太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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天楼牛車決戦編

天楼牛車の中

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風太郎たちは目の前に広がる襖を開けて紅葉の居る場所へと移動しようとしたが、その途端に足場が消えた様な感覚に陥る。
すると、目の前には多くの異形の姿をした怪物に囲まれていた。
どうやら、別の場所に飛ばされたらしい。先程までは共に手を握っていた綺蝶も、日向もいない。
どうやら、本格的に逸れてしまったらしい。風太郎は苦笑したものの、困惑はしない。
目の前に現れた琵琶の姿をした妖鬼を斬り伏せていく。そして、意思のない亡者の様に蠢く怪物たちに向かって言った。
「オレは玉藻紅葉の首を取りに行く。それを邪魔するのなら……」
風太郎は太刀の塚に手を当て、目の前の男が迫ってくるのを確認した。
そして、目の前から迫った夜叉の面の様な姿をした怪物を斬り伏せて、
「……容赦はしない」
彼はそう言って目の前から迫る怪物たちに向かって斬り掛かっていく。
どうやら、この怪物は玉藻紅葉が慌てて生産した妖鬼であるらしく、単独であるのならば、24魔将の末端の席に座れるくらいの実力はありそうだ。
次々と風太郎が目の前から迫る怪物を始末していると、突然、背後からバチバチと鳴らす音が聞こえたので風太郎は咄嗟に背後を振り返る。
すると、そこには光弾を作り上げていたかつての仲間の姿。
そして、現在は妖鬼と成り果てた女の姿があった。
風太郎は得意そうな顔を浮かべる氷堂冴子に向かって言った。
「久し振りだな。冴子……」
「お前もな。風太郎」
冴子はそれから、背後に控えている化け物を手で静止させる。
どうやら、話したい事があったのだろう。彼女はかつて対魔師であった時に使用していた刀を担ぎ上げながら言った。
「もう上位の対魔師にはなれたのか?上様にはもう目通りできる身分なのか?答えてくれよ。風太郎」
「……お前はどうなんだ?冴子!どうして、妖鬼なんかになりやがった!みんな、お前を心配してた!みんな、お前を助けようとしてた!それなのに……それなのに……お前はその助けを待たずに、どうして妖鬼なんかになりやがった!?」
冴子は答えない。沈黙したまま視線を下に向けている。その顔には衝撃を受けた様子さえ見受けられた。
だが、風太郎は容赦しない。
「答えろよ。どうして、お前は妖鬼なんかになった!?」
顔から涙を流しながら風太郎は問い掛ける。涙が溢れて止まらない。いや、止まる様子さえ見られないというべきだろうか。
だが、涙ぐむ風太郎を見た冴子は少しばかり哀れに思ったのか、自分が妖鬼になった理由を話していく。
「……生贄にされた拘置所の中……ゴミみたいな人格の刑事にあたしは過去を思い出さされた。一刻も早くあそこから逃げ出したかった……あたしを見捨てたあんた達に復讐をしたかった!それだけだ……」
「……それで討滅寮の居場所を……オレ達の場所を売ったのか。バカな奴だ。お前は大馬鹿野郎だ!」
風太郎は刀を振り回しながら、冴子に向かって斬り掛かっていく。
冴子は刀を盾に、かつての破魔式を利用して風太郎に向かって攻撃を喰らわせていく。
彼女は風太郎の前に距離を取ると、太刀を突き付けて叫ぶ。
「第一の破魔式『光帝』!!あたしの得意技だよ!これで数多くの妖鬼を葬ってきたのさ!」
彼女の刀から次々と光の弾が飛んでいく。風太郎はそれを風の破魔式で弾き返し、降り注ぐ光弾を交わし、彼女の元に斬りかかっていく。
冴子はそれを刀で防ぐと、今度は刀に光線を混ぜて風太郎に斬りかかっていく。
風太郎は刀を交わしたものの、大きく真上で振られた刀から光線が出た事により、風太郎は冴子の第二の破魔式の特性に気が付く。
「ッ、まさか!」
「その通りさ、あんただから教えてやるんだが、あたしの第二の破魔式は刀から光線を放つもの……あれを喰らえば、幾らあんたでも終わりだよ」
冴子が二度目の攻撃を繰り出そうとする前に、風太郎は彼女の元に近寄り、大きく太刀を振るっていく。
勿論、彼の太刀は当たらない。彼の刀はその前に冴子の刀によって弾かれてしまうからだ。
だが、第二の破魔式を阻止するだけの効果はあったらしい。
風太郎は続いて何度も何度も刀を打ち続けていく。金属と金属とがぶつかり合う音が聞こえる。
あわゆかば、このまま冴子の首を刎ねられないかと考えた時だ。
冴子は背後に控えていた妖鬼たちに向かって大きな声で戦いに介入する様に指示を出す。
同時に、冴子も体勢を変えて風太郎に向かって斬りかかっていく。
大量の、それも24魔将の末端の席を与えられそうな強さの妖鬼と氷堂冴子の両名を相手にしなければならないのは辛かった。
それでも、彼は懸命に剣を振るい、片方の破魔式を。或いは紋章を利用して妖鬼の群れを潰していく。
とうとう、異形の姿をした妖鬼は全滅し、残すは氷堂冴子のみという事になった。
彼女は刀を振り上げて、風太郎に斬りかかっていく。
同時に、彼女は先程までの光弾や光線ではなく、今度は別の破魔式を使用していく。
今度は刀の中にギザギザとした刃を付け揃え、風太郎が怯んだ隙を利用して懸命に打ちつけていく。
ギザギザとした刃を打ち付けられている内に、彼は自分の足が押し出されている事に気が付く。
彼女はそれを見て既に勝利を確信したのか、大きな声で風太郎に向かって叫ぶ。
「これで分かったでしょう!?あたしがどうして、上位の対魔師に選ばれたのかッ!あたしがどうして、24魔将の中の上位十名に上り詰められたのかを!」
「……どうやら、お前は相当に上位10名の中の末端の席でお零れのパン屑を拾っているのが嬉しいらしいな」
その言葉を聞くのと同時に、彼女は多くの刃が付いた刀を大きく振り上げて風太郎を吹き飛ばす。
「邪魔なのよ。あんた……よくも、あたしに向かってそんな事を……許させないわ」
「……許さないのはこっちも同じさ。妖鬼に仲間を売ったお前をオレはもうお前を仲間だとは思わん」
風太郎はそう言うと太刀を構えて、小さな声で一言呟く。
「第四の破魔式『つむじ風隙間斬り』」
彼がそう呟くのと同時に彼女とすれ違う。そして、すれ違い様に目に見えぬ速さで彼女の首を叩き落とす。
それも一瞬の出来事であった。彼女は何が起こったのかが分からないまま体が光に包まれて消えていく。
だが、最後にこの破魔式の正体だけは聞いておかなければなるまい。
彼女は大声で彼を呼び止めて、
「あれは何だ!?答えろ!!」
と、問いかける。風太郎は体の底から大きく息を吐き出して言った。
「あれは風の破魔式の一つだよ。すれ違い様につむじ風の様に相手を斬る様からそう名付けられたんだ」
冴子はそれを聞くと、大きな声で笑って、
「ハッハッハッ、そんな破魔式を使う奴がいたんじゃあ、あたしは勝てないわけだね!」
と、悔いのない表情で両目を閉じる。同時に肉体も首も光に包まれて消えていく。
消滅した冴子に向かって風太郎は一言だけ言った。
「嫌いじゃなかったよ。お前の事」
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