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追想編
ゼロから始まる奪還劇
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その晩、私は部屋付きの例の黒い髪にそばかすが特徴の若いメイドに尋ねてみた。
「ねぇ、話し合いもせずに相手を撃ち殺すのってやっぱりいけない事なの?」
彼女は即答した。
「ええ、いけない事です」
彼女は私の髪をとかしながら言った。彼女は私の髪を整えながら理由を話していく。
「今、現在の南北にまたがる四大国家の間では賞金首にまつわる制度が設けられていますが、本来ならばとても野蛮な事なんですよ」
そう語る彼女の目は真剣そのもの。私は何も言えずに視線を落として部屋に用意された鏡に映る自分を眺めていた。
その時の私はどんな表情をしていたのだろう。詳しくは覚えていない。
だが、何となく何処か違和感を感じたのは事実だ。
何となく髪をとかしている自分の侍女の言葉が本音で話している様には聞こえなかったのだ。まるで、自分の言葉ではない誰かの言葉を無機質に話している様に聞こえたのだ。
思えば、これが彼女から逃げるラストチャンスであったかもしれない。
だが、当時の私に彼女が危険かどうかと判別できるわけもなく、彼女の勧めるがままに用意された紅茶を飲み干す。
紅茶を飲み終えた直後には何の違和感をも感じられなかったのだが、暫くすると目眩を感じてベッドの中へと倒れ込む。
それから、私は縄で縛られて見慣れぬ長椅子の上に座らされていた。
私の側には私の侍女いや、部屋付きのメイドをしていた例の短い黒い髪の女性ともう一人、思わず嫌悪感をそそられがちなチャラチャラとした雰囲気の赤い髪の男性が私を指して笑っていた。
「どうだい?お前さん!あたしのやり方は見事なものだろう!?」
「勿論だぜ、しっかしよぉ~お前の演技力と忍耐力には感服せずにはいられないぜぇ~いつも、ガキと信頼を築くまでの長い時間をそこでひたすらへーこらして過ごすんだから、オレだったら、あんな苦労知らずのガキなんて一目見ただけで撃ち殺しているよ」
「そこがあんたとの差だね。まぁ、そんなあんたが好きだから、あたしはあんたと一緒になったんだけどさ」
そう言って笑い合う二人。私は思わずに身震いしてしまう。
この二人はこれまでも似たような事件を起こしていたというのか。それだけではない。先程、あの男は平気で『撃ち殺す』という単語を口にしていた。
恐らく、この二人は私に利用価値が無くなったのと同時に、私を殺すに違いない。私はあまり巷のニュースを仕入れなかった事を後悔していた。
どうすれば良いのかと途方に暮れていると、私の隣に男が座って私の銀色の髪を撫で回していく。
鳥肌が立ったものの男は容赦する気配すら見せる事なく髪を弄っていくのだが、あの女の叫ぶ声で男はようやく手を回すのを辞めた。
男が舌を打って引き下がった代わりに、例の女が私の元にまで現れて私の頬を思いっきり叩く。
「人の男に色目を使っているんじゃあないよ!この小娘がなんて図々しい子だい!」
何を言っているのか理解できない。私は殴られた頬を撫でながらそう考えていた。
脱出の機会を伺うために外を眺めようとしたが、窓は板を打ち付けており、外を眺められないようになっている。
過去にそうして逃げた被害者がいたのか、はたまた彼らの用心によるものなのか。
ともかく、この不利な状況ではどうする事もできまい。
私が目の前を眺めていると、そこには懸命に手紙を書いている女の姿が見えた。
その側で壁にもたれながらニヤニヤと笑う男。
女は必死にペンを動かし、彼に向かってそれを自慢げに見せていた。
「どーだい!一字一句間違えない!あたしのこの完璧な筆の腕を見たかい!?あんた!」
「あぁ、どこをどう読んでも完璧だァ~王国のアホどもはこれを見たら、おったまげちまうだろうぜ」
「そして、自分たちのザルな警備を後悔するだろうねぇ~王室っていうのも案外、バカなんだねぇ~」
と、二人は呑気に笑っていた。私は確信を得た。こういうタイプは身代金を受け取るのと同時に人質を殺すタイプだと。
実際、この時の私の読みは当たっていた。後で新聞を読んで確認したのだが、彼らは人質として連れ去った金持ちや貴族の子供たちを殺していたという事を。
