婚約破棄された悪役令嬢の巻き返し!〜『血吸い姫』と呼ばれた少女は復讐のためにその刃を尖らせる〜

アンジェロ岩井

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第二章『王国を覆う影?ならば、この私が取り除かせていただきますわ』

血吸い姫に惚れたのはシュポス

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「よぉ、シュポス」

「よぉ、ユーリ。久し振りだなぁ」

「お前の方こそ何年振りだよ、おい」

二人の美男子は馴れ馴れしく肩を叩き合い、前から少しも変わらない深い友情を確かめ合ったのだった。
二人はカウンター席に座り、酒のつまみとなる料理を注文し、先に届いた酒を飲み干すとお互いに積もる話を行なっていく。大抵がつまらない話だ。
二人が盛り上がる様子は異常とも言えた。話が盛り上がるにつれて下品で大きな笑い声を上げるものだから、周りにいる人々から奇異の目を向けられるほどであった。
昔話も終わりに近付いてきた頃のことだ。不意に短い黒い髪をしたシューポスと呼ばれた男が男が何気なしに切り出した。

「オレさぁ、今度フィンを殺すことになっているんだけどさ。それでお前もオレと協力して王子を殺してみないか?」

「……唐突だな」

ユーリは親友の突然の問いかけに対して混乱していたが、すぐに口元に怪しげな笑みを浮かべて答えた。

「悪くはないぜ、オレの鞭とお前の針の技が合わさればあの王子を必ず殺せる」

ユーリは懐から新調した鞭を取り出し、それを見せびらかしながら言った。

「おい、ユーリ、お前さんの得物はどうした?なんで鞭が違ってんだ?」

「ヘヘッ、ある男に鞭を奪われちまったからな……取り返すまではこいつで戦わなくちゃあならねぇんだ」

「お前さんが鞭を奪われるなんて初めてだぜ。余程のことがあったんだな」

「あぁ、そいつは強いからな。オレでさえしばらく前にそいつにやられて当分の間、病院のベッドの上で暮らしていた」
「病院のベッドの上?殺されなかったのかい?」

「運が良くてね。殺されなかったよ。そいつがオレを殺してくれなかったお陰でオレはこうしてお前さんと酒が飲めてるわけだ」

ユーリはグラスに入った酒を掲げながら言った。その後でグラスを一気に飲み干していく。
それから勢いよくグラスを机の上に置いた後に身を乗り出しながら親友に向かって言った。

「だが、相棒……お前さんも知っての通りだ。この世界っていうのは躊躇した方が負けなんだ。だから、今回の戦いではそいつの首を遠慮なく取りに行くぜ、そいつと違ってオレは躊躇なんかしない」

それを聞いてシュポスは満足そうな笑顔を見せて。それから無言で自身のグラスをユーリのグラスに近付けていく。
グラスがぶつかり合う。この時の音がなんとも気持ちがいい。
ぶつかり合う音を楽しんだ後でシュポスは一気飲みをしたのだった。

「いいねえ、それでこそオレの親友だ」

ユーリは感心したように言った。

「ありがとうよ、じゃあ、今夜は殺しの前祝いってことでよ、たっぷりと酒を飲もうよ」

「わかった、わかった。お前さんも本当に酒が好きだねぇ」

ユーリは困ったように言った。

「当たり前よ、『酒は百薬の長』って言葉があるくらいだからな」

ユーリはケラケラと笑うと、店員に新たな酒を頼み、シュポスともう一度乾杯を行なった後にグラスに注がれた酒を一気に飲み干していく。
その日の酒は二人を快くさせた。そのためにいつもより多くの量の酒を飲んでしまっていたのだ。
普段ならば飲むはずのない量の酒を飲んだことは明らかな失敗だった。シュポスは拠点にしている宿へと帰る最中にフラフラとした足取りで宿を逸れてしまい、路地裏へと迷い込んでしまった。
シュポスが慌てて引き返そうとした時だ。なにやらドタドタとした音が聞こえた。単に走り回っている音ではない。何かから怯えて逃げている音だ。

シュポスが異変を感じて、慌てて近くにある物陰に身を隠して様子を伺っていると、いかにも悪人という風体の人相の悪い男が何かに怯えるように逃げていた。
人相の悪い男は慌ててその場から逃げ出そうとしたのだが、背後から現れたと思われる人物に服の襟首を掴まれて、強制的に地面に顔をぶつけられてしまった。
その上に誰かが飛び乗った。シュポスが目を凝らしていると、スカートの裾が見えた。色は黒だ。辺りが暗くて顔はよく見えないが女性だろう。

人相の悪い男は慌ててその場から逃げ出そうと体をもがいたものの、女性の体が重しとなって動けそうになかった。
女性はそんな男の首元に向かって勢いよく針を埋め込んだのであった。あまりにも素早く針を突き刺したのだからシュポスには女性が針を飛ばす姿が見えなかった。

