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船橋事変編
船橋ヘルスケアセンター、良い所。一度はおいでよ
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斑目綺蝶と獅子王院風太郎、近作日向の三名は事件の翌日に大学に退学届を出し、正妖大学を後にした。
その後の顛末は椿から聞かされたそうなのだが、妖鬼対策研究会の面々はあの後も上手くやっているらしい。
なんでも、あの事件の後に大勢の生徒からその存在を認められ、今では多くの生徒と交流を持っているのだという。
生徒たちも公には出さないものの、金守坊の事件を機に、妖鬼の存在とそれと戦う人々の存在を知り、彼らは英雄として尊敬されているという。
菊園寺和巳は警察に保釈された後は今でも小規模の学生運動を続けているものの、長根教授という彼の中の最大の仇が死亡したためか、その規模は今よりも縮小されたという。
加えて、菊園寺和巳は対魔師の存在を知り、以降は彼らの仲間に入るために、技術を身に付けている最中であるらしい。
彼は事件が一応は解決の報告に向かっている事を知り、斑目綺蝶の自宅の円座の上で小さく溜息を吐く。
「これで、一件落着って所だな?」
「ええ、私も久し振りに家に帰れましたし、どうです?今日は二人で夕食を作りませんか?久し振りに」
彼女はわざわざ座っていた円座の上から離れると、四本足で歩くと、その内、右足を壁の代わりにしながら彼の耳元で言った。
何故か、その姿勢に耳を赤く染める風太郎。彼は顔を真っ赤にしながら大慌てで、
「だ、ダメだってそんな事を言ったら、日向の奴が誤解するじゃあねぇか!」
そう、今、斑目綺蝶の家には近作日向が破魔式と剣術を身に付けるという名目で居候しているのだ。
と、言うのも今までは急遽の事態が続いたという事もあり、彼の修行不足は見逃されていたのだが、大学の事件で綺蝶が討滅寮の方から謹慎を言い渡されるのと同時に彼に修行を付けるようにも言い渡される。
そんな訳で期待の新人を鍛えるために、風太郎と日向の両名で今の今まで修行を付け、今は夜になり、休憩の時間となっていたのだ。
食事も家事も終わったので、今、現在は家の広間でのんびりとした時間が続いているのだ。
丁度、彼は今、テレビでやっているアメリカのSFドラマに夢中になっているらしい。
この番組は日向だけではなく、風太郎も綺蝶も好きな番組であり、普段は三人でテレビを食い入る様に眺めているのだが、今回に限っては先程の話し合いがあったために、視聴を断念していた。
風太郎が不服そうに両腕を組んでいると、日向が目を輝かせながら言った。
「今回の話には驚いたぞぉ~まさか、あんな展開になるとは思わなんだ!いやぁ、最高!最高!」
頭を叩きながらそう内容を語る日向が小憎らしい。
密かな怒りを溜めて不機嫌な顔を浮かべている風太郎とは対照的に、綺蝶は可愛らしい笑顔を浮かべて尋ねる。
「へぇ、今回はどんな話だったんですか?私にも教えてもらえませんか?」
「勿論!今回の話は確か、大戦時のドイツの話でーー」
「待ってください?本当にドイツの話でしたか?放送局はアメリカにある筈……それなのに、ドイツが舞台というのはあまりにも変ですね。近作さん。あなた、本当に見たんですか?それとも、まさか寝ながら見てたんじゃないですか?答えてくださいよ?もしもしー?」
彼女は黒い笑顔を作りながら、たじろぐ彼に向かって顔を近付けていく。
恐ろしい。端で見ていた風太郎は先程まで憎んでいた相手に思わず同情の念を抱いてしまう。
彼女は怒らせると怖いのだ。黒い笑顔を浮かべて迫る姿はまさに不気味そのもの。先程の日向の態度はちゃんと綺蝶の逆鱗にも触れていたらしい。
ゾッとしながら両腕を震わせていると、日向はこちらに助けを求める様な視線を向けていく。
それを見て思わず視線を畳に向ける風太郎。
物事には助けられるものと助けられないものがあるとあの人にも分かってもらおう。
風太郎はそう意気込むとダンマリを決め込む。
それから、暫くの間、綺蝶に内容の事を迫られて焦る様子を見せる日向に哀れみの念を送りながら、その日は過ぎた。
広間を出て、洗面所の鏡で歯を磨いてから、二人は用意された部屋へと向かう。
蛍光灯の微かな光が灯る中で、風太郎が小説を読んでいると、日向が風太郎の布団を突きながら小声で、
