20 / 26
第20話 トーマ、盗まれる
しおりを挟む
ルビッシュヒープの生活にもだいぶ慣れてきた。
「安心して利用できる店」もだいぶ憶えた。まあ、ほとんどアリスに教えてもらった店だけど。
フッドラムのこともあり、住人のトラブルに巻き込まれることも減った。
そうなってくると、行動範囲を広げてみたくなってくるもんだ。
俺はまだ比較的安全な区域しか行ってないが、そろそろ足をのばしてみたくなった。
「ルビッシュヒープに、他に本屋はあるのか?」
アリスに訊ねてみた。
ボストアさんの本屋には世話になっているが、いかんせん本が高価な世界。商品の数が少ない。
「うーん、あるっちゃあるんだけど」
珍しく、歯切れの悪いアリス。真っ当な本屋じゃないってことか?
「なんだ? 店主が殺人鬼とかじゃないだろうな?」
「それならまだ安心なんだケド」
殺人鬼で安心レベルって、おい。
「あ、店主はナイアールさんっていう、妙齢の美人よ? 性格も優しくて礼儀正しいし」
なんだ、ルビッシュヒープにあるまじきマトモな人じゃないか。
……マトモな人がココで店を構えてるのが既におかしいか。
「じゃあ、ヤバいのは店の方?」
「ぜんぶ」
どうしろってんだ。
話を訊いても混乱するばっかりだ。どうも茶化してるわけじゃなくて、説明するのが困難な店らしい。
「本の品ぞろえは?」
「アタシは詳しくないけど、聞いた話だと異国の本とか珍本を取り扱ってるらしいワケ」
素晴らしい、それはどんな非常識な店でも行ってみなければ!
「興味あるなら案内したげようか? 場所なら知ってるから」
やっぱり面倒見がいい性格だ。
……アリスに出会わなければきっと俺、異世界に来て早々に野垂れ死んでるな、きっと。
「オレも行くゾ!」
隣の席で肉をがっついてたスカーが名乗りを上げた。
最近、マジックギルドに行くことが多くて、ついてこれなかったもんな。
「その本屋の名前は?」
「ルルイエ、って名前だったわね」
変わった店名だ。
財布代わりの袋を確認する。この世界の財布は、布にヒモを通しただけの巾着袋だ。
中身は金貨が2枚。寂しい。
フィールフリードを往復してるから、けっこう出費が嵩んでいるんだよなあ。不定期収入には痛い。
これで本が買えるとは思えないが、まずは行ってみたい。
「その本屋を利用するにあたってのアドバイスは?」
「死なないでね」
それが本屋に行く人間へのアドバイスなのか?
知らない道に入った。
「あそこはスープがおいしいわね。ちょっと高いけど」
あまり知らない地区に入ると、アリスが色々と教えてくれた。
「あの白い建物は?」
「施病院。無料だって」
「無料の施療院か。それは嬉しいな」
ルビッシュヒープの治療院はどれも高いんだ。しかもヤブが多いってウワサだし。
「ちゃうちゃう。施病院。勘違いしてきた客に、疫病を植え付けるの」
とんでもない悪党じゃねーか。感心して損した。
「あっ、いいモノあるじゃない」
アリスは露店から大きなウニみたいな果物を取り、店員に銀貨を放った。
あの果物1つで1000円か、けっこうお高いな。
「それ、うまいのか?」
「そっ。ラプチャー・バルブっていうんだけどね」
果物の芯を引き抜いた。
「3,2,1……」
数えながら果物を高く放り投げる。
トゲが全方位に発射された。
うわっ!
スカーが背負ってた盾で防いでくれたので、事なきを得る。
アリス当人はちゃっかり露店の物陰に避難していた。
さいわい、被害者は出てないようだ。
「ちょいとお客さん! 往来で爆破すんのはやめとくれよ!」
さっきの店が大声で怒鳴った。そりゃそうだ。
「だいじょーぶよ。通行人がいないタイミングで投げたんだから」
真横に通行人がいたんだが?
ボムダンプリングといい、この街の食い物は爆発しないと気が済まないのか?
「危ないことするなよ。まあ、小さなトゲだし、刺さってもたいしたことないだろうけど」
「あ、トゲには麻痺毒の成分があるから注意してね」
呼びかけが手遅れ極まりないんだが。
「昔は子どもたちが戦争ごっこでよく使ってたんだけどね。目に刺さって失明したり、毒で動けなくなった子どもが攫われたりが続出したから、15歳以下は買えなくなっちゃった」
ホントにロクでもない街だな!
