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東京追跡編
野良犬の反撃
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吉森作造はかつて、昭和一桁の時代に東京で名を轟かせたヤクザであった。
だが、彼は大戦中に徴兵されやむ無しに自身の縄張りである東京を離れさせられた。
彼は大戦中は多くの戦功を挙げたものの、敗戦を知り、衝撃を受けた。
そして、南方の方から帰還するや否や焼け野原となった東京の街を目撃したのであった。
焼け野原の東京を見るなら、膝をついた作造ではあったが、めげずに彼は闇市で復員の時に軍隊から貰った食料を捌き、それで大枚を得る事に成功した。
だが、彼はその闇市を仕切っていたヤクザの組織に目を付けられ、集団リンチを受けた上に金や武器を奪い取られた。
以後は当てもなく東京を彷徨いていると、気が付かない内に東京の裏街の荒廃した噴水を訪れていた事に気が付く。
作造は懐からしわくちゃになったタバコを吸いながらそれまでに聞いた話の事を思い出す。
ここでは当てもなく彷徨いていれば、拳銃を売ろうとする売人の袖引きが浮浪者を誘うのだと。
作造はなけなしの金で拳銃を買って銀行でも襲おうかと考えたのだが、彼は自分の懐を探り、米の配給券すら失っている事に気が付く。
これでは拳銃など買えまい。後はこの地でゆっくりと朽ち果てていくだけだろう。
深い溜息を吐いて日がしげる日中の噴水の上で寝転ぼうとしたのだが、自身の顔を覗き込んでいる顔を見て思わず悲鳴を上げて立ち上がっていく。
作造が慌てて起き上がると、かつて自身を見つめていた顔は両眼を丸くしていたが、直ぐに可愛らしい笑顔を浮かべて、
「ねぇ、おじさん。仕事を探してるんでしょ?」
と、言った。可愛らしい声だ。作造は声を聞くなり、改めて少女の姿を確認していく。
少女は可愛らしい顔であり、同時に彼には幼いという印象を与えた。だが、顔立ちは美人そのものだ。
控えめだが形の良い胸に、少女とは思えない程に突き出た臀部にそれを覆う黒いゴシック調のドレス姿に彼の本能が刺激されてしまい、作造は耐え切れずに両眼を逸らす。それを見た少女は可笑しそうな様子で笑う。
それから、男の右肩を引き寄せてわざと自分の体に密着させていく。
「ねぇ、おじさん。仕事を探していない?」
「し、仕事だと?」
その言葉を聞いて作造の声が裏返る。確かに、自分は職にあぶれてはいるが、この少女にそんな事が理解できる筈もない。
作造は彼女の主張を一蹴しようとしたのだが、彼女はケタケタと笑って更に自身の体を引っ付けていく。
「ねぇ、おじさん……あたしに釘付けなんでしょ?隠さなくても良いよ。見てて分かるもん」
その言葉を聞いて作造の顔が赤くなる事に気が付く。羞恥の色ではない。怒りの色だ。
彼は噴水の場から立ち上がると彼女の胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「貴様ッ!大人をからかって楽しいか!?第一、子供の癖してそんな舐めた口調をーー」
「子供?それはおじさんの事でしょ?」
少女は作造の言葉を遮り、彼の腕を払い落としたばかりか、反対に彼女を底知れない夜の闇の様に真っ黒な瞳で睨む。
作造はそれを見て両足をすくませてしまう。思わず、足が後退して先程までの怒った表情を引っ込めた事により、彼女はすっかり満足した様で元の可愛らしい顔で笑う。
「そうだよ。やればできるじゃん。おじさんはあたしを怖がれば良いんだよ」
そう言うと、少女は空中から大きくて彼女の瞳や服と同じくくらいに黒く染められた槍斧を作造の首元に突き付けて、
「おじさんに今からチャンスを挙げるね。もし、あたしが今から力を与えて生き延びられたら、おじさんは無敵の力を得るんだよ。その後は自由……復讐に使用するも良し、その力を強盗に使用するも良しだけど、失敗したら、おじさんの命は無いよ」
彼女は手に持っていた巨大な槍斧を引っ込めると、作造の元まで歩いていき、彼の首に自身の右手の二本の指を指す。
彼女は好物でも舐めるかの様に舌を舐め回して楽しそうな声で言った。
「さぁてとぉ~おじさんはあたしの送る力に耐えられるかなぁ~」
少女が楽しげに笑うのとは対照的に、作造は悲痛な、けれども言葉の出ない痛みを顔全体で作り上げていた。
と、言うのも自身の体の中に得体の知れない実態のない怪物が入り込む様な感覚に陥っていったからだ。
作造はそれに耐え切れずに、意識を失ってその場に倒れた。
目を覚ましたのはいつだったのだろう。少なくとも、一~二時間では済まないだろう。
辺りにはもうすっかり、日が落ちていたのだから。
作造が目を覚ますのと同時に先程の少女が起き上がったのを確認して両手を叩く。
