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船橋事変編
ヘルスケアセンターの不穏な動き
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翌日になり、平穏で辛い現実を忘れるための施設内で起きたその出来事は施設内を暫し、騒がせた。
と、言うのも今の今まで警備員が消息不明になる場面など聞いた事もなかったからだ。客たちは船橋ヘルスケアセンターの係員に頼んだのだが、どうやら事態についての事を喋るつもりにはならないらしい。
後に警察の調べが入ると説明し、警備員が最後に訪れたというゴルコースは閉鎖される事になり、そのまま客はゴルフコース以外の場所で遊ぶ事になった。
だが、これに勘付いたのは対魔師である三名の男女。
三人は独自の調査を行う事に決め、また常に刀と太刀を持って歩く事を決意してヘルスケアセンターの中を歩いていく。
風太郎としても武器を外して利用する事になるヘルスケアセンターの一部の施設を利用できない事を嘆きそうになったが、妖鬼が関わっているのならば別と開き直り、二人で警備を続けていく。
だが、その日は徒労に終わってしまう。日が落ちても、妖鬼の「よ」の字も見当たらない。三人で溜息を吐くと、今日はそのまま船橋ヘルスケアセンター名物の風呂に交代で入る事になった。ローマ風呂は今週は男湯であったらしく、二人が残念そうな目をしていたのは覚えている。
太刀はちゃんと包んでいるのでバレはしないだろう。風太郎はその日の疲れを癒すために、ローマ風呂の中に入っていく。
彼自身は世界の歴史などあまり触れた事はなかったが、それでもかつてはヨーロッパを圧巻していたローマ帝国の名前くらいは知っていた。
そして、ローマ帝国の人々が妙な白い着物を纏って過ごし、白い石柱に囲まれた建物で暮らしていた事も何となく知っていた。
彼はそんな僅かな知識しかない古代ローマを浴槽の中で思う。
古代ローマは最高だ。当時の状況に思いを馳せながら、湯船の中で沈み、泡を作っていると彼の目の前に顔は陶磁器を思わせる程に白く美しかったのだが、体のあちこちに傷を付けているという奇妙な風貌の男が現れる。
傷痍軍人なのだろうか。そんな事を考えていると、彼は風呂の淵に腰を落ち着けて両目を瞑る。
入った後ならばともかく、入る前、寒い風に裸を晒して寒くはないのだろうか。
そんな事を考えていると、彼の元に一人の男が現れた。
男は中年。鼻の下に立派な黒い髭を蓄えており、歳とは似つかわない程の立派な筋肉を蓄えていた。
中年の男はこれまた湯に入る事なく、男の隣に座って何やら談笑していく。
何を話しているのだろうか。風太郎が気になり、二人の会話に割って入ろうとした時だ。
中年の男が風太郎の動きに気が付いたのか、彼の顔目掛けて拳を放つ。
風太郎は顔に痛みを受けながらも、両手で受け身を取った後に、ローマ風呂特有の硬いタイルの上で顔を両手で抑えていく。
痛みのためにのたうち回る風太郎の元に中年の男が訪れて、横になっていた風太郎の顔目掛けて拳を振っていく。
「貴様ッ!我々の会話を盗み聞きしようとしていなッ!このカスがッ!鉄拳による制裁を加えてやる!」
そう言って中年の男が更なる一撃を風太郎に向けて食らわせようとした時だ。風太郎は痛みのために瞳から涙をこぼしながらも、三発目を喰らわせようとしていた男に向かって拳を殴り返す。
そして、男がよろめいた隙を利用して大浴場を飛び出す。
風太郎は慌てて脱衣場で服を着て、太刀を隠すと大慌てで外に飛び出す。
そして、外で待機していた女性陣に上がった事を伝えると、三階のモールに行く事を告げる。
モールの人に紛れれば、あの男も忘れてくれるに違いない。
彼はモールで二時間ばかりの時間を見たくもない土産物を見て潰すと、あの中年の男が待ち構えていない事を祈って階下へと降りていく。
幸いな事に風太郎を待ち構える様な男は居なかった。風太郎は小さく溜息を吐いて綺蝶と冴子の二人の姿を探す。
風呂から上がったと思われる二人が桶を抱えて何やら会話を重ねている姿が見えた。
