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天楼牛車決戦編
松風神馬という男
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多くの対魔師たちが天楼牛車の中で激しい戦いを繰り広げている頃。
討滅寮では時の征魔大将軍と副将軍の直々による加持祈祷が行われていた。
三階に存在する執務室は今や、巨大な祈祷室と化していた。
将軍職を務める老婆は懸命に加持祈祷の術を唱えながら、打倒、玉藻紅葉を神に願う。
横で数珠を握りながら、椿は高齢の母の懸命な姿を眺めていく。
(上様……いや、母様は今回の戦いに賭けているんだ。まぁ、こんな機会はもう一千年は訪れないかもしれないからね)
椿はそう考えると、俯くのをやめて母の祈祷に付き合う。
二人としては、この戦いが上手くいく事を祈るばかりである。
松風神馬は彼の得意な破魔式を組み合わせた炎と風の紋章を使用して目の前から迫る妖鬼たちを殲滅していく。
これだけの数が居たとすれば、負ける理由など自然に消滅していく筈であるのに、この男に至っては疲れる気配も倒れる気配も見えない。
彼は刀を振るいながら、目の前から迫る妖鬼を次々と炎と氷の破魔式で斬り刻む。
そうして、彼は大きく刀を振って目の前から迫ってきた十二単を着た妖鬼を斬り殺す。
服装から見るに、この女はどうやら玉藻直属の24魔将であるのは間違い無いだろう。
神馬は大きく刀を振るうと、そのまま彼女を倒して、先へ先へと進む。
だが、そんな彼の快進撃もその場で終わってしまう。
何故ならば、彼の前には陣羽織を身に纏い、その下に黒塗りの鎧を着込んだ甲冑姿の男が立ち塞がったからだ。
恐らく、妖鬼となったのは戦国の後期、もしくは安土桃山時代の末期くらいだろう。
顎の下に不精髭を生やし、口元に八の字の形に髭を生やした男は腰に下げていた朱塗の鞘から刀を抜き出して、目の前に現れた男に向かってそれを突き付ける。
「どうやら、対魔師の連中にも勇者は居たらしい。まさか、24魔将の一人をあんなにも簡単に討ち取ったとは見事よ。儂の手で討ち取る前に名を聞いておこうか?」
「……松風。松風神馬」
彼はそう言うと刀を構えて目の前に聳え立つ鎧武者の男と対峙していく。
「うむ、良き名じゃ!対魔師にしておくには勿体のない奴よ。どうじゃ、主さえ良ければ儂の家来にならぬか!?」
松風神馬は暫く考える素振りを行う。目の前の陣羽織を羽織ったこの高貴な武者からは悪い匂いがしない。
今まで目の前の男から感じた感覚に従って、正直に言えば、松風神馬は悪い気を持っていなかった。
彼は刀を振り上げながら、目の前で豪快に笑う彼を暫く見つめていたが、視線を下ろし、何か考える素振りを見せた後に彼に向かって言った。
「だめだ」
「何故じゃ!?妖鬼になったのだとしたら、主には不死の力が付くぞ!それが嫌なのか!?」
「……嫌なんじゃない。ただ、上様が駄目っていうから……」
その言葉を陣羽織の武者は苦笑して聞いていた。
彼の放つ言い分はまるで両親の言い付けを素直に守る幼児の様であったからだ。
面白くなったのか、陣羽織の武者はその若い男を揶揄う。
「では、坊主……お前はその上様とやらが、『妖鬼になっても良い』と言えば、妖鬼になるのか?」
松風神馬は言葉に詰まってしまう。
と、言うのも先程、自分が述べた言葉はそれに近い言葉であったからだ。
彼が反論に困っていると、目の前の陣羽織の武者は豪快に笑ってから、大きく胸を叩いて、
「安心せぇい!儂は嫌がる者を無理矢理妖鬼になどしたりはせん!さぁ、何処からでも掛かってまいれ!」
「……では、お言葉に甘えて」
神馬はそう言うと、刀を抜いて風の破魔式を使用して彼に向かって斬り掛かっていく。
この動きは獅子王院風太郎が使用したのと同じ、『つむじ風隙間斬り』
真横からすれ違い様に斬り裂くこの破魔式は強力であり、容易に打ち砕くのは不可能だと言われている。
だが、男はその神馬から放たれ刀を真下に構えた刀で防ぐと、またしても豪快に笑って、
「その心意気やよし!それに対して黙ったままというのはあまりにも失礼!こちらも刀を抜かねば無作法にあたるだろう!それが、儂の刀よ!強い相手には敵だろうと敬意を表するのがな!」
神馬は理解した。この男と自分とがあまりにも二極端に分かれている事を。
神馬は刀を振りながら、目の前の相手と斬り結ぶ。
同時に、男は刃から水を出して彼を牽制していく。
(水!?)
