婚約破棄された悪役令嬢の巻き返し!〜『血吸い姫』と呼ばれた少女は復讐のためにその刃を尖らせる〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
149 / 223
第三章『私がこの国に巣食う病原菌を排除してご覧にいれますわ!』

ネオドラビア教は不滅なり

しおりを挟む
ゼネラル・グレゴリオを乗せた馬車は王国の門の前へと辿り着き、ゼネラルを下ろすと、門の前から去っていく。王宮が呼んだ馬車であるので、恐らく王宮にあるスペースに戻るのだろうが、そんなことはゼネラルの知ったことではなかった。ゼネラルは味方のいない中、たった一人で、敵地となる宮殿の中をくぐっていったのだった。
宮殿の中をくぐると、王宮付きの執事と思われる白髪の男性に案内され、ゼネラルは応接室へと通された。

応接室に通されると、そこでお茶と茶菓子を振る舞われ、ゼネラルは比較的優雅な時間を過ごしていた。
追求の準備のためか、はたまた他の職務に追われていたためか、フィンがゼネラルの前に姿を現したのはゼネラルが茶を二杯ほどお代わりしたところであった。

フィンはゼネラルに対して待たせたことを詫び、ゼネラルの向かい側にある長椅子に腰を掛け、ゼネラルに向かって裁判長が判決文を読み上げるかのように長々とネオドラビア教にかかった罪状を読み上げていき、最後にはわざわざ長椅子の上から立ち上がり、ゼネラルの顔を凝視したのだが、彼は動じる姿を見せなかった。
それどころか、

「全て事実無根のことですな」

と、ゼネラルは差し出された茶を優雅に啜りながら言ったのだった。

「何を言う。貴君らが祀り上げる教皇なる人物がどのようなことを行なっているのかというのは明白なのであるぞッ!」

フィンは堪えきれずに机の上を大きく叩いて叫んだ。
その後で両者は王宮の一室にある応接室を利用して激しい口論を執り行っていたが、決着は付かなかった。
正確に言えばフィンがゼネラルによって「いなされている」という状況の方が的確であるかもしれない。
ゼネラルはフィンの追求をことごとく巧妙に交わしていき、ネオドラビア教の無実と教皇イノケンティウスの個人崇拝を否定したのである。

「あくまでも知らぬ存ぜぬを貫き通すというのか?」

「えぇ、もちろんです。全て我々の預かり知らぬところです」

「個人的な兵力があるという匿名のタレコミまであるぞ。それについても否定するつもりか?」

「どこのどなたがそんな馬鹿なことを仰られたので?」

「貴様らから身を守る意味もあるからな。その名前を明かすわけにはいかん」

「ならば、それは我が教団の権威と権勢を落とすために我々と対立する邪教の神官どもが仕組んだ偽の情報でしょうな」

ゼネラルの交わし方は一流であった。フィンは拳を震わせたままゼネラルを睨んでいたが、ゼネラルは余裕を持った表情でお茶を啜っていた。
フィンは教団の悪事の証拠としてかつて城下町を任されていた大司教セバスチャン・モランがプラフティー公爵家の家臣たちと手を組んで麻薬の密売を行っていたことやその後に派遣された教皇の息子ポールがベクターとマルグリッタの両名を懐柔し、国政を牛耳ろうとしていた一件などを明かしたが、ゼネラルは全てモランやポールが勝手に企てたことだと主張したのだった。

「我々としても勝手に教団の権威と権勢を使われて困惑していたのです。それに国王の尊厳を傷付けなければ宗教を信じる自由は古きはウィリアム三世王の時代から保障されている権利のはずですぞ」

「邪教のくせに何を偉そうに」

「邪教?一体我々のどこが邪教だというのですかな?」

「惚けるなッ!信者たちから布施と称して多額の金を巻き上げる教のどこが正当な教えだッ!」

フィンは激昂した。長椅子の上から勢いよく立ち上がったことでフィンの前に置かれていたカップの中に入ったお茶が大きく揺れた。
だが、ゼネラルはそれを見ても動じる様子など見せずにお茶を飲むどころか、茶菓子にまで手をつけていた。
ゼネラルは小馬鹿にするような笑顔を浮かべながら、

「落ち着きなさいませ。そんなに興奮なさると、お体にも触りますぞ」

と、嘲るかのように言葉を返したのであった。

フィンはこの瞬間からゼネラルが自分よりも優位な立ち位置にあるということを実感したのだった。
いくら証拠を出しても組織の規模が規模であるからいくらでも哀れな身代わりが仕立て上げられ、そのたびに教皇は知らぬ存ぜぬを貫き通す。
そして、いくら証拠を用意して激しく追及しても口の立つ手下がそれを交わしていくのだ。
フィンはゼネラルの小馬鹿にしたような笑みを見つめながらネオドラビア教を壊滅させられない自身の手腕に腹が立って仕方がなかった。

しかも、去る間際に至っては、

「では、陛下、これで失礼致します。そうだ。最後に警告の言葉を発しておきましょうかね。今後我々に関わることはおやめなされ、そうしないと、陛下は御譲位なされることになりますぞ」

と、国王の尊厳さえ踏み躙るような言葉を平気で口にしたのである。

「譲位だと?誰に位を譲れというのだ?」

フィンは悔しさ半分純粋な疑問半分で投げ掛けたが、ゼネラルはその回答に答えることはなかった。
もしかすれば、ゼネラルが考える『譲位』の相手というのは教皇イノケンティウス・ビグラフトのことではないだろうか。そう考えれば辻褄が合う。
そのことを悟ったフィンは俄かに焦燥感に駆られた。国王となったフィンには革新的な政策や身分にこだわらない政策などを行っているために保守的な貴族たちからは反感を買っている。

