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16.今出せる答え
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「ですよね。陛下はかなりいい男ですしねえ。それなら番になればいいのでは? オースティン陛下ならあなたを大事にしてくれると思いますよ」
それに反論はない。確かにオースティンなら大事にしてくれるだろうし、全力で自分を守ってくれるだろう。
「だけど……」
「だけど、なんです!?」
「……え」
「なぜ駄目なんですか!?」
「えっ」
ずいずいっとドニが身を乗り出してくる。その勢いに押されるようについ本心が口から出てしまった。
「ぼ、僕は……し、慕っている人が、いて……っ」
リオンの言葉に、ドニは「ああ!」と大きな声を上げた。
「わかりました! クレイド隊長のことですね!?」
「ええっ!? ――あっ、痛っ」
ずばり言い当てられ、リオンは驚きのあまり後ろに尻もちをついてしまった。下は柔らかい土なのでそれほど痛みはなかったが、ドニが慌てたようにリオンは手を掴んで起こしてくれる。
「大丈夫ですか、リオン様」
「あ、ありがとうございます……っていうか、今……なんて……?」
「え? リオン様がクレイド隊長のことを好きだという話ですか?」
けろっとドニに言われ、リオンは赤面して首を振った。
「違いますっ……!」
「え、違うのですか?」
きょとんとドニが首を傾げる。『あら残念』と言わんばかりの表情にふっと気が抜けてしまった。ここ数日ずっと気が張った状態だったので、一度空気が抜けてしまうともう駄目だった。もういいか、という気持ちになり、リオンは頷いた。
「違いません……」
「ああ、やっぱりそうですか」
ドニは楽しそうに膝を打ったが、黙ったままのリオンに気が付いて、小首を傾げた。
「リオン様はクレイド隊長のことが好きなんですよね? それなら答えは出ているはずでは? 悩む必要ありませんよね」
「いえ……クレイドには……振られているので……。『あなたの気持ちには応えられない』って……はっきり言われてるんです」
「あらら、そうでしたか」
「それに……僕がオースティンの番にならなかったら、この国は困ったことになりますよね?」
「うーん、まあそれもそうですけども……」
ドニが困ったようにぽりぽりと頭を掻く。それきり薬草園には静かな沈黙が落ちた。
「えーっと、あのですね、リオン様」
「はい」
「物事に絶対的な正解はないと思います」
真面目な言葉に、リオンは驚いて顔を上げた。
「人には必ず本音と建前というものがあるんです。そのうえで『本音ではないけど言えないこと』、というものもある」
「な、なるほど……」
「ですから、人の言葉を基準に物事を決めると他人のことを恨んだり、のちのち自分が後悔したりすることになるんです。他人はあなたの人生の責任は取ってくれないですよ」
ドニの言葉はどれも、今までまともな人間関係を構築してきていないリオンにはよくわからなかったが、心の真ん中にどしんとくるものがあった。
固唾をのんで聞き入るリオンを見ながら、ドニが続ける。
「それも含めてどうすればいいかと言うと、やっぱり出来るだけ自分の心に沿うように選ぶしかない。それが一番自然で一番確かで良い道です」
「……僕の心に沿うように……選んで……いいのですか?」
「ええ、ええ、もちろん! どんな選択をしても大丈夫だと、この僕が太鼓判を押しましょう」
「ドニさん……」
リオンはまじまじとドニの顔を見つめた。
今までドニのことは『何を考えているのかよくわからない年齢不詳の人』という印象が強かった。でも今正面から微笑みかけてくる彼は、懐が深い大人に見えた。
「まあ今の僕に言えるのは、それくらいまでですかね」
目を見開いているリオンににっと笑いかけると、ドニはさっと立ち上がった。「それではまた」とあっさりとした挨拶を残してひょいひょい歩いて薬草園を去っていく。リオンはただ黙って鳥の巣のようにくるくると渦をまく金髪と猫背気味の背中を見送った。
(誰のためでもなく、自分自身のために、か――)
リオンはしゃがみ込んだままで深く息を吸った。
そして心に問いかける――本当は、どうしたいのか。
目を閉じると、浮かぶのは一人の姿だけだった。
どんなに拒まれても、どんなに苦しくても。
「……僕は……やっぱり、クレイドが好きだ」
クレイドが不在の今、残されたものをかき集めて組み立てようとしてもそれ以上の答えは出ない。クレイドが帰ってきたら、彼の気持ちを聞こう。きちんと向き合おう。それが今の自分に出せる、精いっぱいの答えだ。
気持ちが定まり心が軽くなる。ようし、と手についた土を払い、他の苗も植えようと弾みをつけて立ち上がった。
(……ん? あれ?)
王宮の方がざわざわと騒がしいのに気が付いた。歓声のようなものも聞こえてくる。何かあったのだろうか。
不思議に思ったリオンは、早足で王宮の広場の方に向かった。
王城の門を入ってきたのは、ノルツブルクの旗を掲げた大きな馬車と、それに寄り添う騎馬隊だった。
「――あ――」
遠目でもわかる。一番前の馬に乗っているのは、隊服に身を包んだクレイドだった。
(クレイドが帰ってきた――! 無事に帰ってきた……!)
