太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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天楼牛車決戦編

闇の破魔式の扱い方

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斑目綺蝶は分かっていた。自身の扱う破魔式の危うさ。この破魔式を使う事により、自身の体や心が妖鬼になってしまうかもしれないという可能性の事を。
大学の件で玉藻姑獲鳥と対峙するまではあまり積極的に使ってこなかったのは桐生の件とその可能性の危険の二つがあったからだ。
だが、彼女との戦いの最中。本来ならば、自分を闇に飲み込むための力は自分の大いなる力として妖鬼としての戦いに力を貸してくれていた。
今回もあの女を始末するために力を貸してくれる可能性はある。
綺蝶は第三の破魔式を使用して暗黒の竜を用いて彼女に斬りかかっていくが、その前に姑獲鳥はそれを槍斧で受け止めて、何でもない普通の武具であるかの様に彼女に斧を返していく。
綺蝶は続いて第一、第二と破魔式を打ち続けていくが、彼女には効果がないらしい。
玉藻姑獲鳥は嬉しそうな表情で綺蝶の攻撃を受け止め、槍斧を何度も何度も振り下ろして彼女を追い詰めていく。
綺蝶はそれに対抗するために、第七の破魔式を作動させる。
第七の破魔式。それは『墨色夢譚』と呼ばれる全てを黒で覆い隠さんばかりに刀を振るう破魔式。
あまりの突きの多さに相手は面食らってしまうという。また、綺蝶もこの技を使用する事により、複数回、闇の力に飲まれ、下手をすれば、闇の力に飲まれてしいかねないという代償を払わなければならない程に危険な破魔式である。
彼女はそれを利用して何度も何度も刀を振っていく。
当然、その全ては槍斧によって弾かれていく。
全てを振り終わった時に、彼女は口元を歪めて、
「あらぁ、これで終わりかしらぁ。大口を叩いていた割には大した事ないわねぇ」
「黙れッ!」
綺蝶は刀を振り回しながら、もう一度、姑獲鳥を狙う。
だが、姑獲鳥は空中で一回転をしてそれを交わすと、そのまま彼女に向かって槍斧を真上から振るっていく。
それを槍斧で悠々自適と言わんばかりの表情で交わした後に、ひたすらに刀を振るう綺蝶の体に向かって攻撃を喰らわせる。
ただでさえ重くて大きな槍斧である。その攻撃は綺蝶を吹き飛ばすのには十分過ぎたと言えるだろう。
彼女は悲鳴を上げて地面の上に叩き付けられた。
姑獲鳥はそれを見て唇に人差し指を当ててから、そこを舐め回す。
「闇の破魔式……ちゃんと使えば、強力な破魔式だけれどぉ、使いこなせない。むしろ、その力に怯えている小娘には勿体ないわねぇ。まるで、刀の使えない人が立派な刀を所有しているかの様な乖離を感じるわよぉ」
「……うるさい。黙れ」
綺蝶はそう言って立ち上がって再度、刀を振るう。
だが、姑獲鳥は俊敏にそれを回避し、体を逸らしながら綺蝶の隙を狙って槍斧を振るう。
綺蝶は慌てで槍斧を刀で防ぐと、そのまま背後へと返る。
「……第六の破魔式『冥闇の誘い』」
彼女は自らの中で禁忌としていた第六の破魔式で玉藻姑獲鳥に立ち向かう。
彼女は大きく刀を振るいながら、姑獲鳥に向かって激しく突きの攻撃を喰らわせた後に、地面を突き刺し、そこから大きな闇を生じさせていく。
地面から生えた黒い触手は姑獲鳥を捕らえるために、彼女の元へと向かっていくが、姑獲鳥はそれを槍斧で切って回避しようとした。
今回もいつも通りの澄ました笑顔を浮かべながら、脱出……。
と、いうわけにはいかなかったらしい。彼女の槍斧は反対に闇の力に囚われて、その闇の触手の中にはまってしまう。
「ちょっとぉ、これぇ、姉様の魔獣覚醒より強力なんじゃあないのぉ?あたしをこのまま捕らえてどうする気ぃ?」
「決まっているだろう。お前をこの場で締め殺す。闇の力で……」
斑目綺蝶は怒りに満ちた視線で彼女を睨むと、そのまま触手に彼女の元に辿り着くと、首を絞める様に指示を出していく。
これで、この女は死ぬ。彼女はそう確信し、母の仇を取れた事を喜んだのだが、運命というのは残酷であったらしい。
彼女は口元を綻ばせると、突然、闇の触手が溶かされていくのを目撃する。
「な、何ですって!?」
「……私の魔獣覚醒を対魔師の連中なんかに見せる日が来るなんてねぇ。不本意だけれどぉ、見せてやるわぁ」
彼女は大きく槍斧を振り回しながら、同時にその槍斧から太陽の光。日光を見せながら、彼女に向かって攻撃を繰り出していく。
綺蝶はそれを刀を盾にして防ぐものの、太陽の光で目が眩しくなるのだけは防げない。
その隙を利用して彼女は大きく真上から槍斧を振り上げて彼女を地面の上に転ばせていく。
地面に大きく倒れた綺蝶は悲鳴を上げる。加えて、刀も目の前に落としてしまう。
彼女はその姿を眺めながら、楽しいと言わんばかりの声色で言う。
「あっわれねぇ~どう?散々、仇を取りたいと息巻いていた相手から、ここまで叩きのめされた気持ちはぁ~?」
哀れという言葉をわざと崩し、見下ろす際には小馬鹿にした様な笑みも忘れない。
何で、死なないのよ。こいつ。綺蝶は心の中で姑獲鳥を煽ったのだが、姑獲鳥は死ぬ様子を一向に見せる様子はない。
それどころか、太陽の光を利用しての攻撃はあまりにも強い。
彼女は唇を噛み締めながら、目の前に転げ落ちている刀を拾う。
この件だけは誰の手を借りるわけにもいかない。綺蝶はそう言い聞かせて刀を両手で握り締めて、目の前の相手を睨む。
「まだ、立ち上がる気ぃ?大人しく寝ておいたのなら、あたしはもうそれ以上は攻撃しないわよぉ」
「……あなたにしては随分と寛大な処置ですね。他の人たちは全員、その武器で首を叩き落としたというのに」
「あらぁ、特別なのはしょうがないでしょぉ?だって、あなたは闇の破魔式の使い手……あたしの手でこのまま仲間に引き入れたらのなら、姉様お喜びになるだろうしぃ」
彼女は唇に手を当てた後に、更に満面の笑みを浮かべて言った。
「何よりぃ、あたしが気に入っちゃたのぉ、あなたをあたしの下僕にしてあげるぅ」
姑獲鳥は綺蝶に寄ろうとしたが、綺蝶は何の反応も見せない。激昂するわけでもない。
ただ、声を抑えて淡々と言った。
「うるさい。とっととその臭い面をドブ川の中にでもしまって、消えろ。クソ野郎」
彼女らしからぬ汚い言葉。だが、その怒りは姑獲鳥にもひしひしと伝わってくる。
彼女は怒らない。むしろ、恍惚の表情を浮かべている。
「いいわぁ、その表情にぃ、その言葉ぁ、絶対にあたしのものにしてやるわぁ」
彼女はそう言ってもう一度槍斧を構える。
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