魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第四部『キャンドール・コーブ』

パート5 処刑台にて

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「ここに被告人、大樹寺雫の死刑を宣告する。被告の身勝手な行いと動機によって亡くなった人たちの心境を考え、また、被告自身に一切の弁解を行っていない事から、この判決は上等のものとする」
裁判長の出した判決に裁判所に集まっていた人間のみならずにテレビの目の前で大樹寺雫の判決を見守っていた他の人々も歓喜に沸いた。
ここに待ちに待った大衆の敵No. 1が裁かれる日が来たのである。
大樹寺雫は澄ました顔で判決や世間の人々の非難と憎しみに溢れた声を聞いていた。
雫は自分が捕らえられている間に行われた東京都知事選挙をめぐる争いや二階堂俊博の死亡事件の事も耳にはしていたが、自分の起こした事件はそれらの事件が被される程の大きな事件だったのだろう。
雫は裁判長から最後の一言を求められた際に自らに課せられた罰は妥当なものだと述べた上で、もう一度自分の考えを述べていく。
「裁判長……わたしはこの事件に関する全ては茶番だと思います。そもそも、これは勝者が敗者を一方的に責める裁判です。あなた方はわたしや教団に全ての罪を負わせる事によって、この世の全ての悪を除こうとしておられるのでしょう?」
「被告人、何が言いたいのですか?」
裁判長の問い掛けに雫は何処かを達観したような顔で話を続けていく。
「要するに、この裁判は無効だと仰りたいのです。政府を転覆させようとしたわたしに対し、法律という名を借りた復讐を行なっていると言いたいのです」
その言葉に裁判に出席していた元信者や被害者の会の会員、ならびに事件の遺族から罵声が飛び交う。
裁判長は木槌を叩き、周りの遺族達を抑えていく。
「裁判長、わたしは再び問います。わたしは何も間違った事はしておりません。何処かの卑劣な教祖のように精神疾患を装って逃げる気もなければ、記憶障害を装って答弁を逃れるつもりもありません。わたしは自分自身の計画が……毒ガスを撒かなければ民族の意識は変わらなかったと言う主張を曲げるつもりはありません」
裁判長は怒りを通り越し、目の前の僅か10代の少女に恐怖を覚えてしまう。
かつての教祖は裁判長から、遺族や被害者の人間達の元を振り向き、
「あなた達は楽しいですか?」
と、冷静な声で尋ねた。
被害者遺族や被害者の会の人間それに元信者は当然反発の言葉を述べたが、雫は自分の主張を述べ続けていく。
「たった一人の人間に全ての責任を押し付けるのは楽しいですか?とわたしは聞いているのです。確かに、わたしはあなた達のお子さんをお預かりし、十分な悟りを施そうとしました。ですが、お子さん達は残念ながら、悟りの域にはーー」
「黙れッ!いい加減に黙んねーとその面に百発叩き込んでやるぞ!」
歯を剥き出しにして唾も飛ばしかねない程の勢いで叫んだのは自分を逮捕した青い髪のボブショートの女性であった。
女性は人差し指を震わせながら叫ぶ。
「みんなテメェに騙されてただけだろうがッ!それを何だッ!この人達にも非があるみてーな言い方をしやがって!お前がどんな狂った思想を考えてようと勝手だがな、それを他人に押し付け、頭を空にしてゾンビみたいに操ってたんだッ!」
「論理的じゃないね。そんなヤクザみたいに怒られても、わたしは何も怖くないよ。何なら、本当にわたしには百発叩き込む?」
雫は手錠とMCMを掛けられた両手で自分の頬を指差しながら問い掛けた。
「ふざけんなッ!お前の勝手な考えのためにビルに集まった人間が何人死んだと思ってんだッ!お前は死んでも償いきれねーね事をしたんだッ!裁判長!あたしはこいつに星流しの刑を要求する!」
聡子の言葉に同調し、傍聴人達も野次を飛ばしていく。
「静粛にッ!静粛にッ!石井聡子さん!これ以上喋るようならば、あなたを退廷しますよ!」
裁判長が聡子に最後通告を行い、聡子が自分の席に座ろうとするのと大樹寺雫の護送を担当していた刑務官が血を浴びて倒れるのは殆ど同じタイミングであった。
刑務官が血を流すのと同時に、大樹寺雫はアナベル人形を発動させ、周りに飛ばしていく。
聡子はアナベル人形が大きな事件を巻き起こす前に、軽機関銃を取り出し、アナベル人形を撃っていく。
空中で爆発するアナベル人形は噴煙と大きな音を巻き起こしたものの幸いにして一人も人間を巻き込む事はなかった。
だが、煙が収まり、聡子が目を凝らすとそこに大樹寺雫の姿はない。
聡子は裁判長に慌てて声を掛け、刑務官達を探索に向かわせる。
テレビカメラは無傷であったために、この惨事はお茶の間に届けられる事になってしまう。
聡子が同じく席に座っていた絵里子に声を掛け、大樹寺雫を追う事を叫んだが、絵里子は黙って首を横に振る。
「ダメよ。恐らくわたし達じゃあ勝てないわ、大樹寺雫を連れ去ったのはそいつらなの」
聡子は視線を逸らし、俯く絵里子に対して胸ぐらを掴みかねない程の勢いで、彼女の目の前に迫り、
「ふざけんなよッ!大樹寺雫を逃してしまうかもしれねーんだぞッ!あんたはそれでもいいかのよ!?」
無言の絵里子の代わりに説明を引き継いだのは計算係にして白籠市のアンタッチャブル一の頭脳派である倉本明美であった。
明美は唇をギュッと結んで、
「だから、あたし達が今、追い掛けても無意味なんだよ!あいつらはあたし達が追い掛けても直ぐに撃退どころか返り討ちにできる魔法を持っているんだからッ!」
「返り討ちにできる魔法?何だよそりゃあ……」
聡子は言葉を失ってしまう。だが、明美は聡子のショックなど構いもせずに話を続けていく。
「うん、一ヶ月前の社長銃殺事件でわたし達はキャンドール・コーブの原因がチクバテレビにある事は突き止めたよね?けれど、その後のキャンドール・コーブは何処から流れているかは不明だったのを覚えてるでしょ?でも、その前に孝太郎さんがある人物を熱心に突き止めた所に、そのわたし達を返り討ちにできる魔法を持つ人物がキャンドール・コーブ計画の護衛をしている事を知ったんだッ!」
「誰なんだよ。そいつは……」
明美は聡子の目を真っ直ぐに捉えながら言った。
「ユニオン帝国竜騎兵隊隊長、シリウス・Aアーサー・ペンドラゴンだよ」
聡子はその言葉に言葉を失ってしまう。口から何とか言葉を出そうと試みたが、それでも出てこない。
明美は怯える聡子に構う事なく、自分の推理を続けていく。
「恐らく、チクバテレビの社長を殺したのもユニオン帝国竜騎兵隊だと思う……それで、孝太郎さんに何かを囁いて、法廷から逃したのが大樹寺雫だとすると、初めから、この裁判の日に何かを行おうとしているのは明らかだったと思う」
「それが、あの女の奪還だったって事か……」
聡子の言葉に絵里子は首を横に振り、
「いいえ、恐らくもっと恐ろしい事をしでかす筈よ。わたしの勘に過ぎないけれどね……」
絵里子は細い目で被告人の居なくなった法廷を見渡していた。
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