婚約破棄された悪役令嬢の巻き返し!〜『血吸い姫』と呼ばれた少女は復讐のためにその刃を尖らせる〜

アンジェロ岩井

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第三章『私がこの国に巣食う病原菌を排除してご覧にいれますわ!』

“従姉妹”と“従兄弟”に睨まれまして

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ギルドマスターは表向きの稼業として酒場を営んでいる。それはこの街に住む駆除人であったり、どこか闇の世界に生きる者ならば大抵が知っていることであった。
だが、知らない人からすれば夜に経営している街中の小さな酒場の一つである。ギルドマスターは怪しまれないように表向きの稼業にも手抜かりはない。酒場として楽しんでもらえるように昼間は懸命に下拵えやら準備やらに励んでいたのである。

この日も酒場を営むスペースでつまみの下拵えを行い、酒を運んでいた時だ。扉をノックする音が聞こえた。扉の向こうからはカーラの声が聞こえた。
どうやら裏稼業についての相談であるらしい。ギルドマスターは扉を開き、カーラを準備途中の酒場の中へと招き入れていく。
扉を閉めてからカーラを応接室へと連れて行き、机の上に後払い分の報酬が入った袋を置く。

「ジェイコブ・アープを駆除してくれた報酬だ。あいつの件は酒の飲み過ぎによる中毒死だと片付けられたよ」

「まぁ、あの乱暴なお方に相応しい死因ですわ。本当のところは違うのですけれど、まぁ、そこは日頃の行いの差というところでしょうね」

カーラがどこか意味があるような含みを思わせる薄ら笑いを浮かべて言った。
世間でいうところの腹黒さを備えた笑みである。

こうした意味深な笑みを浮かべた時のカーラは本当に世間がいうところの悪女に思えた。
だが、ギルドマスターはそのことをおくびにも出さず、淡々とした様子で話を続けていく。

「あいつが駆除されたことで、また一つ世の中が平和になるだろうな」

「だといいんですけれど」

カーラは机の上に置かれた報酬が入った革の袋を懐の中に仕舞いながら答えた。

「まぁ、そう上手くいかんのが世の中というものだ。今もどこかで害虫が虫ケラの分際でブンブンと羽音を立てて人様にまとわりついて、その生き血を啜っているだろうさ」

ギルドマスターは腕を組みながら忌々しげに吐き捨てた。
ギルドマスターがそんなことを吐き捨てたせいか、どこか重い空気が応接室の中を漂っていた。
ギルドマスターは自身の失敗に気が付き、慌てて話題を変えた。

「そういえば、お前さんが昼間に訪れるのは久方振りだね。何かあったのかい?」

カーラは昨日の出来事と診療所の手伝いの帰りに寄れない事情を語っていく。
事情を聞いたギルドマスターは納得した顔を浮かべて首を小さく縦に動かす。

「なるほど、性質の悪い貴族に絡まれているんだね」

「えぇ、『私たちが介抱した』……ただそれだけの理由で何度も訪ねてくるんですのよ。そのお二方のことは何も知らぬというのに……迷惑極まりませんわ」

実はカーラが介抱したのはギルドマスターから事前の情報として知らされたエドガーとマグシーという二名の男のことであったのだが、カーラは二人の顔を知らないので、そのことは知りようもない。
故にギルドマスターに対して、愚痴混じりに話すことができるのだ。
ギルドマスターはカーラの言葉を聞いて、しばらく唸っていたが、すぐに穏やかな声を出して、

「お前さんも大変だったねぇ。なら、疲れを癒すために昼飯でも食べていくかい?」

と、カーラの苦労を労ったのである。
ギルドマスターはカーラへの昼食を準備するために席の上から立ち上がると、酒場を営んでいる場所へと向かう。酒を提供する場に立つと、ギルドマスターはグラスを手に取り、水差しを手に取ると、その中に水を注いでいく。

水を注いでからは素早くハムとレタスが挟まれたお馴染みのサンドイッチを作り上げて、皿の上に載せると、カーラの前に差し出したのであった。
カーラは嬉しそうな表情を浮かべながらギルドマスターに尋ねた。

