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第二十四話 魔女の襲撃ーその①

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ヴィトはその日はあまりよく眠れなかった。なんとなく嫌な胸騒ぎがしたから……。
「ヴィト……まだ寝てないの?」
リビングで一人寂しく酒を飲んでいる白のシンプルなシャツに地味な黒のズボンといった姿のヴィトに声をかけたのは、黒のネクジェを着たルーシーだった。
「あぁ、今日は眠れなくてな……」
ヴィトは少しだけ減っているワイングラスに目をやる。
「どうかしたの?」
「何となく胸騒ぎがしてな」
ヴィトはそう言うとルーシーに襲撃の可能性がある事を告げる。
「まさか、あり得ないわ !彼らに襲撃ができる戦力なんて殆ど残っていないはずよ」
「……オレの杞憂だといいんだがな」
ヴィトはそう言うとリビングの柔らかい椅子タイプのソファーの横にかけてある剣の柄を触る。
「おれは考えてたんだ……もし、神様がいるとしたら、あのタイミングでマリアを別の世界から送ってくれたのは、この危機を乗り越え、この街のボスにさせるためだと」
「どう言うことかしら?」
ルーシーはヴィトの言っている意味が分からずに首を横に振っていた。
「だって、そうだろう?最近のギャングやマフィアは仁義をなくした奴らばかりじゃあないか、麻薬ダストは売る。一般の人々カタギの奴らの店から金を奪い取る……古き良きマフィアやギャングはどこにいっちまったんだよ」
そう呟くヴィトにルーシーは異議を唱える。
「でもね、ヴィト……わたし達が悪党だって事には変わらないわ、一般の人々カタギの人たちにとって、ミラノリアもわたし達カヴァリエーレも変わらないわ」
「そうさ、おれ達はだよ、それは変わらない、だけれど仁義を忘れた奴はだと言ってんだッ!オレはッ!」
ルーシーは答える事なく無言でワインを飲む。
「もう寝ましょう、あなたは明日ワガママお姫様にまた付き合うんでしょう?」
「いいや、今晩は寝ないよ……昨日から悪夢が続いてるのもあってな」
「悪夢?」
ルーシーは勇敢なコンシリエーレヴィトの思いもよらない弱気な言葉に眉を潜める。
「笑ってくれて構わんぜ、ともかくオレは悪夢を見てるんだ……燃え盛る中世風の城に国の軍隊なんぞ比較にならないくらいに強い中世風の鎧を身にまとった軍隊。泣き叫ぶ国民に燃え盛る家々……そんな景色がおれの夢に現れるんだ」
「辛い夢ね」
ルーシーはそれ以外に言葉が浮かばなかった。他にかける言葉も見つからない。
「だな、お前も寝ろよ、今晩は寝る気になれないんだ」
「じゃあ、寝る前に一つだけ質問をしてもいいかしら?あなたそれってマリアと意識を共有してるって事なの?」
ヴィトはそのルーシーの質問にグラスをソファーの横に置いてある小さなサイドテーブルに置いて答える。
「かもな、でなけりゃあ行ったこともない中世の城を浮かべるはずはねぇよ、この街から出たこともねぇしな」
その後にヴィトは「まぁ、刑務所には行くかもしれんが」と自虐的に笑う。
「そうね、おやすみ……」
ルーシーは自分の部屋へと戻っていく。
ヴィトはそれを見届けると、再びワイングラスに手をつける。
「静かな晩だ……」
ヴィトが何か曲でもかけようとした時だった。庭でなにか大きな音が響く。
「……庭の方か」
そう呟くと、ヴィトはソファーの横に置いてある剣と地下の武器庫と呼ばれる部屋へと降りていき、その部屋の壁に無数にするあると思われるショットガンやマシンガンやライフル銃の中から、丸い弾倉の付いたトンプソン機関銃とその下に置いてある拳銃や弾が置いてあるタンスから、45口径のオート拳銃を取り出す。
「これで準備は万端だな」
ヴィトはオート拳銃に弾を詰め込みながら、目の奥をキラリと光らせる。
すると、再び庭で大きな音がした。ヴィトは駆け足でそれぞれの部屋へと向かう。

メアリー・クイーンズは一先ず庭へと侵入できたことにホッとする。
何せ今まで自分たちを苦しめてきた敵対組織の屋敷に侵入するのは容易ではないと思っていたからだ。だが簡単に侵入できた。
「これでいいわね」
メアリーは同時に侵入した十五人を見て安心した笑みを見せる。
「ええ、問題はありません……作戦としては、まず我々が屋敷に侵入し、屋敷にいる連中をかき乱す、それから周囲を包囲している味方が混乱している屋敷を攻撃する……完璧な作戦ですなッ!」
白のシャツと黒ズボンというシンプルな服を着た部下が思わず大声を上げる。
「そうね、でも私としてはあなたに静かにしてもらいたいんだけど」
メアリーは苦笑しながら言う。
「申し訳ありませんでした……」
部下は左手で口を紡ぐ。
「いいわよ、とりあえずはカヴァリエーレの小娘を……」
その時だった。マシンガンの弾が鳴り響く。そこで部下たちは次々と倒されていく。
「なっ、なんなよッ!」
メアリーが弾が鳴った方向を見ると、そこにはトンプソン機関銃を右手で上に上げているヴィトの姿が見えた。
「ヴィト……プロテッツオーネッ!」
「よぅ、あんたがミラノリアの最後の中枢メンバーであるメアリー・クイーンズかい?」
ヴィトは言葉こそ軽かったものの、口調はかなり厳しいものだとメアリーはかなり雰囲気で感じ取る。
「そうよ、悪いけど、あなたここで倒れてくれないかしら?今後のミラノリアの命運はあなたの生死で大きく左右されるもの」
メアリーはヴィト相手に苦しい笑顔を見せる。
「無理だね、お前はここでオレに倒される」
ヴィトはトンプソンを捨て、剣を鞘から引き抜き、その剣の矛先をメアリーに向ける。
「やれるものなら、やってみなさいな……まぁブードゥの呪術には勝てないと思うけど」
メアリーは妙なツノを見せて、何やら呟く。するとどうだろう、今まで何もなかったはずなのにアフリカゾウが急に現れたのだ。
「ッ、これがブードゥの呪術の魔力か……」
ヴィトは剣の矛先をメアリーから、アフリカゾウに変更した。
「驚いたでしょう?わたしはこの呪術で中枢メンバーにまで成り上がったのよ」
「やれるもんなら、やってみろッ!」
ヴィトはアフリカゾウが勢いよく踏む足から出る風圧に負けることなく剣を向ける。
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