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天楼牛車決戦編
討滅寮最終会議
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「クソッタレ!結局、偽物だったんですか!?」
涼介は先程、倒した氷堂冴子が本物ではなく、妖鬼が化けた偽物であった事を知り、悔しさのために何度も何度も地面に手をぶつけていく。
もう何度も地面に手をぶつけようとする涼介を蘭子が止めた。
「待て、もうそれ以上やるな。お前が手を壊すだけだぞ」
「……こうでもしないとやってられませんよ。まさか、自分たちの手で……オレ達が騒いだせいで彼女を追い詰めてしまうなんてね……」
蘭子は涼介の言わんとする事が分かるとばかりに、嗚咽した声を上げる彼の肩をさすっていく。
なるべく、冴子を庇える様に、手を回すつもりでもいた。
その晩は警視庁地下の騎士団の部屋で夜を明かす事になった。徹夜で二人で案を出し合い、氷堂冴子を救出する手掛かりを話し合ったのだが、結局、何も考えが出ないまま鶏が鳴く。
翌日になり、警視庁長官に二人は直訴を試みたのだが、結局の所は体よく追い返されて終わってしまう。
その後に二人は次々と別の場所を回って逮捕の撤回を求めたのだが、あまり効果は見られない。
やがて、それが警察の上層部の反感に繋がったらしい。二人はとうとう田舎の方へと更迭されてしまう。
もう、こうなってしまっては止められるものも止められまい。
二人は不満を抱えながら、田舎へと向かう。
南の端へと向かう二人は列車の中で向かい合っていた。
「……悔しいですね」
向かい合う席に座る涼介の様子に気が付いたのか、蘭子も同様に首を縦に動かす。
「全くだ。これから先、討滅寮や妖鬼たちがどうなるのかと思うと、不安でならないよ」
「ですが、氷堂冴子の逮捕を最後にもう警視庁が関与する事はないと思いますよ。次長が死に、我々が消えるんです。自然と警視庁の中に対魔師に関する人物は居なくなります」
彼の意見は最もだった。彼女は涼介に同意の意味で首を縦に動かす。
「恐らく、氷堂冴子の逮捕は手打ちにもなるかもな。これで、またあの次長の様な奴が出ない限りは千年以上と同じ状態が続くだけだろう」
「……そうですね。ですが、もう妖鬼が出なくなれば、もうこんな争いもなくなる。人も居なくなる。そうは思いませんか?」
「……妖鬼は居なくならない。玉藻紅葉が生きている限りはな……」
妖鬼の総大将が死ねば妖鬼は居なくなる。それは今までの伝承からも言われ続けていた事であり、そうだと信じられていたが、果たしてそうだろうか。
人が居る限り、人に害をなす妖鬼は現れるのではないのか。
蘭子は汽車の窓のすきま風に当たりながら、そんな事を考えていた。
討滅寮。三階。征魔大将軍執務室。
上座に座る老婆に向かって頭を下げていく。
老婆は彼ら彼女らに頭を上げる様に指示を出すと、氷堂冴子を除く討滅寮の上位の対魔師たちが一斉に頭を上げる。
「皆、よく集まってくれた。本日、皆を集めたのは他でもない。主らに報告しておきたい事があるのじゃ。綺蝶!」
老婆が指示を出すと同時に、綺蝶は妖鬼対策研究会の面々と氷堂冴子とで玄竜を倒し、騎士団の干渉を防ぎ、妖鬼の総大将を討ち取った事を告げる。
その声を聞くのと同時に、対魔師たちから歓声が上がっていく。
同時に普段は滅多に笑わない老婆が笑った。
「ここで儂の考えを話しても良いのなら、話すぞ」
その言葉を聞いて全員が口をつぐんで丁寧に意見を拝聴するために、一斉に頭を下げていく。
「儂はな。もう玉藻紅葉の最後は近いと思っておる。一千年の以上との間、あの女の用心棒を務めた草薙遠呂智が死亡し、儂ら討滅寮にも江戸の時代、明暦の頃に玉藻紅葉を追い詰めた伝説の対魔師にして巫女、木本奏音の使っていた氷と風の紋章を使う青年がおる。これはとどのつまり……」
将軍は一度大きく息を吸って、言葉を溜めた後に、心底から楽しそうな表情で告げる。
「天が玉藻紅葉を殺せと示しておるのだ。一千年以上の因縁を終わらせるためにな」
将軍は自身の考えを言うのと同時に、彼らに指示を告げる。
