白き翼の天使が支配するーーanother story〜女神の力を受け継ぎし天使はいかにして世界の救済を図るかーー

アンジェロ岩井

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大魔術師編

狼の天使は語る

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「今まで黙っていて悪かった。けど、お前らと戦った日々は本物だと思っている。訓練に戦闘に……みんなお前らがいたから耐え抜けた」

「で、その大事な仲間の情報をきみは天使どもに売り渡していたのかな?二枚舌もいい加減にしろよな」

ポイゾが押さえ付けられる際にブレードに殴られて出血した唇を袖で拭いながら言った。

「……怒るのは当たり前だな。安心しろ。オレはもうお前らの前には姿を見せない。タイミングを見計らって天に戻り、他の天使どもに一泡を吹かせるつもりだ」

この時、私はずっと疑問に思っていた事を尋ねようと口に出した。それがこの世界を大きく変えることになるとも知らずに。

「……ねぇ、タンプル。あなたたちを操っている黒幕ってなんなの?」

「黒幕?んなもんねぇよ。オレたち天使が勝手にやってることだ」

タンプルは躊躇うことなく答えた。

「嘘、しらばっくれてもわかるから……とぼけてないで、正体を教えてよ。あんたたちの黒幕ってなによ?」

「……知りたいか?」

「うん」

私は迷うことなく答えた。

「じゃあ、言うぜ。あのお方っていう絶対の存在だ。オレなんて目通りすら許されないほどのお方だよ」

「お、おい。ちょっと待ってよ。オレさ、お前の戦い見てたんだけど、すげー強かったよな?あの猪野郎を圧倒してなかったか?あんだけ強かったら目通りくらいできるんじゃねーの?」

オットシャックが慌てた様子で尋ねる。

「……あいつがオレより弱かっただけの話さ。あの程度であのお方にお目に掛かろうだなんておこがましいにも程があるってもんだ」

「まどろっこしいな。きみは……あのお方、あのお方と……はっきりと神と言ったらどうなんだ!?」

ポイゾが激昂していたが、タンプルは言い返すことも、かと言って嗜めることさえもせずに視線を地面の下に落とす。
それから顔を上げると、再び私に向かって告げた。

「なぁ、オレはさぁ、最初、戦いに赴いた時に兵士からよく投げかけられたんだ『この悪魔』って言葉をさ。けど、戦争が始まってから人を殺したのは悪魔じゃなくて、天使なんだぜ。その言葉を聞いて思い出したんだ。なぁ、波瑠。お前はお前が元いた世界でこんなブラックジョークを聞かなかったか?」

タンプルが口に出したのは『神話の中では悪魔よりも神の方が人を殺した』というものである。
勿論、宗教によっては受け入れられない冗談であるし、私自身もそこまで愉快だとは思っていない。
人の信仰や神を冒涜する権利など誰にもない筈だ。故に天使との戦いが始まるようになってからもこの言葉を口に出したことはない。

私がそんな例えを出したタンプルに納得しかねる顔を浮かべていると、他の面々は納得したような顔を浮かべている。
とりわけ、ポイゾはその言葉に同調して先程までの怒り狂った表情を引っ込め、いつも通りのニヤニヤとした笑顔を浮かべる。

「薄汚い天使のくせに、いい事を言うじゃあないか。確かにぼくの祖父を殺したのは神だ……天使だ。悪魔なんかじゃあない!死ぬ前にオレからの伝言を伝えておくぞ。『ぼくの祖父を生き返らせろ』と神とやらに伝えておけ」

「死ぬ?オレがか?」

キョトンとした顔を浮かべるタンプル。それに対しポイゾは剣を鞘から抜き出しながら言った。

「当たり前だろぉ、この場でぼくが叩き斬るんだからさぁ。せいぜい祈りの言葉でも紡いでおけッ!」

ポイゾが剣を振り上げようとするのをまたしてもオットシャックとブレードの二人で抑える。

「馬鹿が騒がせてごめん。それよりももう少し私たちの疑問に答えてくれないかな?」

「……悪いけど、そういうわけにもいかねぇ。オレはそろそろ身を隠さなくちゃあいけないんだ」

「……悪いが、それはできない。エンジェリオンを逃したとあればぼくらの責任になる。キミがまだぼくらを仲間だと思っていてくれるのなら、この場で死んでもらえないだろうか?」

ブレードはポイゾを押さえ付けているためか、剣こそ抜いていないものの、鋭い視線で睨むように言った。
しかし、その問い掛けにもポイゾは首を横に振って答えた。

「悪いが、できない。オレにはまだやる事があるんでな。代わりにオレは身を隠すよ。……じゃあな、お前ら元気でな」

タンプルの瞳から涙が溢れたのが見えた。透明の液体が瞳を通して地面の上へと落ちていく。
同時にタンプルは白き翼を使って空中へと羽ばたく。
人を愛したというのに人に仲間と認めてもらえず、人を愛したことによって仲間からも追われるようになった哀れな天使は空に吸い込まれるように消えていった。

私はその姿を見送ると、ようやく二人から解放されたポイゾが空中に向かってありったけの罵声を浴びせていく。
よくそれだけの罵声が浴びせられるかと感心するほどに宙に向かって浴びせた後で、ポイゾは最後にとびきりの汚い言葉を吐いてから地面の上で大の字になって寝転ぶ。

「……ブレード。貴様、どうしてタンプルを逃したんだ?お前なら剣を抜いて逃げる前に仕留めることが可能だっただろ?」

「……できない。あれはタンプルだ。彼は代わりに身を隠すと言った。それに最初の時に天に帰るって言ったろ?それだけでも十分ーー」

「十分なわけがないだろう!?」

ポイゾはブレードを勢い良く殴りつけた。地面の上に転倒したブレードであったが、彼は容赦なく彼の胸ぐらを掴み目の前で叫ぶ。

「一年もの間、討伐隊の中にエンジェリオンを潜り込ませていましたと王に報告するのはオレたちの“とおさん”なんだぞ!?経営者が変わったとして、オレたちはそいつとどう接すればいいんだよ!?」

「……落ち着くんだ。父さんなら上手い言い訳を考えてくれるよ」

「……よ~くわかった。お前は自分の父さんに依存してるんだ。自分の父親は世界一でなんでもこなせる最強の人間だとな……」

「事実を言ったまでだろ?」

「ハルの時とはわけが違うんだッ!一年の間、オレたちは国民の税金で薄汚い天使に飯を食わせてたんだッ!それを説明するんだぞッ!そうなりゃあ責任だって降りかかるんだよッ!」

ポイゾが拳を繰り出しながら告げた。だが、ポイゾの殴打を受けてもなお、鼻血を出しながらもブレードは冷静な表情で答えた。

「……タンプル・シュマイザーは今回の戦闘で戦死した。その死体は天使たちによって粉々に砕かれてしまった。そう説明したら辻褄も合うんじゃあないのか?」

「……お前、オレたちで“とおさん”を騙そうというのか?」

ポイゾの声が震える。だが、緊張のために脂汗まで流すポイゾとは対照的に組み伏せられているひどく冷静な声で先程の言葉を復唱したのである。
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