白き翼の天使が支配するーーanother story〜女神の力を受け継ぎし天使はいかにして世界の救済を図るかーー

アンジェロ岩井

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天使王編

決戦前の出来事

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私はお茶を飲みながらマリアと話をしていた。他愛もない話である。

「それでね。この前に読んだ『キャベツ畑の二人』シリーズなんだけど、あのシーン最高だったよね」

「わかる。わかる。最高だった」

「うん。キャベツ畑で結ばれない二人が愛を確かめ合うシーンは目を離せなくてさ。読み終わった後もそこのシーンだけ何回も読み返しちゃったよ」

「うん。それだけじゃなくてさ。『キャベツ畑の二人』も面白かったよ」

「マジ?私まだ続編読んでなくてさー」

日常の何気ない会話。友達との他愛のない雑談。前の世界でも私が好きだったことだ。
私がマリアを部屋に誘ってこんな話題をしているのには理由がある。それは二週間後に控えている『神の大粛清』にあった。

天使たちの王を称する天使によって進言されて行われる天使たちの総攻撃は私にも想像ができないのだ。
もしかすれば二週間後に私や仲間たちはもうこの世界にはいないかもしれない。

そんな不安に苛まれた私はこの世界の最後の名残に他愛もないお喋りを提案したのである。
マリアは私の提案を喜んで受け入れ、ティーも同意した。

だが、モギーは勉強を休むことは断じて認めずに、この後は勉強を終わらせてから来る予定であるらしい。
たとえこのような事態であっても家庭教師として中断は認めなかった。
前の世界の本で読んだ話によれば太平洋戦争中でも試験や受験などは行われており、なるべくそうした日常が維持されていという話も聞く。
モギーもそうした別世界での事例に倣ってティーの勉強を進めているのかもしれない。

大ごとにとらわれずティーのために日常を変わらずに過ごさせているモギーの姿勢に少しばかり好感を抱いた。
そんなことを考えながらお茶を淹れていた時だ。部屋の扉を叩く音が聞こえた。

私が喜んだ表情を浮かべて扉を開けると、そこにはティーと付き添いと思われるモギーの姿が見えた。
ニヤニヤと笑みを浮かべるモギーを私は眉を顰めながら出迎えた。
先程浮かんだ心の中に浮かんだ僅かばかりの好感は見事に消し飛んでしまった。
そのためか、

「あなたを読んだ覚えはないんだけど」

と、露骨な嫌悪感をむき出しにしながら告げることになってしまった。

「分かってるよ。おれはただの付き添いだ。お姫様を守る騎士みたいなもんさ」

モギーが苦笑しながら言った。

「そんなチンピラみたいな騎士がいるわけないでしょ?バカにしないでよ」

私の騎士に対するイメージは子供向けのお伽話やこっそりと読んだ古いファンタジー小説に基づいているので、騎士というのはみんな高潔で気高く紳士的な人物なのだ。
だから目の前のチンピラのような男に『騎士』などと称されると少しばかり不愉快になってしまうのだ。
だが、私の嫌悪感に満ちた表情もものともせずにモギーは大きな声で笑いながら言った。

「ハハッ、そうかもな。まぁ、おれはここで自分の部屋に戻るからいいだろ?あと、お姫様はちゃんとお前らの手で部屋に帰してやってくれや」

それからモギーは乱暴に手を振ってその場を去っていく。
それから部屋に入ってきたティーを出迎えてその日はギリギリの時間までいわゆるガールズトークにふけたのである。

それから二週間までの間、座学の時間は全て兵法の講義の時間に代わり、それ以外の時間を全て鍛錬に扱うことになった。
人類の運命というのが私たちの双肩に掛かっているのだからそれ以外の座学などをさせる余裕はないだろう。
特にブレードが神聖リーモ帝国から帰ってきてからは兵法の授業により一層の力が入れられることになった。

ブレードによればクイレル卿の仲裁とノーブとブレードの両名による説得を経て、各国との連合を結ぶことができたらしく、それで他国の討伐隊に負けないように気合を入れているらしい。

ブレードが英明なのはいうまでもなく、彼は帰還してから二週間という時間を有効に活用するために駐屯所の兵士らと共に次々と良い鍛錬の仕方を考えだし、私たちに授けた。
そんな中で私に一つの不安が過った。それは休日である。やはり天使を相手に戦うとはいえ人間である。体を休める必要がある。そのため休日がないというのは想像するだけで恐ろしかった。

ブレードもそんな私たちの心境を見透かしていたのか休日を廃止にはしなかった。
私からすれば休日が潰れなかったのはありがたかった。
とはいえ事情が事情であるため一斉休暇というものが消え、交代の休暇が提案された。
固定休日が消え、代わりに一日だけ、週のどこかに休日が入れられることになったのだ。二週間だけの話ではあるがなかなかに新鮮で面白いものである。

私は週の真ん中に与えられた休日を利用して街でポイゾへの見舞いの品を買い、残った時間を活用してジョージに傷付けられたポイゾの見舞いに来ていた。
相当に痛め付けられていたのか、ポイゾの傷は想像以上であった。全身に包帯を巻いているのが確認できた。

「何かなぁ?わざわざ嫌味をいいにきたのかい?」

「ンなわけないでしょ。嫌味はあんたの専売特許よ」

「どうかなぁ?ぼくの代わりに討伐隊に加入したポギーだか、コギーだかというやつはぼくより何倍も嫌味だそうじゃあないか」

「確かにそうだけど、でもあんたも負けてないと思うよ」

「どうだろうなぁ。あぁ、早く傷が治ってほしいなぁ」

「虫の息だった状態からあと一週間で退院ってところまで回復しただけですごいと思うよ」

「どうかな?早く怪我を治してあの薄汚い天使たちを皆殺しにしてやりたいよ」

「怪我が治ったらね」

私は呆れたような目で見つめていると、ポイゾの表情に翳りが見えたことに気がつく。

「……お爺さんを亡くしたことを思い出してるの?」

「……あぁ、あの日のことはいつまでも忘れないだろうねぇ」

ポイゾは小さな声で語り始めていく。自身の生い立ちについて。

ポイゾによれば彼は11年前に生を受け、プラント家の長男としてその生を受けたのだという。プラント家は演技の世界における名家であり、その長男として生を受けたポイゾは当初は期待の的であったという。
だが、次第にポイゾに演技の才能がないことが発覚すると、両親たちは手のひらを返し、ポイゾに虐待を加えることになったのである。

入れ替わる形で両親からの寵愛を受けたのが次男であった。次男は演技の才能を両親や祖父母から引き受けて一身に引き受けており、そのことや寵愛が受けている件をネタにポイゾを虐めていたのだという。

「……おれはあのクソ野郎を許さない。もし、機会があるのならば殺すことに躊躇いはないさ。おれをこんな性格にしたのはあいつなんだからな」

私はここでいつの間にかポイゾの一人称が「ぼく」から「おれ」に変わっていたことに気がつく。
ポイゾは普段の一人称は「ぼく」であるのだが、稀に「おれ」になるのである。
今のような激昂した時がそうだ。
余程、弟に対する憎しみが強いのだろう。私は彼が語る話に耳を傾けた。
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