「なぁ、綺蝶って怒るとあんな感じなのか?」
「まぁ、身内に怒る時はあんな感じだよ」
基本は褒めて伸ばす綺蝶であったが、どうしようもない失態が出ると、彼はあの様に迫られていた事を今更ながらに思い出す。
だが、日向の場合は修行の内容ではなく、まさかテレビに満足していた事だったとは……。
明日は綺蝶が食事の当番なので、ゆっくりと休めるだろう。
風太郎は黙って小説をある程度まで読んでから、蛍光灯を消して夢の世界へと落ちていく。
その晩、風太郎は奇妙な夢を見た。それは、頭頂部の頂上が薄くなっている中年の男性が巨大な屋外プールの中でシンクロナイドスイミングを泳ぎながら、手招きしているという場面であった。
彼がそれに釣られてプールの中に飛び込むと、そこには大勢の人間が遊んでいるという光景であった。
プールの中に飛び込んだ風太郎をその中年の男性たちが称えると、先程までプールであった筈の場所が温泉へと変わっていく。
水着姿の風太郎が極楽極楽と目を瞑りながら、起き上がると、そこにはいつも通りの布団の中。
風太郎は慌てて辺りを見渡すが、そこはいつもの部屋の中。
風太郎は溜息を吐いて、日向を起こすと、二階の部屋から降りて行く。
朝の味噌汁を吸いながら、風太郎は綺蝶に昨晩見た奇妙な夢の内容を話していく。
すると、綺蝶は何かに気づいた様な顔を浮かべて、
「あー、それは恐らく船橋ヘルスケアセンターですね」
と、だけ呟いた。
「ふ、船橋ヘルスケアセンター?」
何なのだろう。風太郎がその怪しげな名前に眉を顰めていると、彼女はクスクスと笑い始めて、それが何なのかを説明していく。
「船橋ヘルスケアセンターは数年前に出来た日本最大の遊戯施設です。プールから、温泉、ゴルフ場、遊園地まであり、屋内施設ではゲームや食事が楽しめ、おまけに泊まれるという夢の様な場所の事ですね!しかも、それらを楽しむための費用が入園料くらいだけだというので、今も大勢の人が押し寄せる人気施設ですよ」
それを聞いた日向は勢いよく立ち上がって頬を紅潮させて大きな声で叫ぶ。
「そんないい場所なら一回行こうぜ!おれ、そこで遊んでみたーー」
「近作さん。お忘れですか?あなたは修行中の身であり、私は謹慎中の身です」
彼女はそれだけ言うと自分の用意した味噌汁を啜っていく。
その後は特別な会話もなかったので、その日の朝食はそれで終了となったのだが、風太郎はなんとなくモヤモヤとした思いを抱えて一日を過ごす事となってしまう。
その後の顛末は椿から聞かされたそうなのだが、妖鬼対策研究会の面々はあの後も上手くやっているらしい。
なんでも、あの事件の後に大勢の生徒からその存在を認められ、今では多くの生徒と交流を持っているのだという。
生徒たちも公には出さないものの、金守坊の事件を機に、妖鬼の存在とそれと戦う人々の存在を知り、彼らは英雄として尊敬されているという。
菊園寺和巳は警察に保釈された後は今でも小規模の学生運動を続けているものの、長根教授という彼の中の最大の仇が死亡したためか、その規模は今よりも縮小されたという。
加えて、菊園寺和巳は対魔師の存在を知り、以降は彼らの仲間に入るために、技術を身に付けている最中であるらしい。
彼は事件が一応は解決の報告に向かっている事を知り、斑目綺蝶の自宅の円座の上で小さく溜息を吐く。
「これで、一件落着って所だな?」
「ええ、私も久し振りに家に帰れましたし、どうです?今日は二人で夕食を作りませんか?久し振りに」
彼女はわざわざ座っていた円座の上から離れると、四本足で歩くと、その内、右足を壁の代わりにしながら彼の耳元で言った。
何故か、その姿勢に耳を赤く染める風太郎。彼は顔を真っ赤にしながら大慌てで、
「だ、ダメだってそんな事を言ったら、日向の奴が誤解するじゃあねぇか!」
そう、今、斑目綺蝶の家には近作日向が破魔式と剣術を身に付けるという名目で居候しているのだ。
と、言うのも今までは急遽の事態が続いたという事もあり、彼の修行不足は見逃されていたのだが、大学の事件で綺蝶が討滅寮の方から謹慎を言い渡されるのと同時に彼に修行を付けるようにも言い渡される。
そんな訳で期待の新人を鍛えるために、風太郎と日向の両名で今の今まで修行を付け、今は夜になり、休憩の時間となっていたのだ。
食事も家事も終わったので、今、現在は家の広間でのんびりとした時間が続いているのだ。
