読書バカ異世界へ行く

猫元わあむ

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第19話 トーマ、戦わせる

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「い、いいんですか? あの自信、きっと強力なマジックアイテムを持ってますよ?」
「そうだろうけど、こっちも吞ませたい難題があるからお互い様だ」
 それに、なんとなく負ける気はしないんだよな。
 ああいったエリートは、一度負け癖がつくと坂道を転げるように落ちてくのが相場だから。

「い、意外とフェアですね。交渉能力は絶望的にありませんでしたのに」

 辛辣!



 少し開けた場所に移動。
 誰にも見られないだろうけど、見られたとしてもアッセルハイマーの家柄・・がどうにかしてくれるだろう。

 アッセルハイマーは紙袋から大きな牙を取り出した。

「テーバイの始祖カドモスの名に於いて、我に竜の牙を……」

 牙を手に、ブツブツつぶやいてる。固有名詞を連呼されるとまるで分からん。

 3本の牙を地面に打ち込むと、地中から骸骨がい出てきた。つごう3体。

「うあっ、なんだ?」
 骨格標本みたいな物体は、剣と盾で武装している。スケルトン撒かれた者ってヤツか?

「ど、竜牙兵ドラゴントゥース・ウォーリアです」
 ミーティアが解説してくれる。
「俺にも分かるように、簡潔に説明頼む」
「骸骨の兵士を作る魔法です」
 一言で済ませた。ゴーレムの一種か。

「アイツの父親もガーゴイル動かしてたな。他人をコキ使うのが得意な家系か?」
「土属性が得意な家系と言え!」

 アッセルハイマーから注釈が入った。さっきも石壁とか出してたもんな。泥臭いのが好きな家系か。

 でもお前、雷の矢とか飛ばしてたよな?


「さ、さすがはアッセルハイマー先輩。大した資金力ですっ」
 褒めるのは力量じゃないんか。
「そのココロは?」
「あれの原材料はドラゴンの牙です」
「うん」
 さっき見たぞ。

「ドラゴンは強力な個体が多く、当然牙もおいそれとは手に入らない希少品です」
 ゲームとかでも強いモンスターだったりするな。

「それで?」
「1本金貨100枚です」
「へごっ?」
 金貨100枚。100万円。=本10冊分?  目の前に3体もいるから、本30冊分!

 な、なんっっってもったいないっ!

「どうにかして俺のものにできないかな。あのホネを地面に埋めなおしたら牙に戻る、とか」
「竜の牙は使い捨てです。万が一戻っても、トーマさんに所有権ないので、控えめに言って強盗です」

 なおさらもったいない。

「竜牙兵は肉弾戦のエキスパートだ! 悠長に魔法を唱えるヒマなど与えるものか!」
 得意になってるな。

「あ、あの、アッセルハイマー先輩、ラズロー導師か御同輩から聞いてないんでしょうか?」
「何をだ!」
「あっ、失礼しましたっ」
 なにかに思い至ったのか、深々と頭を下げる。

「プライドだけはガーゴイル像より高いラズロー導師が“あのこと”を話すはずはありませんし、先輩に仲の良い同輩なんていませんでしたっ」
 ミーティアも強くなったなあ。図太くなったとも言うが。

「いい加減にしろ! さっさと言え!」
「あの、マジックギルドの象徴たる、ガーゴイル像がありましたよね?」
「ああ、いつの間にかなくなってたな。実習にでも使ってるのか?」