「本当にいただいてもよろしいんですの?」

「あぁ、しかも無料だ。男に二言はないから安心して食べるといい」

ギルドマスターは口元に微笑を歪めながら言った。

「しかし、酒場だというのにどうしてお水なんですの」

カーラが不満そうに口を尖らせながら問い掛けた。

「お前さん、この後も診療所でレキシーの手伝いがあるだろ?だから、水なんだよ」

それを聞いたカーラは納得した表情を浮かべた。
水とサンドイッチという簡単な昼食をとってからカーラはギルドマスターに頭を下げて診療所へと戻っていく。

問題は金貨が入った袋であるが、残った休みの時間を利用して棚の中にでも仕舞い込めば患者にはバレることはないだろう。
昼休憩が終わり、あと一踏ん張りというところである。カーラは自身に念を送り、気合を入れた。












同じ頃、カーラの従兄弟であるロバート・ハンセンは不機嫌な様子で屋敷にある自身の部屋の中を歩き回っていた。
というのも、自分たちに恥をかかせた二人の男の素性がわからぬばかりか、わざわざ貴族の男性が自らの足で平民の家に足を運んでいるという譲渡の姿勢を見せているのにも関わらず、あの二人は知らぬ存ぜぬを繰り返していたからである。
知らないはずがない。何か知っているはずなのだ。特にカーラは何かを隠しているに違いない。

カーラが二人の素性に関して何も知らないのは本当のことであるのだが、ロバートからすればカーラは稀代の悪女であり、人間でありながら獣のような心を持った人物だという思い込みがあり、その思い込みを前提に動いていたので未だにカーラに対して尋問して、その正体を吐かせるということに対して強い執着を持っていたのだ。

部屋にはガラス細工が刻まれた高価なグラスや年代物の蒸留酒が入った瓶、珍しい絵画やほとんど目の通していない見栄えのために購入した高価な装飾が施された本が飾られた棚があちらこちらに並べられていたが、今のロバートには慰めにもならないだろう。

それでもロバートは苛立ちを紛れさせるためか、棚から見事な鹿の図が刻み込まれた、お気に入りのグラスを手に取り、その中に上等な酒を注ぎ込む。
ロバートが酒の香りと味の両方を楽しみながら長椅子の上で二日分の疲れを癒そうとした時だ。

不意に扉を叩く音が聞こえた。ロバートが入室を許可すると、そこには羽の付いた兜を被ったトッドの姿が見えた。
ロバートは長椅子に座ったまま、トッドになんの用があるのかを問い掛けた。
トッドは丁寧な一礼を行うと、ロバートに向かって言った。

「卿、恐れながら申し上げます。これ以上、あの二人に執着していては調査が進まず、座礁に乗り上げてしまいます。ここは話をでっち上げてても他の貴族の皆様方に弁明を乞うべきかと」

「弁明だと!?弁明と抜かしたなッ!」

ロバートは長椅子の上から立ち上がると、平身低頭のトッドに対してワイングラスをぶち撒けたのであった。
赤い色の液体が面頬と喉当てを外した羽付きの兜や顔、鎧などに直撃し、トッドは怯んだ様子を見せていたが、ロバートは容赦なくその顔を殴り付けたのであった。面頬がないのでトッドは拳を直に喰らって地面の上へと倒れ込む。

それでも怒りは収まらなかったのか、ロバートは苛立ち紛れに、トッドの頭を蹴っていくのであった。
この時に運良く妹のエミリーが部屋に入り、ロバートを止めなければトッドは死んでいたかもしれなかった。
それ程までに力を込めた蹴りであったのだ。ロバートは足を離し、柔和な笑みを浮かべて、エミリーに向かい直った。

「どうしたのだ?最愛の我が妹よ」

「お兄様、私、どうしてもフィン陛下のご寵愛を得たいのです……その第一歩として、お兄様の持つ硝子細工の施されたグラスを渡したいのですが、どうかお分けいただけませんか?」

「お安い御用だとも、最愛の妹の頼みだ。兄である私が断るはずがあるまい」

ロバートの寛大な言葉を聞いたエミリーは無邪気な笑みを浮かべながらロバートの部屋に飾ってある大量のグラスを物色していくのであった。
ここ数日のエミリーはすっかりと国王フィンに夢中になっていた。
容姿端麗で学問にも造詣が深く、剣術にも秀でている。
エミリーから見ればフィンはまるで、御伽噺に登場する理想の賢王のようであったのだ。