……ん? 15歳以下って、アリスも買ったらダメなんじゃないか!
トゲがなくなって、残った中心部の果実を、歩きながらナイフで器用に切り分ける。
「はい」
スカーと俺に3分の1ずつ投げ渡した。
「いただきます」
栗に近いかな。もっとねっとりしてるけど。
俺にとっては、あんな大騒ぎをしてまで食べたいものじゃない。
突然、背中をドンと押された。小学生ぐらいの子どもが、俺の押しざま、腰に結わえていた財布袋をかすめとった。
そのまま一目散に逃げ出す。
「待て、このガキ!」
大切な本を買う軍資金!
「ちょっ、トーマ! 下手なスリを追うのは……」
アリスの言葉が背中に投げつけられるが、距離が開いて最後まで聞こえなかった。
ガキは細い道をちょこまかと逃げる。
「へっ、ノロマ!」
ムカつく。
が、土地勘もないし、運動神経も良くないからこのままじゃ追い付けない。
お、直線に入った。他にアイデアもないし、仕方ない。
「エオリア・ラド!」
風で身体を加速、人間砲弾になって突撃する。
油断しきっていた子どもの背中に命中した。
「ギャッ!」
カエルの潰れたような声を上げて、ガキは昏倒する。
肋骨とかあばら骨が何本か折れたかもしれんけどまあいいや。大した問題じゃない。
「わあっ?」
声につられて見ると、物陰に数人の男たちがいた。
手に手にハンマーやらのこぎりやら。絶対に本来の用途で使う気がない目つきだ。
ははあ。あの子どもが財布を盗んで、獲物をここまで誘導する役割だったんだな。
追いすがってくる俺を、隠れて待ち伏せてた男がハンマー振り下ろして不意打ちKO、って展開を狙ってたんだな。
魔法で加速したせいでおじゃんになったわけだ。
「一文無しを待ち伏せしてどうするよ」
財布盗んで、それでお仕事終わりじゃないのかよ。
「へっへっ、若いヤツってのは、いくらでも金にできんだよ」
男が下卑た笑みを浮かべる。
遠慮する必要ないな。叩き潰そう。
「安心して利用できる店」もだいぶ憶えた。まあ、ほとんどアリスに教えてもらった店だけど。
フッドラムのこともあり、住人のトラブルに巻き込まれることも減った。
そうなってくると、行動範囲を広げてみたくなってくるもんだ。
俺はまだ比較的安全な区域しか行ってないが、そろそろ足をのばしてみたくなった。
「ルビッシュヒープに、他に本屋はあるのか?」
アリスに訊ねてみた。
ボストアさんの本屋には世話になっているが、いかんせん本が高価な世界。商品の数が少ない。
「うーん、あるっちゃあるんだけど」
珍しく、歯切れの悪いアリス。真っ当な本屋じゃないってことか?
「なんだ? 店主が殺人鬼とかじゃないだろうな?」
「それならまだ安心なんだケド」
殺人鬼で安心レベルって、おい。
「あ、店主はナイアールさんっていう、妙齢の美人よ? 性格も優しくて礼儀正しいし」
なんだ、ルビッシュヒープにあるまじきマトモな人じゃないか。
……マトモな人がココで店を構えてるのが既におかしいか。
「じゃあ、ヤバいのは店の方?」
「ぜんぶ」
どうしろってんだ。
話を訊いても混乱するばっかりだ。どうも茶化してるわけじゃなくて、説明するのが困難な店らしい。
「本の品ぞろえは?」
「アタシは詳しくないけど、聞いた話だと異国の本とか珍本を取り扱ってるらしいワケ」
素晴らしい、それはどんな非常識な店でも行ってみなければ!
「興味あるなら案内したげようか? 場所なら知ってるから」
やっぱり面倒見がいい性格だ。
……アリスに出会わなければきっと俺、異世界に来て早々に野垂れ死んでるな、きっと。
「オレも行くゾ!」
隣の席で肉をがっついてたスカーが名乗りを上げた。
最近、マジックギルドに行くことが多くて、ついてこれなかったもんな。
「その本屋の名前は?」
「ルルイエ、って名前だったわね」
変わった店名だ。
財布代わりの袋を確認する。この世界の財布は、布にヒモを通しただけの巾着袋だ。
中身は金貨が2枚。寂しい。
フィールフリードを往復してるから、けっこう出費が嵩んでいるんだよなあ。不定期収入には痛い。
これで本が買えるとは思えないが、まずは行ってみたい。
「その本屋を利用するにあたってのアドバイスは?」
「死なないでね」
それが本屋に行く人間へのアドバイスなのか?
