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第十二話 ドイツ人街の戦いーその④

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ヴィトは襲い掛かってきた怪物相手に剣を斜めにして防御してみせる。
「ぐっ……」
ヴィトは歯ぎしりし、怪物からの攻撃に耐えてみせる。だが、怪物もそんなヴィトに容赦をすることは決してない。
両腕にある鋭い爪をヴィトと自分との間を阻む一本の剣相手に必死に火花を散らしている。
「この野郎……」
ヴィトはそろそろ腕に限界がきていた。何故ならば、怪物があまりにも大きなパワーで畳み掛けにきているで、ヴィトの腕は痺れてきているためだった。
「こんちくしょうがッ!」
ヴィトは一か八かの賭けだとばかりに自分の右足を怪物の下半身を思いっきり蹴った。
「ガゲゲゲゲゲゲ……」
怪物は下半身を抑えて崩れる。
「さてと悪いが、このままトドメを刺させてもらうぜ、化け物くん」
ヴィトは下半身を抑えて動かない怪物に剣の矛先を構える。怪物は微動だにしない。
ヴィトは声を上げ、怪物目掛けて一気に剣を振り下ろさせたが、その瞬間に怪物は起き上がり、ヴィト目掛けて突っ込んできたのだ。ヴィトはマズイと回避しようとしたが、怪物は既にヴィトを捉えていた。ヴィトのコートに五つの悲惨な穴が開く。
ヴィトは咄嗟に怪物の体を蹴り上げ、怪物を自分の元から一旦引き離し、その場の難を逃れる。

「いいぞ !ヴィトの小僧をぶっ殺してしまえッ!」
ジョゼフ・ギャリアー上院議員は年と己の立場を忘れ、まるでヒーローを応援する子供のように無邪気に手を振り上げ、自分の護衛役である怪物を応援する。
「おい、どうやら、賭けはオレが勝ちそうだな?ええ」
ジョゼフは自分の監視役である青年に細い目を向けて笑う。
「まだ、分からねぇ……ヴィトは絶対にやってくれるはず……なんつったって、オレ達のファミリーの_相談役コンシリーエーレなんだからな……」
未だに強気に笑うマロルに対し、ジョゼフは煮え切らない思いを抱えていた。
(あのガキ、自分の相棒があんな目に遭っているというのに、まだ勝機を考えてるのか?ふん、ただの負け惜しみに過ぎないはずさ、オレはマフィアは嫌いだが、ミラノリアだけは信頼してるからな、ルカの奴はこれまでよくオレに尽くしてくれたからな)
ジョゼフは腕を組みながら考える。その時だった。すぐ側で自分の護衛役である怪物と戦っていた、ヴィト・プロッツオーネの姿が見えないのだ。
「なっ、なんだと !」
ジョゼフは急いで周囲を見渡す。ヴィトが逃げたのだろうか。否。あの状態で逃げられるはずがない。と、すると……。
ジョゼフはこれまでに感じたことのないくらいの恐怖を抱いた。もしや、自分の側に移動したのだろうかと。
「くそう、どこだ !」
ジョゼフは声を荒げ、周囲を見渡しながら、高級な絹でできているポール・スミスのネクタイを世話しなく触る。
「何やってんだい、あんた?」
マルロは狼狽している上院議員はフゥと小さな息を吐きながら尋ねる。
「貴様、見とらんのか !ヴィトの奴が姿を消したんだぞ !」
マルロはポケットからタバコを取り出し、それに火を点け、動揺を隠すように慌てて咥える。
(ヴィトの奴が姿を消しただと?逃げたのか、だが、あの怪物がいるんだぞ、逃げられるはずが無いし、第一にあいつはコンシリーエーレとして誇りを持っていた。ファミリーの一員であるオレを見捨てるわけがねぇ !!)
マルロはタバコを持っている手を無自覚に震わせている事に気がつく。
(やれやれ、どうなってやがる……)
その瞬間だった。ヴィトと戦っていたであろう怪物が、ヴィトという抑止力を失ったためか、標的をマルロに変更した。怪物は唸り声を上げ、爪を突き立ててマルロに飛び掛かってくる。
「くそう !」
マルロが狙撃銃の銃口を慌てて突きつけようとした時だった。
「やはり、オレの読みが当たったな」
ヴィトの声が聞こえた。そう怪物の上空から……。
「ヴィト !!」
マルロは歓喜の声をあげる。
「こいつでも喰らえッ!」
ヴィトは剣をガーゴイルの体めがけて勢いよく振り下ろす。流石にヴィトを何度も苦しめてきた怪物もこの攻撃に対処できなかったのか、悪魔を思わせる漆黒の体を真っ二つに分かれさせる事を許してしまう。
ヴィトは怪物を切った後は、そのまま地面に激突する。
「大丈夫か、ヴィト!?」
マルロは慌ててヴィトに駆け寄るものの、ヴィトにその動きを止めるように静止させられた。
「どうしてだ!?」
「あいつを見な」
狼狽するマルロにヴィトは逃げようとするジョゼフの姿を指差す。
「あっ、そうか……」
マルロは狙撃銃をジョゼフの右足を撃ち抜く。これでもう動けないだろう。
「さてと……ミラノリアの協力し、多くの人々を戦場に送った罪を償ってもらうぜ、上院議員様?」
両腕でこの場から逃れようとする、上院議員は顔を青ざめる。
「たっ、助けてくれ……」
上院議員は手を合わせて命乞いをしたが、ヴィトは当然のように首をよこに振る。
「ダメだね」
そんなヴィトにマルロは狙撃銃手渡す。
「あんたの罪はピレネー山脈の標高より大きいんだぜ」
ヴィトは狙撃銃で上院議員の心臓を撃ち抜いた。上院議員は血しぶきを上げ、その場に崩れ落ちる。
「これでルカのスポンサーは消えたか……」
狙撃銃を手落とすヴィトにマルロは慌てて駆け寄る。
「なぁ、ヴィト……お前どうやって姿を消したんだ!?」
ヴィトはくっくっと微笑を浮かべながら説明する。
「魔法だよ、あのから教えていただいたな、空間を移動する魔法さ……向こうの世界で平民が魔物に出会ったら、使う魔法だそうだ……好きな場所に留まれるだけじゃあなく、好きな時に空間を空けて出れるらしい」
マルロはホッとしてヴィトにタバコを手渡す。
「吸うかい?」
ヴィトは遠慮なくタバコを手に取り、口に咥える。マルロはそのタバコに火を点ける。ヴィトはタバコを味わっていると、夕日が傾いているの気がつく。
ヴィトはその日の夕焼けはより一層綺麗に見えた。
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