エミリーは両家の利益という目的以上に理想の国王の妃になりたいという思いが強くなっていた。故に兄の元へフィンに貢ぐためのグラスを探しに来ていたのだ。エミリーは兄のコレクションであるグラスや年代物の酒が飾られた棚を熱心に物色していたのもそれが理由だ。
数ある兄のコレクションの中からエミリーの目に止まったのは、なうての硝子職人が七日七晩刻み込んだという馬の細工が施されたグラスであった。

それを見た際にエミリーは、

「まぁ、なんと逞しいの!」

と、目を輝かせたのだ。

どうやらようやく彼女のお目にとまったグラスを見つけ出したらしい。
エミリーはグラスを兄から受け取ると、妹に相応しい可愛らしい笑みを浮かべながら感謝の言葉を述べた。
妹からの感謝の言葉と愛らしい姿にロバートはすっかりと機嫌を良くしたらしい。その証拠に彼はグラスだけではと妹に対し、グラスに合うような高価な酒を見繕って、渡したのであった。
エミリーは兄に対し、抱擁を行うことで最大限の喜びを表したのであった。
そのエミリーの額に優しい口付けを落とし、ロバートは猫撫で声で問い掛けた。

「そういえばフィン陛下と今日はどこで会う予定なんだい?」

「本日の夜、陛下にお茶会の時間をとっていただきましたの。その時間にお兄様からいただいたグラスとワインを差し上げるんですの!」

エミリーは明るい声で言った。その様子はまるで、親しい友達と出会う前にお菓子やら玩具やらを箱の中に詰め込む幼児のようであった。
無邪気な姿がロバートは無性に愛おしく感じられた。
ロバートは最愛の妹の頭を優しく撫でた後に微笑み掛け、棚の中を漁り、ジャラという音が鳴る革袋をエミリーに手渡した。

「お兄様、これは?」

エミリーは突然のことに目を丸くしながら問い掛けた。
ロバートはエミリーの疑問に優しい声を出して言った。

「これはね、今日、陛下のお茶会に招かれる前に新たな衣装と宝石が入用になると思ってな。兄からの気持ちだ。受け取ってくれ」

エミリーが中を覗くと、そこには数枚の金貨と大量の銀貨が入っていた。
余談ではあるが、エミリーが手に入れた革袋の中にある金額は本日、カーラがギルドマスターからジェイコブ・アープ殺しの報酬としてもらった後払い分の金額とほぼ同額であった。

エミリーは自室に戻ると、兄から与えられた高価なプレゼントを置き、ベルを鳴らしてメイドを呼び出す。自身のお付きである黒い髪を短く整えた年若いメイドである。
エミリーは呼び付けたメイドに兄から与えられた大量の小遣いを押し付け、城下町で流行っているアクセサリーとそれに似合うドレスを買うように指示を出す。

お使いを言い付けられた若いメイドにとっては困難を極めたのはドレスであった。
というのも、アクセサリー自体はエミリーの言いつけ通り、流行りのものをそのまま買えば良かったのだが、ドレスはアクセサリーを引き立たせなくてはならず、それがどういったものであるのか分からなかったからだ。
どうしたものかと思い悩みながら、城下町をあてもなく歩いていると、とある服飾店の店頭に白色のお淑やかなドレスが飾られていることに気が付いた。

地味な形で、どちらかといえば素朴な印象を与えるドレスであるが、その分流行りのアクセサリーを引き立てさせるのには十分なデザインであった。買うのならばこれしかあるまい。
若いメイドは店主にドレスについての相談を行うと、店主は満面の笑みを浮かべながら答えた。

「へぇ、お目が高いね。こいつは当節自慢のドレスでね。少し前に別の服飾店の店主が売ってたやつをうちのお針子に真似して作らせたものなのさ」

「へぇ、これは真似して作らせたものなんですか?意外ですね」

「あぁ、あの服飾店の親父も食えないやつだ。あんないいお針子がいるっていうのに、名前さえ教えやがらねぇ」

店主は不満げに言った。一方で、メイドの報告によって、エミリーはそのお針子に深い興味を持つようになっていた。

「へぇ、その人が縫ったドレスは今、私が着ているドレスよりも、もっと素敵なの?」

「えぇ、店の主人はそのように仰っていました」

「いいね、興味が湧いてきたよ。今度、そのお針子の正体を突き止めたら私の元に連れて来て」

エミリーは意味深な笑みを浮かべながら言った。
カーラは従姉妹にも睨まれることになったのだが、それは彼女にとって預かり知るところではなかった。
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