シリウス・イントルーダー・ロード〜暗黒神に見染められた前作のラスボスは異世界で猛威を振るう〜

アンジェロ岩井

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パンゲール大陸攻略編

魔界の神々との最終決戦ーその⑥

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凶悪なドラゴンにとって「理性」という言葉は完全に無縁であるらしい。怪物は本能の赴くままに砂浜やその周りの森を荒らし周り、闇雲に炎を吹いていく。
それを見たパキラは居た堪れずに、剣を持って怪物の顔に向かって大きな剣を斬り付ける。
怪物は大きな悲鳴を上げたものの、その後も止まる様子は見せない。腕を無造作に振り上げ、手当たり次第に自分を攻撃した相手を探っていく。
パキラはその前足の攻撃を懸命に避け、ついでに四本足のドラゴンの一番下を突く。
だが、ドラゴンは悲鳴を上げるばかり。彼は底なしの耐久力に思わず唇を噛む。
ドラゴンは大きな悲鳴を上げながら、足元の少年を踏み潰そうとしていく。
が、パキラは俊敏な動きでドラゴンの動きを交わし、地面からもう一度大きく剣を振り上げていく。
確実な手応え。明らかにパキラの剣は真下からドラゴンの急所を突いていた。だが、その代償はあまりにも大きい。
横たわっていた才蔵は思わず叫んだのだが、叫んだところでパキラの運命は変わらなかっただろう。
彼は滅茶苦茶に激痛のために暴れ回り、バランスを崩してしまった四本足のドラゴンの下敷きとなってしまったのだから。
潰された時、パキラは自分が夢の世界に居る事に気が付く。
どうやら、ここは別の場所。それも自分たちよりも随分と進んだ場所に存在する場所であったらしい。そこは今、自分が戦っているの同じ森であり、そこでは見慣れぬ衣装を着た自分と同じ年頃の少年と同じく奇妙な衣装を着た孝太郎がシリウスと戦っている姿であった。
パキラが胸をざわつかせながら、その様子を眺めていると、背後から青い白い顔の青年が、いや、こんな抽象的な表現で表さずとも堂々と現そう。
パキラは背後から近付いてきたシリウスの姿を目視する。
「これはお前が前世、明治という時代で殺された瞬間の事か?」
「その通り、お前は私と意識を共有し、私が死ぬ瞬間を共に見ているのだ。神の悪戯という奴なのだろう。私が死ぬ瞬間を何度も意識の中で体験させているのは」
シリウスはそれから大きく両腕を広げて説明していく。
パキラをドラゴンの背中で押し潰した時に意識を奪った事を。自分の意識の中に取り込み、自分の手下兼新たなる肉体として扱う事を。
だが、パキラは首を横に振り、腰に下げていた剣を突き付けて否定する。
「ふざけるな!絶対にお前の部下になんてならない!お前の体だってまっぴらごめんだ!」
「クックッ、そう言うと思ってな。お前が絶対に動く条件を私は提示しよう。パキラ、お前が私の肉体となり、部下となるのなら、この世界の半分をお前に譲り渡そう!」
パキラの思考が一時停止する。何を言っているのだろう。この男は。
停止したまま答えられないパキラの態度を見て目の前の男はイエスと受け取ったのだろう。
男は手を伸ばし、パキラの体に入り込もうとするが、パキラは男の腕を掴んでそれを阻止する。
パキラは歯をギリギリと鳴らしてなじっていく。
「パキラ!そこを退け!私が世界皇帝となるためには貴様の肉体と心が必要なのだッ!」
「ふざけるな!お前を絶対に蘇らせはしない!今、ここでオレの手で斬り殺す!」
パキラはそう言うとシリウスを突き飛ばし、突き飛ばしたシリウスの体を剣で斬り裂く。
瞬きもするほどもない一瞬の出来事。シリウスはパキラの手から離れ、そのまま地獄の亡者たちが伸ばした手を掴まれた事が信じられなかった。
だからこそ叫び続けた。未練がましく。
「待て!パキラ!人は一瞬しか生きられぬ!僅かな時間!蝋燭の炎の様に短い命しか!その点は我々の仲間になればどうだ!古今東西の世界各地の権力者が望んだものが手に入る!地位!名誉!財産!不死の命!全てお前のものだ!私が世界皇帝になれば、それらの全てをお前に与えよう!だから、パキラ!戻ってこい!」
パキラは振り返らずにシリウスに背中を向けていく。すると、彼の前に光が差し込み、彼をそこへと誘う。
パキラは神の道標に従って黙々と歩いていく。その背後で叫ぶと魔界の魔王の声も無視して。
「分かった!お前が望むというのなら、世界皇帝の地位さえお前に譲り渡そう!私は執政官!丞相!No.2の地位で構わない!だから、だから、私を置いていくなァァァァァ~!!私の肉体となってくれェェェェェ~!!!」
その言葉を最後にシリウスは地獄の亡者の手により引き込まれていく。
恐らく二度と帰ってくる事はないだろう。パキラはそうして光の元に手を伸ばす。
すると、意識が吹き飛び、次に気が付いたのはベッドの上。
彼の顔を覗き込むのは二人の幼い顔立ち。
だが、その雰囲気は到底子供とは思えないもの。パキラは二人の顔を暫く見てようやく二人の名前を思い出す。
二人は起き上がったパキラを強く抱き締めて、シリウス討伐の大義を褒め称えていく。
意識を取り戻し、退院した僅か一週間後にパキラは帝都の真ん中で行われた勲章と褒美を受け取り、国の英雄として大々的に告知されていく。
また、パキラの褒賞式であるのと同時に二人の皇帝はこの式を魔族と人との融和に利用した。
二人は魔王ライジアとその部下である槍使いのオークを呼び寄せ、勲章を与えてから、固い握手を人々の見ている前で交わす。
これにより、魔族と人との隔たりは皇帝と魔王の名の元に撤廃され、以後は大陸同士を自由に行き来できるようになったのであった。
パキラは式を終えた後に花が舞い散る中を一人歩いていた。そして、感傷に浸っていた。
シリウスとの戦いでこの世界が失ったものは大きいだろう。だが、その後に人の手で得たものはもっと大きかった。
アールランドリー大陸ではかつて国外に逃亡した王族が国を再興したらしく、その証拠として先程の式に仮任命という形でありながらも、外務大臣が式に参列し、自分を祝ってくれていた。
帝国は再興の際に帝位継承者が居なくなったために、新しく善良な人物が新しく皇帝となったらしい。
トールキールランドは一時は部族同士による争いが続いていたのだが、三カ国の仲介により、戦を辞めた後には両部族の代表による話し合いが行われ、話し合いの結果、彼らは王を立てるのをやめ、今後は部族に関係なく成人男性ならば誰でもトップとして選ばれる制度を樹立したのだそうだ。
そして、そのトールキールランドからもエルフとダークエルフの両方の代表が式に出席していた。
パキラはそれらの事を思い返し、掌の中に落ちてきた花びらを握り締めながら、自身の考えを一言、口にしていく。
「人は変われる。人は運命を変えられる。人は諦めない限りに前へと進んでいけるんだ。より良い方向へ」
パキラはそれから花びらが舞い散る中を一人進んでいく。
彼方に見える希望へと。
こうして、パキラは満面の笑みを見せて新たな場所へと旅立っていくのだった。
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