シュポスは大胆にも自分へ向かって針を飛ばした女性の顔が気になって様子を伺う。シュポスは顔を見た瞬間に恋に落ちた。舞台に立つような美人女優も裸足で逃げ出すような顔とそれに似つかわしくない職業にシュポスは惚れ込んだのだ。あの女性はなんというのだろう。
シュポスは後をつけたい気持ちを我慢して物陰に潜んでその女性が立ち去るのを待った。

今の手口から見るに、彼女は害虫駆除人で間違いない。それも昨日今日駆除人になったばかりの新人からは見られない、手慣れたものだ。
躊躇なく針を突き刺して殺す姿から、そのことが容易に想像できた。
シュポスは彼女が立ち去るのと同時に彼女が殺した人物を黙って見下ろしていく。死体を見る限り針が延髄に突き刺さり、脊髄に到達したこと死因であることは間違いなかった。

シュポスはこんな難しい芸当を躊躇なくやり遂げた彼女に対してますます興味を持ち始めた。この瞬間からシュポスの中からは任務のことなどは全て消えてしまったといってもいい。害虫駆除人であろう美少女を自分のものにするのだという思いばかりが頭を支配していた。

翌日昨日の駆除のことを内緒にして付近の人々に彼女の情報を説明していく。
美しい顔に磨いたばかりの金貨のように光り輝く金色の髪、全身から溢れる気品などを付近の人々に対して伝えていった。
説明を聞いた人々は全員が同じ人物を示した。

「それはレキシーさんの診療所でレキシーさんの助手をしてるカーラちゃんじゃないかな?」

最後にそう答えた人物にシュポスはカーラの場所を問い掛けた。
最後に答えた人物にシュポスはレキシーの診療所の場所を聞いて真っ直ぐに駆け寄っていく。だが、走っている途中で何かを思い出したように足を止めた。シュポスはせっかく告白を行うのならば何か手土産を用意した方がいいと判断し、目に入った菓子屋でパウンドケーキが入った箱と新しく発売されたキャラメルという砂糖菓子を購入していく。
その二つの菓子を持ったままシュポスは診療所の扉を開けて、患者の応対を行なっているカーラに向かって叫んだ。

「これを受け取ってくれッ!」

カーラは思わぬ応対を受けて固まってしまっていたが、応対をしていた患者にことわりを入れ、菓子を持ったまま男の元へと向かっていく。
男をよく観察するとなかなかの美男子であった。絵画に描かれる空想上の美男子のように整った顔も魅力的であったが、短く整った黒い髪もカーラの関心を惹いた。だが、顔が美しいということと急な来訪を咎めることは別の問題である。
カーラはその美男子に向かって注意の言葉述べた上で今の時間が診療中であるということを告げた。

「そ、そんな堅いことを言わないでくれよ」

「いけませんわ!今は診察中ですのよ!私に御用でしたら終わった後にお尋ねしてくださいませ!」

カーラの気迫に押され、シュポスは小刻みに首を縦に動かし、すごすごとその場から立ち去っていく。
カーラは患者の応対に戻ると、先程までカーラの診察を受けていた小太りの患者は苦笑いを浮かべながら言った。

「カーラも大変だね。この前もレストランオーナーだったメイソンさんに婚約を言い渡されてなかったっけ?」

「えぇ、でもお断りいたしまたわ」

「やっぱり、宮廷でのことがトラウマになってたの?」

「まさか」と、カーラはその患者の言葉を笑い飛ばしたのであった。

「メイソンさんと私とでは親子ほど歳が離れていましたもの、うまくいくわけがありませんわ」

「なるほど、じゃあさっきの男はなんで振ったの?メイソンと違って若かったし、随分といい男に見えたけど……」

「単純に今が診察中だからですわ。さぁ、お分かりになりましたら診察を続けますわよ」

カーラはレキシーの助手として患者を診る作業に戻っていった。こうしてまたいつも通りの日々が過ぎていった。

最終診察の時間が過ぎ、レキシーと二人で診療所を閉めて自宅に帰ろうとした時だ。先程の男ーーシュポスの姿が見えた。
男に向かってカーラは冷静な口調で問い掛けた。

「それで、なんの用ですの?」

「これ受け取ってくれッ!」

菓子が入った箱を手渡しながら叫ぶ。突然のことに目を白黒とするカーラに向かってシュポスは勢いをつけて叫んだ。

「オレはシュポスって者だ。突然で悪いんだが、オレはあんたに惚れちまったんだッ!付き合ってくれッ!」

「ど、どうしてですの!第一、私はあなたを初めて見ましたわ!」

「そりゃあ、そうでしょう。実は私があなたを見たのは特殊な状況にあった時でして……」

シュポスはここで真剣な顔を浮かべてカーラの元へと近寄っていく。
それから困惑するカーラの耳元で囁いていく。それを聞いた時にカーラは自身の心臓が口から出ていくかのような衝撃を受けた。
男が自身の耳元から離れると、カーラは男に向かって冷たい声で問い掛けた。

「……シュポスさんと仰られましたわね?立ち話は何ですので、よければお酒の出る店でお話し致しませんか?ちょうどいい場所を知ってますの」

カーラはギルドマスターが経営する酒場のある方向を指差しながら言った。
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