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第21話 トーマ、黒い本屋に行く
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武器を手にならず者たちが包囲の輪を狭めてくる。
ここいらは、もうフッドラムの縄張りじゃないみたいだ。
だからこんな風に標的にされる。
慣れたつもりでも、俺はやはりまだココでは浮ついた存在らしい。
この手の連中の煩わしさは、フッドラムやダグ老人の件でイヤというほど思い知らされた。
なにより、今後ココを通る度に絡まれるのはゴメンだ。
「妙に落ち着いてやがる」
「そういや、さっき変な動きしてたよな」
おっと、警戒してるな。
「ボス、どうしやすか?」
後方の男に呼び掛けた。
「なに、肉には違いねえ」
手で小さな容器を弄んでる。容器には針がついていて、注射器のようだ。
迷いなく、その針を自分の首筋に打ち込んだ。容器を握り潰し、中の液体を注入する。
すぐさま身体が獣毛に覆われ、牙が生える。おおい、なんだその変形、変体は?
まるで二足歩行する狼だ。狼男ってヤツか?
「男の硬い頭蓋骨を、バリバリ齧るのがいいんだよなぁ」
「肉」って、そういう意味かよっ!
――手加減する理由はないな。
前に思いついて、ちょっと躊躇した組み合わせがあったな。
ルーン魔法は、距離・対象数に応じて威力が増減する組み合わせがある。
接触が一番強く、効果範囲を広げたら弱くなる、というふうに。
今回のはエグいので、効果範囲を調整して、と。
「ソウェイル・ハガル」
囲んでいたならず者が一斉に崩れ落ちた。
「あ、ああ……げほっ」
「うううっ……」
生きてはいるが、立つこともできず地面に倒れている。
「生命力を破壊する」
広範囲でやったから誰も死んでないみたいだが、1人に絞ったら殺しそうだな。
そもそも「破壊」だからな。疲労と違って、休んでれば元に戻るのかもわからん。
「ち、から、が……」
うわ、びっくりした。例の狼男はまだ元気が残ってるみたいだ。
フラフラしながらも立ってる。
「タフだな」
狼男になってタフさがアップしたのか? だが、ヘロヘロで押せば倒れそうだ。
他の奴が持っていたハンマーを取り上げる。割と重いな。ゆっくり振りかぶった。もう魔法を使うまでもないや。
「ちょ、待て……」
「頭を潰しとけば、齧られないで済むからな」
脳天に振り下ろした。
なんとなく、俺の死因を思い出してしまった。
「心配してソンしたワケ」
開口一番、アリスにずいぶんなことを言われる。
が、ケロッとしてて、心配してたような顔には見えないぞ。
「こいつ、生きてル」
狼男は頭から血とかそれ以外の大事なものとかをはみ出させているか、生きてはいるようだ。……10分後は知らないが。
手加減したつもりはなかったが、やっぱり素人だから一撃必殺、とまではいかなかったようだ。
「こいつ、変身したんだけど」
「最近流行ってる“フルムーン”ってドラッグね。まれに獣化症を発症するとか」
そんな物騒なもんが流通してるのかよ。
「ま、8割がたは死ぬんだけどね」
なんだそのロシアンルーレット。
ルルイエとかいう古書堂は、治安のよくないところにあるみたいだ。
「アリスあんまり本読まないだろ?よくそんなマニアックな本屋のこと知ってたな」
「前に1度、本運びの護衛に雇われたことあるワケ。それっきりの縁だったケド」
物知りでもあるけど、顔が広いよな、この貧乳。
「殺すわよ」
「なんで考えてることバレたんだ?」
「オトメの勘」
根拠が微妙すぎないか。
「ココよ」
控えめな外観だが、小ぎれいな店だ。なんでこんな路地裏みたいな立地にあるんだ。
看板はあるのだが、真っ黒く塗りつぶされている。店名書いとけよ。
「よくこんなとこで店開いてるな?」
高価な本なんて置いてたら、強盗どもの格好のターゲットだろうに。
「この店知ってル! “どんなことがあっても獲物にするナ”って何度も兄者から言われてる店ダ!」
マジか。
「いらっしゃませ」
うわ、びっくりした! 突然声をかけられた。
店頭に黒い肌、黒い髪、黒い瞳、そして黒いシスター服の女性がいた。
なぜに修道服?
……いま、突然何もない空間から現れたような。
「こんちは、ナイアールさん。アタシのツレが、ココを見てみたいって」
美人のはずなのに、なぜだか怖い。
「まあ嬉しい。ようこそ、トーマ様」
……ん? いま、名前……?
「深く考えちゃダメよ」
アリスに耳打ちされる。
俺は、この黒い女性が店を営業できてるのは、
権力者の娘かなんかだと思ってたんだが。
「死ぬな」か。
いまさらながら、アリスの忠告が冷や水みたいに効いてきたぞ。
店内には、驚くほどの量の本が並べられていた。
が、護衛もいなければ、扉にカギすらかけていない。
「防犯面が心配になってくるんですが」
「大丈夫ですよ、皆さん良い方ばかりですから」
なぜだろう、とても裏がある言葉に聞こえるのは。
しかし、珍本奇本というが、表紙じゃわからないんだよな。
値段は金貨50枚から! やっぱお高い!
これは、やっぱ冷やかしだけになりそうだなあ、と思って表紙を流し読みしてると。
【日本人のあなたにおススメ! 異世界の歩き方】
「えっ……?」
「どうしタ?」
スカーに応対してやれないぐらい驚いた。
いやいやいや、ええ?
日本人? 日本人だと?
