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第18話 トーマ、獲物を見つける
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【第18話 トーマ、獲物を見つける】
幸い、ミーティアはすぐに見つけることができた。
「北区図書館、ですか。私も利用したいと思っていましたけれど」
残念そうな顔で答える。
「え? ミーティアの家、北区だろ? 利用できないのか?」
ミーティアの性格から逆読みするに、父親もまっとうな商人してると思うんだが。
「父の代でフィールフリードに住むようになったので、資格がないんです」
聞けば、資産があって、なおかつ最低でも3代はフィールフリードに住んでいる者にしか認めてないという。
お高くとまった都市国家だ。
しかし、速攻で暗礁に乗り上げたぞ。実は、あわよくばミーティアに名前を借りて本を借りられないかなあ、とか企んでたのに。
「お力になれずすみません」
「い、いや、謝らないでくれ」
悪くもないことで、深く頭を下げられても困る。
……んー、しかし、ものは考えようだ。
どうにかすれば、俺とミーティア2人の図書館問題が一挙に解決するということでもある。
行ってみると、図書館は日本のものよりも小さめだった。そりゃそうか。流通してる本の量も、値段も違うんだから。
それでも1000冊ぐらいはありそうかな。
不愛想な受付のおばさんに訊ねてみたが、やはり俺やミーティアの立場では貸出できない、ということを確認しただけだった。
しかし、このまますごすご引き返すのはあまりにも惜しい。
さて、本人に信用がない場合、どうすればいいか。
昔通い詰めてた図書館だって、保護者がいたから小学生でも借りれたわけで……
――うん? ちょっと引っかかったぞ。
確認してみるか。
「あの、もし保証人とか用意したら、貸し出してくれますか? 要は、俺たちが本を紛失とかしたら、責任を取る人、ってことなんですけど」
俺に信用がなくとも、ソイツに信用があればいけるんじゃないか?
「はあ、ちょっと待っててください」
司書役?のおばさんはしばし調べていたが、やがて戻ってきた。
「大丈夫ということでした。保証する人間が借りるのと同じことですので」
やたっ。
「ただし、当然その保証人とやらは、当図書館を利用する資格のある方に限ります。3代はフィールフリードに住んでいる方ですね」
結局、問題が一巡しただけな気もする。
「こ、心当たりはあるんでしょうか?」
「あったらこんなしかめっ面で腕組んでないよ。ミーティアの方にこそ期待したいんだけど」
「ううん。仕事でお付き合いのあるお客様の中には、引き受けてくださる方もいるかもしれませんが……やっぱり、お父様が許してくれませんね」
肩を落とす。
「どうして?」
「ええっと、ですね。“商売相手に、商売外で借りを作るな”がストロングホールド商会の姿勢なので」
正しい考えの気もする。しかし、どっかで聞いた名前だ。
「じゃあやっぱり、保証人は自力調達しないとダメか」
「し、食材みたいに言いますね?」
しかし条件が厳しい。全部当てはまるようなヤツが都合よくいるわけがないよなあ。
そこへ、大事そうに紙袋を抱えて歩いてくる偉そうな姿を発見。
たしか、代々続く魔法使いの家柄っつってたな……?