神馬は咄嗟に真後ろに離れたのだが、彼が持っている刀からは水が纏わり付いており、それは水独特の唸り声を上げている。
水が流れる音が神馬の耳の中に響いていく。
神馬が困惑した表情を浮かべていると、
「ハッハッ、小僧!びびっておるな!これこそが儂の魔獣覚醒『水面の轟』よ!いや、水の主と言った方が的確かも知れぬな!」
「……どういう魔獣覚醒なんだ。教えてくれ!」
神馬は発言をした後にまたしても自分の語彙力が足りていない事に気が付く。
本当はもう少し回りくどく聞くつもりであったのだが、神馬はつい正直に尋ねてしまった。
正直に答える馬鹿など居ないだろう。彼が大きく溜息を吐いた後に、彼はまたしても大きな声で笑う。
「正直で良いぞ!坊主!良かろう。儂の魔獣覚醒の特性は水を扱い、水を使役して相手を叩き伏せる!それが、儂の極意よ」
彼はカタナの刀身の中に纏わせた水をうねらせながら叫ぶ。
「ハッハッ、人間正直が一番!正直というのは良いぞ、坊主!何せ、正直でいれば、友達からは慕われ、死後に地獄に堕ちんというおまけ付きだ!これからも、その馬鹿正直な気持ちを大事にしろよ!」
神馬はますます、目の前の男の事が分からなくなってしまう。
本当に、この男は妖鬼なのだろうか。玉藻に適当な金を握らされた何処かの男が真似事をしているのではないか。
そう考えた時だ。彼はまごう事のない水を纏わりつかせた刀を振るいながら、神馬に向かって叫ぶ。
「さて、今日は記念するべき日だ!儂とお前とで斬り結ぶ日!坊主!褒めてやるぞ!初撃であの攻撃を受け止めたのはお前が初めてだ!」
「……ありがとう」
本当はもっと何か、あの男の発言に対して、別の事を言うつもりであったのだが、言葉足らずのためか、上手く言葉が出ない。
やむを得ずに、彼は刀を振って男に斬り掛かっていく。
男はそれを豪快な笑顔と豪快な刀で受け止める。
どうやら、宴はまだ始まったばかりであったらしい。
討滅寮では時の征魔大将軍と副将軍の直々による加持祈祷が行われていた。
三階に存在する執務室は今や、巨大な祈祷室と化していた。
将軍職を務める老婆は懸命に加持祈祷の術を唱えながら、打倒、玉藻紅葉を神に願う。
横で数珠を握りながら、椿は高齢の母の懸命な姿を眺めていく。
(上様……いや、母様は今回の戦いに賭けているんだ。まぁ、こんな機会はもう一千年は訪れないかもしれないからね)
椿はそう考えると、俯くのをやめて母の祈祷に付き合う。
二人としては、この戦いが上手くいく事を祈るばかりである。
松風神馬は彼の得意な破魔式を組み合わせた炎と風の紋章を使用して目の前から迫る妖鬼たちを殲滅していく。
これだけの数が居たとすれば、負ける理由など自然に消滅していく筈であるのに、この男に至っては疲れる気配も倒れる気配も見えない。
彼は刀を振るいながら、目の前から迫る妖鬼を次々と炎と氷の破魔式で斬り刻む。
そうして、彼は大きく刀を振って目の前から迫ってきた十二単を着た妖鬼を斬り殺す。
服装から見るに、この女はどうやら玉藻直属の24魔将であるのは間違い無いだろう。
神馬は大きく刀を振るうと、そのまま彼女を倒して、先へ先へと進む。
だが、そんな彼の快進撃もその場で終わってしまう。
何故ならば、彼の前には陣羽織を身に纏い、その下に黒塗りの鎧を着込んだ甲冑姿の男が立ち塞がったからだ。
恐らく、妖鬼となったのは戦国の後期、もしくは安土桃山時代の末期くらいだろう。
顎の下に不精髭を生やし、口元に八の字の形に髭を生やした男は腰に下げていた朱塗の鞘から刀を抜き出して、目の前に現れた男に向かってそれを突き付ける。
「どうやら、対魔師の連中にも勇者は居たらしい。まさか、24魔将の一人をあんなにも簡単に討ち取ったとは見事よ。儂の手で討ち取る前に名を聞いておこうか?」
「……松風。松風神馬」
彼はそう言うと刀を構えて目の前に聳え立つ鎧武者の男と対峙していく。
「うむ、良き名じゃ!対魔師にしておくには勿体のない奴よ。どうじゃ、主さえ良ければ儂の家来にならぬか!?」
松風神馬は暫く考える素振りを行う。目の前の陣羽織を羽織ったこの高貴な武者からは悪い匂いがしない。