「今後は玉藻紅葉の居場所を探す事、並びに玉藻紅葉本人を討ち取る事を最優先事項とする。良いな」
それを聞いた上位の対魔師たちは一斉に頭を下げる。
斑目綺蝶は謁見が終わるのと同時に、討滅寮から出て帰ろうとしたのだが、その前に松風神馬に呼び止められる。
「何でしょうか?松風さん。何か御用でしょうか?」
「……お前じゃあない。お前と一緒にいたあの男……眼鏡かけてて、禿頭で……」
「あっ、もしかして近作さんの事ですか?あの人がどうしたんですか?」
「いいや、あいつ元気にしてるかなって」
「あぁ、彼なら大丈夫ですよ。元気にしてます。用事はそれだけですか?」
松風神馬は返答代わりに、綺蝶に頭を下げてその場を去っていく。
綺蝶は相変わらず言葉が少ないなと苦笑しながら、討滅寮の入り口で待っている風太郎と日向に声を掛ける。
「終わりましたよ。風太郎さん。近作さん」
彼女がそう言うと、二人は綺蝶に従って討滅寮の外へと戻る。
討滅寮の外で三人は今日の事を話し合う。
「成る程、後は玉藻紅葉の居場所を探すだけか……」
日向の意見を聞いて綺蝶は首を縦に振る。
「ええ、ですが、その居場所が分からないから、みなさん困っているんですよ。手掛かりでもあればいいんですが……」
それを聞いた時に風太郎が手を上げる。
「もしかしてなんだが、菊園寺……あいつの家に玉藻紅葉が潜んでいるかもしれない」
それを聞いた瞬間に二人の両眉が上がる。
「どういう事でしょうか?菊園寺さんの家と玉藻紅葉の居場所がどうして結び付いたのかについて、少し詳しい説明をもらいたいのですが……」
風太郎はそれから、自分の考えを述べていく。正妖大学の護衛任務の際に、菊園寺和巳が妖鬼に狙われていた可能性と彼の家に潜り込んだ怪しい少女の話を結び付けて、二人に熱弁を振るっていく。
二人は風太郎の説明を聞いて納得した表情でそれを聞いていた。
「確かに、一理ありますね」
「あぁ、筋は通ってる」
二人は同意の言葉を示す。風太郎は口元を緩めて、
「なら、オレの考えを上の方に言ってくれないか?もしかしたら、それが通るかもしれないぜ」
「一応は言ってみます。可能性は無きにあらずですからね」
綺蝶はいつもと同じ柔和な笑顔を浮かべて言った。
涼介は先程、倒した氷堂冴子が本物ではなく、妖鬼が化けた偽物であった事を知り、悔しさのために何度も何度も地面に手をぶつけていく。
もう何度も地面に手をぶつけようとする涼介を蘭子が止めた。
「待て、もうそれ以上やるな。お前が手を壊すだけだぞ」
「……こうでもしないとやってられませんよ。まさか、自分たちの手で……オレ達が騒いだせいで彼女を追い詰めてしまうなんてね……」
蘭子は涼介の言わんとする事が分かるとばかりに、嗚咽した声を上げる彼の肩をさすっていく。
なるべく、冴子を庇える様に、手を回すつもりでもいた。
その晩は警視庁地下の騎士団の部屋で夜を明かす事になった。徹夜で二人で案を出し合い、氷堂冴子を救出する手掛かりを話し合ったのだが、結局、何も考えが出ないまま鶏が鳴く。
翌日になり、警視庁長官に二人は直訴を試みたのだが、結局の所は体よく追い返されて終わってしまう。
その後に二人は次々と別の場所を回って逮捕の撤回を求めたのだが、あまり効果は見られない。
やがて、それが警察の上層部の反感に繋がったらしい。二人はとうとう田舎の方へと更迭されてしまう。
もう、こうなってしまっては止められるものも止められまい。
二人は不満を抱えながら、田舎へと向かう。
南の端へと向かう二人は列車の中で向かい合っていた。
「……悔しいですね」
向かい合う席に座る涼介の様子に気が付いたのか、蘭子も同様に首を縦に動かす。
「全くだ。これから先、討滅寮や妖鬼たちがどうなるのかと思うと、不安でならないよ」
「ですが、氷堂冴子の逮捕を最後にもう警視庁が関与する事はないと思いますよ。次長が死に、我々が消えるんです。自然と警視庁の中に対魔師に関する人物は居なくなります」
彼の意見は最もだった。彼女は涼介に同意の意味で首を縦に動かす。
「恐らく、氷堂冴子の逮捕は手打ちにもなるかもな。これで、またあの次長の様な奴が出ない限りは千年以上と同じ状態が続くだけだろう」
