて見渡す。アリスもスカーもいて、同じように戸惑っていた。
 ただ、ナイアールさんの姿はない。挿絵を見てたあの一瞬で、いなくなった?
 

 これは……挿絵と同じ島だ。俺たちは海岸線の近くにいるが、海際の朽ちた船も挿絵に描かれてたものだ。遠くに見える砦も。

 まさかここは、挿絵の中?
 海水をすくって舐めてみると、塩辛い。夢や幻ってわけでもなさそうだ。

「でかい湖だナ」
 そうか。スカーは海を知らないのか。
「海だよ。水が塩っ辛いんだ」
 言われて、スカーも海水をガブガブ飲んでみる。あーあ。
「ブフッ?」
 ノドを押さえて吐き出した。想像より塩分が濃かったらしい。

「海、ねー。塩商人が大喜びなワケ」
 割とビジネスの才能がありそうな発言だな。
「生きて帰れれば、の話だろ」
 そもそも本の中だし。


「まるで手品だ」
 タネもシカケもなかったら怖いが。
「ナイアールさんならできそうなワケ」
 なんなんだその謎の信頼は。


『この島にいる病気たちを倒してください』
 ナイアールさんの声が響いた。

 物理的に倒すのかよ?


「まあ、せっかくの体験だ。やってみるか」
 なによりあの本のために。
「本が絡むと前向きになるわよね」
「クヨクヨしてるよりずっといいゾ!」
 賛同を得られたようで何よりだ。


 歩いていると、墓がずらりと並んだ場所に出た。絵で草原かステップに見えてたの、ここの墓標かよ。
 墓といっても、木の墓標が土まんじゅうの上に刺さってるだけのものだが。

「……なあ、こういったシチュエーションだとさ。お墓から死体が……」
 ホラー映画の定番だ。
「やめてよ、トーマ。言うと招くのよ?」
 アリスは心底嫌そうな顔だ。

 はたして予想通り。
 地面から、ボコボコと骸骨が起き上がった。前のような竜牙兵ドラゴントゥースウォーリアではなく、正真正銘のスケルトンみたいだ。

 本の治療とやらに関係あるんだろうな? これ。

「ホネかー。刃物は効かないぞ」
 竜牙兵がそうだったからな。
「任せロ!」
 スカーがシミターを投げ捨て、朽ちた船から竜骨背骨を引っこ抜いた。
 すごい怪力だ。さすがはリザードマンでも評判の暴れん坊。
 手近な骸骨に殴りつけて粉砕する。

「鈍器か。いいアイデアね」
 アリスも愛用のナイフを収め、墓標の木札を引き抜いて2刀流に振るっている。
「罰当たりだな」
「そもそも、本当のお墓かも分かんないし」
 それもそうか。本の世界なら、架空かもな。


 しかし数が多いな。ルーン魔法の連発は避けたいんだけど。人間と勝手が違うからな。
 逃げ回りながら考える。かなりカッコ悪い。

 骨にカノンエオリアは効くのかな?
 そもそもエオリアは使ってしまっているから論外か。

 こうなると、便利なラド移動するハガル破壊するをあんなザコどもに消費したのは惜しかったな。
 逆にほとんど活躍の目がない動詞もあるんだがな。

「スケルトンの弱点って何か知ってるか?」
 ダメ元で訊いてみると、アリスは「聞いたハナシだけど」と前置きして、

「聖別された水と、塩が効くって」
と教えてくれた。博識だな。

 聖別された水って、聖水のことか。もちろん持ってない。

 塩は、魔除けに効くとか読んだことがあるな。
霊や邪気を吸い取り、悪を分解するとか。
 塩も持ち歩いてない。少量じゃ足りないだろうし、作ることも……

……いや、塩ならあるな。後ろに無尽蔵に。


マナイング増幅する


 すぐ後ろは海だ。波の動きを増幅させて、津波を起こした。

 津波と言うより大波のレベルだったが、骸骨どもに海水を浴びせるには充分だった。
 塩がたっぷりと含まれた海水を。

「ギャーッ!」

 骸骨は塩水を浴びると悲鳴を上げ、ばったり倒れたまま動かなくなった。

 よーしよし。一網打尽だ。


 スケルトンが崩れる直前、人間の姿になった。そのまま消えてゆく。子どもが多かったか?

 なんだいまのは? 何か意味があるのか?
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