7 / 64
序章:旅立ち
7.復興の旅へ
しおりを挟む
魔族と人間が共に生活するボルヘミア大陸には、三つの山脈と五つの湖がある。魔王城はその内二つの山脈に挟まれた自然豊かな北北西の大地にあった。
そして魔王城から長い道を歩いた先に、今回復興に向かうコボルトの村はあるという。
この一帯では珍しく、多様性に富んだ広大な大草原の中心に位置し、その環境を利用して様々なモノづくりが盛んに行われていると聞く。
そしてその最たる例として挙げられるのが道路作りだ。
コボルト達は魔王城のある『魔都ゴウル』から、初代魔王様の命により、なんと東にある人の生存圏まで繋がる全長1500マイルの街道を建設して見せた。
サンセットコボルトロードと言われるその街道は、前述した三つの山脈と五つの湖を通過するように作成され、そこに住む魔族はその恩恵の上で生活し、歴史を紡いできた。
しかし残念なことに、初代魔王の支配領域を示すこの道は、第一次勇者侵攻時には人間によって利用され、その大半が人間の生存圏に飲み込まれてしまい現在に至る。
そして今回僕が復興にむかう原因を作った第二次勇者侵攻もこの道を使って行われた。そう聞くとなんとも因縁深い道である。
そんな道を僕はひたすらにてくてく歩いていたところなのだった。
「ふぅー…本当にこの道、終わりがあるのかな」
ココを歩いていると、どうにも時間の概念が薄れるような気がした。
自分が歩けばそれに従って時間が進み、立ち止まると世界は静止しているように感じられた。
大陸の北部から東の方向に進んでいくので、当然左手を見れば海が見えるし、右手を見れば山が見える。
しかしそのどちらも代り映えのしない風景が続き、景色を見て歩いたのは始めの一日だけで満足したのだった。
コボルトの村がある草原にはまだしばらく歩かなくてはならなさそうで、途中にある水源を頼りにしながら、自分のペースで少しずつ歩いて行くしかない。
孤独な旅が続いた。
たまに地平の彼方から人の姿が見えると、彼らが去るまで道路脇の深い草むらの中をかがんで移動することもあった。
そうして歩いていると、ゆっくりと日は落ちていき、二日目の夜がやってくる。
「ふぅ…もう五月だっていうのに、海側だからかな…?」
簡易的なテントを背後に、震えながら火に当たっていると、デポットリングから通信が入る。
「やあ、おにぎり小僧。クロックドムッシュだ」
公式の場ではないからクロックドムッシュの声も柔らかいモノになっていた。
「こんばんは。おじさんは休憩中ですか? 」
道の上で立ち止まり、山々に沈んでいく夕日を眺めながら聞いてみる。
クロックドムッシュは幼い頃からよく僕と遊んでくれていて、母上とも仲がいい。父上がいなくなってからはよくご飯などにも連れて行ってくれるし、優しいおじさんだ。
でもたまに母を見る目が怪しいから要注意人物でもある。
「あぁ。魔王様がお食事中だからな。まあそれはそうと、お前さんがコボルトの村に到着する前に少し小話を、と思ってね。周りに人間の姿はないだろうか」
アタリを見回すと、人影らしきものはないようだった。
「問題ないかと」
リングからはクロックドムッシュ以外のガヤが聞こえてくる。どうやら魔王城の食堂にいるようだ。
この時間帯で、あそこ以上に騒がしいところはない。
おじさんは僕がどうしているか気になって、わざわざ休憩時間に連絡してくれたのだろう。
「そうだな。ではコボルトについて少しおさらいしておこう。道路を作れるぐらい凄い力があるのに、『町』や『都』に発展せず『村』のままなのはなぜだか、士官学校で教えたが、覚えているか」
おじさんは数ヵ月前まで僕の担任だった。そして僕の世代と共に卒業し、教職から現場に戻り今にいたる。
だからかこうして卒業した後でも、出会っては話のネタに問題を出されることがよくあった。
「確か彼らがみんな引きこもりがちな性格で、魔王様がいないとろくに団体行動がとれないから……と、おっしゃっていたような」
「まあ及第点だな。貴殿の教師は大変優秀なようだ」
