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それからというもの、総一郎さまの様子は少し変わった。
「和希は働き者だな」と言って手を握る。「疲れてはいないか?」と言って頭を撫でる。「いつもありがとう」と言って俺の身体を抱きしめる。
そして一番の変化は、一日の終わりに必ず彼の部屋に行くようになったことだ。「おいで」と優しく手を引かれると、俺は自然に頷いてしまう。
「……和希」
就業後、いつものように総一郎さまの部屋に連れ込まれ、俺はソファの上で後ろから抱きかかえられている。
「あ、あ、あのー……総一郎さま? そ、そろそろ帰りたいんですけど」
「もう少しいいだろう」
「……ぐっ」
総一郎さまの吐息が耳を掠めて、俺はびくっと身を縮めた。
こうして抱きしめられて三十分は経つだろうか。すっかり毎日の日課になりつつあるが、俺はいつまで経っても慣れることが出来ない。心臓は爆速で打っているし、頬も燃えそうなほどに熱いし、なによりも甘ったるい総一郎さまの声に頭がおかしくなってしまいそうだ。
唇をかんで羞恥に耐えていると、ふいに首筋にちゅっと温かい唇の感触が触れた。
「んぎゃっ」
突然のことに奇声あげて飛び上がった瞬間、俺はソファの座面から滑り落ち尻もちをついた。幸いソファの下は毛足の長いふかふかの絨毯が敷かれているので尻は痛くないが、情けなさと羞恥で顔が熱くなってくる。
総一郎さまがくすくす笑い出した。
「君はいつも面白い声を上げるな」
「誰のせいですか……っ」
「ん? 俺のせいだな。悪かった」
総一郎さまはにこにこ笑いながら、俺の脇に手を入れると身体を引き上げた。今度は正面から俺を抱え込みながら、小さな声でつぶやく。
「これ以上はしないから、安心してくれ」
「……」
ぐっと引き寄せられ、温かい腕に包まれる。一気に身体と心のこわばりが解けていった。俺は目を閉じて総一郎さまの肩にくったりと額を乗せた。
――気持ちいい。もっと触れたい、触れて欲しい。
自然とそんな思いが湧き上がってくるが、同時に小さな棘をさされるような胸の痛みも感じてしまう。
だって総一郎さまは俺が『欲しい』と望んでいい人ではない。将来は西園寺家の事業を継いでいかれる方なのだ。
きちんと理解しているはずなのに、彼の笑顔を見ると何もかもがどうでも良くなってしまう。目の前の総一郎さまのことしか考えられなくなる。
もう誤魔化しようがなかった。俺は総一郎さまのことが好きなのだ。そしておそらく総一郎さまも。それがわからないほど俺は伊達に年を取ってはいなかった。
そしてそんな俺たちの様子の変化に気がつかないほど、西園寺家の旦那様と奥様の目は節穴であるはずがなかったのだ。
「話があるから部屋に来てほしい」
と旦那様に言われたのは、それから数日後のことだった。
「和希は働き者だな」と言って手を握る。「疲れてはいないか?」と言って頭を撫でる。「いつもありがとう」と言って俺の身体を抱きしめる。
そして一番の変化は、一日の終わりに必ず彼の部屋に行くようになったことだ。「おいで」と優しく手を引かれると、俺は自然に頷いてしまう。
「……和希」
就業後、いつものように総一郎さまの部屋に連れ込まれ、俺はソファの上で後ろから抱きかかえられている。
「あ、あ、あのー……総一郎さま? そ、そろそろ帰りたいんですけど」
「もう少しいいだろう」
「……ぐっ」
総一郎さまの吐息が耳を掠めて、俺はびくっと身を縮めた。
こうして抱きしめられて三十分は経つだろうか。すっかり毎日の日課になりつつあるが、俺はいつまで経っても慣れることが出来ない。心臓は爆速で打っているし、頬も燃えそうなほどに熱いし、なによりも甘ったるい総一郎さまの声に頭がおかしくなってしまいそうだ。
唇をかんで羞恥に耐えていると、ふいに首筋にちゅっと温かい唇の感触が触れた。
「んぎゃっ」
突然のことに奇声あげて飛び上がった瞬間、俺はソファの座面から滑り落ち尻もちをついた。幸いソファの下は毛足の長いふかふかの絨毯が敷かれているので尻は痛くないが、情けなさと羞恥で顔が熱くなってくる。
総一郎さまがくすくす笑い出した。
「君はいつも面白い声を上げるな」
「誰のせいですか……っ」
「ん? 俺のせいだな。悪かった」
総一郎さまはにこにこ笑いながら、俺の脇に手を入れると身体を引き上げた。今度は正面から俺を抱え込みながら、小さな声でつぶやく。
「これ以上はしないから、安心してくれ」
「……」
ぐっと引き寄せられ、温かい腕に包まれる。一気に身体と心のこわばりが解けていった。俺は目を閉じて総一郎さまの肩にくったりと額を乗せた。
――気持ちいい。もっと触れたい、触れて欲しい。
自然とそんな思いが湧き上がってくるが、同時に小さな棘をさされるような胸の痛みも感じてしまう。
だって総一郎さまは俺が『欲しい』と望んでいい人ではない。将来は西園寺家の事業を継いでいかれる方なのだ。
きちんと理解しているはずなのに、彼の笑顔を見ると何もかもがどうでも良くなってしまう。目の前の総一郎さまのことしか考えられなくなる。
もう誤魔化しようがなかった。俺は総一郎さまのことが好きなのだ。そしておそらく総一郎さまも。それがわからないほど俺は伊達に年を取ってはいなかった。
そしてそんな俺たちの様子の変化に気がつかないほど、西園寺家の旦那様と奥様の目は節穴であるはずがなかったのだ。
「話があるから部屋に来てほしい」
と旦那様に言われたのは、それから数日後のことだった。
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