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第八話 抗争の行方

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殆ど手下も残っておらず、勝利は絶望的かと思われたカヴァリエーレ・ファミリーだったが、ダウンタウンの奪還によって、勢力を回復させた事により、ミラノリアとの抗争を有利に進めていく。
A新聞社が報道した記事によれば、ダウンタウンの次は、隣接する巨大タウン。ドイツ人街の奪取に取り掛かり、ミラノリアのドイツ人街における主要ビジネスを潰し、今は海外にいるドイツ人街を支配するボスであり、ルカの叔父であるカルロ・ミラノリアの到着を待つばかりだった。
次にヴィトたちは、カルロが到着する前にダウンタウンを川に挟まれ、隣接する鉱山業地帯とゴミ処理地帯である。バークレールイズを奪還。次の週には高級住宅街のあるゴールデンストリートの取り戻しに掛かる。ここでも主要ビジネスを潰し、今はキューバでカジノについて学んでいるルカの弟であるフランク・ミラノリアの到着を待つばかりだった。
これで、カヴァリエーレ・ファミリーの本拠地が置かれている、イタリア人たちの街であるショートアイランド・ビーチを含め、カヴァリエーレ・ファミリーが奪い取った地域は三つとなった。
さらに翌月には、アイルランド人の町であり、用心棒ビジネスと密造酒ビジネスを扱うホワイト・ベッシモを掌握した。そして組合利権と港からの嗜好品を取り扱うリバー・バイスを手中に収めた。最後にゴールデンストリートに隣接する港。キャンドレア・カナベル港を手に入れ、自動車の取り扱いと、港からの密輸品を手に入れた。残るところは、街を支配するボスが到着していない、ゴールデンストリートとドイツ人街とブランドニュース・タウンのみとなった。
B新聞では、この以上な快進撃を見せる"カリーナ"・ルーシー・カヴァリエーレを魔物と呼んでいたが、それもあながち間違いではないかもしれない。何故なら、彼女には、異世界からの剣が付いていたのだから。
C新聞は、暗黒街の稀に見る大抗争だと表現し、中世の剣を持つカヴァリエーレ・ファミリーの相談役コンシリーエーリであるヴィト・プロテッツイオーネの写真を新聞の一面に載せた。
D新聞は、ヴィトを悪魔の子と称し、燃え盛る炎から退出するヴィトの写真を一面に載せた。
1955年のニューホーランドシティにおいて、ヴィト・プロテッツイオーネの名は、恐ろしい名として知られるようになった。

ヴィトはショートアイランド・ビーチのルーシーの家もとい、カヴァリエーレ・ファミリーの屋敷で上等のワインをたしなみながら、帽子も外し、高級そうなソファー椅子に体を埋め、ノンビリと新聞を読んでいた。
「すごいな、ミラノリアとの抗争は有利に進んでいったよ、これも全てお陰だぜ?」
「そうね、最初は私も半信半疑だっけれど……その伝説の剣とやらの威力はすごいわ、収めていた幹部や中枢メンバーを物ともせずに地区を奪い取っていたんだもの」
「そうさ、トニーの奴の始末をキッカケに次々と奴らの幹部どもを血祭りに上げていったよ、次は中枢メンバーだ……」
ヴィトは手元の新聞の山を見るように言った。ルーシーはヴィトの意思に従い、書斎のサイドテーブルに盛られている新聞紙の山に手をつける。
「すごいな、あのカズトーネ・ボーンまで始末したのか……」
ルーシーはその名前を聞くたびに恐れをなしていた昔を懐かしむ。彼はボスのルカが命令するたびに何のためらいもなく引き金を引ける冷血な怪物だった。それをヴィトが始末した……。ルーシーにとっては、半ば信じられない出来事だったが、全てあの伝説の剣のお陰だと知ると、何となく理解できるような気がした。
「成る程……他には?」
「そうだな……」
ヴィトは形の良い顎をさすりながら、天井を眺め呟く。
「ホワイト・ベッシモのリーノ・ベリーニを倒す時は苦労したな、あいつはオークに変身できたからな、それでいて、銃の腕前は変身前と同じ……腕っ節の強さと、銃の正確さに苦しめられたよ」
「大変だったね」
そう苦笑するルーシーにヴィトは「きみのほうが大変だろ?」と問いかける。
「どうしてなの?」
ヴィトは書斎の居心地の良い高価なソファーに眠る少女を横目にやる。
「あのワガママお姫様の子守をしてもらっているんだからな」
ヴィトは「そっちの方がよっぽど大変だろうぜ」と苦笑いを浮かべる。