「そこは眠くなるような授業をちゃんと覚えていた教え子を褒めるべきでは? 」
つい最近のことなので、昨日のことのように思い出せる。
「ぬかせ。―――コボルト達については少し思い出せたか」
「えぇ、親近感が湧きます」
「勇者が攻め込んできた時にも、コボルト達は団体行動が取れずに敗北してしまった。そしてその時に出来た溝はいまだに深いモノと聞く」
おじさんはそう言ってため息をついた。
しかし、それが嘲笑や侮蔑の混じったものでないことは確かだった。
おじさんはコボルト達を責めたりはしなかった。兵站のプロとしては、彼らの功績に頭が上がらないのかも知れない。
「復興にも、各村を周っておにぎりを配らないとダメそうですね」
「あぁ。彼らはコボルトという種族の括りではあるが、ダンジョンごとに異なる文化を持つ部族だと思ってくれ。当然アーの村で通用したことが、ベーの村で通用せんということもあり得るから、ソコの所気をつけろよ」
そう言って通信は切れた。
♢♢♢
長いサンセットコボルトロードを歩き続けて遂にコボルトの村につくと、魔族の言語で部族名の書かれた石が、大草原に無数に置かれてあった。
「こんなに石と石の距離は近いのに……」
これが全て独立した村なら、確かにまとまれば大きな国が築けそうだ。
石のあたりを見渡すと、クロックドムッシュが話していた通り、下へと続く穴を見つけることが出来た。
大体このダンジョン一つにコボルトが百から三百ほど居住していると聞いている。
それだけいるならば、どの村が魔王像を所有しているか分かるコボルトも見つけることが出来るはずだ。
「ごめんください」
勇気を出して声をかけたのに、穴の奥からは返事がなにも返ってこなかった。そして見たところベルもない。
「不法侵入……いや、いざとなったら勅命を盾にするか」
両手に塩をつけてから、ダンジョンに足を踏み入れた。
♢♢♢
しばらく進むと、何やら穴の底から騒がしい音が聞こえてきた。
そして剣がぶつかりあう音や、コボルトの悲鳴も。
なにかが下で起きている。
僕は急いでダンジョンを駆け下りた。
そして魔王城から長い道を歩いた先に、今回復興に向かうコボルトの村はあるという。
この一帯では珍しく、多様性に富んだ広大な大草原の中心に位置し、その環境を利用して様々なモノづくりが盛んに行われていると聞く。
そしてその最たる例として挙げられるのが道路作りだ。
コボルト達は魔王城のある『魔都ゴウル』から、初代魔王様の命により、なんと東にある人の生存圏まで繋がる全長1500マイルの街道を建設して見せた。
サンセットコボルトロードと言われるその街道は、前述した三つの山脈と五つの湖を通過するように作成され、そこに住む魔族はその恩恵の上で生活し、歴史を紡いできた。
しかし残念なことに、初代魔王の支配領域を示すこの道は、第一次勇者侵攻時には人間によって利用され、その大半が人間の生存圏に飲み込まれてしまい現在に至る。
そして今回僕が復興にむかう原因を作った第二次勇者侵攻もこの道を使って行われた。そう聞くとなんとも因縁深い道である。
そんな道を僕はひたすらにてくてく歩いていたところなのだった。
「ふぅー…本当にこの道、終わりがあるのかな」
ココを歩いていると、どうにも時間の概念が薄れるような気がした。
自分が歩けばそれに従って時間が進み、立ち止まると世界は静止しているように感じられた。
大陸の北部から東の方向に進んでいくので、当然左手を見れば海が見えるし、右手を見れば山が見える。
しかしそのどちらも代り映えのしない風景が続き、景色を見て歩いたのは始めの一日だけで満足したのだった。
コボルトの村がある草原にはまだしばらく歩かなくてはならなさそうで、途中にある水源を頼りにしながら、自分のペースで少しずつ歩いて行くしかない。
孤独な旅が続いた。
たまに地平の彼方から人の姿が見えると、彼らが去るまで道路脇の深い草むらの中をかがんで移動することもあった。
そうして歩いていると、ゆっくりと日は落ちていき、二日目の夜がやってくる。
