魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第七部『エイジェント・オブ・クリミナル』

計画の第一歩

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「現在、我々の力を結集し、集めたのはこれくらいだ」
慎太郎はそう言ってヤクザ組織のボスの二名と刑事たちの数名の会合の場所となっているホテルの小さな机の上に一枚の茶封筒を置く。
孝太郎はそれを手に取り、封筒の中を確認する。封筒には二、三枚の書類と書類の上に付いてある顔写真のみ。
孝太郎はもう一度、慎太郎に向かって尋ね返す。
「本当にこれだけでなのか?国内のスパイ組織の力を総合して僅かこれだけのデータという事もあるまい」
「残念だがね、今回ばかりは我々の組織でもこれが原因なんだ」
今すぐにでも舞台に起用されてもおかしくない程の美男子が煙草を片手に答える。
普段、彼は端正な顔で笑って見せるものだが、今回ばかりはその笑いはない。
余程、この密輸事件の処理に追われているのだろう。労を察しかねる。
孝太郎は僅かながらでも竹宮慎太郎が集めた情報へと目を通していく。
情報によれば、この密輸ルートは日本、北京、ユニオンの三カ国で繋がっており、当局はこれを『トライアングル・コネクション』と呼称しており、それに携わると思われる三人のマフィア組織のボスの姿をユニオン帝国にて行われた取り引き現場にて確認しという。
孝太郎は書類の一番右上に留めてあった三枚の写真に目を通す。
一枚目に映るのは日本人と思われるサングラスを掛けた中年の男。二枚目は短い金色の髪にカッコいいという形容詞が一番似合う程の顔を持つ男。
三枚目は中華服を着た恰幅の良い中年の男だった。少なくとも、彼は腹を鳴らせば心地の良い音が出るかもしれないと孝太郎に思われる程には太っていた。
孝太郎は書類を机の上に置くと、その場に集まった会合の参加者たちに見せていく。
そのうち、この会合の中の一番の大物と思われる竜堂寺清太郎は日本人の男の顔を見て思わず口元を歪める。
それから、大きな声を上げて笑う。全員が驚愕の目を向けるのと同時に、彼は笑いを引っ込め、それまでとは対照的な厳格な表情を作って、
「いや、失礼した。この男の顔には少しばかり見覚えがあってな。この男なら、いずれやらかすと思っておった男だったのよ」
「で、そいつは誰なんだ?」
その場における全員の疑問を娘の京子が代弁する。彼もそれを察してか、娘だけに教えるのではなくキチリと声に出して名前を告げる。
「鷹峰雪雄だよ。あの男ならばやると思っていた」
「誰なんだよ。その鷹峰っつーのは?」
聡子の疑問に、清太郎はその男が現れた経緯を粛々と答えていく。
鷹峰雪雄は二十年前に広島の舟運業と密貿易を拠点に成り上がった男であり、しばしば刈谷阿里耶同様に騒動を起こしそうになっていたが、その都度、竜堂寺の組が動く事によりその動きを抑えた事により、鷹峰はその動きを抑えていたのだが、強力なコネクションを得た事により、抑えに訪れた竜堂寺の組員を逆に始末し、送り返したのがつい数日前の事だという。
「白籠市では恐らくバイカーの連中を使ったんでしょう。真田たちが手を引いても、バイカーの連中そのものが居なくなった訳ではありませんからね」
孝太郎の疑問に浩輔が同調の意思を込めて首を縦に動かす。
「そうなんだよ。あの頃はシリウスの事件で忙しくて村上さんから中々聞けなかったんだけれど、丁度その頃くらいだったんだって、バイカーの動きが活発になったのは」
白籠市のバイカーは三年前の事件の解決以後は壊滅させられた様に思われたが、実際は片桐健人率いるジャック・レッドニオと淀川健一の率いるアース・モンタナの両グループが壊滅した事により、外からのバイカー組織が蔓延る様になり、交通課がその度に悩まされていたのを孝太郎は覚えていた。
恐らく、あの密輸品は後でバイカーに引き渡すつもりだったのだろう。
だが、その前に職長に見つかってしまったという事になる。
恐らく、バイカー達は偽ブランド品を捌いた後に鷹峰の方に上納金でも納めに行くつもりだったのだろうか。
孝太郎は三年ぶりの再開となる関西最大の暴力団組織の親玉に向かって頭を下げて、
「お願いします。鷹峰雪雄についての情報を教えてくれませんか?鷹峰から密輸ルートの事について喋らせるのにはどうしたらいいんですか!?」
興奮する孝太郎を竜堂寺は右手のみで止め、静かな声で答える。
「落ち着きたまえ、奴は元来は弱気な男なのだが、強い奴がバックにいると調子に乗る口でな。恐らく、全面抗争も奴は決意しているかもしれん。下手に動けば、痛い目を見て、警察の介入を受けるのはこちらだ」
竜堂寺清太郎の声は落ち着き払っている。あくまでも紳士という姿勢を崩さない。そこが竜堂寺組をここまで強大に築き上げた彼の強みだろう。
彼の実の娘であり、仲間の内の武闘派を務め上げる聡子こと京子とはそこが対照的であると言っても良いだろう。
孝太郎が黙りこけている所に更に清太郎が畳み掛ける。
「だが、鷹峰を捕まえる手筈を整えるのは可能だ。あいつは我々のタブーを破った。今更、あいつを売り渡しても私の良心は泣きもしないさ」
清太郎はそう言うと、孝太郎と仲間たちに彼の知る限りの鷹峰雪雄の取り引きの情報を話していく。
そして、決定的な一言で話を締め括る。
「鷹峰は月に一度のペースで自らの足を使ってビッグ・トーキョーを訪れる。そして、最後、深夜の時間には必ず白籠市を訪れる筈だ」
「……上納金の回収ですね?」
浩輔の答えに対して彼は口元を緩めて、不敵な笑いを彼に向ける。
「半分当たり、半分外れだ。恐らく竹宮の話が正しければ、奴のバックボーンに付いていると思われる男たちへの上納金運びもこの時に行うのだろうな。恐らく、取り引き場所は横浜の辺りかもしらん。あいつは一人では戦争を起こす度胸もないヘタレた男だからな。人を恐れて深夜の時間に上納金を納めたいはずだ」
清太郎はそう言うともう一度ホテルの長椅子の上に深々と腰を掛ける。
同時にその場に集まった白籠市のアンタッチャブルの面々と刈谷浩輔の五名が互いに視線を重ねていく。
「つまり、横浜を訪れさえすればこの密入のルートを叩き潰せるって魂胆だ」
「ええ、これ以上、ぼくの街では好き勝手をさせない様にぼくも共に全力を上げて叩き潰す事を誓うよ」
浩輔が手を伸ばす。同時に白籠市のアンタッチャブルの面々も浩輔の手に自分自身の手を伸ばしていく。
清太郎と慎太郎の両名はその姿を見て思わず笑いを溢す。
それから、真剣な顔を浮かべる五名に向かって慎太郎は横槍を入れる。
「より正確な時間を教えるから、おれからのメッセージは常に確認しておけよ」
彼は熱心な人を見るとつい声を掛けずにはいられない性質なのであった。
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