だが、当時の私はそんな事は知らずに、まさか王女である自分を殺そうとはしないと思っていた。
当然だろう。王女を殺したとなれば、必ず父は憤慨し、犯人の摘発に全力を注ぎ、一国を敵に回す事になるであろうから。
だが、この二人はこの後にニューヨーシャー王国に亡命するつもりだったらしいから、私の読みは外れていた事になる。
私は一歩間違えれば、そこで死んでいた事になる。
いや、あのままでは間違いなく死んでいただろう。
こっそりと姉が助けに来てくれなければ……。
私が姉と犯人のアジトで思いがけぬ出会いを果たしたのはその日の夜の事だった。
目を輝かせながら、身代金の話をする二人は私を一人、部屋の中に残し、その場から去っていく。
私が長椅子の上で不穏な夜を過ごそうとした時だ。
長椅子の下からドレスの裾を引っ張られて、私は思わずに驚いてしまいそうになり、長椅子の下に隠れていた姉に口を塞がれてしまう。
私はいきなり現れた姉を問い詰めた。
「……お姉様、どういう事ですの?どうして、あなたがここに……?」
照れ臭そうに笑う姉はどうしてここにいるかという経緯を話していく。
姉はこっそりと犯人の馬車の長椅子の裏に隠れて二人が降りたのを見計らって夜の闇に紛れてここに現れたらしい。
そして、二人が私を拘束し運ぶ事に夢中になっている隙に物陰を利用し、部屋の近くの物陰に隠れた後に、二人が手紙に夢中になっている隙を突いて、長椅子の下に潜り込んだのだという。
姉は懐に隠し持っていた銃を見せながら言った。
どうやら、姉はこれで二人を脅して逃亡するらしい。
次の扉が開いた瞬間がチャンスだという。
目を輝かせてそんな事を主張する姉を見て思わず溜息を吐いてしまう。
その心意気は結構なのだが、どうせだったら、扉を開ける器具か何かを一緒に持ってくれば良いのと思った。
そんな姉に呆れ果てながらも、家族と出会えてホッとしたのだろう。
私はそのまま長椅子の上で微睡の底へと落ちていく。
私が夢の世界から現実へと引きずり戻されたのは二人組の男女が私を揺すり動かした時だった。
私が真上を眺めると、そこには血相を変えた表情の元部屋付きのメイドが私を見下ろしていた。
「チクショー。あんたを追って射撃の教師が来るなんて聞いてないよ。うちの男はそれで……ともかくだッ!直ぐにここを移るよッ!」
その言葉と共に私は長椅子の上から乱暴に落とされてしまう。
「ねぇ、話し合いもせずに相手を撃ち殺すのってやっぱりいけない事なの?」
彼女は即答した。
「ええ、いけない事です」
彼女は私の髪をとかしながら言った。彼女は私の髪を整えながら理由を話していく。
「今、現在の南北にまたがる四大国家の間では賞金首にまつわる制度が設けられていますが、本来ならばとても野蛮な事なんですよ」
そう語る彼女の目は真剣そのもの。私は何も言えずに視線を落として部屋に用意された鏡に映る自分を眺めていた。
その時の私はどんな表情をしていたのだろう。詳しくは覚えていない。
だが、何となく何処か違和感を感じたのは事実だ。
何となく髪をとかしている自分の侍女の言葉が本音で話している様には聞こえなかったのだ。まるで、自分の言葉ではない誰かの言葉を無機質に話している様に聞こえたのだ。
思えば、これが彼女から逃げるラストチャンスであったかもしれない。
だが、当時の私に彼女が危険かどうかと判別できるわけもなく、彼女の勧めるがままに用意された紅茶を飲み干す。
紅茶を飲み終えた直後には何の違和感をも感じられなかったのだが、暫くすると目眩を感じてベッドの中へと倒れ込む。
それから、私は縄で縛られて見慣れぬ長椅子の上に座らされていた。
私の側には私の侍女いや、部屋付きのメイドをしていた例の短い黒い髪の女性ともう一人、思わず嫌悪感をそそられがちなチャラチャラとした雰囲気の赤い髪の男性が私を指して笑っていた。
「どうだい?お前さん!あたしのやり方は見事なものだろう!?」
「勿論だぜ、しっかしよぉ~お前の演技力と忍耐力には感服せずにはいられないぜぇ~いつも、ガキと信頼を築くまでの長い時間をそこでひたすらへーこらして過ごすんだから、オレだったら、あんな苦労知らずのガキなんて一目見ただけで撃ち殺しているよ」
「そこがあんたとの差だね。まぁ、そんなあんたが好きだから、あたしはあんたと一緒になったんだけどさ」
そう言って笑い合う二人。私は思わずに身震いしてしまう。