しかも、さらに驚いたことに、この表紙の字。
日本語で書かれてる。
ここいらは、もうフッドラムの縄張りじゃないみたいだ。
だからこんな風に標的にされる。
慣れたつもりでも、俺はやはりまだココでは浮ついた存在らしい。
この手の連中の煩わしさは、フッドラムやダグ老人の件でイヤというほど思い知らされた。
なにより、今後ココを通る度に絡まれるのはゴメンだ。
「妙に落ち着いてやがる」
「そういや、さっき変な動きしてたよな」
おっと、警戒してるな。
「ボス、どうしやすか?」
後方の男に呼び掛けた。
「なに、肉には違いねえ」
手で小さな容器を弄んでる。容器には針がついていて、注射器のようだ。
迷いなく、その針を自分の首筋に打ち込んだ。容器を握り潰し、中の液体を注入する。
すぐさま身体が獣毛に覆われ、牙が生える。おおい、なんだその変形、変体は?
まるで二足歩行する狼だ。狼男ってヤツか?
「男の硬い頭蓋骨を、バリバリ齧るのがいいんだよなぁ」
「肉」って、そういう意味かよっ!
――手加減する理由はないな。
前に思いついて、ちょっと躊躇した組み合わせがあったな。
ルーン魔法は、距離・対象数に応じて威力が増減する組み合わせがある。
接触が一番強く、効果範囲を広げたら弱くなる、というふうに。
今回のはエグいので、効果範囲を調整して、と。
「ソウェイル・ハガル」
囲んでいたならず者が一斉に崩れ落ちた。
「あ、ああ……げほっ」
「うううっ……」
生きてはいるが、立つこともできず地面に倒れている。
「生命力を破壊する」
広範囲でやったから誰も死んでないみたいだが、1人に絞ったら殺しそうだな。
そもそも「破壊」だからな。疲労と違って、休んでれば元に戻るのかもわからん。
「ち、から、が……」
うわ、びっくりした。例の狼男はまだ元気が残ってるみたいだ。
フラフラしながらも立ってる。
「タフだな」
狼男になってタフさがアップしたのか? だが、ヘロヘロで押せば倒れそうだ。
他の奴が持っていたハンマーを取り上げる。割と重いな。ゆっくり振りかぶった。もう魔法を使うまでもないや。
「ちょ、待て……」
「頭を潰しとけば、齧られないで済むからな」
脳天に振り下ろした。
なんとなく、俺の死因を思い出してしまった。
「心配してソンしたワケ」
開口一番、アリスにずいぶんなことを言われる。
が、ケロッとしてて、心配してたような顔には見えないぞ。
「こいつ、生きてル」
狼男は頭から血とかそれ以外の大事なものとかをはみ出させているか、生きてはいるようだ。……10分後は知らないが。
手加減したつもりはなかったが、やっぱり素人だから一撃必殺、とまではいかなかったようだ。
「こいつ、変身したんだけど」
「最近流行ってる“フルムーン”ってドラッグね。まれに獣化症を発症するとか」
そんな物騒なもんが流通してるのかよ。
「ま、8割がたは死ぬんだけどね」
なんだそのロシアンルーレット。
ルルイエとかいう古書堂は、治安のよくないところにあるみたいだ。
「アリスあんまり本読まないだろ?よくそんなマニアックな本屋のこと知ってたな」
「前に1度、本運びの護衛に雇われたことあるワケ。それっきりの縁だったケド」
物知りでもあるけど、顔が広いよな、この貧乳。
「殺すわよ」
「なんで考えてることバレたんだ?」
「オトメの勘」
根拠が微妙すぎないか。
「ココよ」
控えめな外観だが、小ぎれいな店だ。なんでこんな路地裏みたいな立地にあるんだ。
看板はあるのだが、真っ黒く塗りつぶされている。店名書いとけよ。
「よくこんなとこで店開いてるな?」
高価な本なんて置いてたら、強盗どもの格好のターゲットだろうに。
「この店知ってル! “どんなことがあっても獲物にするナ”って何度も兄者から言われてる店ダ!」
マジか。
「いらっしゃませ」
うわ、びっくりした! 突然声をかけられた。
店頭に黒い肌、黒い髪、黒い瞳、そして黒いシスター服の女性がいた。
なぜに修道服?
……いま、突然何もない空間から現れたような。
「こんちは、ナイアールさん。アタシのツレが、ココを見てみたいって」
美人のはずなのに、なぜだか怖い。
「まあ嬉しい。ようこそ、トーマ様」
……ん? いま、名前……?
「深く考えちゃダメよ」
アリスに耳打ちされる。
俺は、この黒い女性が店を営業できてるのは、
権力者の娘かなんかだと思ってたんだが。
「死ぬな」か。
いまさらながら、アリスの忠告が冷や水みたいに効いてきたぞ。
店内には、驚くほどの量の本が並べられていた。
が、護衛もいなければ、扉にカギすらかけていない。
「防犯面が心配になってくるんですが」
「大丈夫ですよ、皆さん良い方ばかりですから」
なぜだろう、とても裏がある言葉に聞こえるのは。
しかし、珍本奇本というが、表紙じゃわからないんだよな。
値段は金貨50枚から! やっぱお高い!
これは、やっぱ冷やかしだけになりそうだなあ、と思って表紙を流し読みしてると。
【日本人のあなたにおススメ! 異世界の歩き方】
「えっ……?」
「どうしタ?」
スカーに応対してやれないぐらい驚いた。
いやいやいや、ええ?
日本人? 日本人だと?
しかも、さらに驚いたことに、この表紙の字。
日本語で書かれてる。
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