THE Lucifer GAME〜下心のために契約を結んでしまった俺は死なないために頭を使ってデスゲームを生き残ります!〜

アンジェロ岩井

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第二部『箱舟』

姫川美憂の場合ーその⑦

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美憂は全力を掛けて戦うつもりであった。それこそが自分に対して願いの事を話してくれたウォルターへの礼儀であると考えたのだ。美憂はレイピアを突き付けていく。風を切る音が美憂の肌を撫でていく。なんとも心地の悪い風である。
それでも美憂は懸命に戦い続けていた。何度かレイピアと打ち合う末に美憂はウォルターが疲労し始めている事に気が付いた。このまま推し進めていけば自分は勝てるかもしれない。そんな淡い期待を抱いた時だ。不意にウォルターの攻撃の手が止まった。

「……見事だ。キミがここまでの腕だったとはな……この前の時よりも腕をあげたな。キミを子供と侮って下に見ていてはならん。私も全力でキミに答えようじゃあないか」

(なんだと?今までの戦いは本気でこそあれど、全力ではなかったというのか?)

美憂が思わず生唾を飲み込むのと、ウォルターの両手にカトラスの代わりに左右に鋭利な刃が付いた鎌が装備されたのは殆ど同時であった。

「ま、まさか、そんな武器があったなんて……」

「意外だったか?」

ウォルターは鎌を大きく振りながら美憂を攻撃していく。正直に言えば大きな鎌と美憂の細いレイピアでは分が悪かった。鎌によって揺らされていくレイピアの刃を見るたびに美憂は不安に駆られてしまうのであった。そして細い剣身では防ぎきれなくなったのか、迎撃のために放ったレイピアが弾かれて、そのままウォルターの持つ鎌の刃が美憂の元へと迫っていったのである。
美憂は兜こそ被っていれども、他のサタンの息子とは異なり下の装備は軍服なのだ。それだけ首も跳ねやすかった。
そこに助けに向かったのは秀明である。彼は美憂の代わりにウォルターの鎌を防いで、美憂を首斬りの憂目から救ったのである。

「……二本松か?」

「あぁ、無事だったか?」

秀明はサーベルで自身の元へと迫り来る鎌を防ぎながら自身の背後にいる美憂を案じていたのである。

「……あたしは無事だ。しかしどうしてあんたが?」

「決まってるだろ。仲間だからかだ」

「……仲間?」

「そうだとも、ウォルターや一緒にあの狂った女と戦って、志恩を守る騎士仲間だろ?」

美憂は秀明の冗談に思わず微笑を浮かべてしまっていた。だからだろう。自然と彼女の口から出る言葉も軽かった。

「あぁ、そうだな」

「そうだッ!だから、こうして仲間を止めるのは当然の事なんだッ!」

秀明は勢いのまま鎌ごとウォルターを押し返した。ウォルターは両足のバランスを崩し掛けたが、なんとか耐えたらしい。
うまくその場で足を踏みとどまった彼はもう一度鎌を持って秀明の元へと突っ込んでいったのである。
秀明は自身の剣を真上に構える事で攻撃を防いだが、その際に剣を通して鎌から伝わる衝撃のようなものも伝わってしまったのだろう。秀明は兜の下で苦痛に顔を歪めた。