風太郎が声を掛けると、二人は手を振って彼を招き入れる。
青年は慌てて駆け寄ったが、近付いた際に二人の髪がまだ乾いておらず、服をタオルで守っている姿が妙に可愛らしく見えた。
風太郎が思わず声を失い掛けていると、綺蝶がニヤニヤとした笑みを浮かべて彼の耳元で囁く。
「もしかして、私にときめいたんですか?獅子王院さん。もう既に同じ屋根の下に暮らしている仲なのに?」
風太郎はそれを聞いて胸が騒ぐ。同時に、顔を赤くして叫ぶ。
「ち、違う!誤解させる様な事を言うな!」
それを聞いて複雑そうな顔を浮かべる冴子。
彼女は体をくねらせながら、
「お、お前たち……そんな事をしていたのか?」
「だから、誤解だって!」
風太郎はやはり、綺蝶の中に何処か暗いものがあるという事を理解した。
あながち、闇の破魔式の使い手というのも間違いではあるまい。
そう考えている風太郎にまた綺蝶はわざとらしく自分の体を密着させて耳元で囁く。
「この後は食堂で食事を取ろうかと思っているんですが、あなたはそこで何を食べますか?」
口元が妙に輝いている様に感じるのは気のせいではあるまい。
冴子に至っては二人に呆れ、先に食堂へと向かっていた。
綺蝶は冴子が離れたのを確認すると、彼の耳元で再度囁く。
「女性の風呂の中で確認したのですが、風呂の中で妖鬼の匂いを感じましたよ。どうやら、彼ら彼女らはこの巨大遊戯施設の中に観客として潜り込んでいるらしいですね」
「彼ら彼女らってどういう事だよ?まさか、男の方にも?」
「ええ、ある男二人とすれ違った時に微かな匂いを感じました」
と、綺蝶が風太郎に説明していた時だ。再び綺蝶が眉を顰める。
そして、ローマ風呂に流れていく多くの客を眺めていく。
「な、なぁ、何が?」
「今の客の流れの中にまた匂いが漂いましたよ。これで、二人。どうやら、この夢の世界に忍び込んでいる穢れの数は五つで間違いなさそうです」
彼女はそう言うと、風太郎を連れて食堂へと向かう。
その顔は真剣そのものだ。やはり、この事態を冴子に報告するのだろう。
そして、上位の対魔師に相応しく何らかの策を弄するに違いない。
風太郎はやはり、彼女は自分の信頼するべき師だと再認識する。
思えば、多少の独占欲は人にはあるだろう。そうに違いない。
風太郎はそう言い聞かせて彼女の後を追う。
と、言うのも今の今まで警備員が消息不明になる場面など聞いた事もなかったからだ。客たちは船橋ヘルスケアセンターの係員に頼んだのだが、どうやら事態についての事を喋るつもりにはならないらしい。
後に警察の調べが入ると説明し、警備員が最後に訪れたというゴルコースは閉鎖される事になり、そのまま客はゴルフコース以外の場所で遊ぶ事になった。
だが、これに勘付いたのは対魔師である三名の男女。
三人は独自の調査を行う事に決め、また常に刀と太刀を持って歩く事を決意してヘルスケアセンターの中を歩いていく。
風太郎としても武器を外して利用する事になるヘルスケアセンターの一部の施設を利用できない事を嘆きそうになったが、妖鬼が関わっているのならば別と開き直り、二人で警備を続けていく。
だが、その日は徒労に終わってしまう。日が落ちても、妖鬼の「よ」の字も見当たらない。三人で溜息を吐くと、今日はそのまま船橋ヘルスケアセンター名物の風呂に交代で入る事になった。ローマ風呂は今週は男湯であったらしく、二人が残念そうな目をしていたのは覚えている。
太刀はちゃんと包んでいるのでバレはしないだろう。風太郎はその日の疲れを癒すために、ローマ風呂の中に入っていく。
彼自身は世界の歴史などあまり触れた事はなかったが、それでもかつてはヨーロッパを圧巻していたローマ帝国の名前くらいは知っていた。
そして、ローマ帝国の人々が妙な白い着物を纏って過ごし、白い石柱に囲まれた建物で暮らしていた事も何となく知っていた。
彼はそんな僅かな知識しかない古代ローマを浴槽の中で思う。
古代ローマは最高だ。当時の状況に思いを馳せながら、湯船の中で沈み、泡を作っていると彼の目の前に顔は陶磁器を思わせる程に白く美しかったのだが、体のあちこちに傷を付けているという奇妙な風貌の男が現れる。