今まで目の前の男から感じた感覚に従って、正直に言えば、松風神馬は悪い気を持っていなかった。
彼は刀を振り上げながら、目の前で豪快に笑う彼を暫く見つめていたが、視線を下ろし、何か考える素振りを見せた後に彼に向かって言った。
「だめだ」
「何故じゃ!?妖鬼になったのだとしたら、主には不死の力が付くぞ!それが嫌なのか!?」
「……嫌なんじゃない。ただ、上様が駄目っていうから……」
その言葉を陣羽織の武者は苦笑して聞いていた。
彼の放つ言い分はまるで両親の言い付けを素直に守る幼児の様であったからだ。
面白くなったのか、陣羽織の武者はその若い男を揶揄う。
「では、坊主……お前はその上様とやらが、『妖鬼になっても良い』と言えば、妖鬼になるのか?」
松風神馬は言葉に詰まってしまう。
と、言うのも先程、自分が述べた言葉はそれに近い言葉であったからだ。
彼が反論に困っていると、目の前の陣羽織の武者は豪快に笑ってから、大きく胸を叩いて、
「安心せぇい!儂は嫌がる者を無理矢理妖鬼になどしたりはせん!さぁ、何処からでも掛かってまいれ!」
「……では、お言葉に甘えて」
神馬はそう言うと、刀を抜いて風の破魔式を使用して彼に向かって斬り掛かっていく。
この動きは獅子王院風太郎が使用したのと同じ、『つむじ風隙間斬り』
真横からすれ違い様に斬り裂くこの破魔式は強力であり、容易に打ち砕くのは不可能だと言われている。
だが、男はその神馬から放たれ刀を真下に構えた刀で防ぐと、またしても豪快に笑って、
「その心意気やよし!それに対して黙ったままというのはあまりにも失礼!こちらも刀を抜かねば無作法にあたるだろう!それが、儂の刀よ!強い相手には敵だろうと敬意を表するのがな!」
神馬は理解した。この男と自分とがあまりにも二極端に分かれている事を。
神馬は刀を振りながら、目の前の相手と斬り結ぶ。
同時に、男は刃から水を出して彼を牽制していく。
(水!?)
神馬は咄嗟に真後ろに離れたのだが、彼が持っている刀からは水が纏わり付いており、それは水独特の唸り声を上げている。
水が流れる音が神馬の耳の中に響いていく。
神馬が困惑した表情を浮かべていると、
「ハッハッ、小僧!びびっておるな!これこそが儂の魔獣覚醒『水面の轟』よ!いや、水の主と言った方が的確かも知れぬな!」
「……どういう魔獣覚醒なんだ。教えてくれ!」
神馬は発言をした後にまたしても自分の語彙力が足りていない事に気が付く。
本当はもう少し回りくどく聞くつもりであったのだが、神馬はつい正直に尋ねてしまった。
正直に答える馬鹿など居ないだろう。彼が大きく溜息を吐いた後に、彼はまたしても大きな声で笑う。
「正直で良いぞ!坊主!良かろう。儂の魔獣覚醒の特性は水を扱い、水を使役して相手を叩き伏せる!それが、儂の極意よ」
彼はカタナの刀身の中に纏わせた水をうねらせながら叫ぶ。
「ハッハッ、人間正直が一番!正直というのは良いぞ、坊主!何せ、正直でいれば、友達からは慕われ、死後に地獄に堕ちんというおまけ付きだ!これからも、その馬鹿正直な気持ちを大事にしろよ!」
神馬はますます、目の前の男の事が分からなくなってしまう。
本当に、この男は妖鬼なのだろうか。玉藻に適当な金を握らされた何処かの男が真似事をしているのではないか。
そう考えた時だ。彼はまごう事のない水を纏わりつかせた刀を振るいながら、神馬に向かって叫ぶ。
「さて、今日は記念するべき日だ!儂とお前とで斬り結ぶ日!坊主!褒めてやるぞ!初撃であの攻撃を受け止めたのはお前が初めてだ!」
「……ありがとう」
本当はもっと何か、あの男の発言に対して、別の事を言うつもりであったのだが、言葉足らずのためか、上手く言葉が出ない。
やむを得ずに、彼は刀を振って男に斬り掛かっていく。
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どうやら、宴はまだ始まったばかりであったらしい。
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