知らない道に入った。
「あそこはスープがおいしいわね。ちょっと高いけど」
あまり知らない地区に入ると、アリスが色々と教えてくれた。
「あの白い建物は?」
「施病院。無料だって」
「無料の施療院か。それは嬉しいな」
ルビッシュヒープの治療院はどれも高いんだ。しかもヤブが多いってウワサだし。
「ちゃうちゃう。施病院。勘違いしてきた客に、疫病を植え付けるの」
とんでもない悪党じゃねーか。感心して損した。
「あっ、いいモノあるじゃない」
アリスは露店から大きなウニみたいな果物を取り、店員に銀貨を放った。
あの果物1つで1000円か、けっこうお高いな。
「それ、うまいのか?」
「そっ。ラプチャー・バルブっていうんだけどね」
果物の芯を引き抜いた。
「3,2,1……」
数えながら果物を高く放り投げる。
トゲが全方位に発射された。
うわっ!
スカーが背負ってた盾で防いでくれたので、事なきを得る。
アリス当人はちゃっかり露店の物陰に避難していた。
さいわい、被害者は出てないようだ。
「ちょいとお客さん! 往来で爆破すんのはやめとくれよ!」
さっきの店が大声で怒鳴った。そりゃそうだ。
「だいじょーぶよ。通行人がいないタイミングで投げたんだから」
真横に通行人がいたんだが?
ボムダンプリングといい、この街の食い物は爆発しないと気が済まないのか?
「危ないことするなよ。まあ、小さなトゲだし、刺さってもたいしたことないだろうけど」
「あ、トゲには麻痺毒の成分があるから注意してね」
呼びかけが手遅れ極まりないんだが。
「昔は子どもたちが戦争ごっこでよく使ってたんだけどね。目に刺さって失明したり、毒で動けなくなった子どもが攫われたりが続出したから、15歳以下は買えなくなっちゃった」
ホントにロクでもない街だな!
……ん? 15歳以下って、アリスも買ったらダメなんじゃないか!
トゲがなくなって、残った中心部の果実を、歩きながらナイフで器用に切り分ける。
「はい」
スカーと俺に3分の1ずつ投げ渡した。
「いただきます」
栗に近いかな。もっとねっとりしてるけど。
俺にとっては、あんな大騒ぎをしてまで食べたいものじゃない。
突然、背中をドンと押された。小学生ぐらいの子どもが、俺の押しざま、腰に結わえていた財布袋をかすめとった。
そのまま一目散に逃げ出す。
「待て、このガキ!」
大切な本を買う軍資金!
「ちょっ、トーマ! 下手なスリを追うのは……」
アリスの言葉が背中に投げつけられるが、距離が開いて最後まで聞こえなかった。
ガキは細い道をちょこまかと逃げる。
「へっ、ノロマ!」
ムカつく。
が、土地勘もないし、運動神経も良くないからこのままじゃ追い付けない。
お、直線に入った。他にアイデアもないし、仕方ない。
「エオリア・ラド!」
風で身体を加速、人間砲弾になって突撃する。
油断しきっていた子どもの背中に命中した。
「ギャッ!」
カエルの潰れたような声を上げて、ガキは昏倒する。
肋骨とかあばら骨が何本か折れたかもしれんけどまあいいや。大した問題じゃない。
「わあっ?」
声につられて見ると、物陰に数人の男たちがいた。
手に手にハンマーやらのこぎりやら。絶対に本来の用途で使う気がない目つきだ。
ははあ。あの子どもが財布を盗んで、獲物をここまで誘導する役割だったんだな。
追いすがってくる俺を、隠れて待ち伏せてた男がハンマー振り下ろして不意打ちKO、って展開を狙ってたんだな。
魔法で加速したせいでおじゃんになったわけだ。
「一文無しを待ち伏せしてどうするよ」
財布盗んで、それでお仕事終わりじゃないのかよ。
「へっへっ、若いヤツってのは、いくらでも金にできんだよ」
男が下卑た笑みを浮かべる。
遠慮する必要ないな。叩き潰そう。
0
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート
みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。
唯一の武器は、腰につけた工具袋——
…って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!?
戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。
土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!?
「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」
今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY!
建築×育児×チート×ギャル
“腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる!
腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる