魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第二部『アナベル・パニック』

計画の序章

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「組長!白雲組の奴らに異変がッ!」
関西最大の勢力を誇る竜堂寺組の組長竜堂寺清太郎はやりかけの書類仕事を中断して、報告に現れた組員の報告に耳を傾けた。
「白雲組の奴らの殆どが殺されちまいましたッ!理由は分かりません!あいつらは最近、ここら辺の白骨起動団と対立していたから、そいつらにやられた可能性が高いかと」
清太郎は部下の認識に首を横に振って否定する。
「違うな、白骨起動団の腰抜けどもにそんな事をする度胸がある訳がない。第一、奴らの象徴である神楽坂伸彦は近々ビッグ・トーキョーで行われる予定の都知事選挙に立候補するために忙しい筈だろ?あのコンクリートの中の兵隊どもが神楽坂の指示なしで、そんな大それた事をする理由がない」
清太郎の言葉に子分の男は頭を下げて部屋を出ていく。
竜堂寺清太郎は報告を聞き終えると、書斎に用意された革張りの椅子にもたれかかり、組の若頭を呼ぶように内線電話で指示を出す。
若頭の宮本英ミヤモトスグルはボスに呼び出されて何事かと思いきや、携帯端末で彼自身の娘に危機を告げるように指示を出す。清太郎が日中であるにも関わらずこのような指示を下したのは、白雲組壊滅事件が日本を巻き込んだ大きな事件になるだろうと予測したためである。白骨起動団や自身の組がこの件に無関係だと考えると、あの組を消して得をするのはしかいないからである。
そう、最近幅を利かせているカルト教団、バプテスト・アナベル教であった。





白雲組壊滅事件は即座にネットニュースとなり、日本中を駆け巡っていく。
石井聡子が自身の父親の代理人から、その事実を知るのとほぼ同時期であった。
白籠市のアンタッチャブル一同はその日の仕事が終わるなり、石井聡子の一言によって臨時の話し合いが行われた。
聡子はいつになく神妙な顔つきで、
「いいか、こいつはただ事じゃあねぇ……どんぐらいヤバイかって言うとな、竹部大統領が街ん中で知りもしない奴に撃ち殺されたっていうニュースと同じくらい重要な事なんだぜ。いや、それ以上かもしれないな。なんせ、宇宙究明学会以上の化け物が本格的に動き出したと言っても過言ではない事態だからな」
聡子の最後の言葉に孝太郎が食い付いたらしい。身を乗り出して詳細を尋ねる。
「落ち着いて聞いてくれ、バプテスト・アナベル教が本格的に動き始めた。あのイカれた人形を崇める狂人どもが、日本に戦争をぶっかけようとしてんだ」
聡子の言葉に絵里子が疑問を口にする。
「ちょっと待ってよ。聡子、その根拠はあるの?白雲組の壊滅に例の教団が関わっているというのは……」
聡子は首肯する。真っ直ぐな目は嘘を付いているようには感じられない。
聡子は低い声で話を続けていく。
「さっきの親父の代理人からの電話によれば、白雲組が壊滅して得をする勢力は警察を除けば三つらしいな、警察が何で喜ばないのかはあたし達がよく知ってるよな?殺したりすれば、点数が減るし、場合によっちゃあ法廷にしょっ引かれる事もある。だから、今回の白雲組壊滅の件に恐らく警察はノータッチだと親父は踏んだのさ」
「成る程、至極当たり前の解決に感謝の念を送るけれど、出来れば続きも話してもらいたいものね」
絵里子の皮肉に聡子は鼻持ちならない態度で続けていく。
「つまり、その三勢力って言うのは、竜堂寺に、白骨起動団、そして、バプテスト・アナベル教の三つさ」
聡子は3本の指を立てて改めて事の重大さを強調しているらしい。
「竜堂寺は当然除外、親父がやったんだったら、警察のあたしに話はしねーだろーよ。それに、壊滅なんて手口は親父は使ったりしねーんだ。あの人は出来る限りなら、腕っ節ではなく、会話で相手を飲み込んでいくタイプの人だからな、白骨起動団も除外、あいつらのカリスマは今、ビッグ・トーキョーで都知事になるための準備運動中だ。白雲組と戦うためには、神楽坂の指示がなけりゃあ出来ない筈だからな、となると消去法で人形を神と崇めるイカレポンチどもの集団が残る」
全員が感心したように聡子の説明に頷いている。聡子が話を締め括ろうとした時に、孝太郎が手を挙げた。
「ちょっと待ってくれ、どうして白雲組はそんな多種多様な勢力を敵に回していたんだ?」
聡子は待ってましたと言わんばかりの満面の笑みで答えた。聡子は人差し指と親指を使いカプセルを摘む真似をする。
孝太郎は聡子の表現で理解した。白雲組を入れた四勢力で麻薬を巡る争いを行なっていた事を。
恐らく、竜堂寺は麻薬反対の立場から、白骨起動団は麻薬排斥と南米の麻薬カルテルと繋がりのあると言われる白雲組を嫌っての行動(恐らく、神楽坂の指示に違いないが)から。そして、白雲組と何かしらトラブルを起こしたと思われるバプテスト・アナベル教。
争う理由はこれくらいのものだろう。だが、バプテスト・アナベル教と白雲組が繋がっていたと言う明白な証拠は何処にもない。聡子並びに清太郎の推理にしろ、全ては推測に過ぎない。
孝太郎は徹底的な証拠を掴める事を京都の警察に期待した。





「ここで、バプテストの奴らの様子を探っていたら、まさか京都から帰ってくるとはな……車から降りな、オレは連邦捜査官の人間だ。車から降りてもらおうかッ!」
青山俊一郎は真夜中の田んぼの中を走る車を見つけて警告の言葉を浴びせる。
達也は眉根を寄せたが、抵抗する様子を見せずに車から田んぼの生い茂る千一色市の外れの地面に降り立つ。
「お前に職務質問といこうかな、お前は今日の昼に京都でッ!のために、お前は白雲組の奴らに何をしたッ!」
俊一郎が虫歯治療の跡の見える残る前歯を剥き出しにして尋ねる。
「さっさと答えろよ!この仏頂面のトンマがッ!それとも、!?」
俊一郎は得意げに叫んでいたが、ふと息が詰まっている事に気付く。俊一郎は慌てて口を大きく開けて息を吸おうとするが口が動かない。俊一郎は焦るが徐々に俊一郎の息が止まっていく。息をするためにパクパクと口を動かすが、空気を吸おうにも田舎の新鮮な空気が入ってこない。苦しくなり、俊一郎は田んぼの前の一本筋に膝を付いて崩れる。
その様子を見ながら笑うのは池馬達也。
達也は苦しそうに喘ぐ俊一郎を見下ろしながら答えた。
「オレがどこで何をしていたか、何を食べたのか、そんな事はお前にとってはどうでもいい事だろ?だが、その後に話した言葉は不味かったな?お前はオレの逆鱗に触れた。お前はここで死ぬべき人間だ」
達也が右手に込める力を強めていくと、俊一郎の喉がますます縮まっていく。
俊一郎は喉をむしり、足をばたつかせるが徐々に窒息のために、無意味な抵抗すら困難となっていき、やがて彼は無用の肉体と化した。
達也は人がいない事を確認すると、同乗していた運転手に死体をトランクに載せるように指示を出す。
俊一郎の死体を大きな外国産の黒塗りの車に載せ終えると、達也は後部の席に乗り込む。運転手も悪びれもしない様子でハンドルを握り、自分たちの拠点へと戻っていく。
田んぼに囲まれた田舎の田園風景の中に短い惨劇の様子はどこにも描かれてはいない。何事もなかったかのように木々は風のそよぎを受けて、心地の良い音を立てる。田んぼの中の僅かな冬に咲く作物の葉も同様に風に吹かれて、後には静寂だけが田舎に残された。


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