丁度、彼は今、テレビでやっているアメリカのSFドラマに夢中になっているらしい。
この番組は日向だけではなく、風太郎も綺蝶も好きな番組であり、普段は三人でテレビを食い入る様に眺めているのだが、今回に限っては先程の話し合いがあったために、視聴を断念していた。
風太郎が不服そうに両腕を組んでいると、日向が目を輝かせながら言った。
「今回の話には驚いたぞぉ~まさか、あんな展開になるとは思わなんだ!いやぁ、最高!最高!」
頭を叩きながらそう内容を語る日向が小憎らしい。
密かな怒りを溜めて不機嫌な顔を浮かべている風太郎とは対照的に、綺蝶は可愛らしい笑顔を浮かべて尋ねる。
「へぇ、今回はどんな話だったんですか?私にも教えてもらえませんか?」
「勿論!今回の話は確か、大戦時のドイツの話でーー」
「待ってください?本当にドイツの話でしたか?放送局はアメリカにある筈……それなのに、ドイツが舞台というのはあまりにも変ですね。近作さん。あなた、本当に見たんですか?それとも、まさか寝ながら見てたんじゃないですか?答えてくださいよ?もしもしー?」
彼女は黒い笑顔を作りながら、たじろぐ彼に向かって顔を近付けていく。
恐ろしい。端で見ていた風太郎は先程まで憎んでいた相手に思わず同情の念を抱いてしまう。
彼女は怒らせると怖いのだ。黒い笑顔を浮かべて迫る姿はまさに不気味そのもの。先程の日向の態度はちゃんと綺蝶の逆鱗にも触れていたらしい。
ゾッとしながら両腕を震わせていると、日向はこちらに助けを求める様な視線を向けていく。
それを見て思わず視線を畳に向ける風太郎。
物事には助けられるものと助けられないものがあるとあの人にも分かってもらおう。
風太郎はそう意気込むとダンマリを決め込む。
それから、暫くの間、綺蝶に内容の事を迫られて焦る様子を見せる日向に哀れみの念を送りながら、その日は過ぎた。
広間を出て、洗面所の鏡で歯を磨いてから、二人は用意された部屋へと向かう。
蛍光灯の微かな光が灯る中で、風太郎が小説を読んでいると、日向が風太郎の布団を突きながら小声で、
「なぁ、綺蝶って怒るとあんな感じなのか?」
「まぁ、身内に怒る時はあんな感じだよ」
基本は褒めて伸ばす綺蝶であったが、どうしようもない失態が出ると、彼はあの様に迫られていた事を今更ながらに思い出す。
だが、日向の場合は修行の内容ではなく、まさかテレビに満足していた事だったとは……。
明日は綺蝶が食事の当番なので、ゆっくりと休めるだろう。
風太郎は黙って小説をある程度まで読んでから、蛍光灯を消して夢の世界へと落ちていく。
その晩、風太郎は奇妙な夢を見た。それは、頭頂部の頂上が薄くなっている中年の男性が巨大な屋外プールの中でシンクロナイドスイミングを泳ぎながら、手招きしているという場面であった。
彼がそれに釣られてプールの中に飛び込むと、そこには大勢の人間が遊んでいるという光景であった。
プールの中に飛び込んだ風太郎をその中年の男性たちが称えると、先程までプールであった筈の場所が温泉へと変わっていく。
水着姿の風太郎が極楽極楽と目を瞑りながら、起き上がると、そこにはいつも通りの布団の中。
風太郎は慌てて辺りを見渡すが、そこはいつもの部屋の中。
風太郎は溜息を吐いて、日向を起こすと、二階の部屋から降りて行く。
朝の味噌汁を吸いながら、風太郎は綺蝶に昨晩見た奇妙な夢の内容を話していく。
すると、綺蝶は何かに気づいた様な顔を浮かべて、
「あー、それは恐らく船橋ヘルスケアセンターですね」
と、だけ呟いた。
「ふ、船橋ヘルスケアセンター?」
何なのだろう。風太郎がその怪しげな名前に眉を顰めていると、彼女はクスクスと笑い始めて、それが何なのかを説明していく。
「船橋ヘルスケアセンターは数年前に出来た日本最大の遊戯施設です。プールから、温泉、ゴルフ場、遊園地まであり、屋内施設ではゲームや食事が楽しめ、おまけに泊まれるという夢の様な場所の事ですね!しかも、それらを楽しむための費用が入園料くらいだけだというので、今も大勢の人が押し寄せる人気施設ですよ」
それを聞いた日向は勢いよく立ち上がって頬を紅潮させて大きな声で叫ぶ。
「そんないい場所なら一回行こうぜ!おれ、そこで遊んでみたーー」
「近作さん。お忘れですか?あなたは修行中の身であり、私は謹慎中の身です」
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