ハプロック神話

アンジェロ岩井

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第5章 クローズイング・ユア

大地の軍会議

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アメリカ軍でも重要な『パプテマス作戦』について話し合われた、丁度同じ日にも、ワンブリウェスが率いる大地の軍内においても、今後についての作戦会議が話し合われた。召集されたのは大地の軍最高司令官ワンブリウェス、大地の軍副司令官兼合衆国攻撃軍司令官アメダイー、大地の軍占領地駐屯部隊最高責任者マーキス・ラマー、大地の軍突撃騎兵隊司令官ジョニー・ビスキットの四名が召集された。そして書記として黒人の少年ことフレッド・アンバサダーも呼ばれた。
「え~みんなも忙しいのにね、集まってくれてありがとうね、でっ…今回はアメリカに対してどのように対処するべきなのかを話していきたいわけよ」
ワンブリウェスは相変わらずの軽い口調で集まった将校の緊張を解いた。そのせいなのかまずは大地の軍随一のタカ派と言っても過言ではないジョニー・ビスキットが最初の意見を述べた。ジョニーは筋骨隆々な黒人の男であり、会議の時はいつもこの体型で声をデカくして喋るため、他の司令官よりも意見が取り上げられることが多かった。
「私はアメリカを断固として撃つべきだと考えております!まず私のプランと致しましては我々は敵の根拠地であるホワイトハウスにまで軍を進めていくつもりであります!」
「それだけの軍勢をどうやって集める?」
マーキスがジョニーの意見に反論する。マーキスはジョニーとは正反対のスマートでスラリとした体の卵型の顔に大きい目と高い鼻と小さな口を揃えた美男子であった。
「それについても考えがあります!行く先々でワンブリウェス閣下が演説を行えばきっと民は平伏し我々の味方に着くでしょう!こうやって兵を集めていけばおのずと合衆国は…」
「待って、それまでの間中アメリカは何も手を出さないわけなの?演説を行っている間にアメリカがワンブリウェスを撃ってくる心配もあるわ」
アメダイーが異議を唱える。アメダイーは大地の軍の中で唯一の女性士官であり、同時にワンブリウェスと同様にハプロック族の人間であった。一部の心の無い兵士たちの噂では、彼女はワンブリウェスと同様のハプロック族の人間だから、あるいは端正な顔立ちの女性だから、採用されたのでは無いか、そんな噂が流れていたが、採用されたキッカケは彼女自身もかなりの指揮能力を有した指揮官という理由であり、その根拠はそれまでの彼女の大地の軍加入前の合衆国との戦いと、大地の軍加入後の戦績がそれを示していた。一方で彼女は噂どうりの美人であり、まるでブラックオパールのように黒く長い髪は大地の国中の女性の憧れの髪であり、それから、その、ゆるやかな美しい目を始めとした端正な顔立ちを構成するパーツが彼女の美しさを証明していた。
「それはだな…我々でワンブリウェスの周辺を固めて防御して…」
「じゃあ占領した土地はどうするの?」
アメダイーは続けてジョニーに反論を浴びせた。
「ぐっ…」
ジョニーは言葉に詰まった。
「とにかくよぉ~他はなんか意見ないの?例えばさぁ~~敵の首領を人質に分捕るとかさぁ~」
ワンブリウェスがそう言った直後にマーキスが意見を述べた。
「私にいい考えがあります!」
「何だよ?」
ワンブリウェスは顔をキラキラと光らせて尋ねた。
「和睦です。今現在我々はアメリカと戦争状態が膠着して2年が経ちますが…依然として決着がつきません、もうここら辺で和睦を結んでみてはいかがでしょうか?」
それを聞いて顔を真っ赤に染めたのはジョニーだった。彼はテーブルを激しく叩くと椅子から立ち上がってマーキスに掴みかかろうとした。
「貴様!今何と言った!」
「和睦と言ったのだ…貴様のような突撃バカには難しい言葉だったか?それとも自分の持っている基地の一つが襲われたから焦っているのか?」
そう煽りを入れられたジョニーはゴツい頰をピクピクと動かしている。
「やめてよ!仲間割れなんてしてる場合じゃあないでしょう!!今は今後の事を話しているんでしょう!!」
そのアメダイーの一言で二人とも正気になったのか、ジョニーは摑みかかろうとするのをやめて、マーキスはそれ以上ジョニーを煽ることはなかった。
「ともかくよぉ~オレは今後とも和睦も総攻撃も無しの今までの状態をキープしていくことにするぜ、和睦しようにもこっちに有利な条件なんかないし、総攻撃をしようにも、充分な戦力が揃ってないからな、当分は現状維持あるいは敵が何か動いたら、こちらも動く…それでいいんじゃあないか?」
ワンブリウェスのその半ば投げやり的な結論を聞くと全員は自然と解散の流れになった。
フレッドはこの日の事をこう記していた。
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