もし、自身に反感を持つ貴族たちと共謀してネオドラビア教が力を盛り返してしまった上に全盛期の勢いのままで、自身を王の位から引き摺り下ろすことは十分に可能なのだ。その後でイノケンティウス・ビグラフトが国王に即位するということも十分に考えられるのだ。

フィンはこの時の経験と悟ったことからネオドラビア教はイノケンティウス本人を取り除かなければ壊滅できないということを意識させられたのだ。
そのために手段は選んでいられまい。

フィンは慌てて会見の日の夜に自身にとって好意的な貴族の家々と連絡を取り合い、非公式の茶会を設定し、今後の方針を話し合っていた。
その中にバロウズ公爵家の令嬢マチルダも含まれていた。マチルダは父親の代わりとして茶会に招かれ、フィンの演説を拝聴していた。全員がフィンの演説を期待に満ちた眼で見つめていたが、不安となったのは最後に付け加えた一言であった。

「もし、イノケンティウスがその宗教的権威と権勢を用いて、国王に対して反感を持つ貴族たちを取り組み、武装蜂起やそれ以外の方法を用いて、簒奪を画策すれば、恐らく苦戦するに違いあるまい。最悪の場合はーー」

フィンは最後の言葉をわざと支援する貴族たちに聴かれないように濁したのであった。
だが、その場に居合わせた貴族たちはフィンの言いたいことを理解していた。
そして、それ以上にネオドラビア教という教団の恐ろしさに震えていたのだった。
身の保身のためならば国王よりもネオドラビア教に付いた方がいいとさえ考えていたかもしれない。
そんな状況を打破するべくフィンは拳を振り上げて、強い声を張り上げていく。

「しかし、絶望するにはまだ早いッ!これは天上におわす神々が我々に対して試練を与えておるのだと捉えればいいのだッ!」

「天上におわす神々の試練?」

集まった貴族の一人が首を傾げながら問い掛けた。

「その通り、これは試練である。神々は我々が怪しき宗教に負け、国が乗っ取られた場合、どうなるのかを見極めているのだッ!」

この瞬間フィンによってこの対立の中に既存の神々を巻き込み、貴族たちの信仰を利用して離散を阻止したのである。
フィンはかつての自分が見たのならば斬り倒していたかもしれないような姿だ。

自身に対して強烈な自己嫌悪を感じつつも、ネオドラビア教から王国を守るためにはこの手段しかないのだと判断し、集まった貴族たちに反ネオドラビア教を訴えたのであった。
非公式の茶会を終え、集まった貴族たちが各々帰路へ着き、フィンが部屋に戻って休もうとした時だ。

「あの、もし、陛下」

と、自身を呼ぶ声が聞こえた。フィンが振り返ると、そこにはマチルダが心配そうな顔でフィンを見つめていたのだった。

「レディ・マチルダ。どうかしたのかな?」

「陛下、もし、お困りであるのならば私がよい場所を紹介致しますわ」

「よい場所?」

「えぇ、陛下はこの世に巣食う人の形をした害虫たちを駆除する駆除人の存在をご存知でしょうか?」

フィンは反射的にマチルダと目を合わせた。二人は無言だった。お互いに意思のみで疎通を図っていた。両者は互いに駆除人とその駆除人ギルドへの連絡方法を知っていたということを理解したのだ。
そのことに安堵したフィンはマチルダに向かって無言で駆除人ギルドへと向かうということを耳元で囁いていく。
マチルダはフィンの言葉を聞くと、何も言わずに首肯してからその場を去っていった。

自室に戻り、平民の服を着て、自身に用意できるだけの金額を用意すると、王宮を抜け出して、駆除人ギルドへと向かっていくのであった。裏のやり方で王国に巣食う巨大な害虫を駆除するために。
駆除人ギルドの表稼業は酒場であることはファンは前国王の時代に警備隊の司令官を務めていた時に何度か通っていたので知っていた。依頼も同様だ。その手口は鮮やかと称してもよかった。

ギルドマスターの方も当初こそ国王となったフィンが来店したこともあり、驚きを隠せなかったようであるが、『ブラッディプリンセス』を注文したことでフィンを応接室へと連れて行かなくてはならないことだけは察し、フィンを応接室へと連れていく。
ギルドマスターはフィンの前にお茶を出して話を聞いていた。

「久し振りだな。マスター」

「えぇ、殿下……いいえ、失礼、陛下も。それで本日の御用は何用で?」

「ここに金貨が五百枚ある。これは私が自由にできる全ての金といってもよい。これを使ってネオドラビア教教皇イノケンティウス・ビグラフト並びにその部下ゼネラル・グレゴリオを葬ってもらいたい」

フィンは懐から出した金貨の入った袋を押し出しながら言った。
ギルドマスターは木製のハンマーで頭を強く殴られたような衝撃を受けた。
金貨五百枚という破格の報酬もさることながら、フィンの提示した相手がちょうど自分たちと敵対する新興宗教の教団であったからだ。
ギルドマスターは難しい顔を浮かべて考え込む様子を見せていた。











本日は二度目の更新が遅くなって申し訳ありません。色々とありまして、なかなか早く更新できない有様です。
最近また多忙になってきまして……。ご了承いただければ幸いです。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

処理中です...