「そうね、でも大分マシになったかもしれないわ、以前は私の手料理なんて食べようともしなかったけど、最近は少し食べてくれるようになったわ」
「そうか、ならいい……よし、後は中枢メンバーの到着を待つ街と労働者たちの街であるブランドニュース・タウンだけだぜ」
「労働者たちの街ね、後は私たちがそこを制すれば、この街を奪還したもの同然だわ」
ヴィトはソワソワとした目つきで、屋敷の窓の方を見つめた。
「どうかしたの?」
「ああ、マリアの話を聞いているうちにな、考えたんだ……ミラノリアを倒した後は、マリアの王国を奪還するために、何らかの方法で、マリアの世界に行こうと」
ルーシーはヴィトのその発言が信じられないとばかりに眉をひそめる。
「本気なの?ヴィト !!あたし達が関係のない戦いに首を突っ込むなんて !それにみすみすあの子を危険な世界に行かせる必要はないわ !この世界にいれば、安全じゃあないかしら !」
「この世界が安全だと?いいか、今回はあの子が来て、この剣を手に入れ、私があの子から、魔法を学ばなければ、ミラノリアとの抗争は、こちらの負けになっていたかもしれないんだぞ !」
「……知ってるわよ、魔法を学べるのは、向こうの世界じゃあ貴族だけというのもね……」
ルーシーはヴィトの顔から自分の顔を背ける。
「ともかくだ……後は一つだけなんだぜ、それにブランドニュース・タウンには、ポワカ魔女と呼ばれる女がいるのを知っているか!?」
「ポワカ?」
意味がわからずに首をかしげるルーシーにヴィトは丁寧に説明する。
「ああ、ホピ族の言葉で、魔女というらしい」
「ホピの言葉?どうしてインディアンが出てくるの?」
「彼女は昔、アフリカに両親と住んでいたらしい、そこで彼女はアフリカのブードゥのを学んだらしい、その後アメリカに渡り、十代で先住民との戦いに志願し、秘術を使ったらしいな」
ヴィトはその後に「ポワカという名前もその時に敵対する先住民から付けられたらしい」と付け加えた。
「成る程ね、彼女はアメリカ軍を除隊し後はどうなったの?それと彼女の本名はなんなの?」
ヴィトは順番に答えていく。
「何でも、この街に流れ着き、ルカに用心棒として雇われたらしいな、その後に頭角を表し、街を一つ貰った。確か彼女の死んだお父さんの苗字とお母さんの名前をもらったらしい……確か名前は……」
ヴィトは天井に人差し指を掲げ、それをヒラヒラと動かす。考え中らしい。
「そうだ !メアリーだ !メアリー・クイーンズだった !」
ヴィトは椅子から勢いよく立ち上がり、叫ぶ。
「分かったわ、彼女は魔女の資格を存分に持っているってことは……」
「そうさ、ともかく奴を倒す際にはかなり労力が必要だというのは忘れんでほしいな」
ヴィトは腰の剣をガチャリと握りしめた。その時だった。ルーシーの部屋のドアが勢いよく開かれた。
「大変です !ルカの叔父にして、ドイツ人街の支配者である、カルロ・ミラノリアが中国より帰還致しました !」
「よし、メアリーは後回しだ……カルロを先に始末するッ!」
ヴィトはそう勢いよく叫ぶと、部屋を退出しようとしたが、飛び出そうとしたヴィトをマリアが引き留める。
「戦いに行くの?なら、あたしも連れいってよ !」
「ダメだ」
ヴィトは強い口調で否定する。
「カルロはやり手だ……きみを人質に取られてしまう危険性がある……」
「嫌よ !何か今回は嫌な予感がして……」
「ダメだ。カルロは危険な男だ……」
「あたしも連れて行って !」
マリアは依然として食い下がったままだ。いつもは「しょうがないわね、ちゃんとあたしの領土を奪い返してくるのよ」何て言うのに……。今日に限っては嫌にしつこかった。
「……分かったよ、ただし、オレが本当に危険だと判断した状況の時にきみに援軍を頼む、それでいいかな?」
マリアは頭を動かさずに横目でジッとヴィトを見つめていたが、すぐに首を縦に振った。それをヴィトが「良い子だ」と頭を撫でてやると、マリアは相変わらずの調子で、「子供扱いしないでよ !」と叫ぶ。
「では、女王陛下……この私ヴィト・プロテッツイオーネが、あなた様の領土を確保してまいります」
ヴィトは一度かぶった帽子をワザワザ外し、それを胸の前に被せ、頭を垂れる。
「頼んだわよ、私の騎士……」
マリアは頭を垂れているヴィトを直視できずに、視線を逸らしている。そんな様子をルーシーは微笑ましいと感じていた。
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