「……そうですね。ですが、もう妖鬼が出なくなれば、もうこんな争いもなくなる。人も居なくなる。そうは思いませんか?」
「……妖鬼は居なくならない。玉藻紅葉が生きている限りはな……」
妖鬼の総大将が死ねば妖鬼は居なくなる。それは今までの伝承からも言われ続けていた事であり、そうだと信じられていたが、果たしてそうだろうか。
人が居る限り、人に害をなす妖鬼は現れるのではないのか。
蘭子は汽車の窓のすきま風に当たりながら、そんな事を考えていた。
討滅寮。三階。征魔大将軍執務室。
上座に座る老婆に向かって頭を下げていく。
老婆は彼ら彼女らに頭を上げる様に指示を出すと、氷堂冴子を除く討滅寮の上位の対魔師たちが一斉に頭を上げる。
「皆、よく集まってくれた。本日、皆を集めたのは他でもない。主らに報告しておきたい事があるのじゃ。綺蝶!」
老婆が指示を出すと同時に、綺蝶は妖鬼対策研究会の面々と氷堂冴子とで玄竜を倒し、騎士団の干渉を防ぎ、妖鬼の総大将を討ち取った事を告げる。
その声を聞くのと同時に、対魔師たちから歓声が上がっていく。
同時に普段は滅多に笑わない老婆が笑った。
「ここで儂の考えを話しても良いのなら、話すぞ」
その言葉を聞いて全員が口をつぐんで丁寧に意見を拝聴するために、一斉に頭を下げていく。
「儂はな。もう玉藻紅葉の最後は近いと思っておる。一千年の以上との間、あの女の用心棒を務めた草薙遠呂智が死亡し、儂ら討滅寮にも江戸の時代、明暦の頃に玉藻紅葉を追い詰めた伝説の対魔師にして巫女、木本奏音の使っていた氷と風の紋章を使う青年がおる。これはとどのつまり……」
将軍は一度大きく息を吸って、言葉を溜めた後に、心底から楽しそうな表情で告げる。
「天が玉藻紅葉を殺せと示しておるのだ。一千年以上の因縁を終わらせるためにな」
将軍は自身の考えを言うのと同時に、彼らに指示を告げる。
「今後は玉藻紅葉の居場所を探す事、並びに玉藻紅葉本人を討ち取る事を最優先事項とする。良いな」
それを聞いた上位の対魔師たちは一斉に頭を下げる。
斑目綺蝶は謁見が終わるのと同時に、討滅寮から出て帰ろうとしたのだが、その前に松風神馬に呼び止められる。
「何でしょうか?松風さん。何か御用でしょうか?」
「……お前じゃあない。お前と一緒にいたあの男……眼鏡かけてて、禿頭で……」
「あっ、もしかして近作さんの事ですか?あの人がどうしたんですか?」
「いいや、あいつ元気にしてるかなって」
「あぁ、彼なら大丈夫ですよ。元気にしてます。用事はそれだけですか?」
松風神馬は返答代わりに、綺蝶に頭を下げてその場を去っていく。
綺蝶は相変わらず言葉が少ないなと苦笑しながら、討滅寮の入り口で待っている風太郎と日向に声を掛ける。
「終わりましたよ。風太郎さん。近作さん」
彼女がそう言うと、二人は綺蝶に従って討滅寮の外へと戻る。
討滅寮の外で三人は今日の事を話し合う。
「成る程、後は玉藻紅葉の居場所を探すだけか……」
日向の意見を聞いて綺蝶は首を縦に振る。
「ええ、ですが、その居場所が分からないから、みなさん困っているんですよ。手掛かりでもあればいいんですが……」
それを聞いた時に風太郎が手を上げる。
「もしかしてなんだが、菊園寺……あいつの家に玉藻紅葉が潜んでいるかもしれない」
それを聞いた瞬間に二人の両眉が上がる。
「どういう事でしょうか?菊園寺さんの家と玉藻紅葉の居場所がどうして結び付いたのかについて、少し詳しい説明をもらいたいのですが……」
風太郎はそれから、自分の考えを述べていく。正妖大学の護衛任務の際に、菊園寺和巳が妖鬼に狙われていた可能性と彼の家に潜り込んだ怪しい少女の話を結び付けて、二人に熱弁を振るっていく。
二人は風太郎の説明を聞いて納得した表情でそれを聞いていた。
「確かに、一理ありますね」
「あぁ、筋は通ってる」
二人は同意の言葉を示す。風太郎は口元を緩めて、
「なら、オレの考えを上の方に言ってくれないか?もしかしたら、それが通るかもしれないぜ」
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