「すっごぉ~い。あたしは信じてたよ。おじさんがこの場を生き抜いてくれるって」
無邪気に笑う少女に作造は必死の形相で問い詰めていく。
「お前はオレに何をしたんだ!?オレの体に何を入れた!?」
「うん?何をしたかって?あたしは単に妖鬼の元を入れただけだよ。これで、おじさんは不老不死。弾丸で撃たれても死なないし、刃物だって怖くないよ。けれど、対魔師の刀にだけは気を付けてね。あれだけだから、あたし達の唯一の弱点は」
それだけ言ってかつての西洋社会の貴族のような派手な飾りを付けた黒いドレスの少女はその場を立ち去ろうとしたが、男は尚も呼び止めた。
「待ってくれ!せめて、名を……名を教えてくれ!」
「……玉藻姑獲鳥。それがあたしの名前だよ。おじさん」
少女は手を振って今度こそ立ち去り、以後、数年間は作造の前に姿を表せなかった。
作造はその間、銀行を襲い自身を襲ったヤクザの事務所を襲撃して組を壊滅させたりと与えられた力を使って暴虐の限りを尽くしていた。
そして、ヤクザの組織のトップに就任し、いよいよ、関東一円を牛耳るヤクザ組織と抗争に乗り出そうとした時だ。
彼の前にかつての少女が槍斧を持って現れたのだ。
そう、漆黒のドレスを止めようとした組員の血で染めて。
それだけではない、彼女は手に付着した血を林檎の様に真っ赤な舌で舐めて、顔にあの時と同じ可愛らしい笑顔を浮かべて言った。
「おじさん。順調そうだね?やっぱり、あたしが見込んだだけの事があるよ」
「オレの元に何をしに来た?」
彼女は指に付着した血を舐め取りながら言った。
「おじさんにそろそろツケを返してもらいに来ようと思ってさ。殺して欲しい人がいるんだよね」
そう言って彼女は三枚の写真を吉森作造の座る組長の椅子の前に突き出す。
作造は写真を見終えると、両眉を上げて、
「こんな弱そうなガキどもをか?」
「うん、あたしもおじさんと同じ感想なんだけど、お姉ちゃんが始末しろって煩くってさ。あたしの手で始末するのも面倒くさいからあんたの手で命令してよ」
彼女はかつて自分をこの世ならざるものに変えた時と同じ表情で睨む。
あの夜の闇の様に深くて黒い目睨まれては作造も逆らえない。
作造は懐から上等のタバコを取り出してそれを人差し指と中指の間に挟んで言った。
「いいだろう。このガキどもはオレとオレの組の力を使用して始末する。あんたは成果を期待してくれ」
「そうこなくっちゃあ!」
姑獲鳥はいつもと同じ明るい口調で無邪気に喜ぶ。
まるで、氷菓子を買ってもらったばかりの幼い子供の様に。
だが、彼は大戦中に徴兵されやむ無しに自身の縄張りである東京を離れさせられた。
彼は大戦中は多くの戦功を挙げたものの、敗戦を知り、衝撃を受けた。
そして、南方の方から帰還するや否や焼け野原となった東京の街を目撃したのであった。
焼け野原の東京を見るなら、膝をついた作造ではあったが、めげずに彼は闇市で復員の時に軍隊から貰った食料を捌き、それで大枚を得る事に成功した。
だが、彼はその闇市を仕切っていたヤクザの組織に目を付けられ、集団リンチを受けた上に金や武器を奪い取られた。
以後は当てもなく東京を彷徨いていると、気が付かない内に東京の裏街の荒廃した噴水を訪れていた事に気が付く。
作造は懐からしわくちゃになったタバコを吸いながらそれまでに聞いた話の事を思い出す。
ここでは当てもなく彷徨いていれば、拳銃を売ろうとする売人の袖引きが浮浪者を誘うのだと。
作造はなけなしの金で拳銃を買って銀行でも襲おうかと考えたのだが、彼は自分の懐を探り、米の配給券すら失っている事に気が付く。
これでは拳銃など買えまい。後はこの地でゆっくりと朽ち果てていくだけだろう。
深い溜息を吐いて日がしげる日中の噴水の上で寝転ぼうとしたのだが、自身の顔を覗き込んでいる顔を見て思わず悲鳴を上げて立ち上がっていく。
作造が慌てて起き上がると、かつて自身を見つめていた顔は両眼を丸くしていたが、直ぐに可愛らしい笑顔を浮かべて、
「ねぇ、おじさん。仕事を探してるんでしょ?」
と、言った。可愛らしい声だ。作造は声を聞くなり、改めて少女の姿を確認していく。
少女は可愛らしい顔であり、同時に彼には幼いという印象を与えた。だが、顔立ちは美人そのものだ。
控えめだが形の良い胸に、少女とは思えない程に突き出た臀部にそれを覆う黒いゴシック調のドレス姿に彼の本能が刺激されてしまい、作造は耐え切れずに両眼を逸らす。それを見た少女は可笑しそうな様子で笑う。
それから、男の右肩を引き寄せてわざと自分の体に密着させていく。
「ねぇ、おじさん。仕事を探していない?」
「し、仕事だと?」
その言葉を聞いて作造の声が裏返る。確かに、自分は職にあぶれてはいるが、この少女にそんな事が理解できる筈もない。