「無茶だッ!今すぐに助けに向かうぞ!」

「バカ野郎ッ!このまま志恩を連れて逃げろッ!」

「バカはお前だろう!?この状態だと死んでしまうじゃあないかッ!」

「うるせぇ!弟や仲間を守れて死ねるんだったら本望だよッ!」

秀明はウォルターにサーベルを打ち付けながら叫んだ。
美憂は秀明の意志を無駄にしてはいけないと感じたのか、志恩に向かって逃げ出すように指示を出す。

「に、兄さんは!?」

「その兄さんからの指示だッ!ここは一旦引くぞ!」

「でもッ!」

「兄さんの意志を無駄にしたいのか!?」

その一言で志恩はこの場所からの撤退を決意したらしい。美憂と共にその場を去っていく。一旦近くの家の中に身を潜めようとしたのだが、その家の人間に見つかってしまってからは逃げにくくなってしまった。
というのも、信者たちが集まって教祖の敵を排除しようとしていたからだ。そこに美憂と志恩が逃走の最中といえども住居の中に侵入したのは痛手であったらしい。ただでさえ警察官の無理な捜査によって家族や仲間が殺され、家の中が荒らされた状態でにあったのだ。
そこに教祖と敵対する人物が侵入すればその家にいる人が家を守るために武装して追い回すのは当然といえたし、その考えが回り回って他の信者たちに伝わっていくのも当然といえた。悪いのは逃げるのに必死になるあまりにその考えを頭から抜け落としていた二人なのである。

二人は慌てて道を走って逃げ出していくのだが、気が付けばどこもかしこも武装した信者たちで一杯であった。
古めかしい格好をした老若男女が凶器や懐中電灯、松明などを持って二人を追い掛けてきていた。
いや、途中で涙目になっていた恭介が合流したので、正確には三人であろう。
とりわけ恭介は三人の中でもパニックに陥りやすいのか、他の二人の不安を煽るような発言を平気で行うのであった。
とりわけどこかの建物の裏に隠れた時の恭介の反応は顕著であった。

「だ、だめだよ……オレたちはきっとあいつらに殺されてしまうんだ」

「バカ野郎が……卑屈になるんじゃあない。このまま息を潜めていればもしかしたら助かるかもしれんだろ?」

美憂の問い掛けにも恭介は何も言わずに全身を震わせるばかりであった。
そんな恭介の肩を強く掴んで揺さぶっていた時だ。信者たちの一人が人差し指を指して大きな声で叫んだ。

「その建物の後ろにあいつらが隠れているぞッ!」

この一言は散らばっていた人々をそこの場所に集結させるには十分であった。
血走った目に正気を失った人々は狂気と凶器を携えながら建物の陰へと向かっていく。

「や、やべーよな?あいつらどうするんだ?」

恭介の問い掛けに対して、美憂は黙って兜の牙を折ると、それを地面の上にばら撒いていく。同時に地面の上から何人もの姫川美憂が現れたのである。
美憂は分身の美憂に人々の間を縫ってあちこちに逃亡する様に指示を出す。
同時に人々は目の前で人参を吊り下げられて、それを追い掛けて食うために走る馬の様に美憂の思惑にのって分身を追い掛けていくのである。
美憂は正気を失った人々が分身を追い掛けているのを建物の陰から観察し、居なくなったのを確認して仲間たちに指示を出す。

「……いいか、あたしたちはこのまま建物や置物の陰を利用しながらこの狂った街の入り口を目指して突き進むぞ……」

「な、なぁ、姫川」

「なんだ。質問か?」

「い、いやそうじゃあないんだ。も、もしこの場から誰も殺さずに帰る事ができたらお、オレとーー」

「おれと?なんだ?」

恭介はどうしてもこの後の言葉が言い出せなかった。言葉が詰まって出てこないのだ。まるで喉に頑強な岩盤によって防がれているかの様に。

「なんだ?早く言え」

「……おれとまた喫茶店に行かないか?今度おれの家の近所に美味しいケーキを売っている店ができるらしいんだ」

「……そこは抹茶の菓子も置いてあるのか?」

美憂の問い掛けに恭介は言葉を濁しながら、

「そ、それはわからないけどさ」

と、兜の上から頭をかいた。

「まぁ、いいだろう。あたしの予定が何もない日にお前に案内してもらおうか」

「そ、それって……」

「あたしはあんたの地元に行った事がないからな」

「も、勿論おれはいつでも大歓迎だぜ!」

喜ぶ恭介の袖を可愛らしい動作で引きながら志恩が言った。

「その話もいいけどさ、そろそろ行かないとまずいんじゃあないかな?」

志恩の一言に恭介は慌てて美憂と共に陰に隠れながら出口を目指して進んでいくのであった。
後少しだけバレなければ万事上手くいくのだ。どうか見つかりませんように……。
恭介は心の中で神に祈った。悪魔と契約している身だというのに神に祈るというのは変であったが、今の恭介には神にでも祈りたい気分であったのだ。
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