この二人はこれまでも似たような事件を起こしていたというのか。それだけではない。先程、あの男は平気で『撃ち殺す』という単語を口にしていた。
恐らく、この二人は私に利用価値が無くなったのと同時に、私を殺すに違いない。私はあまり巷のニュースを仕入れなかった事を後悔していた。
どうすれば良いのかと途方に暮れていると、私の隣に男が座って私の銀色の髪を撫で回していく。
鳥肌が立ったものの男は容赦する気配すら見せる事なく髪を弄っていくのだが、あの女の叫ぶ声で男はようやく手を回すのを辞めた。
男が舌を打って引き下がった代わりに、例の女が私の元にまで現れて私の頬を思いっきり叩く。
「人の男に色目を使っているんじゃあないよ!この小娘がなんて図々しい子だい!」
何を言っているのか理解できない。私は殴られた頬を撫でながらそう考えていた。
脱出の機会を伺うために外を眺めようとしたが、窓は板を打ち付けており、外を眺められないようになっている。
過去にそうして逃げた被害者がいたのか、はたまた彼らの用心によるものなのか。
ともかく、この不利な状況ではどうする事もできまい。
私が目の前を眺めていると、そこには懸命に手紙を書いている女の姿が見えた。
その側で壁にもたれながらニヤニヤと笑う男。
女は必死にペンを動かし、彼に向かってそれを自慢げに見せていた。
「どーだい!一字一句間違えない!あたしのこの完璧な筆の腕を見たかい!?あんた!」
「あぁ、どこをどう読んでも完璧だァ~王国のアホどもはこれを見たら、おったまげちまうだろうぜ」
「そして、自分たちのザルな警備を後悔するだろうねぇ~王室っていうのも案外、バカなんだねぇ~」
と、二人は呑気に笑っていた。私は確信を得た。こういうタイプは身代金を受け取るのと同時に人質を殺すタイプだと。
実際、この時の私の読みは当たっていた。後で新聞を読んで確認したのだが、彼らは人質として連れ去った金持ちや貴族の子供たちを殺していたという事を。
だが、当時の私はそんな事は知らずに、まさか王女である自分を殺そうとはしないと思っていた。
当然だろう。王女を殺したとなれば、必ず父は憤慨し、犯人の摘発に全力を注ぎ、一国を敵に回す事になるであろうから。
だが、この二人はこの後にニューヨーシャー王国に亡命するつもりだったらしいから、私の読みは外れていた事になる。
私は一歩間違えれば、そこで死んでいた事になる。
いや、あのままでは間違いなく死んでいただろう。
こっそりと姉が助けに来てくれなければ……。
私が姉と犯人のアジトで思いがけぬ出会いを果たしたのはその日の夜の事だった。
目を輝かせながら、身代金の話をする二人は私を一人、部屋の中に残し、その場から去っていく。
私が長椅子の上で不穏な夜を過ごそうとした時だ。
長椅子の下からドレスの裾を引っ張られて、私は思わずに驚いてしまいそうになり、長椅子の下に隠れていた姉に口を塞がれてしまう。
私はいきなり現れた姉を問い詰めた。
「……お姉様、どういう事ですの?どうして、あなたがここに……?」
照れ臭そうに笑う姉はどうしてここにいるかという経緯を話していく。
姉はこっそりと犯人の馬車の長椅子の裏に隠れて二人が降りたのを見計らって夜の闇に紛れてここに現れたらしい。
そして、二人が私を拘束し運ぶ事に夢中になっている隙に物陰を利用し、部屋の近くの物陰に隠れた後に、二人が手紙に夢中になっている隙を突いて、長椅子の下に潜り込んだのだという。
姉は懐に隠し持っていた銃を見せながら言った。
どうやら、姉はこれで二人を脅して逃亡するらしい。
次の扉が開いた瞬間がチャンスだという。
目を輝かせてそんな事を主張する姉を見て思わず溜息を吐いてしまう。
その心意気は結構なのだが、どうせだったら、扉を開ける器具か何かを一緒に持ってくれば良いのと思った。
そんな姉に呆れ果てながらも、家族と出会えてホッとしたのだろう。
私はそのまま長椅子の上で微睡の底へと落ちていく。
私が夢の世界から現実へと引きずり戻されたのは二人組の男女が私を揺すり動かした時だった。
私が真上を眺めると、そこには血相を変えた表情の元部屋付きのメイドが私を見下ろしていた。
「チクショー。あんたを追って射撃の教師が来るなんて聞いてないよ。うちの男はそれで……ともかくだッ!直ぐにここを移るよッ!」
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