傷痍軍人なのだろうか。そんな事を考えていると、彼は風呂の淵に腰を落ち着けて両目を瞑る。
入った後ならばともかく、入る前、寒い風に裸を晒して寒くはないのだろうか。
そんな事を考えていると、彼の元に一人の男が現れた。
男は中年。鼻の下に立派な黒い髭を蓄えており、歳とは似つかわない程の立派な筋肉を蓄えていた。
中年の男はこれまた湯に入る事なく、男の隣に座って何やら談笑していく。
何を話しているのだろうか。風太郎が気になり、二人の会話に割って入ろうとした時だ。
中年の男が風太郎の動きに気が付いたのか、彼の顔目掛けて拳を放つ。
風太郎は顔に痛みを受けながらも、両手で受け身を取った後に、ローマ風呂特有の硬いタイルの上で顔を両手で抑えていく。
痛みのためにのたうち回る風太郎の元に中年の男が訪れて、横になっていた風太郎の顔目掛けて拳を振っていく。
「貴様ッ!我々の会話を盗み聞きしようとしていなッ!このカスがッ!鉄拳による制裁を加えてやる!」
そう言って中年の男が更なる一撃を風太郎に向けて食らわせようとした時だ。風太郎は痛みのために瞳から涙をこぼしながらも、三発目を喰らわせようとしていた男に向かって拳を殴り返す。
そして、男がよろめいた隙を利用して大浴場を飛び出す。
風太郎は慌てて脱衣場で服を着て、太刀を隠すと大慌てで外に飛び出す。
そして、外で待機していた女性陣に上がった事を伝えると、三階のモールに行く事を告げる。
モールの人に紛れれば、あの男も忘れてくれるに違いない。
彼はモールで二時間ばかりの時間を見たくもない土産物を見て潰すと、あの中年の男が待ち構えていない事を祈って階下へと降りていく。
幸いな事に風太郎を待ち構える様な男は居なかった。風太郎は小さく溜息を吐いて綺蝶と冴子の二人の姿を探す。
風呂から上がったと思われる二人が桶を抱えて何やら会話を重ねている姿が見えた。
風太郎が声を掛けると、二人は手を振って彼を招き入れる。
青年は慌てて駆け寄ったが、近付いた際に二人の髪がまだ乾いておらず、服をタオルで守っている姿が妙に可愛らしく見えた。
風太郎が思わず声を失い掛けていると、綺蝶がニヤニヤとした笑みを浮かべて彼の耳元で囁く。
「もしかして、私にときめいたんですか?獅子王院さん。もう既に同じ屋根の下に暮らしている仲なのに?」
風太郎はそれを聞いて胸が騒ぐ。同時に、顔を赤くして叫ぶ。
「ち、違う!誤解させる様な事を言うな!」
それを聞いて複雑そうな顔を浮かべる冴子。
彼女は体をくねらせながら、
「お、お前たち……そんな事をしていたのか?」
「だから、誤解だって!」
風太郎はやはり、綺蝶の中に何処か暗いものがあるという事を理解した。
あながち、闇の破魔式の使い手というのも間違いではあるまい。
そう考えている風太郎にまた綺蝶はわざとらしく自分の体を密着させて耳元で囁く。
「この後は食堂で食事を取ろうかと思っているんですが、あなたはそこで何を食べますか?」
口元が妙に輝いている様に感じるのは気のせいではあるまい。
冴子に至っては二人に呆れ、先に食堂へと向かっていた。
綺蝶は冴子が離れたのを確認すると、彼の耳元で再度囁く。
「女性の風呂の中で確認したのですが、風呂の中で妖鬼の匂いを感じましたよ。どうやら、彼ら彼女らはこの巨大遊戯施設の中に観客として潜り込んでいるらしいですね」
「彼ら彼女らってどういう事だよ?まさか、男の方にも?」
「ええ、ある男二人とすれ違った時に微かな匂いを感じました」
と、綺蝶が風太郎に説明していた時だ。再び綺蝶が眉を顰める。
そして、ローマ風呂に流れていく多くの客を眺めていく。
「な、なぁ、何が?」
「今の客の流れの中にまた匂いが漂いましたよ。これで、二人。どうやら、この夢の世界に忍び込んでいる穢れの数は五つで間違いなさそうです」
彼女はそう言うと、風太郎を連れて食堂へと向かう。
その顔は真剣そのものだ。やはり、この事態を冴子に報告するのだろう。
そして、上位の対魔師に相応しく何らかの策を弄するに違いない。
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