「あれ、トーマさんが粉々にしたんですよ」


 そうか、あの時、コイツは三途の川であの世と現世を反復横跳びしてたから、ガーゴイルの騒動は知らなかったのか。

「えっ? どうやってだ?」
「こうやって」
 とびかかってきたガイコツ兵に一言。

フェオ所有物ハガル破壊する

 一瞬で1体木っ端みじんだ。
 ぶっちゃけ、単体ならガーゴイルだのマジックアイテムだのは、この組み合わせで圧勝だ。

「ふ、ふん! あと2体も残ってるぞ、どうさばくつもりだ?」
 
 おっと、鋭い指摘。
 一度使ったルーンは24時間使用不能になってしまうから、同じ組み合わせを連続使用はできないからな。

 でもまあ、これぐらいの状況はどってこないけどな。

ソウェイル生命力イーラ創造する

 砕けた石壁の破片が集まり、人を形作ってゆく。廃物利用だ。

「石のゴーレムだ」
 多少、ずんぐりむっくりなワガママボディになったが致し方なし。

「行けっ!」
 フレキシブルな命令とともに、ゴーレムはのっそりと竜牙兵に向き直る。

 まあこの勝負、戦う前から結果は見えてる。岩の身体に剣は効かない。知恵のある生き物なら打開策を探すはずだが、魔法生物にそこまでの機転はないらしい。
 竜牙兵が素早い動きで切りつけるが、刃こぼれするだけだった。


 ジャンケンでグー相手にチョキを出し続けてるようなもんだ。

 で、接近戦インファイトしてれば、鈍重でもリーチの長いゴーレムが有利だ。
 おっ、ゴーレムの拳がクリーンヒット。粉々だ。
 もう1体は、腕に押されて体勢を崩したところを、ゴッツい手の平でハエ叩きみたいに叩き潰された。

「お疲れ。おっと、あっちの、目立たないところで戻ってくれ」

 命令すると、ゴーレムはのそのそと歩いていき、広場の隅で岩山に戻った。

「負けるとは思ってませんでしたけど……じ、自由自在ですね」
 ルーン魔法様様だな。

 さあて、あとは“詰め”だ。
「約束は守ってもらうぞ。読み損ねた本30冊分の恨み……」
「いっそ清々しいほどの逆恨みです」
 勝てば官軍ですよ、ええ。

「なんか、テメーの倫理観狂ってねえかッ?」
 ギルドを私物化してたお前には言われたくない。

……ひょっとして、同類ってことはないよな? いくらなんでも……うん、違う。違うはず。

「それで、先輩にお願いがあるんですけど」




「6冊の貸し出しね」
 受付のオバサンが手続きをしてくれる。1人3冊が限度、というのは不満だが、本が貴重品な世界だ、まあ仕方ない。


 アッセルハイマー先輩の家系はフィールフリードに代々続く名門。保証人になってもらうには絶好の家柄だ。
 受付のオバサンも、二つ返事で了解してくれた。
 
「ちゃんと期日は守って返すから」
「ほ、本当だろうなッ?」
 隣でアッセルハイマーが何度も確認してくる。
肝っ玉の小さいヤツだ。

「わ、私も借りて良かったんでしょうか?」
 ミーティアが遠慮がちに口を挟む。ついでに、ミーティアの保証人にもなってもらったんだが、いまさら1人も2人も変わらないだろ。

 控えめに言ってるが、彼女もちゃっかり限度いっぱい3冊借りてるんだから抜け目がない。

「だいじょうぶ。いままでの迷惑料だと思えば安い安い」

「ぐっ、お前が言うことじゃないだろ!」
 本心だから仕方ない。

 まあ俺もミーティアも、アッセルハイマーに文句が行くようなことをするつもりはない。せっかく捕まえた保証人獲物だからな。


「今後もお願いしますよ、センパイ。週3のペースで借りに来るつもりなんで」
 肩をポンと叩いた。



「高価な触媒を使い潰したこと、父さんにどうやって説明しよう」と消沈中の先輩と別れる。

「と、トーマさんって、本のためには手段を選びませんよね」
「いやー、そんな手放しで褒められると照れるなあ」
「髪の毛一本分たりとも褒めていません」

 なぜだろう、ミーティアは結婚して母親になったら、ものすごい肝っ玉母さんになる未来が見える。
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