白き翼の天使が支配するーーanother story〜女神の力を受け継ぎし天使はいかにして世界の救済を図るかーー

アンジェロ岩井

文字の大きさ
118 / 120
天使王編

人類の責任と賞罰

しおりを挟む
「何事にも責任というものは必要だ。しかし、ぼくとしても関係のない人間を滅ぼしたくはない。人間はぼくにとっても愛おしい存在だからね。だから、滅亡を指導したその子孫に責任を取ってもらう形になる」

青年がティーに向かって人差し指を向けた時に私は反射的にティーの元へと近寄り、その体を抱き抱えていた。
これで私がしっかりと抱いていればティーが死ぬことはないだろう。
私は安堵の溜息を吐いてティーの頭を優しく撫でていく。
ティーが私の腕の中で笑っていた。なんと愛おしい姿だろう。私の中にある庇護欲がかき立てられ、ますます青年に対する憎悪が強くなっていった。

私はティーを抱き抱えたまま青年を睨み付けていた。その時だ。ティーの隣に立っていたモギーが私に向かって剣を振り上げたのである。
私は慌てて剣を回避してモギーを怒鳴り付けた。

「どういうつもり!?」

「そのガキを渡せよ。こいつの言うとおりだ。人間が天使に敵うはずがない……天使の手から人間を守るためにはそのガキを殺すしかねぇんだよ」

「教師が教え子を見捨てるどころか殺しに加担するなんて思いもしなかった」

私は侮蔑の表情でモギーを睨み付けたが、モギーは私の表情に怯みもせずに鼻で笑った。

「……好きなだけ侮蔑しろ。けど、忘れるなよ。そのチビの先祖が人間を何人殺してきた思ってんだ!?いや、祖先だけじゃあない。祖先の代からずっとこいつの一族は人類を虐げてきてんだッ!オレが間違ったことを言っているか!?え?」

「ティーはそんなことしないッ!きっと家督を継いでも道徳を忘れずにちゃんとした当主にーー」

「保証はあるのか!?そいつがちゃんとした当主になるっていう保証でも!?」
「ただの敵前逃亡で傘下の王を殺すような先祖を持つような家にそんな立派な人間になれるものかいッ!」

その言葉で確信した。モギーはデストリアが滅亡に追い込まれた際に皇帝が逃げ出した三王国の最後の一国で、決戦の際に怒りを勝って処刑された王の子孫である、と。
悟った顔をしている私を見てモギーは顔に狂ったような笑みを向けた後に冷静な顔を浮かべて自身のルーツを話し始めていく。

「……オレの祖先は最後に殺された王家でね。皇帝が連れ出した王家の娘の一人だった……オレの先祖は表向きは皇帝の一家に忠誠を誓うふりをしていたが、必ずどこかで復讐をしようと誓っていたんだ。なんらかの形で復讐するために彼女は多くの子供を作った。そのうちの一つがオレの家さ。そしてなんの偶然かオレはクイレル家の当主に跡取り娘の家庭教師に任じられてな。その時は天命だと思ったもんだ。だが、お前らと戦ううちに復讐という感情が薄れていった……さっきまではティーを絶対にこの戦争から生かして返してやりたいとさえ思っていた」

「けど、ティーを殺せる絶好の機会が訪れて、あんたの心に悪魔が囁いたってわけね」

「その通り。オレはあんたが両手で大事そうに抱き抱えているその小娘を始末しないことには安心してあの世にもいけないんだ」

モギーは不敵な笑みを浮かべた後で両手に握った剣を構えて私の元へと向かっていく。剣は光っている。恐らく私が庇った時のことも想定して、魔法を纏わせているのだろう。普通の剣であったのならばどうとでもなっただろう。
だが、魔法を纏わせていれば話は別だ。こちらもどうなるのかわかったものではない。
加えて私は両手でティーを抱えている身であるので、仮に避けることはできても反撃することは難しい。

ならば少しでも遠くに逃亡するのが吉だと思うのだが、目の前から鬼気迫る表情で迫られては逃げようにも逃げられない。
いよいよモギーの剣が私の目の前にまで迫った時だ。私の前にブレードが割って入ってきた。
モギーの剣がブレードの体を串刺しにした。魔法を纏わせた剣をエンジェリオンがまともに喰らえばどうなるのかは長らく討伐隊として戦ってきた私自身が一番知っていた。ブレードは倒れ込み、全身から黒い煙を立ち昇らせていく。

「ブレード!?ブレード!?」

モギーはその姿を見て絶望に襲われた表情を浮かべていた。それから両手で頭を抱えて宙に浮いたままの状態で膝を突いて泣き喚いていた。
モギーの手から離れた剣が地面の下へと落ちていくのを見かけたが、今の私には知ったことではない。私は呆然とした表情のモギーを見つめていた。

「す、すまねぇ……すまねぇ!オレは……オレは……こんなつもりじゃ……」

いっそのことポイゾの弟のように開き直ってくれれば殺すための大義名分ができたかもしれない。
だが、モギーはいつもの彼らしくなく泣き喚くばかりだ。これでは私が彼を殺すことを躊躇ってしまうではないか。
私は泣き喚く彼を怒らせるために自身の怒りをぶつけてみた。

「今更謝ったって遅いよッ!ブレードはもう帰ってこないんだよッ!ブレードを返してッ!この人殺しッ!」

私は神の攻撃で死んでしまったと思われるクリスが私に向かって放った台詞をそのままモギーにぶつけてやったのだ。
しかし、私の目論みとは裏腹にモギーは両目から大粒の涙をこぼしながら私を見つめるばかりだ。

その後モギーは自分を突く真似をしていた。自らの命を断とうと試みていたようだが、剣を落としてしまったことを思い出してまたしても泣き崩れ落ちていくのだった。

泣きたいのは私の方だ。私が全てを失ったような表情でフラフラと目的もなくモギーの元へと向かおうとした時だ。横に倒れていたブレードが私の足を止めた。
もう直ぐ消えてなくなってしまうというのにブレードはそれでもいつも通りの優しい笑顔を浮かべていた。

「ハル、それにティーも聞いて……モギーを恨まないでやってくれないかな?」

「どうして!?」

「……ずっと彼は晴らせなかった祖先の恨みを晴らそうとしていたんだ。その思いが暴走してしまっただけに過ぎない……それだけのことなんだ……」

「でも、それでブレードが死ぬなんて……そんなのおかしいよッ!」

「ぼくはおかしいとは思わないよ。だって本当のぼくはあの日……前王の遺骸の前でーー」

ブレードは全ての台詞を言い終わる前にその命を散らすことになった。
私の白馬に乗った王子様はもう永遠に会うことができないのだ。気高き王子は卑き召使いの手でその命を散らした。
ならば私にとってできることは王子の命を奪った召使いの命を奪うべきなのだが、王子の最後の命令は召使いの命の嘆願であった。
それならばその命令に背くことはできない。代わりに私は我慢することなく声を上げて泣いた。それだけが死ぬことになってしまった私だけの王子に対する唯一への手向けになると思ったからだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地! 恋に仕事に事件に忙しい! カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...