魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第七部『エイジェント・オブ・クリミナル』

光と影の睨み合い

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そもそも何故、自分は此処に居るのだろう。いいや、決まっているではないか。自らの直感に従って此処にいるのだ。
そう思うと、孝太郎は自分がこのバラエティ番組の中に紛れ込めたのは運が良かったとさえ感じている。
何しろ、少し前に追い詰めた筈の女教祖の前にもう一度辿り着く事が出来たのだから。
収録が行われるバラエティ番組の会場は普段は段差で一般人とタレントとを分ける段差に仕切られており、見学の一般人はそこに踏み入れるどころか、声を掛ける事さえも許されない。
だが、今回に限ってはタレントが好き勝手に喋る場所に声を掛ける事が例外的に許されている。
普段は許されない場所で……。おかしい。
孝太郎は何か大きな陰謀の匂いを感じ取った。
そう考えるといても立ってもいられずに、自らの年齢を利用して大勢の若者に囲まれ、彼女が現れるのを待つ事にしたのだった。
初めにバラエティ番組の司会を務める眼鏡を掛けた男と掛けていない二人組のお笑い芸人が登場し、番組の開始を告げる。
ここはいつも通り。違うのはこの次。
普段ならば、ここで撮った映像が流れるのだが、今回はロケ地の映像ではなく、画面一杯に童顔の可愛らしい顔の少女の顔が映る。
お笑い芸人のうち、眼鏡を掛けていない方が少女に声を掛ける。
「こんばんはー。大樹寺さん~バラエティ番組は初めてだったという事でいいよね~?」
「ええ、初めてなので緊張しておりますが、何とか頑張りたいと思います」
雫はいつもの何の変哲もない表情に淡々とした顔で告げる。同時に彼女を映した映像が途切れる。番組側の演出なのだろう。
事実、司会役のお笑い芸人も最後に彼女をゲストに出すと告げていた。
孝太郎はこの番組を楽しみに訪れた他の多くの若者とは違い、そんなものに関心などない。
彼が待つのは教祖、大樹寺雫。
彼は退屈なバラエティ番組を眺めながら、彼女がその姿をバラエティ番組の収録場所に現れるのを待つ。
番組もそろそろ終盤に差し掛かる頃になり、彼女はようやくその姿を表す。
凛とした表情を浮かべた白色のセーラー服の教祖は扉が開かれるのと同時に、モデルの様にスタスタと歩きながら、収録の部屋の中に姿を表し、二人のお笑い芸人に頭を下げる。
その後は若者から教祖への質問だった。誰も彼もがどうでも良い質問を打ち込むために、孝太郎は思わず心の中で叫ぶ。
『誰でもいいから、大樹寺雫にビル爆破事件の真相を聞け!』と。
だが、彼ら彼女らは少し前の大事件の事など気にも留めないらしい。
こうして質問を続けていくうちに、雫は時に堂々とした態度で質問に答え、時にお笑い芸人に弄られながら、照れ臭そうに俯く。
そして、最後と思われる時に孝太郎は意を決して右手を宙に挙げる。
教祖、大樹寺雫は面食らった表情を浮かべていたらしいが、孝太郎は構う事なく比喩的に教団と彼女とを批判する質問とを投げ掛けていく。
が、流石はそこは教祖。激昂したりはせずに静かに質問を返していく。
互いに睨み合ったものの、直ぐに視線を離したために触発の事態には陥らなかった。
が、場の空気を濁した事だけは事実であり、番組は最後の最後で白けた空気で終わってしまう。
番組が終了するのと同時に彼女はその場を立ち去る。当然、孝太郎はそれを追い掛けようとした時だ。
それを先程のお笑い芸人が静止する。
「待てよ!何だよ、お前は!」
「そうだよ!おれ達の番組を無茶苦茶にしやがって!」
孝太郎は憤るお笑い芸人と同時に非難の目を向ける若者たちに向かって手帳を突き付ける。
「白籠署の者だ。バプテスト・アナベル教の大樹寺雫を少し前に発見された偽物密輸入の罪状で追っている。本日、訪れたのはその一環だ」
それを聞いてお笑い芸人二人組は顔を青くして孝太郎を通す。他の若者もお笑い芸人に従って孝太郎を通す。
孝太郎は壇の上に存在する控室行きの扉を開き、大樹寺雫を追う。
大樹寺雫は収録が終わるのと同時に、周りを弟子に囲まれており、孝太郎が彼女に追い付こうとしても押し倒されるだけだろう。
それでも構わない。孝太郎は狭い廊下の中で簡単に拘束され、信者に抱きつかれたまま雫と向き合わされる。
「久し振りだね、孝太郎さん。あなたは変わっていない。真っ直ぐに、それこそ鮫の様に真っ直ぐに私に追い縋ろうとしてくるね」
「……犯罪者相手ならばな。おれは手段を選んでられねーんだよ。お前のテロのために何人の人間が犠牲になっと思ってやがる!」
両手を拘束された孝太郎は顔だけを上げさせられ、それを覗き込む雫に見下ろされる形で見られるのは屈辱であった。
だが、彼は頬を紅潮させながら、雫を睨むのをやめない。
真っ直ぐに彼女を見下ろしていた時だ。突然、真上に衝撃が落ちる。
真上から原因不明の攻撃を受けた孝太郎は耐え切れずに顔を地面の上に擦り付けてしまう。
だが、倒れる事は許されない。信者たちに強制的に顔を上げさせられる。
そして、自分を見下ろす少女ともう一度向き合う。
気が付けば、少女は足を上げて孝太郎の頭を蹴ろうとしていた。
いや、既に蹴っていた。酷い打撃を頭に受けて孝太郎は地面の上に転がり込む。
今度は信者たちも孝太郎を地面の上に放置する。
どうやら、先程の頭上からの攻撃は彼女の蹴りだったらしい。
痛みは頭部に残り、当面の移動を不可能とさえしていた。
そして、信者たちに囲まれてその場から去ろうとする雫に向かって叫ぶ。
「待て!何処へ行こうとも、警察は……この国の正義は必ずお前を追い掛ける!法の手は何処へ逃げてもお前を許さない!」
「孝太郎さん。あんたいい加減しつこい。それくらいにしないと本当に女の子に嫌われるよ。次は本当の本当に人形に捧げるからね。そこんとこ、よろしく」
雫はそう吐き捨てると、踵を返してその場を去っていく。
孝太郎は拳を握り締めながら、徐々に視界から消え掛かる雫に向かって憎悪の念を向けていく。
が、彼女には通じないだろう。孝太郎は頭をふらつかせながらも、テレビ局の壁を杖の代わりにして立ち上がり、雫を追い掛けようと目論む。
が、体は言うことを聞かずに地面の上に崩れ去っていく。
孝太郎は口の中に自然と発生した苦虫をすり潰しながら、地面の上を這う。
大樹寺雫を捕まえ、市民の安全を守るために。
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