リオンは駆けだした。
それに反論はない。確かにオースティンなら大事にしてくれるだろうし、全力で自分を守ってくれるだろう。
「だけど……」
「だけど、なんです!?」
「……え」
「なぜ駄目なんですか!?」
「えっ」
ずいずいっとドニが身を乗り出してくる。その勢いに押されるようについ本心が口から出てしまった。
「ぼ、僕は……し、慕っている人が、いて……っ」
リオンの言葉に、ドニは「ああ!」と大きな声を上げた。
「わかりました! クレイド隊長のことですね!?」
「ええっ!? ――あっ、痛っ」
ずばり言い当てられ、リオンは驚きのあまり後ろに尻もちをついてしまった。下は柔らかい土なのでそれほど痛みはなかったが、ドニが慌てたようにリオンは手を掴んで起こしてくれる。
「大丈夫ですか、リオン様」
「あ、ありがとうございます……っていうか、今……なんて……?」
「え? リオン様がクレイド隊長のことを好きだという話ですか?」
けろっとドニに言われ、リオンは赤面して首を振った。
「違いますっ……!」
「え、違うのですか?」
きょとんとドニが首を傾げる。『あら残念』と言わんばかりの表情にふっと気が抜けてしまった。ここ数日ずっと気が張った状態だったので、一度空気が抜けてしまうともう駄目だった。もういいか、という気持ちになり、リオンは頷いた。
「違いません……」
「ああ、やっぱりそうですか」
ドニは楽しそうに膝を打ったが、黙ったままのリオンに気が付いて、小首を傾げた。
「リオン様はクレイド隊長のことが好きなんですよね? それなら答えは出ているはずでは? 悩む必要ありませんよね」
「いえ……クレイドには……振られているので……。『あなたの気持ちには応えられない』って……はっきり言われてるんです」
「あらら、そうでしたか」
「それに……僕がオースティンの番にならなかったら、この国は困ったことになりますよね?」
「うーん、まあそれもそうですけども……」
ドニが困ったようにぽりぽりと頭を掻く。それきり薬草園には静かな沈黙が落ちた。
「えーっと、あのですね、リオン様」
「はい」
「物事に絶対的な正解はないと思います」
真面目な言葉に、リオンは驚いて顔を上げた。
「人には必ず本音と建前というものがあるんです。そのうえで『本音ではないけど言えないこと』、というものもある」
「な、なるほど……」
「ですから、人の言葉を基準に物事を決めると他人のことを恨んだり、のちのち自分が後悔したりすることになるんです。他人はあなたの人生の責任は取ってくれないですよ」
ドニの言葉はどれも、今までまともな人間関係を構築してきていないリオンにはよくわからなかったが、心の真ん中にどしんとくるものがあった。
固唾をのんで聞き入るリオンを見ながら、ドニが続ける。
「それも含めてどうすればいいかと言うと、やっぱり出来るだけ自分の心に沿うように選ぶしかない。それが一番自然で一番確かで良い道です」
「……僕の心に沿うように……選んで……いいのですか?」
「ええ、ええ、もちろん! どんな選択をしても大丈夫だと、この僕が太鼓判を押しましょう」
「ドニさん……」
リオンはまじまじとドニの顔を見つめた。
今までドニのことは『何を考えているのかよくわからない年齢不詳の人』という印象が強かった。でも今正面から微笑みかけてくる彼は、懐が深い大人に見えた。
「まあ今の僕に言えるのは、それくらいまでですかね」
目を見開いているリオンににっと笑いかけると、ドニはさっと立ち上がった。「それではまた」とあっさりとした挨拶を残してひょいひょい歩いて薬草園を去っていく。リオンはただ黙って鳥の巣のようにくるくると渦をまく金髪と猫背気味の背中を見送った。
(誰のためでもなく、自分自身のために、か――)
リオンはしゃがみ込んだままで深く息を吸った。
そして心に問いかける――本当は、どうしたいのか。
目を閉じると、浮かぶのは一人の姿だけだった。
どんなに拒まれても、どんなに苦しくても。
「……僕は……やっぱり、クレイドが好きだ」
クレイドが不在の今、残されたものをかき集めて組み立てようとしてもそれ以上の答えは出ない。クレイドが帰ってきたら、彼の気持ちを聞こう。きちんと向き合おう。それが今の自分に出せる、精いっぱいの答えだ。
気持ちが定まり心が軽くなる。ようし、と手についた土を払い、他の苗も植えようと弾みをつけて立ち上がった。
(……ん? あれ?)
王宮の方がざわざわと騒がしいのに気が付いた。歓声のようなものも聞こえてくる。何かあったのだろうか。
不思議に思ったリオンは、早足で王宮の広場の方に向かった。
王城の門を入ってきたのは、ノルツブルクの旗を掲げた大きな馬車と、それに寄り添う騎馬隊だった。
「――あ――」
遠目でもわかる。一番前の馬に乗っているのは、隊服に身を包んだクレイドだった。
(クレイドが帰ってきた――! 無事に帰ってきた……!)
リオンは駆けだした。
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