「ふぅ…もう五月だっていうのに、海側だからかな…?」
簡易的なテントを背後に、震えながら火に当たっていると、デポットリングから通信が入る。
「やあ、おにぎり小僧。クロックドムッシュだ」
公式の場ではないからクロックドムッシュの声も柔らかいモノになっていた。
「こんばんは。おじさんは休憩中ですか? 」
道の上で立ち止まり、山々に沈んでいく夕日を眺めながら聞いてみる。
クロックドムッシュは幼い頃からよく僕と遊んでくれていて、母上とも仲がいい。父上がいなくなってからはよくご飯などにも連れて行ってくれるし、優しいおじさんだ。
でもたまに母を見る目が怪しいから要注意人物でもある。
「あぁ。魔王様がお食事中だからな。まあそれはそうと、お前さんがコボルトの村に到着する前に少し小話を、と思ってね。周りに人間の姿はないだろうか」
アタリを見回すと、人影らしきものはないようだった。
「問題ないかと」
リングからはクロックドムッシュ以外のガヤが聞こえてくる。どうやら魔王城の食堂にいるようだ。
この時間帯で、あそこ以上に騒がしいところはない。
おじさんは僕がどうしているか気になって、わざわざ休憩時間に連絡してくれたのだろう。
「そうだな。ではコボルトについて少しおさらいしておこう。道路を作れるぐらい凄い力があるのに、『町』や『都』に発展せず『村』のままなのはなぜだか、士官学校で教えたが、覚えているか」
おじさんは数ヵ月前まで僕の担任だった。そして僕の世代と共に卒業し、教職から現場に戻り今にいたる。
だからかこうして卒業した後でも、出会っては話のネタに問題を出されることがよくあった。
「確か彼らがみんな引きこもりがちな性格で、魔王様がいないとろくに団体行動がとれないから……と、おっしゃっていたような」
「まあ及第点だな。貴殿の教師は大変優秀なようだ」
「そこは眠くなるような授業をちゃんと覚えていた教え子を褒めるべきでは? 」
つい最近のことなので、昨日のことのように思い出せる。
「ぬかせ。―――コボルト達については少し思い出せたか」
「えぇ、親近感が湧きます」
「勇者が攻め込んできた時にも、コボルト達は団体行動が取れずに敗北してしまった。そしてその時に出来た溝はいまだに深いモノと聞く」
おじさんはそう言ってため息をついた。
しかし、それが嘲笑や侮蔑の混じったものでないことは確かだった。
おじさんはコボルト達を責めたりはしなかった。兵站のプロとしては、彼らの功績に頭が上がらないのかも知れない。
「復興にも、各村を周っておにぎりを配らないとダメそうですね」
「あぁ。彼らはコボルトという種族の括りではあるが、ダンジョンごとに異なる文化を持つ部族だと思ってくれ。当然アーの村で通用したことが、ベーの村で通用せんということもあり得るから、ソコの所気をつけろよ」
そう言って通信は切れた。
♢♢♢
長いサンセットコボルトロードを歩き続けて遂にコボルトの村につくと、魔族の言語で部族名の書かれた石が、大草原に無数に置かれてあった。
「こんなに石と石の距離は近いのに……」
これが全て独立した村なら、確かにまとまれば大きな国が築けそうだ。
石のあたりを見渡すと、クロックドムッシュが話していた通り、下へと続く穴を見つけることが出来た。
大体このダンジョン一つにコボルトが百から三百ほど居住していると聞いている。
それだけいるならば、どの村が魔王像を所有しているか分かるコボルトも見つけることが出来るはずだ。
「ごめんください」
勇気を出して声をかけたのに、穴の奥からは返事がなにも返ってこなかった。そして見たところベルもない。
「不法侵入……いや、いざとなったら勅命を盾にするか」
両手に塩をつけてから、ダンジョンに足を踏み入れた。
♢♢♢
しばらく進むと、何やら穴の底から騒がしい音が聞こえてきた。
そして剣がぶつかりあう音や、コボルトの悲鳴も。
なにかが下で起きている。
僕は急いでダンジョンを駆け下りた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる