ハプロック神話

アンジェロ岩井

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第5章 クローズイング・ユア

合衆国軍会議

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「えっ~今回一級将校であらせられますあなた方を召喚致しましたのは、この二ヶ月後に取り掛かるであろう我が軍の最大の作戦『バプテスマ作戦』の敬意をお知らせするためでありまして…」
とそこまで発案者の大尉が喋ったところで、集められた七人の合衆国軍一級将校の一人であるジョセフ・ルーカスが意見を遮る。
「待った…君はそんな事で我々を呼び出したのかね!第一そんな作戦成功するかどうかは分からないじゃないか!」
そう息を荒げる高級将校を大尉はまぁまぁと宥める。
「落ち着いてください閣下…今から作戦についての説明を致しますので…そんなにお時間を取らせはしませんよ」
大尉は目を計画書であろう紙から離し、ジョセフに向かって優しい微笑を浮かべた。
「まぁいい…続け給え」
そう二人の会話に収拾をつけたのは第一級将校の一人であり准将の地位についているヨゼフ・バレンタインであった。
「光栄であります閣下…ではまずはこの作戦の経緯について喋らせていただきます」
大尉はあまり顔色のよくない顔を精一杯明るくして喋り始めた。
「今回の計画は我がアメリカ合衆国開国以来の大作戦であると小官は自負しております、それから今回の作戦は我が合衆国の開拓を妨げる『大地の軍』の壊滅にも繫るものであると小官は信じております」
集められた将校たちはこの原稿を棒読みするような声にうんざりしていたが、なるべく声には出さないように、心の中だけで留めておくことにした。
「おっと…小官の意見を発しすぎましたな…失礼…では作戦内容についてご説明させていただきます」
大尉は将校たちに向けていた目を計画書に戻す。
「まず今作戦は殲滅作戦にあります…資源獲得のために集まった叛乱軍供を一網打尽にし我が合衆国の威厳を保つ…それが今作戦の最大の目的であります」
「いいですか?」
「何でしょうか?ローレンス中将」
顔色の悪い大尉に質問を浴びせたのは、アメリカ合衆国中将であるゲーリー・ローレンスであった。ローレンスはスラッとした高身長で顔も良く街を歩くと何人かの女性には呼び止められるのは確実な程の美男子であった。
「どのようにして敵軍を殲滅せし得るのかをお聞かせ願いたいものだが…」
「それは、大軍を持って殲滅する作戦になろうかと予測しております」
大尉はその質問が浴びせられるのかが分かっていたかのように、気持ち悪く口を歪ませて質問に質問を重ねた。
「大軍?つまり大軍勢で敵を殲滅せんと考えているのかい?」
ローレンスは腕と足を組みながら面倒くさそうに大尉に質問を浴びせた。
「小官はこの計画に綻びはないのだと信じております」
大尉は自身満々に言った。
「成る程…つまり君は大軍を率いての殲滅作戦を取るわけだ」
大尉はコクリと頷いた。
「だが少し問題があるのではないだろうか…相手はあのワンブリウェスだ…我々を2年にも渡って苦しめてきた狡猾な男でありジェロニモやテムカセ以上の策略家だ…彼がそんな単純な計画に乗るはずはあるまい、もう少し計画を慎重に立案するべきではないだろうか」
ローレンスが難色を浮かべると大尉はムッとした顔でローレンスを批判した。
「ご冗談をインディアンがそんなものを知っているとも思えませんな!それにその点はご心配には及びません…予め偽の作戦計画書を持った高級将校の一人を送り込んでおきます。そのお方にはお気の毒ですが…死んで頂くか捕虜になっていただき、そこで偽の作戦計画書を奴らに見せていただきます!」
ローレンスは大尉の言うことに閉口した。それと同時に最後の部分だけは見事だと感じた。敵に偽の情報を掴ます…中々いい作戦である。ローレンス自身もこの点に限っては大尉を認めざるを得なかった。
「とにかく…これ以上ローレンス中将がこの作戦に難癖をつけて小官を困らせるようなことがあれば、小官はこれを利敵行為とみなして閣下を告発させていただきますが…」
「待ち給え!大尉!」
大尉のこの発言に異議を唱えたのは老練の熟将とも言うべき男ーミルトン・ソロー少将であった。ミルトンはテーブルをドンと鳴らして抗議の声を上げた。
「貴官の意見に異議を唱えたからといって利敵行為とは何だ!それがこれまでアメリカに報いてきた中将閣下に対して言う言葉か!」
「私はローレンス中将閣下に忠告をしただけです。それをそのような事にとられては迷惑です!そもそも今回の作戦は恐れ多くも神を敬わず国を愛しもせずまた家族を愛しもしない反キリスト教供を殲滅するという大義に基づいているのです!これに反対するべき者が模範的なキリスト教徒と言えましょうか!」
大尉は悪びれもせずに自身の自己に酔った演説を続ける。
「例え敵が妖怪を手懐けていようが、人知を超えた力を所持していようが、あるいはマルクス主義者供の助けを得ようが、それを理由として怯むわけには参りません!我々には推敲なるイエス・キリストの子供達を助けるという義務があるのです…この戦いは…」
ローレンスは大尉の演説が続く中、心の中で悪態をついた。誰も頼んでいないのに勝手にやってそれまでの神を捨てさせ、従わない場合は軍事力に物を言わせて無理やり布教させたんじゃないか。ローレンスはそう心の中で呟いてはそれを消すのを繰り返した。その日ローレンスは日記に今日の日の事を記している。
『今回の件は、私には判断しかねるものである…成功するかしないかは神のみぞ知るということだろうか…それはともかく私は今後のアメリカがあの大尉のような口だけの無能参謀に牛耳られないかが不安である、それよりも危惧するべきは大地の軍の指導者であるワンブリウェスであろう、彼の提唱する『大地の国』思想は夢ばかり見ている…このような非現実的な考えが今後ますます近代化が進む現代社会において、どこまで通用するのかが疑問である』
ローレンスのこの言葉は当たり、ワンブリウェスの提唱した『大地の国』思想は現代においてもさまざまな人間に多大な影響を与え、様々な論争を巻き起こしている。
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