作造は彼女の主張を一蹴しようとしたのだが、彼女はケタケタと笑って更に自身の体を引っ付けていく。
「ねぇ、おじさん……あたしに釘付けなんでしょ?隠さなくても良いよ。見てて分かるもん」
その言葉を聞いて作造の顔が赤くなる事に気が付く。羞恥の色ではない。怒りの色だ。
彼は噴水の場から立ち上がると彼女の胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「貴様ッ!大人をからかって楽しいか!?第一、子供の癖してそんな舐めた口調をーー」
「子供?それはおじさんの事でしょ?」
少女は作造の言葉を遮り、彼の腕を払い落としたばかりか、反対に彼女を底知れない夜の闇の様に真っ黒な瞳で睨む。
作造はそれを見て両足をすくませてしまう。思わず、足が後退して先程までの怒った表情を引っ込めた事により、彼女はすっかり満足した様で元の可愛らしい顔で笑う。
「そうだよ。やればできるじゃん。おじさんはあたしを怖がれば良いんだよ」
そう言うと、少女は空中から大きくて彼女の瞳や服と同じくくらいに黒く染められた槍斧を作造の首元に突き付けて、
「おじさんに今からチャンスを挙げるね。もし、あたしが今から力を与えて生き延びられたら、おじさんは無敵の力を得るんだよ。その後は自由……復讐に使用するも良し、その力を強盗に使用するも良しだけど、失敗したら、おじさんの命は無いよ」
彼女は手に持っていた巨大な槍斧を引っ込めると、作造の元まで歩いていき、彼の首に自身の右手の二本の指を指す。
彼女は好物でも舐めるかの様に舌を舐め回して楽しそうな声で言った。
「さぁてとぉ~おじさんはあたしの送る力に耐えられるかなぁ~」
少女が楽しげに笑うのとは対照的に、作造は悲痛な、けれども言葉の出ない痛みを顔全体で作り上げていた。
と、言うのも自身の体の中に得体の知れない実態のない怪物が入り込む様な感覚に陥っていったからだ。
作造はそれに耐え切れずに、意識を失ってその場に倒れた。
目を覚ましたのはいつだったのだろう。少なくとも、一~二時間では済まないだろう。
辺りにはもうすっかり、日が落ちていたのだから。
作造が目を覚ますのと同時に先程の少女が起き上がったのを確認して両手を叩く。
「すっごぉ~い。あたしは信じてたよ。おじさんがこの場を生き抜いてくれるって」
無邪気に笑う少女に作造は必死の形相で問い詰めていく。
「お前はオレに何をしたんだ!?オレの体に何を入れた!?」
「うん?何をしたかって?あたしは単に妖鬼の元を入れただけだよ。これで、おじさんは不老不死。弾丸で撃たれても死なないし、刃物だって怖くないよ。けれど、対魔師の刀にだけは気を付けてね。あれだけだから、あたし達の唯一の弱点は」
それだけ言ってかつての西洋社会の貴族のような派手な飾りを付けた黒いドレスの少女はその場を立ち去ろうとしたが、男は尚も呼び止めた。
「待ってくれ!せめて、名を……名を教えてくれ!」
「……玉藻姑獲鳥。それがあたしの名前だよ。おじさん」
少女は手を振って今度こそ立ち去り、以後、数年間は作造の前に姿を表せなかった。
作造はその間、銀行を襲い自身を襲ったヤクザの事務所を襲撃して組を壊滅させたりと与えられた力を使って暴虐の限りを尽くしていた。
そして、ヤクザの組織のトップに就任し、いよいよ、関東一円を牛耳るヤクザ組織と抗争に乗り出そうとした時だ。
彼の前にかつての少女が槍斧を持って現れたのだ。
そう、漆黒のドレスを止めようとした組員の血で染めて。
それだけではない、彼女は手に付着した血を林檎の様に真っ赤な舌で舐めて、顔にあの時と同じ可愛らしい笑顔を浮かべて言った。
「おじさん。順調そうだね?やっぱり、あたしが見込んだだけの事があるよ」
「オレの元に何をしに来た?」
彼女は指に付着した血を舐め取りながら言った。
「おじさんにそろそろツケを返してもらいに来ようと思ってさ。殺して欲しい人がいるんだよね」
そう言って彼女は三枚の写真を吉森作造の座る組長の椅子の前に突き出す。
作造は写真を見終えると、両眉を上げて、
「こんな弱そうなガキどもをか?」
「うん、あたしもおじさんと同じ感想なんだけど、お姉ちゃんが始末しろって煩くってさ。あたしの手で始末するのも面倒くさいからあんたの手で命令してよ」
彼女はかつて自分をこの世ならざるものに変えた時と同じ表情で睨む。
あの夜の闇の様に深くて黒い目睨まれては作造も逆らえない。
作造は懐から上等のタバコを取り出してそれを人差し指と中指の間に挟んで言った。
「いいだろう。このガキどもはオレとオレの組の力を使用して始末する。あんたは成果を期待してくれ」
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