「やあ親愛なる先輩。いいところで会いましたね」
とても爽やかな笑顔で挨拶する。お願いを聞いてもらうためには、警戒されないようにしなくては。
だのに、アッセルハイマーは顔を引き攣らせて後退した。
バカな、俺の完璧な擬態が。
「と、トーマさん、獲物を見つけた肉食獣みたいな顔してますよ」
失敬な。
まずは会話をして警戒心をときほぐそう。
昔に読んだ「人心掌握の本」第1項に、「最初に相手の健康を心配して、同情するのが良い」ってのがあったな。
「先輩、消し炭になった身体は大丈夫ですか?」
「だ、誰のせいだ!」
ファーストコンタクト失敗。
トラウマを刺激しただけだったか。
えーと、人心掌握の本第二項は……「相手を褒め、自分の窮状を訴える」か。
「まあまあ。先輩しか頼れる人がいないんですよ。資産があって、代々フィールフリードに住んでて、利用しても心が痛まないヤツってなかなかいなくて」
「トーマさん、最後の一言で台無しです」
誠心誠意話したんだけどなあ。
ミーティアの指摘通り、いつの間にかアッセルハイマーの警戒度がMAXになってる。
包丁持った強盗相手でも、もうちょっと心を許してるだろ、ってレベルだ。
「寄るな化け物!」
抱えていた袋から拳大の黒い石を取り出し、地面に押し込んだ。すると、頑丈そうな石壁が現れて立ちはだかった。
「まあ。あれは“ノームの揺り籠”です」
「知っているのかミーティア!」
お約束っぽい会話だ。
「い、石壁を出すマジックアイテムです。貴重品です」
「なんでそんなものを持ち歩いてるんだよ?」
「おそらく、ラズロー導師がお店に注文していたのを、受け取りに来たのではないでしょうか」
そこへたまたま俺が通りかかった、と。
「ああいうのは、街中で使っていいのか?」
ルビッシュヒープでは、魔法使ったらアビュース副長がいい顔をしなかったんだが。
「せ、先輩の家系はいろんな方面に顔が利くので」
「ズルいな」
異世界にも上級国民っているのかよ。
「せ、先輩から家柄を取ったら何も残らないので、そのぐらいは許容してあげないと」
「聞こえてるぞお前!」
おっとりした口調でド辛辣だな!
「壁と遊んでろよ、下民!」
大回りする必要はないな。
「ギューフ・イング」
肉体強化して、石壁を思いっきり殴る。壁は、見事に砕け、岩がごろごろと転がる。後始末が大変そうだあ。
「どこに行こうというのだね?」
壁のすぐそばで硬直しているアッセルハイマー先輩。
以前はソーン・イーラで風穴を空けたが、今回は趣向を変えてワイルドにいってみた。
先輩、一瞬逃げようかと迷ってたみたいだが、抱えていた袋を覗き込んでニヤリと笑う。
「り、リベンジマッチだ! もう1度僕と勝負しろ!」
さっきまでの逃げ腰はどこへやら、イキナリ強気だな。
「いいよ」
「もし負けたら、二度と僕と父さんに近寄るな!」
「いいよ」
「ま、マジックギルドからも出ていけ!」
「いいよ」
「交渉しがいのない奴だな!」
自分から持ちかけといて、勝手なヤツだ。
幸い、ミーティアはすぐに見つけることができた。
「北区図書館、ですか。私も利用したいと思っていましたけれど」
残念そうな顔で答える。
「え? ミーティアの家、北区だろ? 利用できないのか?」
ミーティアの性格から逆読みするに、父親もまっとうな商人してると思うんだが。
「父の代でフィールフリードに住むようになったので、資格がないんです」
聞けば、資産があって、なおかつ最低でも3代はフィールフリードに住んでいる者にしか認めてないという。
お高くとまった都市国家だ。
しかし、速攻で暗礁に乗り上げたぞ。実は、あわよくばミーティアに名前を借りて本を借りられないかなあ、とか企んでたのに。
「お力になれずすみません」
「い、いや、謝らないでくれ」
悪くもないことで、深く頭を下げられても困る。
……んー、しかし、ものは考えようだ。
どうにかすれば、俺とミーティア2人の図書館問題が一挙に解決するということでもある。
行ってみると、図書館は日本のものよりも小さめだった。そりゃそうか。流通してる本の量も、値段も違うんだから。
それでも1000冊ぐらいはありそうかな。
不愛想な受付のおばさんに訊ねてみたが、やはり俺やミーティアの立場では貸出できない、ということを確認しただけだった。
しかし、このまますごすご引き返すのはあまりにも惜しい。
さて、本人に信用がない場合、どうすればいいか。
昔通い詰めてた図書館だって、保護者がいたから小学生でも借りれたわけで……
――うん? ちょっと引っかかったぞ。
確認してみるか。
「あの、もし保証人とか用意したら、貸し出してくれますか? 要は、俺たちが本を紛失とかしたら、責任を取る人、ってことなんですけど」
俺に信用がなくとも、ソイツに信用があればいけるんじゃないか?
「はあ、ちょっと待っててください」
司書役?のおばさんはしばし調べていたが、やがて戻ってきた。
「大丈夫ということでした。保証する人間が借りるのと同じことですので」
やたっ。
「ただし、当然その保証人とやらは、当図書館を利用する資格のある方に限ります。3代はフィールフリードに住んでいる方ですね」
結局、問題が一巡しただけな気もする。
「こ、心当たりはあるんでしょうか?」
「あったらこんなしかめっ面で腕組んでないよ。ミーティアの方にこそ期待したいんだけど」
「ううん。仕事でお付き合いのあるお客様の中には、引き受けてくださる方もいるかもしれませんが……やっぱり、お父様が許してくれませんね」
肩を落とす。
「どうして?」
「ええっと、ですね。“商売相手に、商売外で借りを作るな”がストロングホールド商会の姿勢なので」
正しい考えの気もする。しかし、どっかで聞いた名前だ。
「じゃあやっぱり、保証人は自力調達しないとダメか」
「し、食材みたいに言いますね?」
しかし条件が厳しい。全部当てはまるようなヤツが都合よくいるわけがないよなあ。
そこへ、大事そうに紙袋を抱えて歩いてくる偉そうな姿を発見。
たしか、代々続く魔法使いの家柄っつってたな……?
「やあ親愛なる先輩。いいところで会いましたね」
とても爽やかな笑顔で挨拶する。お願いを聞いてもらうためには、警戒されないようにしなくては。
だのに、アッセルハイマーは顔を引き攣らせて後退した。
バカな、俺の完璧な擬態が。
「と、トーマさん、獲物を見つけた肉食獣みたいな顔してますよ」
失敬な。
まずは会話をして警戒心をときほぐそう。
昔に読んだ「人心掌握の本」第1項に、「最初に相手の健康を心配して、同情するのが良い」ってのがあったな。
「先輩、消し炭になった身体は大丈夫ですか?」
「だ、誰のせいだ!」
ファーストコンタクト失敗。
トラウマを刺激しただけだったか。
えーと、人心掌握の本第二項は……「相手を褒め、自分の窮状を訴える」か。
「まあまあ。先輩しか頼れる人がいないんですよ。資産があって、代々フィールフリードに住んでて、利用しても心が痛まないヤツってなかなかいなくて」
「トーマさん、最後の一言で台無しです」
誠心誠意話したんだけどなあ。
ミーティアの指摘通り、いつの間にかアッセルハイマーの警戒度がMAXになってる。
包丁持った強盗相手でも、もうちょっと心を許してるだろ、ってレベルだ。
「寄るな化け物!」
抱えていた袋から拳大の黒い石を取り出し、地面に押し込んだ。すると、頑丈そうな石壁が現れて立ちはだかった。
「まあ。あれは“ノームの揺り籠”です」
「知っているのかミーティア!」
お約束っぽい会話だ。
「い、石壁を出すマジックアイテムです。貴重品です」
「なんでそんなものを持ち歩いてるんだよ?」
「おそらく、ラズロー導師がお店に注文していたのを、受け取りに来たのではないでしょうか」
そこへたまたま俺が通りかかった、と。
「ああいうのは、街中で使っていいのか?」
ルビッシュヒープでは、魔法使ったらアビュース副長がいい顔をしなかったんだが。
「せ、先輩の家系はいろんな方面に顔が利くので」
「ズルいな」
異世界にも上級国民っているのかよ。
「せ、先輩から家柄を取ったら何も残らないので、そのぐらいは許容してあげないと」
「聞こえてるぞお前!」
おっとりした口調でド辛辣だな!
「壁と遊んでろよ、下民!」
大回りする必要はないな。
「ギューフ・イング」
肉体強化して、石壁を思いっきり殴る。壁は、見事に砕け、岩がごろごろと転がる。後始末が大変そうだあ。
「どこに行こうというのだね?」
壁のすぐそばで硬直しているアッセルハイマー先輩。
以前はソーン・イーラで風穴を空けたが、今回は趣向を変えてワイルドにいってみた。
先輩、一瞬逃げようかと迷ってたみたいだが、抱えていた袋を覗き込んでニヤリと笑う。
「り、リベンジマッチだ! もう1度僕と勝負しろ!」
さっきまでの逃げ腰はどこへやら、イキナリ強気だな。
「いいよ」
「もし負けたら、二度と僕と父さんに近寄るな!」
「いいよ」
「ま、マジックギルドからも出ていけ!」
「いいよ」
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